時短勤務で社会保険料はどうなる? 減額手続きや注意点を解説

時短勤務における社会保険料には、特例があるのをご存知でしょうか。復職後に時短勤務を選ぶと、働き方に見合わない高すぎる保険料が発生するケースもあるため、特例の内容や条件を理解しておく必要があります。
本記事では、時短勤務の社会保険料に関する基礎知識に加えて、特例の条件や手続きの流れ、注意点も解説します。
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目次

時短勤務における社会保険
時短勤務の運用にあたって、おさえておきたいのが社会保険の取り扱いです。勤務時間が短くなることで保険料や加入条件がどう変わるのでしょうか。
社会保険は、給与・手取り・将来の年金にかかわる重要な制度です。人事担当者として適切に対応できるよう、時短勤務における社会保険の基本的な考え方を解説します。
時短勤務でも社会保険に入れる
時短勤務であっても、条件を満たせば社会保険に加入できます。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入条件の一つに、週20時間以上の所定労働時間があるというものがあります。そのため、1日6時間・週4日といった勤務形態でも週20時間を超えているため、社会保険の加入が可能です。
フルタイム勤務ではないからといって社会保険に入れないということはありません。一般的に、産前産後休暇や育児休業(以下、産休育休)の前にフルタイムで働いていた従業員は、そのまま社会保険加入を継続し、時短勤務で復帰します。

