固定残業代40時間は妥当? 残業代の計算方法や違法性を徹底解説
固定残業代を40時間分で設定しようと考えたとき「法律で認められるのか」「従業員に不満を持たれないだろうか」と悩んでいませんか。
固定残業代制度は、勤怠管理や給与計算の効率化につながる一方、制度設計を誤ると法律に触れるリスクがあります。
本記事では、固定残業代40時間の妥当性や注意点、残業代の計算方法を解説します。 正しい知識を持ってトラブルを回避し、公正な制度運用にしましょう。
残業時間の管理に課題がある方は、以下の記事もご確認ください。
残業管理の方法とは【誰の仕事?】目的・必要性と課題、エクセルを活用した法も簡単に解説
固定残業代とは
固定残業(みなし残業)とは、給与の中に一定時間分の残業代が、あらかじめ含まれている仕組みです。実際の残業時間に関係なく、毎月一定額の「固定残業代」が支払われます。
設定した時間内であれば、追加の残業手当は不要ですが、超過すると追加の時間外手当が発生します。
固定残業代30時間の例 | |
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従業員の実残業時間が月20時間 | 固定残業代とは別に時間外手当の支払いなし |
従業員の実残業時間が月40時間 | 30時間を超えた10時間分の時間外手当の支払いが別途必要 |
固定残業代の制度について、今一度確認したい方は、以下の記事もご確認ください。
固定残業代を40時間分に設定することは可能?
固定残業代制度は、勤怠管理や給与計算の効率化をはかりたい企業で多く採用されています。ただし、あまりにも長時間の固定残業を設定してしまうと、賃金と労働のバランスがくずれ、従業員の心身の健康を損ねるため、慎重な制度設計が重要です。
固定残業代の設定時間は40時間でもいいのか、何時間が妥当なのかについて詳しく解説します。
固定残業代を適法に設定する条件 |
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・最低限や時間外労働の精算における注意点が理解できる。 ・従業員とのトラブルを回避、公平な制度運用を目指せる。 |
固定残業代の制度設計は、法律を守るだけでなく、従業員の納得感が得られる運用を心がけましょう。
法律的には問題ない
固定残業代は40時間分で設定しても法律上は問題ありません。
労働基準法では「1日8時間・週40時間」を超える時間外労働を原則として禁止していますが、労使間で36協定を結べば「月45時間・年360時間」まで認められるためです。
36協定の上限の1つ「月45時間以内」に収まっているため、月40時間分の固定残業代を設定することは可能です。
ただし、36協定を締結していても時間外労働の上限を超えると罰則の対象となる点を改めて確認しておきましょう。また、36協定の締結を労働基準監督署長に届け出をしていない場合、法定労働時間を超える残業自体が違法です。
固定残業代を40時間以上にすることも可能なのか、以下の記事もご確認ください。
賃金と残業時間のバランスを考慮しなければならない
固定残業代40時間が違法でなくても、従業員にとって不利益な制度にならないように注意しましょう。
たとえば、40時間分の固定残業代として4万円を支給した場合、時給換算すると1時間あたり1,000円です。東京都の最低賃金は2024年10月時点で1,163円円であり、1,000円では最低賃金を下回り違法となるため認められません。
また、実際に働いた時間外労働時間が、設定した固定残業時間を上回る場合は、追加の手当を支給する必要があります。
固定残業40時間が業務上本当に必要なのか、従業員に負担を強いる設計となっていないか、賃金とのバランスを考慮するようにしましょう。
参照:『東京都最低賃金を1,113円に引上げます』厚生労働省東京労働局
参照:『全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました』厚生労働省
固定残業代を40時間に設定するメリット
固定残業を40時間と設定すると 、企業側と従業員側、双方にとって以下のメリットがあります。
企業側のメリット | 従業員側のメリット |
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・給与計算が効率的になる ・求人の際に見栄えがよく見える ・法定内での労働時間管理がラクになる | ・収入の見通しが立つ ・効率的に業務を進めようとする意欲が高まる |
固定残業を40時間と設定すると、毎月の時間外労働手当が変動しなくなるため、個別が不要です。給与計算や勤怠管理の負担を軽減できます。40時間を超過した時間外労働には別途支払いが必要ですが、設定された固定残業時間内で管理がしやすくなるでしょう。
また採用活動においても有利に働く場合があります。固定残業代の募集では、給与額が高い印象を与えやすく、応募者に魅力的な求人に映る可能性があるためです。
