みなし労働時間制とは? メリットから導入方法、残業代までわかりやすく解説
働き方改革や多様な働き方の実現が進むなか「みなし労働時間制」の採用は、従業員だけでなく企業にもメリットをもたらします。
みなし労働時間制は柔軟な働き方を可能にする一方、導入手続きは少し煩雑です。残業時間や残業代の取り扱いについても十分に注意しなければなりません。
本記事では、みなし労働時間制とはどのような制度なのか、種類やメリット・デメリット、導入プロセスなどを詳しく解説します。
みなし労働時間制とは
みなし労働時間制とは、実労働時間に関係なく、あらかじめ定めた労働時間を働いたとみなす制度です。
みなし労働時間制の考え方(例) | |
---|---|
みなし労働時間 | 7時間 |
実際に働いた時間 | 6時間 |
→みなし労働時間である「7時間」働いたものとみなして賃金を計算 |
みなし労働時間制は、労働基準法第38条の2により認められた働き方です。同法では、みなし労働時間制を3つの種類に分け、それぞれ規定を設けています。
みなし労働時間を時間数を設定する際は、以下の2つ方法で決定されます。
- 業務に平均的にかかると思われる時間から算出
- 導入前の平均的な労働時間から算出
みなし労働時間の上限に明確な決まりはなく、正しい手続きを踏めば法定労働時間(1日8時間)を超える時間を設定することも可能です。
ただし、従業員の心身の健康には十分に配慮する必要があります。
みなし労働時間制の3種類
みなし労働時間制には、以下の3つの種類があります。
- 事業場外みなし労働時間制
- 専門業務型裁量労働制
- 企画業務型裁量労働制
導入にあたっては、各制度で手続きが異なるため、概要や手順を確認していきましょう。
労使協定の締結 | 労働基準監督署長への届け出 | |
---|---|---|
事業場外みなし労働時間制 | (みなし労働時間が所定労働時間を超える場合)必要 | (協定で定めた基準の時間が法定労働時間を超える場合)必要 |
専門業務型裁量労働制 | 必要 | 必要 |
企画業務型裁量労働制 | (労使委員会の設置と決議が)必要 | (労使委員会の決議内容の届け出が)必要 |
事業場外みなし労働時間制
みなし労働時間制の中で事業場外みなし労働時間制は、主に社外で業務を進めるために、労働時間の把握が難しい職種で適用される制度です。具体的には以下の職種で採用されています。
- 外回りや海外出張が多い営業職
- 旅行添乗員(ツアーガイド)
- バスガイド
- 在宅勤務やテレワーク
事業場外みなし労働時間制は、在宅勤務やテレワークなどでも、要件を満たすと導入が可能です。労働基準法第38条の2により、以下の導入要件が定められています。
- 事業場以外での業務が発生する
- 使用者による具体的な指示や監督・管理が届かない
- 実労働時間の算定が難しい
事業場外であっても社用のスマートフォンを持ち歩き、上司からの指示をいつでも受けられる状態では、労働時間の算定が困難とはいえません。
参考:『「事業場外に関するみなし労働時間制」の適切な運用のために』厚生労働省
事業場外みなし労働時間制を導入する際、原則として労使協定の締結は義務ではありません。ただし、みなし労働時間が所定労働時間を超える場合は、労使協定を締結する必要があります。
さらに協定で定めた基準の時間が、法定労働時間(1日8時間)を超える場合、労働基準監督署長に届け出も必要です。
専門業務型裁量労働制
みなし労働時間制の中で専門業務型裁量労働制は、専門性が高く、労働時間や仕事の進め方を従業員の裁量に委ねるのが合理的な業務に適用される制度です。労働基準法第38条の3に定められています。
弁護士やシステムエンジニアなど、厚生労働省により以下の20の業務に導入が認められています。
- 新商品の研究開発または人文・自然科学の研究
- 情報処理システムの分析・設計
- 記事の取材・編集
- デザイン考案
- プロデューサー・ディレクター
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲームクリエイター
- 証券アナリスト
- 金融商品の開発
- 大学の教授研究
- M&Aアドバイザー
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
