固定残業代(みなし残業代)とは? 制度の仕組みと違法性チェックポイント
固定残業代(みなし残業代)とは、一定時間の残業代をあらかじめ給与に含めて支給する制度です。固定残業代は企業と従業員双方にとって便利な面もありますが、運用には注意が必要です。適切に運用されないと、違法と判断される可能性も否定できません。
本記事では、固定残業代(みなし残業代)について、制度の仕組みを解説し、違法性を確認するためのポイントも紹介します。
固定残業代(=みなし残業代)とは
固定残業代とは、一定時間数分の残業代を給与に含めて支払う制度です。従業員が毎月決められた時間まで「残業する」と見なし、その分の残業代を給与に加算して支払います。「みなし残業代」ともいわれます。
固定残業代という制度そのものは違法ではありません。一定の要件を満たせば認められています。
固定残業代の例
固定残業代の仕組みについて、以下の例で解説します。
固定残業時間 | 20時間 |
固定残業代 | 5万円(時給2,000円×1.25×20時間) |
上記の例では、月に20時間までの残業に対して、実際に行った残業の時間に関係なく一律で5万円の固定残業代を支給します。月の残業時間が20時間を越えると、超過分に対する別途残業代の加算が必要です。
たとえば月に30時間残業したとすると、20時間の固定枠を超える10時間分の残業代を追加で支払わなければなりません。10時間分の残業代は、1時間あたりの給与額に割増率1.25と固定枠を超過した分の10時間を掛け算して算出します。つまり、超過分の残業代は、以下の通り2万5000円です。
1時間あたり2,000円×1.25×10時間 = 2万5,000円 |
最終的に、当月の残業代は「5万円+2万5,000円」で、7万5,000円となります。
固定残業代制度の特徴
固定残業代制度の特徴を3つ取り上げて解説します。
- 実際の残業時間にかかわらず一律の残業代を支払う
- 固定残業代の時間を超えた分の残業代を支払う義務がある
- 割増賃金の算定基礎から除外されることがある
実際の残業時間にかかわらず一律の残業代を支払う
固定残業代制度は、従業員の実際の残業時間にかかわらず、事前に定められた一定時間、残業したものとみなして毎月固定の金額を支払う制度です。
通常の残業代の支払いのように、従業員が実際に働いた残業時間に基づいて残業代を計算するのではありません。そのため、定められた一定時間内の残業時間であれば、毎月一定額の残業代が保証されます。
固定残業代の時間を超えた分の残業代を支払う義務がある
固定残業代を運用する企業には、固定残業時間を超えた分の残業代を支払う義務があります。一般的に「従業員が長時間の残業を強いられる」というイメージを持たれやすいですが、それは誤解です。
企業は、固定残業時間を超える労働に対して追加の残業手当を支払う必要があります。
固定残業代の運用において残業時間の上限は企業に委ねられています。しかし、過度に長い時間を設定すると、労働基準法に違反する恐れがあるため注意しましょう。
労働基準法が許可する時間外労働の上限は、原則として「月45時間/年360時間」です。固定残業代の時間においても、月45時間を上限とすることが望ましいでしょう。
割増賃金の算定基礎から除外されることがある
固定残業代の計算では、通常の残業代の計算方法が適用されないことがあります。
基本的に残業代は、労働基準法第37条と労働基準法施行規則第19条に基づいて、以下の計算方法で算出されます。
基本時給×残業・休日・深夜の労働時間×割増賃金率 |
しかし、固定残業代制度では、企業が独自に「定められた時間数に対する一定額」として残業代を設定します。そのため、割増賃金の算定基礎から除外される場合があります。
固定残業代制度とみなし労働時間制の違い
固定残業代制度とみなし労働時間制は混同されやすい制度です。
「みなし労働時間制」とは、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた一定の時間を労働したとみなし、給与を支給する制度です。労働時間の把握が難しい職種に適用されています。
みなし労働時間制では、設定された「みなし労働時間」が1日8時間以下であれば、基本的に別途残業代を支払う必要はありません。
一方、固定残業代制度は、事前に定められた一定の残業時間を超えると、別途残業代の支払いが必要です。
固定残業代は条件を満たすと残業代を支払う義務がありますが、みなし労働時間制は、義務がない点で大きく異なります。
固定残業代を導入する目的|メリットはある?
