ピープルアナリティクスの定義とは?組織の人材データ活用法を解説

ピープルアナリティクスとは、人材データを分析し、マネジメントや人事施策に活かす取り組みです。GoogleやYahooなど大手企業の導入事例が注目される一方で、「大企業向けの手法では?」と感じている方もいるかもしれません。しかし実際には中小企業にとってもメリットは大きく、導入効果は十分に期待できます。
本記事では、ピープルアナリティクスの活用方法から導入の進め方、注意点、企業事例までをわかりやすく解説します。自社への導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
ピープルアナリティクスの定義
ピープルアナリティクスとは、「組織が、従業員に関するデータを、意思決定に活用する」取り組みです。データの収集・分析・意思決定への反映という三段階がそろってはじめて機能します。
従来の人事は「KKD(経験・勘・度胸)」に依存していました。しかしKKDは、担当者が変わるたびに判断基準が揺らぐという弱点を抱えています。ピープルアナリティクスは弱点を、再現性のある方法に落とし込みます。
ピープルアナリティクスの三層構造
ピープルアナリティクスは具体的に、次の三層構造で捉えると理解しやすくなります。
- Descriptive Analytics(記述的分析):過去に何が起きたかを把握する(例:離職率の推移)
- Predictive Analytics(予測的分析):今後何が起きるかを予測する(例:離職リスクのスコアリング)
- Prescriptive Analytics(処方的分析):何をすべきかを提示する(例:リテンション施策の優先順位づけ)
多くの企業が取り組んでいるのは最初の「記述的分析」です。ピープルアナリティクスは本来、予測・処方の段階まで到達することに意味があります。
ピープルアナリティクスの重要性
ピープルアナリティクスは、人事判断の「再現性のなさ」といった課題から重要視されるようになりました。
人材会社大手パーソル総合研究所の調査によると、人材データを分析できている企業は41%に過ぎず、そのうち意思決定まで活用できているのは約24%にとどまります。つまり、日本企業の約75%は、人事データを持ちながら活かせていない状態です。
採用面接を例に取ると、同じ候補者でも面接官によって評価が異なることはよく知られています。その結果、入社後のミスマッチは多くの企業の課題といえます。
ピープルアナリティクスを導入すると、勘や経験だけに頼らない判断が可能になり、人事の意思決定をデータに基づいて行えるでしょう。
参照:『パーソル総合研究所「人材マネジメントにおけるデジタル活用に関する調査2020」』

ピープルアナリティクスのメリット
ピープルアナリティクスの実施は、企業と従業員双方にメリットがあります。
企業のメリット1.離職率が低下する
ピープルアナリティクスの活用は、離職率の低下につながる可能性があります。
従業員の勤怠状況、評価結果、サーベイ結果、面談記録などを分析すると、離職につながりやすい要因を把握しやすくなるためです。たとえば、特定の部署で残業時間が多い、エンゲージメントが低下している、上司との面談頻度が少ないといった傾向が見えれば、早い段階で改善策を検討できます。
データに基づいて従業員の状態を把握し、必要な対応を行うことで、従業員の不満や不安を放置しにくくなります。その結果、組織への信頼や働く意欲の維持につながり、離職防止にも役立つでしょう。
企業のメリット2.業務効率がアップする
ピープルアナリティクスを導入すると、人事業務の効率化が期待できます。
これまで勘や経験に頼っていた判断を、データを根拠として進められるようになるためです。たとえば、配置や育成方針を検討する際に、従業員のスキル、評価、キャリア希望などを確認できれば、担当者ごとの主観に左右されにくくなります。
また、判断に使う情報が整理されていれば、担当者が変わった場合も引き継ぎがしやすくなります。人事施策の検討に必要な情報をすぐに確認できるため、確認作業や認識合わせにかかる時間も削減しやすくなるでしょう。
従業員のメリット1.意思決定を受け入れやすくなる
ピープルアナリティクスを活用した人事判断は、従業員にとっても受け入れやすくなります。
採用、配置、評価などの判断にデータが使われることで、判断の根拠が見えやすくなるためです。担当者の経験・勘・度胸に依存した判断では、担当者によって評価が変わったり、プロセスが見えにくくなったりする場合があります。