専門業務型裁量労働制では、労使協定の締結が必須の条件であり、労働基準監督署長への届け出が必要です。
参考:『専門業務型裁量労働制について』厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
参考:『現行の労働時間制度の概要』厚生労働省労働基準局提出資料
企画業務型裁量労働制
みなし労働時間制の中で企画業務型裁量労働制は、事業運営にとって重要な決定がなされる事業場で、企画や調査・分析をする業務に適用される制度です。労働基準法第38条の4に定められています。
労働者が主体的に技術や企画能力を発揮できる働き方として、以下のような業務に導入が認められています。
- 人事・労務
- 財務・経理
- 広報
- 生産
- 営業領域の調査・企画・計画・分析業務
専門業務型裁量労働制と同じく、時間配分や仕事の仕方について、労働者の裁量に任せた方が合理的な業務に適用されると理解しましょう。
企画業務型裁量労働制では、事業所ごとに労使委員会を設置し、みなし労働時間などの事項を決議したうえで、労働基準監督署長に決議内容の届け出をする必要があります。
参考:『「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために』厚生労働省
みなし労働時間制とほかの制度との違い
みなし労働時間制以外にも、多様な働き方を実現する制度があります。みなし労働制と間違われやすい制度の概要や、それぞれの違いを解説します。
- みなし残業制度
- 固定残業代制度
- 固定残業代制度
みなし残業制度
みなし残業制度とは、あらかじめ基準となる残業時間を設定し、実際の残業時間が基準に満たない場合でも、一定の残業代を支給する制度です。
残業代は、基本賃金に組み込まれることもあれば、手当として別途支払われることもあります。さらに、一定の残業代を超える残業に対しては、追加の残業代を支払います。
「みなし残業制度」は「みなし労働時間制」と同様に、労働時間の管理が難しく、従業員に裁量を持たせるほうが合理的な職種で適用されています。
みなし労働時間制が、所定の労働時間を対象としているのに対し、みなし残業制度は残業時間を対象とした「みなし労働」の制度という点で違いがあります。
固定残業代制度
固定残業代制度とは、時間外労働や休日労働、深夜労働の有無にかかわらず、時間外手当として一定の残業代を支給する制度です。ただし、規定の残業時間を超える残業に対しては、追加の残業代を支払います。
みなし労働時間制が、規定の労働時間分働いたものとみなされる制度なのに対し、固定残業代制度は規定の残業時間分働いたものとみなされる制度です。
みなし残業制度とほとんど同じ制度といえますが、労働時間の把握が難しい場合以外にも適用されます。
フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、一定期間内で総労働時間だけを定め、始業および終業の時刻を従業員自身の裁量で決められる制度です。
たとえば「今日は4時間、明日は8時間働く」というように、従業員は自分の予定や仕事の進行にあわせて、1日の労働時間を調整できます。
みなし労働時間制では、実際の労働時間が所定時間を下回っていても「その時間分働いた」とみなされますが、フレックスタイム制では総労働時間分を必ず働く必要がある点で違いがあります。
変形労働時間制
変形労働時間制とは、労働時間を1日単位ではなく、1か月や1年単位など一定の範囲内で管理する制度です。年間を通じて労働時間が一定ではなく、繁忙期や閑散期などで業務量にばらつきがある仕事に適しています。
「みなし労働時間制」が、1日あたりの労働時間を対象とした制度なのに対し、変形労働時間制は1か月や1年などの長い期間での労働時間を対象する点で異なります。また、変形労働時間制では、定められた所定労働時間を必ず働く必要点でも違いがあります。
みなし労働時間制のメリット
みなし労働時間制を導入するメリットを、従業員と企業それぞれの視点から解説します。
従業員側のメリット
みなし労働時間制を導入すれば、従業員は時間にとらわれない自由な働き方を実現できます。仕事を効率的に進められると早く帰れる可能性もあるため、生産性やモチベーションの向上につながるでしょう。
