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変形労働時間制の届出|流れや必要書類、書き方を解説

変形労働時間制とは、業務の忙しさに応じて、一定の期間内で労働時間を柔軟に配分できる制度です。導入するためには、労使協定を締結し、労働基準監督署長への届出が必要です。

担当者の中には「労使協定の届出方法がわからない」「どのような書類が必要なのかわからない」と不安を感じている方もいるでしょう。

本記事では、変形労働時間制の届出について、手順や流れを解説しながら、必要書類や書き方なども紹介します。変形労働時間制の導入を検討している企業や人事労務担当者は、ぜひ参考にしてください。

変形労働時間制の届出|流れや必要書類、書き方を解説
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    変形労働時間制の導入には届出が必要

    変形労働時間制は、労働時間を企業側が配分して決められる制度です。事業の特性や一時的に長時間労働の必要がある場合に採用している企業もあるでしょう。

    変形労働時間制は、労使協定の締結や就業規則の見直し、労働基準監督署長への届出を行うことで導入を始められます。

    まずは簡単に変形労働時間制について解説し、届出の手順や必要書類の書き方について紹介します。

    変形労働時間制とは

    変形労働時間制とは、業務の繁閑や性質に応じて労働時間を決められる制度です。

    繁忙期と閑散期の差が激しい業種では、変形労働時間制により適切に労働時間を配分することで、最終的に労働時間を短縮させて不要な残業や人件費を抑える目的があります。

    本来であれば、法定労働時間は「1日8時間・週40時間」です。変形労働時間制を導入すると、一定期間の労働時間が法定労働時間内に収まっていれば問題になりません。

    変形労働時間制の種類

    変形労働時間には3種類あります。

    • 1か月単位の変形労働時間制
    • 1年単位の変形労働時間制
    • 1週間単位の非定型的変形労働時間制

    月単位の場合は1か月以内、年単位の場合は1か月を超え1年以内、非定型の場合は1週間単位で労働時間を調整できます。

    一般的な変形労働時間制は、1か月単位と1年単位の変形労働時間制です。1週間単位の非定型的変形労働時間制は、事業規模が従業員30人未満の一部業種(小売業や飲食店、旅館など)のみに認められています。

    変形労働時間制を導入する手続きは、この種類によって対応が異なります。

    基本的には労使協定の締結と届出、就業規則への明記が必要です。ただし、月単位の変形労働時間制は、労使協定への締結と届出ではなく、就業規則への規定と届出のみでも問題ありません。

    労使協定を締結して届出を行うこともできますが、労使協定の締結(記載)だけで変形労働時間制による労働を強制できません。義務とするためには就業規則への明記が必要と理解しましょう。

    変形労働時間制を導入する手順

    変形労働時間制を導入する手順を簡単に紹介します。具体的な流れや必要な書類などは記事後半で紹介しますので、ここでは流れを理解するための参考にしてください。

    1. 自社や従業員の労働実績を確認する
    2. 必要な労働時間を洗い出す
    3. 変形労働時間制による所定労働時間を決める
    4. 就業規則を見直す
    5. 労使協定の締結と届出書を作成する
    6. 労働基準監督署長へ届け出る
    7. 従業員へ周知する
    8. 制度の運用を開始する

    特に重要なのは、就業規則の見直しと労使協定の届出です。届出を行わず変形労働時間制を運用できないため忘れずに行いましょう。

    変形労働時間制を届出なしで行うリスク

    変形労働時間制を導入するには手続きが必要です。特に労使協定の締結や就業規則の規定とその届出を怠ってはいけません。

    手続きを怠ると、罰則として30万円以下の罰金が科される可能性があるため、注意しましょう。

    参照:『労働基準法32条』e-GOV法令検索

    変形労働時間制の届出に必要なもの

    変形労働時間制を運用するには、労働基準監督署長へ届出を行います。「1年単位」「月単位」別に、届出に必要なものを紹介するので、漏れがないか確認しましょう。

    1年単位の変形労働時間制

    1年単位の変形労働時間制の届出には、以下の書類や対応が必要です。

    • 1年単位の変形労働時間制に関する協定届
    • 労使協定の締結
    • 労働者代表の意見書を添えた就業規則の立案
    • 期間中の労働日と労働時間がわかるカレンダー