一方で、評価基準や分析データに基づいて判断されているとわかれば、従業員は結果に対する納得感を持ちやすくなります。人事判断の透明性が高まることで、企業への不信感を抑えられるでしょう。
従業員のメリット2.働きやすい職場環境が整う
ピープルアナリティクスは、従業員が働きやすい職場環境づくりにも役立ちます。
従業員の状態や組織課題をデータから把握できるため、可視化されにくい問題にも気づきやすくなるためです。たとえば、残業時間、休職状況、エンゲージメント、上司との関係性などを分析することで、部署ごとの課題や改善すべき点を把握できます。
課題が見えれば、体的な施策につなげやすくなります。従業員の負担や不満を早めに把握できる点は、働きやすい環境づくりにおけるメリットといえるでしょう。
従業員のメリット3.意思疎通がスムーズになる
ピープルアナリティクスを活用すると、上司や部署が変わった場合でも意思疎通がしやすくなります。
従業員データが整理されていれば、新しい上司も従業員の個性などを把握しやすいためです。人材情報が蓄積されていれば、上司は従業員の特徴を踏まえて声をかけたり、業務を任せたりしやすくなります。従業員にとっても、自分の状況を理解してもらいやすくなるため、上司とのコミュニケーションがスムーズになるでしょう。

ピープルアナリティクスの活用法
人事領域において、ピープルアナリティクスが活躍する場面について、代表的な6つの活用法を紹介します。
従業員のタレントマネジメント
タレントマネジメントは、従業員の能力や経験、適性などの人材情報を把握し、採用・育成・配置・評価に活用して組織の成果向上につなげる人事戦略です。
その実践には、従業員一人ひとりのスキルや特性、キャリア志向、評価履歴などを継続的に把握し、人事施策に活かす仕組みが欠かせません。
ピープルアナリティクスを活用すれば、こうした人事データを分析し、経験や勘だけに頼らない判断がしやすくなります。結果として、より納得感のある配置や育成、評価につなげやすくなるでしょう。

活躍できる人材の採用
採用の場面では、「採用の成功基準」を入社前に定義するために、ピープルアナリティクスが活用されています。
多くの採用ミスマッチは、「活躍の定義」があいまいなまま選考を進めることで発生します。「明るい人」「コミュニケーション力がある人」という定性的な基準では、面接官によって判断がばらつきます。
たとえば、過去の採用データと入社後のパフォーマンスデータを紐づけると、「特定の職種では、前職での転職回数よりも、副業・社外活動の有無の方が活躍と相関する」といった知見が得られることがあります。これを選考基準に組み込むことで、採用の精度が向上するでしょう。
配属先や育成方針の決定
配属や育成の失敗は、「本人が何を得意とするか」といったデータが考慮されないまま、決定が下されるケースで発生しています。組織が大きくなるほど、従業員の適性を把握する余裕などなく、「なんとなく」といった意思決定が発生しているケースもあるでしょう。
たとえば、スキル・パフォーマンス・エンゲージメントといったデータを組み合わせると、「Aさんは現在の部署でエンゲージメントが低下しているが、過去のプロジェクトデータを見ると企画系の業務でパフォーマンスが高い」という示唆が得られる場合があります。異動が「データに基づく提案」として提示できます。
公平な人事評価
人事評価においてピープルアナリティクスを活用すれば、目標達成率や職種別の成果指標などを分析し、評価結果に偏りがないかを確認できます。評価会議の場でも、データをもとに評価の根拠を確認しやすくなるため、従業員にとっても納得感のある評価につなげやすくなるでしょう。
ただし、評価をすべて数値だけで決めるのではなく、行動面やプロセス、周囲への貢献などの定性的な情報もあわせて確認することが重要です。
離職防止策の立案
ピープルアナリティクスによって、辞める前の兆候を捉えることが可能です。早い段階で察知することで、フォロー面談や配置転換、業務負荷の調整などの対策を検討できます。
たとえば、過去の離職者の行動データをさかのぼると、「有給取得パターンの変化」「社内コミュニケーション量の減少」「1on1への参加率の低下」が離職前から見られるケースがあります。これらを複合的にスコアリングすることで、離職リスクの高い従業員を早期に把握しやすくなります。
離職防止のピープルアナリティクスの目的は、「どのタイミングで支援が必要か」を見極めることにあります。