自分のペースで仕事ができるので、プライベートとのバランスがとりやすくなり、ワークライフバランスの充実にもつながります。
企業側のメリット
みなし労働時間制は、実際の労働時間にかかわらず「全員が所定労働時間働いたもの」とみなすため、勤怠管理や給与計算の負担が軽減されます。
また、人件費がある程度固定化されるので、事業計画を立てやすいのもメリットです。
みなし労働時間制のデメリット
みなし労働時間制は労使双方にとってメリットをもたらす一方、いくつかのデメリットも存在します。導入にあたっては、以下のデメリットについても事前に把握しておきましょう。
従業員側のデメリット
みなし労働時間制では、所定労働時間を超過しても残業代が発生しません。所定労働時間が6時間なら、7時間働いても、8時間働いても給与は同額なので、従業員が不満を持ってしまう恐れがあります。
また、長時間労働が常態化しやすい点もデメリットといえるでしょう。
企業側のデメリット
みなし労働時間制の中でも専門業務型裁量労働制を導入するには、労使協定の締結が必要であり、手続きが複雑で手間がかかります。
また、企画業務型裁量労働制を導入する際は、労使委員会を組織しなければなりません。制度が適切に運用されない場合、高額な未払い残業代が発生したり、裁判に発展したりする労務リスクもあります。
また、みなし労働時間制は「何時間働いても残業代が支給されない」と誤解されやすく、求職者に敬遠される可能性も否定できません。
みなし労働時間制での残業の扱い
みなし労働時間制は、実際に働いた労働時間に関係なく決められた労働時間を働いたとみなす制度です。そのため原則として残業はないものとみなし、残業代の支払いもありません。
ただし、例外もあるため、残業の取り扱いルールを確認していきましょう。
原則として残業はない
みなし労働時間制では、原則として残業や残業代は発生しません。実際働いた時間が、法定労働時間の8時間を超えたとしても影響はありません。
たとえば、労使協定や労使委員会で基準となる労働時間を8時間に設定している場合、実際に9時間や10時間働いても、1日8時間働いたとみなされます。
しかし、みなし労働時間制を導入していても、会社に残業代の支払い義務が生じる例外もあります。
- 例外1:みなし労働時間(基準時間)が法定労働時間を超えている場合
- 例外2:深夜や休日に労働をする場合
例外1:みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合
みなし労働時間制で残業代が発生するのは、働いたとみなされる基準の労働時間(みなし労働時間)が、法定労働時間を超えている場合です。
たとえば、みなし労働時間を9時間としている場合、法定労働時間を超える1時間分については割増賃金を支払う必要があります。
例外2:深夜や休日に労働をする場合
みなし労働時間制を採用していても、深夜(22〜翌5時)や休日の労働については、割増賃金が発生します。
ある日従業員が、9時から23時まで計14時間労働した場合、22〜23時の1時間分については割増賃金を支払わなければなりません。
みなし労働時間制の導入要件・手続き
みなし労働時間制の種類や基準時間の設定条件によっては、労使協定の締結が必要な場合があります。
労使協定の締結手順を含め、みなし労働時間制を導入する手続きについて詳しく解説します。
手続き |
---|
1.就業規則の変更 2.労使協定の締結・届け出/労使委員会での決議・届け出/従業員の同意 ※種類による 3.36協定の届け出 |
1.就業規則の変更
みなし労働時間制を導入するためには、基本的に就業規則の変更が必要です。労働者が10人未満で就業規則が制定されていない企業では、労働契約書に記載します。
2.労使協定の締結・届け出/労使委員会での決議・届け出/従業員の同意
みなし労働時間の導入にあたって、労使協定の締結や届け出、労使委員会の設置は、種類や基準時間の設定により、要否が異なります。みなし労働時間制の種類別に、手続きを紹介します。
事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、みなし労働時間(働いたとみなす基準の時間)が「所定労働時間」内なら就業規則の変更のみで手続きが完了します。
