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変形労働時間制における労使協定|1か月や1年単位のポイントや基礎知識

変形労働時間制とは、繁忙期や閑散期の差が大きい企業が、労働時間を柔軟に配分できる制度です。企業の働き方に合わせて労働時間を設定でき、結果的に全体的な労働時間を短縮することもできます。

ただし、変形労働時間制を採用するには、労使協定の締結や就業規則の変更など、必要な手続きを行わなければなりません。

本記事では、変形労働時間制における労使協定の締結や届出について解説します。変形労働時間制の種類によっても違いがあるため、ぜひ参考にしてください。

変形労働時間制における労使協定|1か月や1年単位のポイントや基礎知識
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    変形労働時間制には労使協定の締結が必要?

    変形労働時間制を採用するためには、基本的に労使協定の締結と届け出が必要です。また、労使協定以外でも、就業規則を見直し、規定しなければなりません。

    変形労働時間制は「1か月単位」「1年単位」「1週間単位」と、変形期間によって種類が異なり、それぞれ導入の手続きに多少の違いがあります。

    労使協定とは

    労使協定とは、労働者と企業(雇用主)の間で交わした約束を書面に記したものです。労使協定には、労働基準監督署長への届け出が必要な場合と不要な場合があり、変形労働時間制については基本的に届け出が必要です。

    変形労働時間制に関する罰則

    変形労働時間制は、労使協定の締結と届出が必要です。届出をしないと、労働基準法違反として30万円以下の罰金が科せられる場合があるため注意しましょう。

    すべての変形労働時間制において、労使協定や就業規則の規定に反した労働があった場合も、違反と見なされる可能性があります。

    参照:『労働基準法 第32条』e-GOV法令検索

    1年単位の変形労働時間制における労使協定

    1年単位の変形労働時間制では、労使協定に以下の内容を定めます。

    • 対象者の範囲
    • 変形期間と特定期間
    • 変形期間の起算日
    • 変形期間中の労働時間
    • 労使協定の有効期限

    対象者の範囲

    変形労働時間制を採用して働く労働者の範囲を明記します。1年単位の変形労働時間制では、勤務期間が対象期間を満たさない中途採用者や退職者も対象にできます。

    変形期間と特定期間

    期間中は平均して週40時間を超えないように対象期間制を設定します。対象期間は最長1年間であるため、1か月を超えて1年以内であれば、任意に対象期間を定められます。

    特定期間とは対象期間で特に忙しい期間です。変形期間中は最大12日の連続勤務も可能と規定できます。

    変形期間の起算日

    変形労働時間制の開始日を記載します。

    変形期間中の労働時間

    平均労働時間が40時間を超えないようにするため、変形期間中の日および週の労働時間を記載します。

    期間中の総時間40時間×暦日数÷7
    労働日数の限度280×対象期間中の暦日数÷365日

    上記を前提とし、労働時間の限度は「最大10時間/日・52時間/週」とします。

    参照:『1年単位の変形労働時間制導入の手引』厚生労働省

    労使協定の有効期限

    導入初期においては、念のため長すぎない期間(1年程度)を定めておくのが安心です。

    1年単位の変形労働時間制とは

    1年単位の変形労働時間制では、1か月を超え1年以内の一定期間で週の平均労働時間が40時間を超えないように、労働時間を調整できます。

    たとえば、季節ごとに繁忙期と閑散期を繰り返すような場合に有効で、繁忙期は週6日勤務、閑散期は週4日勤務などで配分します。通常(うるう年ではない年)、法定労働時間は2085.7時間であるため、この時間内に収まれば問題ありません。

    ただし、1年単位で変形労働時間制を導入する場合は、休日の扱いや労働時間の限度に注意しましょう。

    変形労働時間制により柔軟に労働時間を配分できるからといって、繁忙期に毎日出勤、閑散期をすべて休日とすることはできず、一定のルールが規定されています。

    1年単位の変形労働時間制における上限
    1年あたりの労働日数280日(年間休日85日)
    1日あたりの労働時間10時間
    1週間あたりの労働時間52時間
    対象期間の連続勤務6日
    特定期間を設けた場合の連続勤務12日

    参照:『1年単位の変形労働時間制導入の手引』厚生労働省

    1か月単位の変形労働時間制における労使協定(就業規則)

    1か月単位で変形労働時間制を採用する場合の労使協定では、以下の内容を定めます。内容は、1年単位の変形労働時間制における労使協定と似ています。

    • 対象者の範囲
    • 変形期間
    • 変形期間の起算日
    • 変形期間中の各日各週の労働時間
    • 労使協定の有効期限

    対象者の範囲

    1か月単位の変形労働時間制を採用する場合も、対象とする労働者の範囲を明記します。

    変形期間

    1か月単位の場合、対象期間は1か月以内の期間で設定します。

    変形期間の起算日

    変形労働時間制の開始日を記載します。「毎月1日」など、具体的に記載しましょう。

    変形期間中の各日各週の労働時間

    対象期間すべての労働日における労働時間を記載し、週の平均労働時間を、40時間を超えないように設定します。原則として一度決めた労働日や労働時間を変更することはできないため、よく検討しましょう。

