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移動時間は労働時間に含まれる? ケース別に解説

移動時間は労働時間に含まれる? ケース別に解説

出張や直行直帰が多い仕事の場合「移動時間は労働時間に含まれるの?」と迷ったことはありませんか。

給与計算を正確に行うためには、労働時間を明確に定義する必要があります。しかし、出張や訪問先への移動時間が労働時間に該当するのかは、判断が難しいポイントです。

以下のような場面で困った経験がある人もいるでしょう。
・出張中の移動時間は労働時間として扱うべきか
・自宅から直接訪問先に向かう場合の移動時間はどうなるのか

本記事では、移動時間が労働時間に含まれるケースと含まれないケースを、労働基準法や過去の判例をもとに解説します。

労働時間の集計や管理に課題がある企業の担当者は、次の資料も参考にしてください。

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    労働時間とは

    労働基準法では、給与を支払う対象となるのは労働時間のみと定められています。

    ただし、じつは労働時間について、法律上の明確な定義はありません。

    最高裁判所の過去の判例では、労働時間を「使用者の指揮命令下に置かれている時間」としています。

     労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

    引用:『最高裁判所判例集』裁判所

    移動時間が労働時間に含まれるか否かは「移動時間中に使用者の指揮命令下に置かれているか」の判断が重要となります。

    労働時間中に移動が発生する場面

    業務の中で移動が発生する場面はめずらしくありません。移動時間が労働時間に含まれるかどうかは、ケースバイケースで異なります。

    近場の取引先への出張や新幹線を使った遠方への出張、さらには直行・直帰や通勤など、移動時間は多岐にわたります。

    移動時間が労働時間に含まれるのかどうか判断するには、まず業務における移動時間の4パターンを理解しておきましょう。

    1. 所定労働時間中の近距離出張
    2. 長距離出張時の移動
    3. 通勤時間
    4. 直行・直帰する場合の移動

    各パターンごとに労働時間に該当するかどうか、判断のポイントを解説します。

    所定労働時間中の近距離出張

    所定労働時間中に近距離出張が発生するケースには、出社したあと、上司からの指示で近場の取引先に移動するような場合が挙げられます。

    都心のオフィス街は企業が密集しており、会社のすぐ近くに取引先があることも多いため、近距離出張が発生する場合が多いでしょう。

    労働時間か否か判断のポイント業務指示に基づいていた行動であれば労働時間

    近距離であっても移動の記録をしっかり管理することが大切です。

    長距離出張時の移動

    新幹線や飛行機を利用するような遠方への出張では、長距離の移動が発生します。移動距離や滞在時間によって、日帰りの場合と宿泊をともなう場合とがあるでしょう。

    長距離出張は、営業職や海外での取引に携わる職種などで多く発生します。

    労働時間か否か判断のポイント・業務命令に基づく移動とされ、基本的に労働時間
    ・宿泊時、勤務終了後の自由時間は労働時間に含まれない

    通勤

    自宅と会社を行き来する時間についても、捉え方によっては業務での移動と考えられます。通勤時間は業務の開始前と終了後に発生しますが、通勤中にも会社からの指示に対応しなければならない場合は、通勤時間が労働時間に含まれる可能性もあるでしょう。

    労働時間か否か判断のポイント通勤途中でも、会社からの指示があるか

    通勤時間中の状況次第で扱いが異なるため、明確なルールを設定することが重要です。

    直行・直帰する場合の移動

    業務内容や当日の予定によっては、会社に立ち寄らずに現場や取引先へ直行するよう指示を受ける場合もあります。また、同様に出先から自宅へ直帰することになる場合もあるでしょう。

    直行・直帰における移動時間は、通常の通勤時間とは区別して扱われます。しかし、自宅と勤務地の間の移動時間という意味では、通常の通勤時間と同じような性質を持つとも考えられるでしょう。

    直行・直帰における移動時間が労働時間に含まれるかどうかは、通勤時間と同じく「会社からの指示に対応しなければならないか」が判断材料の一つとなります。

    労働時間か否か判断のポイント直行直帰の移動時間中に、会社からの指示に対応が必要か

    長距離出張時には、移動時間と自由時間の境界を明確にし、給与計算のミスを防ぎましょう。

    通勤時間は労働時間とみなされない

    原則として、従業員の自宅と勤務地の間を移動するための時間は、労働時間には含まれません。

    基本的に、通勤時間は労働の準備をするための時間であり、使用者の指揮命令下にあるとは考えられないため、労働時間とはみなされないのです。そのため、通勤時間には賃金も発生しません。