従業員としても、実際の残業が40時間未満の月も、固定残業代40時間分の賃金が毎月支払われるため、収入の見通しが立ち生活が安定するでしょう。
同時に時間外労働を減らす方がお得に感じられ、より効率よく業務を進めようとする人もいるかもしれません。一人ひとりが意欲的になることで、全体の労働生産性が上がれば、企業にとってもメリットです。
固定残業代制度のメリットをより詳しく確認したい方は、以下の記事もご確認ください。
固定残業代を40時間に設定するデメリット
固定残業代40時間の制度下では、時間外労働がない月でも、40時間分の時間外労働手当の支払いが必要です。
企業と従業員双方にとってメリットがある一方で、デメリットに感じられる側面もあります。
企業側のデメリット | 従業員側のデメリット |
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・余計な人件費がかかっていると感じられることも ・制度を正しく認識しないと違法になる ・ブラック企業と誤解される可能性も | ・残業を前提とした働き方を強いられるように感じる ・時間の管理意識がルーズになる人もいる |
企業が固定残業制度を導入した場合、実際の残業が40時間に満たなくても、40時間分の手当を確保する必要があります。従業員が効率的に働くようになればなるほど、実際の残業時間とかけ離れ、余計な人件費がかかっていると感じられるかもしれません。
また、世の中には「固定残業制度を導入すればいくらでも残業させられる」と誤った認識を持つ人もいます。しかし、設定時間を超過した分の残業代支払いを怠ると違法とみなされます。従業員から訴訟を起こされる可能性もあるため、適切な理解が必要です。
さらに「固定残業制度を導入している企業はブラック企業ではないか」と誤解されることも少なくありません。
固定残業代40時間は違法ではありませんが、残業が多いと認識されることで、否定的な印象を持たれ、応募を敬遠される点も企業にはデメリットです。せっかくの採用チャンスを逃してしまうでしょう。
リスクを避けるためにも、企業は固定残業代制度の透明性を確保し、従業員が納得できるルールで運用することが重要です。
40時間分の固定残業代の計算方法
固定残業代制度を正しく運用するためには、正確な計算方法を理解することが重要です。
固定残業代を40時間分として設定する場合でも、具体的な方法や注意点をおさえて計算しましょう。
固定残業代の計算は、主に手当型と基本給組み込み型、2つの方法があり、考え方を解説していきます。
- 手当型の固定残業代
- 基本給組み込み型の固定残業代
また、固定残業40時間を超えたときの計算方法も紹介します。給与計算の根拠を明確にして、制度運用の透明性を高めるため、確認していきましょう。
40時間以外の固定残業代の計算方法は以下の記事でご確認いただけます。
手当型の固定残業代
固定残業代を手当とする場合、基本給とは別に計算して支払わなければなりません。従業員の給与明細には「給与」と「固定残業代」をそれぞれ記載する必要があります。
手当型の固定残業代の計算方法は、以下の通りです。
1時間あたりの賃金×固定残業時間×割増率 |
1時間あたりの賃金は「給与総額÷月平均所定労働時間」で計算できます。月平均所定労働時間は「(365日-年間休日)×1日の所定労働時間÷12か月」で求めましょう。
割増率は、残業代の対象となる労働の種類によって異なります。
割増賃金の種類 | 割増率 |
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月60時間までの時間外労働 | 25%以上 |
月60時間を超える時間外労働 | 50%以上 |
休日労働 | 35%以上 |
深夜労働(22〜翌5時) | 25%以上 |
固定残業時間が40時間で、手当型の計算方法は以下の通りです。
条件 | ・基本給が30万円 ・月平均所定労働時間が160時間 ・固定残業時間が40時間 ・割増率を25% |
計算方法 | 30万円÷160時間×40時間×1.25=9万3,750円 |
基本給組み込み型の固定残業代
固定残業代を基本給に組み込む場合は「基本給○円(○時間の固定残業代として○円を含む)」と給与明細や求人票、雇用契約書などに記載しなければなりません。
基本給組み込み型の固定残業代の計算方法は、以下の通りです。
基本給÷{月平均所定労働時間+(固定残業時間×割増率)}×固定残業時間×割増率 |
固定残業時間が40時間で、基本給組み込み型の計算方法は以下のように求めます。
条件 | ・基本給が30万円 ・月平均所定労働時間が160時間 ・固定残業時間が40時間 ・割増率を25% |
計算方法 | 30万円÷{160時間 +(40時間×1.25)}×40時間×1.25=7万1,429円 |
算出された固定残業代が都道府県別の最低賃金よりも低い場合は、最低賃金法違反となります。違法な運用になっていないか、必ず確認しましょう。
固定残業時間の40時間を超過した分の残業代の計算方法