しかしみなし労働時間が「所定労働時間」を超える場合、労使協定の締結が必須の要件です。
また、みなし労働時間が「法定労働時間」を超える場合には、労使協定を所轄の労働基準監督署長へ届け出る必要があります。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制の導入には、労使協定の締結が必須の要件です。企業側と従業員側とで協定を結び、所轄の労働基準監督署長へ提出しましょう。
なお、2024年4月から専門業務型裁量労働制を適用するためには、労働者本人から個別に同意を得ることも必要になりました。
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制の導入には、労使委員会を設定して労使委員会の決議を得ることが必須の要件であり、決議内容を所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
また、企画業務型裁量労働制を適用するためには、労働者本人から個別に同意を得る必要があります。
さらに導入後も、決議の有効期限の始期から起算して初回は6か月以内に1回、その後1年以内ごとに1回、所轄の労働基準監督署へ定期報告を実施しなければなりません。報告内容は、対象労働者の労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、同意およびその撤回の実施状況についてです。
3.36協定の届け出
働いたとみなす労働時間が8時間を超える場合は、いずれのみなし労働時間制でも36協定の届け出が必要です。36協定とは、時間外労働や休日労働に関する協定のことで、労使協定の一つです。
専門業務型裁量労働制の労使協定と同様に、労使間で協定を結び、所轄の労働基準監督署長に届け出ます。
みなし労働時間制が違法になる場合
みなし労働時間制自体は労働基準法に規定された制度ですが、誤って運用すると違法とみなされることもあります。具体的には、以下の例では企業が責任を追及されかねません。
違法の例 |
---|
・みなし労働時間が法定労働時間を超えているのに残業代を支払っていない ・深夜・休日の労働に対して割増賃金を支払っていない ・みなし労働時間が法定労働時間を超えているにもかかわらず、36協定を結んでいない ・労働時間の把握が困難ではない状況で、事業場外みなし労働時間制を採用している ・使用者からの具体的指示を受けている従業員に裁量労働制を適用している ・労働基準法の年少者・妊産婦などに関する規制が遵守されていない |
みなし労働時間制を適切に運用(まとめ)
みなし労働時間制には多岐にわたるメリットがありますが、誤って運用すると労務トラブルに発展するおそれがあります。すべての業務に対して適用できる制度ではないため、対象の職種要件を把握することが大切です。
また、みなし労働時間制を導入する場合は、残業の扱いや残業代について理解を深める必要があります。種類別に制度の仕組みを確認し、適切に運用しましょう。
みなし労働時間の管理もサポート|One人事[勤怠]
みなし労働時間制では、従業員が個々の裁量で働けるからこそ、より厳格な勤怠管理が求められます。勤怠管理を効率化するなら、One人事[勤怠]のようなクラウド勤怠管理システムの導入も検討してみてはいかがでしょうか。
One人事[勤怠]は、煩雑な勤怠管理をクラウド上で完結させる勤怠管理システムです。
One人事[給与]と連携すれば、給与計算に自動で紐づけられるため、より速くより正確に業務を進められるでしょう。
One人事[勤怠]の初期費用や操作性については、当サイトより、お気軽にご相談ください。専門のスタッフが貴社の課題をていねいにヒアリングしたうえでご案内いたします。
当サイトでは、勤怠管理の効率化に役立つ資料を無料でダウンロードいただけます。勤怠管理をラクにしたい企業の担当者は、お気軽にお申し込みください。
「One人事」とは? |
---|
人事労務をワンストップで支えるクラウドサービス。分散する人材情報を集約し、転記ミスや最新データの紛失など労務リスクを軽減することで、経営者や担当者が「本来やりたい業務」に集中できるようにサポートいたします。 |