    協定届以外の書類に決まった形式はなく、必要事項が記載してあれば基本的に問題ありません。以下の記入例を参考にし、厚生労働省の情報を確認のうえ、作成しましょう。

    参照:『1年単位の変形労働時間制に関する協定届(記入例)』厚生労働省静岡労働局

    また、届出は労働基準監督署長への提出用と会社控えが必要であるため、2部ずつ用意しましょう。

    参照:『1年単位の変形労働時間制導入の手引』厚生労働省(2023年)

    月単位の変形労働時間制

    月単位の変形労働時間制の届出には、以下の書類が必要です。

    • 1か月単位の変形労働時間制に関する協定届
    • 必要事項を記載した労使協定もしくは就業規則
    • 期間中の労働日と労働時間がわかるカレンダー

    1か月単位の変形労働時間制では、労使協定届と就業規則のどちらかでよいとされています。また、労使協定にカレンダーに関する言及がある場合は提出が必要です。

    厚生労働省が公開している記入例や情報を確認のうえ、作成しましょう。

    参照:『1箇月単位の変形労働時間制に関する協定届』厚生労働省福岡労働局
    参照:『1か月単位の労働時間制』厚生労働省

    労使協定の届出に関する流れや書類の書き方

    変形労働時間制の届出|流れや必要書類、書き方を解説

    変形労働時間制の導入には労使協定の届出が必要です。具体的な進め方と必要な書類の書き方を紹介します。

    1. 労働状況の把握
    2. 対象者の決定
    3. 労働時間の決定
    4. 就業規則の変更
    5. 労使協定の締結
    6. 変形労働時間制に関する協定届の作成
    7. 変形労働時間制の届出
    8. 変形労働時間制の周知と運用

    1.労働状況の把握

    変形労働時間制を導入する際、本当に導入が必要かを見極めるために現状を調査する必要があります。確認した情報は、届出の際の書類に記載するため正しく把握しましょう。

    2.対象者の決定

    変形労働時間制を適用する従業員を決めます。制度を導入するからといって全従業員を対象にする必要はありません。労働時間や残業の多さなどから、必要な部署や従業員を洗い出します。

    3.労働時間の決定

    変形労働時間制では、労働時間を週平均40時間以内に収めます。繁忙期や閑散期、業務量が多くなる原因を踏まえたうえで、所定労働時間を設定しましょう。

    4.就業規則の変更

    変形労働時間制を採用すると、従業員の働き方は大きく変わります。導入後の混乱を抑えるためにも、規定を就業規則に盛り込み、いつでも確認できるようにしておきましょう。

    一般的に、就業規則には以下の内容を記載するとよいでしょう。

    • 対象期間
    • 対象者の範囲
    • 起算日
    • 変形期間の労働時間が法定労働時間を超えない(週平均40時間以内にする)ことを明記
    • 変形労働時間制による1日あたり・1週間あたりの所定労働時間
    • 各労働日の始業時間と終業時間

    5.労使協定の締結

    年単位の変形労働時間制では、労使協定の締結も必要です。一般的に労使協定には以下の内容をまとめます。

    • 対象労働者
    • 変形期間と特定期間
    • 起算日
    • 変形期間中の各日・各週の所定労働時間
    • 労使協定の有効期限

    1年単位の変形労働時間制では労使協定の締結と届出、就業規則への記載と届出が必要です。

    1か月単位の変形労働時間制では、就業規則への記載と届出のみでも問題はなく、労使協定の締結は必須ではありません。

    仮に労使協定を締結したとしても変形労働時間制を義務づけることはできず、就業規則への明記が不可欠です。1か月単位の変形労働時間制を導入するには、必ず就業規則に明記しましょう。

    6.変形労働時間制に関する協定届の作成

    変形労働時間制の届出をする際は、厚生労働省が公表している『1年単位の変形労働時間制に関する協定届』の作成と提出も必要です。書類は厚生労働省のホームページで印刷できます。