    労使協定の有効期限

    1か月単位の場合は、対象期間よりも長い期間で設定する必要があります。具体的には3年以内程度を目安に設定しましょう。

    参照:『1か月単位の変形労働時間制』厚生労働省

    1か月単位の変形労働時間制では、労使協定への締結・届け出ではなく、就業規則への規定・届け出のみでも問題ありません。

    労使協定の締結・届け出もできますが、それだけでは変形労働時間制による労働を強制できません。義務づけには就業規則への明記が必要であると理解しておきましょう。

    参照:『1か月単位の変形労働時間制』厚生労働省

    1か月単位の変形労働時間制とは

    変形労働時間制は、1か月単位で労働時間を配分できます。1か月以内の一定期間で、週の平均労働時間が40時間、対象期間の暦日数を28日とした場合は、総枠で月160時間に収まるように労働時間を調整できます。

    たとえば、第1週と第2週がそれぞれ50時間、第3週と第4週がそれぞれ30時間の労働が必要な場合、本来なら第1週と第2週は、10時間ずつ残業が発生します。ただし、月換算すれば合計160時間であるため、法定労働時間内に収まります。

    第1週50時間月の総枠が法定労働時間内のため残業は発生していない
    第2週50時間
    第3週30時間
    第4週30時間
    合計160時間

    1週間単位の非定型的変形労働時間制における労使協定

    1週間単位の非定型的変形労働時間制の場合、労使協定に明記する項目は以下の通りです。

    • 1週間の労働時間は40時間以下とすること
    • 1日の労働時間の限度は10時間とすること

    上記の2点を明記していれば問題ないため、1年単位や1か月単位の変形労働時間制における労使協定よりも簡易にまとめられるでしょう。

    1週間単位の非定型的労働時間制は、事業規模が従業員30人未満の小売業や旅館業など一部業種のみに認められています。すべての事業者が導入できるわけではありません。

    参照:『1週間単位の非定型的変形労働時間制(法第32条の5)』厚生労働省

    変形労働時間制と36協定 

    変形労働時間制における労使協定|1か月や1年単位のポイントや基礎知識

    変形労働時間制を採用すると、特定の日や週において長時間労働とするような時間配分もできます。

    ただし、残業や時間外労働の取り扱いには注意が必要です。

    変形労働時間制による所定労働時間や、法定労働時間を超えて労働させる場合は、あらかじめ労使協定の一つである「36協定」を締結し労働基準監督署長へ届け出なければなりません。

    原則として「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超えて時間外労働をさせるときは、36協定の締結と届け出が求められます。変形労働時間制の場合も同様に手続きが必要であるため理解しておきましょう。

    36協定とは

    36協定とは、時間外労働や休日労働に関する協定です。労働基準法では、法定労働時間を「1日8時間・週40時間」、法定休日を「週1日以上または4週間を通して4日以上」と定めており、基準を超過して労働させた場合は、労働基準法違反に該当します。

    法定労働時間を超過する「時間外労働」を行うためには、労使協定である36協定の締結と届け出をしなければなりません。届け出をせずに時間外労働をさせた場合は法令違反となり、罰則が科される可能性があるため注意しましょう。

    変形労働時間制における時間外労働

    変形労働時間制において時間外労働をさせた場合は、日ごと・週ごと・変形期間の3つに分けて計算し、最終的に合計を算出します。それぞれの計算方法を確認してみましょう。

    日ごとの計算所定労働時間が8時間超え超えた時間をカウント
    所定労働時間が8時間以内8時間を超えた時間をカウント
    週ごとの計算所定労働時間が40時間超え超えた時間をカウント
    所定労働時間が40時間以内8時間を超えた時間をカウント
    →すでに日ごとで算出した時間外労働時間の分は控除
    期間ごとの計算変形期間における「法定労働時間の総時間」を超えた時間をカウント
    →日ごと・週ごとで算出した分は控除
    →法定労働時間の総時間は「暦日数÷7×40時間」

    参照:『1か月単位の変形労働時間制をとる場合の時間外労働の考え方』厚生労働省

    変形労働時間における36協定の注意点

    36協定では、時間外労働の限度を「月45時間・年360時間」と規定しています。

    しかし、対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制を採用している場合は、「月42時間・年320 時間」と上限としています。

    出典:『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』厚生労働省

    変形労働時間制を導入するメリット

    変形労働時間制には、主に2つのメリットがあります。

    • 効率よく労働時間を使えること
    • 人件費削減ができること

    繁忙期には労働時間を多く割き、閑散期には労働時間を減らす対応ができると、効率よく労働時間を調整できます。特に繁忙期と閑散期の差が大きい企業におすすめです。

    また、全体の労働時間を短縮したり不要な残業を減らしたりできるため、人件費の削減にも効果が期待できます。

    ただし、すべての企業が変形労働時間制に向いているわけではありません。毎年一時的に長時間労働が必要になる企業や、繁閑の差が大きい企業などに適しているといえます。

    変形労働時間制の導入を検討している場合は、1年を通した自社の繁閑の波や従業員の労働時間を踏まえ、検討してみましょう。

    まとめ

    変形労働時間制は、柔軟な労働時間を設定できるため、時期によって長時間労働が必要な企業には特に便利な制度です。

    ただし、変形労働時間制を採用するためには原則として労使協定の締結と届け出が必要です。労使協定に規定する項目は、それぞれの変形労働時間制によって異なるため、種類ごとに内容を正しく理解しておきましょう。

    また、変形労働時間制を採用する場合も、時間外労働をさせるのであれば労使協定である36協定の締結と届け出が必要です。変形労働制における36協定のルールも、あわせて確認しておきましょう。

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