    移動時間が労働時間に含まれる基準とは? ケース別に解説

    移動時間が労働時間に含まれるかどうかは、労務管理上とても重要なポイントです。移動時間の取り扱いを誤ると、以下の問題が発生する可能性があります。

    • 給与計算ミス
    • 労務トラブル
    • 業務効率の低下

    移動時間が労働時間に含まれる主なケースは以下の3つです。

    • 所定労働時間内に移動する場合
    • 移動中に会社の業務を行う場合
    • 移動中に会社からの指示に従うよう要求されている場合

    それぞれのケースについて、以下で詳しく解説します。

    所定労働時間内に移動する場合

    所定労働時間は「使用者による指揮命令下にある」と判断されるため、その中の移動時間は労働時間に含まれます。

    所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書で定められた「従業員が働くことになっている時間」です。

    たとえば始業時間が9時、終業時間が18時、休憩時間が1時間と就業規則に定められている場合、所定労働時間は8時間です。

    具体的なケースは以下の2つです。

    移動時間が労働時間に含まれるケースの例
    ・一度会社に出社してから取引先に移動する
    ・リモートワーク中、取引先に行くため一時的に外出する

    以上の移動は、業務遂行の一環として扱われるため、労働時間として管理する必要があります。

    移動中に会社の業務を行う場合

    所定労働時間外でも、移動時間と業務時間が重複する場合は労働時間とみなされます。

    たとえば、移動時間中に残務を処理したり、そもそも業務内容に移動が含まれていたりする場合が該当します。

    具体的なケースは以下の3つです。

    移動時間が労働時間に含まれるケースの例
    ・電車で移動中、パソコンを開いて資料作成を進める
    ・同僚を乗せた車を運転して目的地に向かう
    ・警備担当者として要人に同行する

    所定労働時間外に以上のような移動が発生する場合、通常の賃金とは別に、時間外労働手当を支払う必要があるため注意しましょう。

    移動中に会社からの指示に従うよう求めている場合

    移動中の従業員に対して業務に関する指示を出した場合に、それに従うよう要求しているケースは、移動中も使用者の指揮命令下にあると判断されます。

    たとえば、移動中も上司から指示があればすぐに対応するよう要求している場合は、移動時間も労働時間に含めなければなりません。

    移動中であっても、会社から業務に関する具体的な指示を受け、指示にしたがうように求めている場合は労働時間に含まれます。移動中も指揮命令下にあるとみなされるためです。

    移動時間が労働時間に含まれるケースの例
    ・移動中に電話で業務指示を受け、その対応を行う
    ・訪問先に向かう途中で別の場所への移動を急に指示される
    ・移動中に状況報告を求められる

    単なる移動ではなく、会社の業務に直接関与しているかが判断のポイントです。

    移動時間が労働時間に含まれないケース

    移動時間が労働時間に含まれるケースが明確になったところで、含まれない具体的なケースも解説していきます。判断が難しい場合もあるため、一つずつ確認していきましょう。

    • 移動時間を労働者の自由に使える場合
    • 移動時間中に業務の指示に従う必要がない場合
    • 出張にともなって移動する場合

    個別の状況に応じて、正確に判断するコツをおさえることが重要です。

    移動時間を労働者の自由に使える場合

    従業員が移動時間を自由に使える状況にある場合は、使用者の指揮命令下にあるとはみなされないので、労働時間には含まれません。

    移動時間が労働時間に含まれないケースの例
    ・移動中に読書やゲームなどを自由に楽しんでいる

    移動時間中に業務の指示に従う必要がない場合

    移動時間中に業務の指示があっても、指示にすぐ対応する必要がない場合は、労働時間には含まれません。すぐに対応する必要があるか否かで、指揮命令下にあるか否かが判断されます。

    移動時間が労働時間に含まれないケースの例
    ・退社後の従業員に業務の指示を送っても、作業は翌日に出社した際で問題ない
    ・移動中の連絡が確認のみで済む(対応を求められない)