企業が固定残業代を導入する目的は、従業員のモチベーション向上や公平性の確保、労務管理の簡略化が挙げられます。
企業側と従業員側に分けて固定残業代のメリットを整理すると以下の通りです。
企業側のメリット | 従業員側のメリット |
・給与計算がシンプルになる ・人件費が試算しやすい ・無駄な残業を抑制する ・生産性の高い従業員が明確になる ・従業員の生活が安定する | ・残業をしなくても残業代がもらえる ・生活が一定のレベルで安定する ・働きやすい職場環境になる ・ワークライフバランスが向上する ・公平性が保たれて納得して働ける |
固定残業代における運用上の課題|デメリットはある?
固定残業代制度は、企業と従業員の双方にメリットがありますが、一方で制度の主旨を正しく理解しにくいという課題があります。
企業側と従業員側、双方のデメリットや課題は以下の通りです。
企業側のデメリット(課題) | 従業員側のデメリット(課題) |
・人件費がかさむ可能性がある ・長時間労働 ・サービス残業の温床になる ・求職者から敬遠される | ・基本給が低くなる可能性がある ・時間内の業務完了を求められる ・長時間の残業になる可能性がある |
固定残業代の違法性をチェックするポイント
固定残業代制度は正しく理解して運用しないと違法性が疑われる制度です。のちのトラブルを回避するためにも、固定残業代の違法性をチェックするポイントを紹介します。
□ | 基本給が最低賃金を上回っているか |
□ | 超過分が支払われているか |
□ | 超過分が法定賃金割増率を上回っているか |
□ | 固定残業時間を45時間超に規定していないか |
□ | 時間と金額を明らかにしているか |
□ | 就業規則・雇用契約書に記載があるか |
基本給が最低賃金を上回っているか
時給換算した給与が最低賃金を下回ったら違法です。同時に固定残業時間を超える時間外労働に対して、1.25の割増率を適用しなければなりません。
たとえば、東京都の最低賃金は時給1,113円(2023年度)なので、1時間あたりの時給は1,113円以上、時間外労働では時給1,414円を上回る必要があります。
しかし、一部の悪質な職場では残業代が適切に支払われず、時給換算した給与さえも最低賃金を下回る事例も過去に発生していました。
固定残業代制度においても、残業を含むすべての労働時間に対して、最低賃金を確実に上回る適正な賃金を設定するようにしましょう。
超過分が支払われているか
固定残業代はあくまでも、あらかじめ設定した時間分の残業代を支払う制度です。設定時間を上回る労働をした従業員には、超過分に対して残業代を支払わなければなりません。
一部で超過分は支払わなくてもよいという誤解を持っている人がいるため、残業代未払いによるトラブルも発生しているようです。
毎月のように多くの時間外労働を行っている従業員の勤怠管理は徹底し、固定残業代制度が誤って運用されていないか確認しましょう。
超過分が法定賃金割増率を上回っているか
固定残業時間の超過分に対する割増賃金が、法律で定められた割増率以上でないと違法と判断されます。残業代は基本給の25%増し以上でなければなりません。固定残業代を含めた総支払いが、割増率を満たしているかの確認が必要です。
固定残業時間を45時間超に規定していないか
固定残業時間が月45時間を超えていないことも、違法性を判断するチェックポイントの一つです。
労働基準法では、残業時間は「月45時間/年360時間」を超えてはならないと定められています。これを超える長時間の残業は従業員の健康に悪影響を及ぼす可能性があり認められていません。
ただし、労使で締結する36協定に特別条項を設けることで、「月45時間/年360時間」を超える残業が認められるケースもあります。
時間と金額を明らかにしているか
固定残業代制度が適正に運用されているかを確認するには、残業時間とその対価を明確にする必要があります。計算の基準となる時間と金額が不透明だと、実労働時間に対する報酬が正しく支払われているか確認ができないためです。
就業規則・雇用契約書に記載があるか
固定残業代における制度の内容が就業規則や雇用契約書に明記されているかも、違法性をチェックするうえで大切なポイントです。
就業規則や雇用契約書への記載には、固定残業時間の範囲や固定残業代の金額、超過分の残業に対する取り扱いなど、制度の運用に関する具体的な情報が含まれている必要があります。
固定残業代における給与の算出方法
固定残業代には、基本給への「組込型」と、基本給とは別にする「手当型」があります。一般的に手当型の方が考え方がシンプルで採用している企業も多くあるようです。
手当型における固定残業代の計算方法は以下の通りです。
固定残業代=1時間あたりの賃金額×固定残業時間×割増率 |
固定残業時間を超えた場合の計算
固定残業時間を超えた場合の割増賃金は、以下の計算式で算出します。