実際の残業時間が固定残業時間として設定した40時間を超える場合は、超過分の残業代を別途支給しなければなりません。
実際の残業時間が60時間だった場合、追加で支払われる残業代は、以下の計算で求めます。なお固定残業代40時間分の金額は、基本給組み込み型の解説で算出した7万1,429円を使用します。
条件 | ・基本給が30万円 ・月平均所定労働時間が160時間 ・固定残業時間が40時間・実際の残業時間60時間 ・割増率を25% |
1.60時間分の残業代を計算する | 30万円÷160時間×60時間×1.25=14万625円 |
2.40時間分の残業代を引き算する | 14万625円-7万1,429円=6万9,196円 |
固定残業時間を超過した時間外労働を把握するためにも、適切な勤怠管理が重要です。労働時間を正確に集計し、賃金の計算ミスがないように注意しましょう。
給与計算のよくあるミスと回避方法は、以下の資料をご活用いただけます。
固定残業が違法となる代表例
固定残業制度自体に違法性はないものの、以下の例は違法とみなされるおそれがあるため、
適切な運用が求められます。
固定残業時間を超過しているのに割増賃金を支払わない場合 | 40時間分の固定残業代を設定している場合、41分でも超過したら追加の割増賃金が必要 |
固定残業が不透明である場合 | 基本給と固定残業代の内訳が不明瞭なのは認められない |
雇用契約書や就業規則に記載がない場合 | 固定残業代の規定について明文化する必要がある |
基本給が最低賃金を下回る場合 | 地域の最低賃金を下回るのは違法 |
固定残業時間が45時間を超える場合 | 36協定の上限を超えるのは違法 |
あらかじめ設定した固定残業時間以上の時間外労働をさせたにもかかわらず、追加の支払いをしない場合は違法とみなされる可能性があります。
また、厚生労働省は、固定残業代を賃金に含める場合は適切な表示をするように求めています。固定残業制度を採用したら、賃金に含まれる基本給と固定残業代を明確に提示することが必要です。
さらに、雇用契約書や就業規則に固定残業代についての記載がない場合や、固定残業代を除く基本給が最低賃金を下回る場合も違法性が問われるでしょう。
36協定の上限である「1か月あたり45時間」を超えて残業させることも、違法となるため労働時間を適切に管理することが重要です。
参照:『固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。』厚生労働省
固定残業代を40時間に設定する際の注意点
固定残業代を40時間に設定する際の注意点について、以下の3つについて解説していきます。
- 36協定の届出をしないと残業自体が違法となる
- 就業規則や雇用契約書に残業時間と賃金を明記する
- 時間外労働時間を正確に把握する
制度を適切に運用し、労務トラブルを回避するためにも、注意点をおさえましょう。
36協定の届け出をしないと残業自体が違法となる
固定残業代の上限を「月45時間・年360時間」とすることは、36協定を締結してはじめて認められます。
36協定の締結・届出がされていないと、従業員に残業をさせること自体が労働基準法違反です。「6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金」を科されるおそれがあるため注意しましょう。
就業規則や雇用契約書に残業時間と賃金を明記する
固定残業制度を導入する場合、導入する旨を雇用契約書や就業規則などの書面で明示しなければなりません。
固定残業代を適切に設定するためにも、以下の事項は明確に記しましょう。
- 固定残業代の概要
- 固定残業代に含まれる残業時間数
- 固定残業分の時間外労働を超過した場合は時間外手当を別途支給すること
ルールを明確に定めておかないと、たとえ固定残業代を支払っていたとしても、違法性が疑われる可能性があります。割増賃金を適切に支給していないと判断されるおそれがあるため注意しましょう。
時間外労働時間を正確に把握する
固定残業制度においても、超過分の手当を支給するため、時間外労働時間を正確に把握する必要があります。
従業員の労働時間を把握・管理するためには、勤怠管理システムの活用がおすすめです。勤怠管理と給与計算のスムーズな連携により、管理効率化したい方は検討してみてはいかがでしょうか。
勤怠管理システムで実現できることを確かめたい方は、以下の記事もご確認ください。
固定残業制度を正しく運用するために勤怠管理の徹底を
固定残業代を40時間分に設定すること自体に違法性はなく、固定残業制度を適切に導入し、運用すれば特に問題はありません。ただし、制度について正しく理解しておかないと、知らぬ間に違法となることも考えられます。
固定残業制度を正しく運用するためにも、自社の勤怠管理を徹底し、従業員の労働時間を正確に把握しましょう。
固定残業時間の管理と効率化に|One人事[勤怠]
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