健康経営やウェルビーイング経営
健康経営やウェルビーイング経営の推進でも、ピープルアナリティクスは役立ちます。従業員の心身の状態や働き方に関するデータを分析することで、組織全体の不調や課題を把握しやすくなるためです。
たとえば、残業や有給取得率などを掛けあわせ「特定の部署で残業時間が増え、ストレス反応も高まっている」「有給取得率が低いチームほどエンゲージメントが下がっている」といった傾向を把握できます。
分析結果をもとに、改善施策を実施し、それがさらに従業員の健康状態や働きやすさの改善につながっているか検証していく必要があります。
ピープルアナリティクスで収集すべきデータ
ピープルアナリティクスではどのようなデータを収集し、意思決定に活かせるのでしょうか。
| データ種別 | 具体例 | 活用目的 |
|---|---|---|
| 人材データ | 年齢・部署・給与・スキル | 基盤情報・他データとの掛け合わせ |
| 勤務データ | 労働時間・有休取得率・残業頻度 | 健康リスク・離職兆候の検知 |
| 行動データ | 社内メール送受信数・会議参加頻度 | パフォーマンス予測・エンゲージメント把握 |
| デジタルデータ | PC利用状況・ツール使用ログ | 業務効率の分析 |
| オフィスデータ | 会議室利用率・出社頻度 | 働き方改革・スペース最適化 |
人材データ
年齢、住所、部署、給与、スキルなどが該当し、もっとも基本となるデータです。ほかのデータと組み合わせると、活躍予測や離職防止などに役立てられます。
勤務データ
勤務データは、勤務時間、休職率、有給休暇の取得状況などが該当します。
デジタルデータ、エンゲージメントサーベイ、ストレスチェックなどと組み合わせると、離職の兆候などを捉えることもできます。
行動データ
行動データは、勤務中の従業員の行動に関するデータです。勤怠状況をはじめ、カレンダー内のスケジュールデータやメールの送受信数なども該当します。
人材データなどと組み合わせると、各自のパフォーマンスや離職の兆候を割り出せる可能性があります。実証実験を行う際には、体にウェアラブル端末を装着し、詳細な行動データを取得する場合もあります。
デジタルデータ
デジタルデータは、社内におけるパソコンの利用状況、インターネットの閲覧履歴、電話の通話履歴などが該当します。デジタルデータは、メンバー内の業務状況の把握や効率化に役立てられます。しかし、プライバシーの侵害にあたることもあるため、取り扱いには細心の注意が必要です。
オフィスデータ
オフィスデータは、社内の設備に関する利用状況を指します。具体的には会議室や休憩室の利用状況、エレベーターの稼働率、複合機の使用状況などです。一般的にオフィスデータは、労働環境を改善したいときに活用されます。
ピープルアナリティクスの企業事例
ここでは、ピープルアナリティクスを世間に広めた2社の事例をご紹介します。
Google(グーグル)
Googleでは、ピープルアナリティクスを採用業務、社員教育などに活かしています。同社はユニークな面接が特徴であったため、過去には以下のような面接事例があります。
- 「ゾウを冷蔵庫に入れる方法」を質問
- エンジニア採用で、ホワイトボード上でコードで回答させる
しかしピープルアナリティクスを実施した結果、このような対応が「入社後に活躍する人材の採用」と無関係な非効率な方法だと判明しました。
そこで採用を改め、さまざまなデータに基づき「効率的な面接方法」を実施し、採用の効率化につなげています。
さらにチームの生産性を高めるには「心理的安全性」が重要な点も導き出し、社員教育の場でも心理的安全性を重視しています。その結果、離職率が改善したそうです。
Yahoo(ヤフー)
Yahooでは、2017年4月に「ピープルアナリティクスラボ」を発足し、ピープルアナリティクスに積極的に取り組んでいます。
Yahooがピープルアナリティクスで重視する内容は、次のとおりです。
- 従業員の才能と情熱を受け止めて解き放つ
- 組織の成長をサポートする
またピープルアナリティクス開始前のデータ収集の段階で、課題も判明しました。その課題とは、次のとおりです。
| ばらばら病 | 他部署の「データの所在」がわからない状態 |
|---|---|
| ぐちゃぐちゃ病 | 記載方法が一致せず、データの整理が難しい状態 |
| まちまち病 | データに規則性がなく、せっかくのデータを活かしにくい状態 |