    1年単位の変形労働時間制の協定届について紹介します。

    変形労働時間制の届出|流れや必要書類、書き方を解説

    出典:『1年単位の変形労働時間制に関する協定届』(厚生労働省)より一部抜粋・加工

    事業の基本情報

    事業の名称や所在地、事業種類などを明記します。事業の名称については、支店などがある場合は「〇〇株式会社 〇〇支店」などのように、出先機関名まで記載しましょう。

    また労働者数は、役員以外の雇用契約を結んでいる労働者の数を記入します。

    対象者の範囲

    変形労働時間制を採用して働く労働者の範囲を明記します。1年単位の変形労働時間制の場合、勤務期間が対象期間を満たさない中途採用者や退職者も対象にできます。

    変形期間

    変形労働時間制の対象期間を明記します。変形労働時間制を採用する場合、期間中は平均して週40時間を超えないようにしましょう。1年単位の変形労働時間制では、1か月を超えて1年以内であれば、任意に対象期間を定められます。

    変形期間の起算日

    変形労働時間制の開始日を記載します。届出の日付ではないため注意しましょう。

    変形期間中の労働日と労働時間

    変形期間中の労働日、各日および各週の労働時間を記載します。1か月以上の期間に区分する場合は、まず労使協定締結時に「労働日と各日の労働時間」を特定して記載します。

    それ以降の期間においては、期間の始まる少なくとも30日前に、労働組合もしくは労働者過半数の代表者の同意を得たうえで「労働日数」と「総労働時間」を特定しておけば問題ありません。

    勤務時間の項目では、始業時間や就業時間、休憩時間についても明記しましょう。

    労使協定の有効期限

    変形労働時間制の労使協定について、有効期限も設定します。1年単位の変形労働時間制の場合、念のため長すぎない期間を定めておくと安心です。

    また、1か月単位の変更労働時間制の場合は、対象期間よりも長い期間で設定する必要があり、3年以内を目安にしておくとよいでしょう。

    参照:『1年単位の変形労働時間制導入の手引』厚生労働省

    7.変形労働時間制の届出

    協定届の作成が済んだら、労働基準監督署に必要な書類を持参して提出します。

    • 就業規則
    • 労使協定(月単位は任意)
    • 勤務カレンダー
    • 協定届出書

    労使協定は有効期限があるため、更新する場合はその都度提出しなければなりません。

    8.変形労働時間制の周知と運用

    変形労働時間制に関する届出を行ったら運用開始です。ただし、いきなり変更を促しても従業員は混乱してしまいます。

    就業規則や労使協定に明記された内容を、あらかじめ周知したうえで進めましょう。企業が周知を怠った場合は、変更された就業規則は効力を持たず、労働基準法違反に該当します。

    また、変形労働時間制における残業時間の計算は少し複雑です。残業時間の計算や残業代の支給を誤ってしまうと、従業員に迷惑がかかり、モチベーションの低下などにつながる可能性があります。

    変形労働時間制においても勤怠管理を徹底し、残業代や給与計算のミスには注意しましょう。

    時間外労働をさせる場合は36協定の届出も必要

    変形労働時間制において、時間外労働をさせる場合は36協定の締結と労働基準監督署長への届出も必要です。

    変形労働時間制に限らず「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合は、36協定の締結と届出が必要です。

    届出をしていないと時間外労働や休日出勤が認められず、罰則が科される可能性があるため注意しなければなりません。

    変形労働時間制により、従業員が自由な時間配分ができるようになったとしても、時間外労働には36協定を締結する必要がある点を理解しておきましょう。

    まとめ

    変形労働時間制を導入する場合、就業規則の見直しと労使協定の締結・届出が必要です。労働基準監督署長へ届出には、必要な書類があるため、抜け漏れのないように確認しましょう。

    また、労使協定の締結や就業規則の見直しを行ったからといって、従業員が理解できているとは限りません。届出をしたことで終わらせず、従業員に運用について説明し、理解を深めてもらいましょう。

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