時短勤務者が社会保険に加入する条件
時短勤務者が社会保険に加入するためには、「4分の3基準」を満たす必要があります。4分の3基準とは、1週間および1か月の所定労働時間が、同一の事業所に使用される通常の労働者の4分の3以上であるという意味です。
ただし、4分の3基準を満たしていない時短勤務者でも、以下の要件をすべて満たせば社会保険に加入できます。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 雇用期間が2か月を超える見込みがある
- 賃金の月額が8.8万円以上(年収換算で106万円以上)
- 学生でない
- 特定適用事業所や任意特定適用事業所に勤務している
特定適用事業所とは、厚生年金保険の被保険者数が直近12か月のうち6か月以上50人を超える企業のことです。
任意特定事業所とは、従業員と事業主の同意があれば、適用事業所の条件を満たさない事業所であっても申し出により短時間労働者も社会保険に加入できる事業所のことです。
参照:『短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大』日本年金機構
2024年10月から社会保険の加入条件が拡大
2024年10月から、社会保険の適用条件が拡大されました。従業員数50人を超える企業に勤務する従業員は、前述の要件を満たすと、社会保険への加入義務が生じます。制度の改正により、従来は対象外だった多くの時短勤務者が、社会保険の加入資格が得られました。
「特定適用事業所」に該当する企業の人事担当者は、制度改正に応じて、自社の対象者を確認し直す必要があります。
参照:『社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック』政府広報オンライン
時短勤務でも社会保険料は据え置き
時短勤務の社会保険料について、とくに注意したいのは、産休育休前にフルタイムで社会保険に加入していた場合です。育休から復帰し、時短勤務を選んだとしても、産休育休前の状況がそのまま継続されます。
そのため時短勤務で給与が減っても、社会保険料はフルタイム時代の標準報酬月額に基づいて計算されるため、割高に感じられることがあります。
働く時間が減ったのに、手取りが想像以上に少なくなるという事態が起きやすいのです。社会保険料の据え置きを、知らずに復職して驚く従業員も少なくありません。
社会保険料の決め方
社会保険料は、報酬幅で分類した「標準報酬月額」に対応する保険料率を乗じて決定します。標準報酬月額は、原則として4月から6月における3か月間の給与を平均した金額で計算されます。育児休業明けの従業員は休業前の給与額で社会保険料が決定する仕組みです。
特例適用の申請をすれば減額できる
産休・育休から時短勤務として復職した従業員が、フルタイム時代のまま高い社会保険料を支払い続けないようにするには、特例措置を申請する必要があります。特例は育児短時間勤務制度を利用する従業員に限り適用される制度です。申請するのは企業側ですが、従業員本人からの申し出がないと適用されません。申請しないと、自動的に適用されないため対象者に説明しておきましょう。
参照:『育児休業等終了後の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の特例』厚生労働省
そもそも時短勤務とは
時短勤務とは、育児や介護に従事する労働者が、通常よりも短い勤務時間で働ける制度です。正式には「短時間勤務制度」といい、育児・介護休業法に基づいて企業に導入が義務づけられています。育児の場合、3歳未満の子どもを養育する従業員が希望すれば、企業は時短勤務制度を利用させなければなりません。また、法律による規定を満たしていれば、企業は3歳以上の子どもを対象にした時短勤務制度を設けられます。
介護の場合は、家族に要介護状態の人がいる従業員が、勤務時間を短縮できる制度です。
介護の時短勤務は、制度の利用開始から3年間のうち2回以上の取得ができます。 家族の状態やライフスタイルに応じて、柔軟に勤務時間を選べるのが特徴です。
時短勤務に関する法改正
2025年4月1日より、育児・介護休業法の改正が適用されました。本改正では、時短勤務に関する変更が含まれています。
とくに注目したいのが、勤務時間の選択肢を設けることが、企業の努力義務となった点です。時短勤務は1日6時間が基本です。改正後は「1日7時間」など複数の時短パターンから選べるようになりました。
従業員にとっては、家庭状況や子育てとの両立がしやすくなり、企業にとっても、制度の柔軟性を高めることで離職防止や多様な人材の確保につながるメリットが考えられます。
時短勤務の期間
時短勤務の期間は、育児の場合子どもが3歳になる前日までです。一方、就業規則や社内制度で対象年齢を引き上げている企業もあります。
3歳以上の子どもを育てる従業員の時短勤務は、あくまで企業の努力義務です。現在制度がなくても、3歳以降も時短勤務の継続を求められた場合、企業としては対応に努める必要があります。
時短勤務で社会保険料を減額する手続き方法
時短勤務者の社会保険料を減額するには、「育児休業終了時報酬月額変更届」を事業所の所在地を管轄する年金事務所または事務センターに提出しなければなりません。書類を提出することで、時短勤務の給与をもとに、標準報酬月額を基準とした社会保険料に変更できます。
育児休業終了時報酬月額変更届の提出
申請条件は以下のとおりです。
- 育休復帰後、3歳未満の子どもを養育している
- 復帰前と復帰後3か月の報酬の平均月額に該当する標準報酬月額に1等級以上の差がある
- 復帰後3か月間のなかで、支払基礎日数が17日以上ある月が少なくとも1か月以上ある
従業員が申し出たうえで、企業が申請する必要があります。従業員が社会保険料の減額特例を知らない場合もあるため、企業側から復職前に案内するとよいでしょう。
減額手続きは、「育児休業から復帰し、そのまま時短勤務を開始した従業員」に限り適用されます。育休を経ていない従業員や介護で時短勤務をしている従業員には、適用されません。
時短勤務者が利用できる年金特例の適用方法
時短勤務を選んだ従業員は、社会保険料の減額以外にも活用できる制度があります。なかでも重要なのが、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」という年金特例です。
特例を利用すると、時短勤務をしている期間は、育休取得直前の標準報酬月額と同等の収入があったとみなして年金額が計算されます。実際には収入が減っていても、将来の年金額を維持できます。
厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書の提出
申請に必要な書類は以下のとおりです。
- 厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書
- 戸籍謄(抄)本か戸籍記載事項証明書
- 住民票
制度を利用できるのは、育児休業前に厚生年金の被保険者だった従業員に限られます。
直近1年以内に被保険者でなかった場合、措置は適用されません。
参照:『養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置』日本年金機構
育児の短時間勤務以外でも社会保険料は随時見直されている
介護のために時短勤務をしている従業員や、育児休業を取得せずに時短勤務になった従業員も、随時改定により社会保険料は減額されます。
社会保険料の随時改定とは、被保険者の固定的賃金が大きく変動したときに、改定月を待たずに標準報酬月額を見直す手続きです。随時改定が適用される条件は以下のとおりです。
- 固定的賃金に大幅な変動がある
- 変動した月から3か月間の報酬の平均月額に該当する標準報酬月額と以前の標準報酬月額に2等級以上の差がある
- 3か月間すべての月で、17日以上の支払基礎日数があること
随時改定によって保険料の変更が反映されるのは、時短勤務を開始した月から4か月目以降です。企業の担当者は、変動があった時点で「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届」を提出する必要があります。
時短勤務時の社会保険で企業が注意したいポイント
時短勤務者に対する社会保険の取り扱いについて、企業が注意したいポイントを紹介します。
- 社会保険料減額には申し出が必要
- 育児休業後に復帰する従業員のみ適用
- 保険料の減額は4か月目の給料から開始
社会保険料減額には申し出が必要
時短勤務による社会保険料の減額は、従業員からの申し出に基づいて、企業が所定の書類を提出してはじめて適用されます。申し出がなければ、企業側に申請義務はありません。
制度があることを知らない従業員も多いため、企業があらかじめ制度の存在を説明しておくと親切です。育休の復帰面談や書類交付の場面で一言添えるだけでも、制度の利用を促せます。
育児休業後に復帰する従業員のみ適用できる
社会保険料の特例制度(育児短時間勤務の特例)は、育休から復帰して時短勤務を選んだ従業員のみが対象です。介護のための時短勤務や、育休を取得せずに時短勤務へ移行したケースでは、適用されません。先に解説した「随時改定(報酬月額変更届)」を活用するなど、別の対応が必要です。制度の適用範囲を正しく把握し、従業員ごとに適切な案内ができるようにしておきましょう。
保険料の減額は4か月目の給料から開始される
報酬月額変更届を提出した場合の時短勤務による社会保険料の減額は、復帰後4か月目以降に反映されます。復帰後3か月分の給与をもとに、標準報酬月額を決定するためです。
従業員が申し出ても、復帰後3か月間は、以前の社会保険料額が引かれます。企業は社会保険料の減額が始まる時期を従業員に説明しておきましょう。

まとめ
時短勤務においても基本的には社会保険に加入することになります。育休復帰後の時短勤務者は、企業が申請すれば社会保険料を減額できます。人事担当者は本人から申し出があったらすみやかに対応しましょう。手続きをしなければ、保険料は据え置きです。 申請忘れがないよう、育休後に時短勤務を希望する従業員に対して、あらかじめ案内しておきましょう。
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