データ収集の課題を克服したのちに、適切なデータを使用したうえでピープルアナリティクスを実施し、退職率の減少や公平な評価に活かすことに成功したそうです。
ピープルアナリティクスの実践法
ピープルアナリティクスの実践法は2種類あります。自社の課題がわかっている場合とわかっていない場合です。
ケース1:自社の課題がわかっている場合
取り組むべき自社の課題がわかっている場合には、以下のステップで進めます。
| 1.課題を把握 2.仮説を設定 3.データの収集 4.施策の実施 5.実施した結果への振り返り |
あらかじめ課題がわかっている場合には、扱う課題を決めたうえで仮説を設定します。仮説の設定では、課題に対する要因を予想し、収集すべきデータを絞り込みましょう。
必要なデータを収集したあとは、施策を実施します。実施後には、結果をもとに振り返りを行いましょう。課題が解決しない場合には、別の仮説や施策を立て、改めて施策を実施します。
ケース2:自社の課題がわからない場合
取り組むべき課題が、現状わかっていない場合には、以下のステップで進めます。
| 1.データの収集 2.データ分析 3.仮説の設定 4.施策の実施 5.実施した結果への振り返り |
まずはさまざまなデータを収集し、分析しましょう。分析結果を見ることで、課題が見えてくることがあります。課題がわかったあとには、解決に導くための仮説を設定し、施策を実行しましょう。実行した結果、課題が解決しない場合には、別の仮説や施策を立てたうえで、新たな施策を実施します。
ピープルアナリティクスの課題・注意点
ピープルアナリティクスはメリットも多いものの、課題や注意点が存在します。
各種データの収集
ピープルアナリティクスでは、データの収集が欠かせません。しかし、そもそものデータが手元にないこともあるでしょう。
給与や部署異動などのデータは存在するものの、従業員のモチベーションに関するデータや、活躍状況のデータが存在しない企業は少なくありません。データがそろっていない企業では、収集データ項目を精査したうえで、収集するところから始めます。
一方、各種データはあるものの、バラバラになっており、収集が困難な事例もあります。バラバラになっているデータは一元管理し、各データ項目を同一の形式にそろえる必要があります。
人事業務の複雑化
ピープルアナリティクスを実施すると、人事担当者の負担が増えます。具体的にはデータの収集や改善施策の実施、進捗状況の結果報告などです。従来のオペレーション人事より複雑化していくので、それらに対応する時間とスキルの向上が求められます。
専用ツールの導入も検討するといいでしょう。
人事アナリストの確保
前述のように、ピープルアナリティクスによって、人事業務は複雑化・多様化します。それに伴って、各種データの分析に長けた人材が必要です。つまり、ピープルアナリティクスを主導できる「人事アナリスト」の確保が不可欠です。
人事アナリストの母数は少なく、貴重な人材です。採用は難しく、自社で人事アナリストを育てるという選択肢もあります。
個人情報の保護
ピープルアナリティクスで収集するデータは、個人のプライバシーに触れるケースもあるため、個人情報の保護に配慮しなければいけません。取り扱いには細心の注意を払う必要があります。
個人情報を正しく扱うには、以下のポイントを意識します。
- 必要なデータのみを収集する
- データの公開範囲を慎重に検討する
- 従業員にデータ収集の目的や内容を説明する
一般社団法人ピープルアナリティクス&HR テクノロジー協会が発表している「人事データ利活用原則」なども参考になるでしょう。
参照:『人事データ利活用原則』
ピープルアナリティクスまとめ
ピープルアナリティクスとは、従業員データを収集・分析し、人事の意思決定に活用する取り組みです。「経験・勘・度胸」に依存した人事判断から脱却し、データに基づく再現性のある意思決定を実現します。
活用場面は採用・配置・評価・離職防止・健康経営など多岐にわたります。GoogleやYahooといった大手企業の導入事例が示すように、データを正しく活用することで採用精度の向上や離職率の改善につながります。
一方で、データの収集・整備をはじめ課題もあります。導入にあたっては、自社の課題を明確にしたうえで仮説を設定し、段階的に取り組むことが重要です。
まずは手元にあるデータの整理から始めることをおすすめします。
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