固定残業代の超過分=1時間あたりの賃金×割増率×残業時間 |
固定残業代の導入前に対応すること|注意点
固定残業代の導入前に対応しておきたい注意点を解説します。
- 法令を遵守する
- 適切な制度を設計する
- 従業員に合意を得る
- 適切に勤怠管理・業務管理を行う
法令を遵守する
固定残業代の導入にあたっては、労働関連の法令を遵守することが基本です。
勤怠管理の担当者は、残業代の法定割増率や労働時間の上限規制など、労働基準法で定められた規則を正確に理解しておかなければなりません。固定残業代制度が規定に沿っているか、導入前に詳細に確認する必要があります。
適切な制度を設計する
固定残業代制度を導入する際は、制度のメリット・デメリットを踏まえ、企業の実情に合わせた適切な制度設計が不可欠です。制度を設計するときは、従業員に過度な労働を促すような運用を避け、従業員の健康とワークライフバランスを守ることが重要です。
従業員に合意を得る
固定残業代制度を導入する際は、対象の従業員にていねいに説明し、明確な合意を得る必要があります。
従業員が制度の内容を十分に理解し、同意してもらうことが、トラブルを避けるためには不可欠です。制度の詳細を説明し、従業員からの質問にも誠実に対応して答えましょう。
適切に勤怠管理・業務管理を行う
固定残業代制度を導入している場合でも、労働時間の適切な管理や業務の効率的な管理は必要です。勤怠管理の担当者やマネジメント層は、従業員一人ひとりの勤務時間を正確に記録したうえで、業務量を調整して過重労働を防ぎ、健康と安全を守る役割があります。
企業が法的義務を遵守し、従業員の権利を尊重するためにも、適切な勤怠管理や業務管理が求められます。
固定残業代についてよくある疑問
最後に固定残業代についてよくある疑問に回答します。
固定残業代制度は違法?
固定残業代の制度自体は違法ではありません。ただし、なかには不適切な運用をしている企業と従業員の間でトラブルが発生しているケースもあります。本記事で紹介した「違法性を判断するチェックポイント」を確認し、誤った運用にならないように注意深く運用することが重要です。
固定残業代は何時間までホワイト企業といえる?
固定残業時間が何時間までならホワイト企業とは一概にはいえません。ただし、36協定の締結時に決められる年間残業時間の上限が360時間であることから、月間に換算すると「30時間まで」と考える方もいるようです。
固定残業代は上限何時間まで設定できる?
固定残業代が最低賃金を上回る限り、固定残業時間の具体的な上限時間は設けられていません。しかし、法定労働時間を超える残業には36協定の締結が必要です。36協定では原則として「月45時間までの残業」と規定されているため、月45時間が上限といえるでしょう。
固定残業代の時間設定を超えるとどうなる?
固定残業代の時間設定を超えて労働した場合は、超過分に対して残業代の支払いが必要です。法律で定められた割増賃金率を適用して上乗せして支払わなければなりません。この支払いを怠ると、労働基準法に違反したと見なされ、ペナルティを受けたり従業員とトラブルに発展したりする可能性があります
固定残業代制度が自社に適しているか慎重に判断を(まとめ)
固定残業代(みなし残業代)は、一律の固定された残業代をあらかじめ給与に含めて支給する制度です。企業と従業員双方にとってメリットもありますが、適切に運用しないと違法と判断されるリスクがあります。
固定残業代制度を導入する場合は、本記事で紹介した違法性を確認するポイントをチェックし、従業員に丁寧に説明したうえで進めましょう。固定残業代制度が自社に適しているか慎重に判断することが重要です。
勤怠管理をシンプルに|One人事[勤怠]
One人事[勤怠]は、煩雑な勤怠管理をクラウド上で完結させる勤怠管理システムです。
- 勤怠の入力・打刻漏れが多い
- 月末の集計をラクにしたい
- 労働時間や残業時間を正確に把握できていない
というお悩みを持つ企業をご支援しております。
One人事[給与]と連携すれば、給与計算に自動で紐づけられるため、より速くより正確に業務を進められるでしょう。また、有休の付与・失効アラート機能や、労働基準法などの改正にも対応しております。
One人事[勤怠]の初期費用や気になる使い心地については、当サイトより、お気軽にご相談ください。専門のスタッフが貴社の課題をていねいにヒアリングしたうえでご案内いたします。
当サイトでは、勤怠管理の効率化に役立つ資料を無料でダウンロードしていただけます。勤怠管理をラクにしたい企業の担当者は、お気軽にお申し込みください。
「One人事」とは? |
---|
人事労務をワンストップで支えるクラウドサービス。分散する人材情報を集約し、転記ミスや最新データの紛失など労務リスクを軽減することで、経営者や担当者が「本来やりたい業務」に集中できるようにサポートいたします。 |