    移動中に指示があっても、実際に労働とみなされるかどうかは、業務内容や対応状況に左右されます。

    出張にともなって移動する場合

    出張中の移動時間は、原則として労働時間に含まれません。

    出張中の移動は「通勤時間」と同様に扱われるためです。基本的には移動中の行動が自由であり、業務命令下にないとされるからです。

    移動時間が労働時間に含まれないケースの例
    ・新幹線や飛行機での移動で特に業務を求められていない
    ・宿泊をともなう出張の移動で、目的地までの移動中が自由時間として認められる

    移動中に業務の指示をしたり、対応を求めたりする場合は、労働時間に該当する可能性があるため注意が必要です。

    出張の移動時間について基本と注意点

    出張の移動時間は、基本的に労働時間には含まれません。ただし「どこまでが労働時間に該当するのか」は、判断が分かれる場合があります。

    出張の移動時間に関する基本ルールを押さえたうえで、以下の3つのポイントを解説します。

    • 労働時間に含まれる出張の移動
    • 残業代を支給する必要があるケースとないケース
    • 実務で注意すべきポイントは何か

    出張における移動時間の取り扱いを理解することは、従業員とのトラブル回避や法令遵守において重要です。

    出張の移動時間に関する基本的なルールと具体例を詳しく確認していきましょう。

    出張の移動時間が労働時間に含まれる場合とは?

    基本的に労働時間に含まない出張中の移動ですが、移動そのものが仕事に該当する場合は、労働時間としてみなされます。

    たとえば、遠方の取引先に書類を持っていくために出張する場合は、移動時間も労働時間に含まれます。

    出張の移動時間で残業代は発生する?

    出張の移動時間は原則として労働時間に含まれないため、移動時間を含めて残業代を支給する必要はありません。

    日帰り出張の場合、出張先での業務終了後に新幹線や飛行機に乗り、自宅に帰るまでの時間については残業時間に含めずに考えます。

    ただし出張の移動時間中も使用者の指揮命令下にある場合は、労働時間に含まれます。たとえば出張の移動中も業務を進めるよう指示している場合は、移動時間についても残業代を支給する必要があるでしょう。

    移動時間に関する判例から学ぶ労働時間の判断基準

    移動時間が労働時間に含まれるかどうかは、給与計算や労務管理においてしばしば議論されるテーマです。過去には企業と労働者が争った事例もあります。

    過去の判例を参考にすることは、労務トラブルを防ぎ、法令に沿った管理を実現するために重要です。

    判例では、移動時間が労働時間とみなされる条件や、例外的な取り扱いについて見解が示されています。

    「移動時間が労働時間に含まれる条件は何か」「裁判でどのような基準が採用されているのか」に注目しながら、移動時間に関する重要な3つの判例を詳しく見ていきましょう。

    横河電機事件

    会社が出張時の時間外勤務手当の計算について「移動時間は実勤務時間に含まれないもの」として処理していたことに対して、従業員側から「移動時間は実勤務時間に含まれるもの」として時間外勤務手当の請求を受けた事案です。

    裁判では、移動時間は労働拘束性が低く、実労働時間に含まれると解釈するのは困難であるとして、時間外手当の支給対象とはみなされないと判断されました。

    参考:『全情報』労働基準判例検索

    日本工業検査事件

    出張先での作業に従事する従業員が、出張作業の際の時間外労働に対する割増賃金を会社に請求した事案です。

    裁判では、出張の往復にかかる時間は日常の出勤における通勤時間と同じ性質のものであるとして、その所要時間は労働時間に含まないと判断されました。

    参考:『労働事件 裁判例集』裁判所

    東葉産業事件

    出張先から休日に移動することになった場合、移動が休日労働に該当するかが争われた事案です。

    裁判では、日常の出勤における通勤時間が労働と密接不可分の関係にありながら労働には含まれないことを背景とし、同様に当該移動についても休日労働に従事したとはいえないと判断されました。

    参考:『全情報』労働基準判例検索

    まとめ

    移動時間が労働時間に含まれるかどうかは、過去に裁判に発展したケースもある難しいテーマです。判断のポイントは「使用者の指揮命令下にあるか」です。

    通勤時間であっても、労働から完全に解放されて従業員が自由に時間を使える場合は労働時間に含まれません。一方で移動中も仕事をするよう指示されている場合は労働時間に含まれます。

    移動時間を労働時間として扱う場合は、時間外労働の計算も含めて、給与計算などに正確に反映しなければなりません。

    移動時間の取り扱いを明確化することで、自社の勤怠管理を見直し、公平な職場環境を整備しましょう。

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