死亡退職者の年末調整のやり方は? 【具体例】源泉徴収票交付までの手順と注意点

死亡退職者の年末調整のやり方は? 【具体例】源泉徴収票交付までの手順と注意点

万が一、従業員が死亡したときには、年末調整で特別な対応が必要です。遺族とコミュニケーションを取りながら手続きを進める場合もあるため、いざというときに適切な対応ができるよう、概要を把握しておくことが大切です。

本記事では、死亡退職者の年末調整のやり方を詳しく解説します。源泉徴収票交付までの具体的な手順や注意したいポイントも紹介しているので、参考にしてください。

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    死亡退職者の年末調整は必要? やり方は?

    死亡による退職者も同様に、年末調整が必要です。

    年末調整とは、1年間の所得税の過不足を精算する手続きです。

    従業員の給与からは、月ごとに各種社会保険料とともに所得税を差し引きます。所得税は1年間の収入をもとに算出され、毎月正確な金額を差し引くことはできません。年間の給与が確定した時点で年末調整を実施し、正しい税額を計算して差額を調整します。

    死亡退職者の年末調整では、相続人の遺族に対して『給与所得の源泉徴収票』を交付します。注意点は所得税の課税対象になるもの・ならないものを明確にしておくことです。

    死亡後に支払われる給与に対しては不要

    従業員が給与の支給期の前に死亡した場合、死亡後の給与は相続財産とみなされ、相続税の課税対象となるため、所得税は課されません。それにより、従業員の死亡後に支払われる給与は源泉徴収の対象外とされ、年末調整は不要です。

    支給期とは「給与所得の収入金額の収入すべき時期」を指します。通常は支給期=支払い日です。

    締め日毎月25日
    支払い日翌10日
    死亡日9月5日
    年末調整の対象給与8月10日までに支払った給与

    年末調整では8月10日までに支払った給与を対象とします。年末調整の対象となるか否かは、締め日ではなく支給期(支払い日)で判断されるので、混同しないように注意しましょう。

    死亡前に支払われた給与に対しては必要

    従業員が給与の支給期が到来してから死亡した場合、支払った給与は源泉徴収の対象となります。従業員の死亡前に支払われた給与に対しては、年末調整が必要です。

    締め日毎月25日
    支払い日翌10日
    死亡日9月15日
    年末調整の対象給与9月10日までに支払った給与

    従業員は支払い日のあとに亡くなっているので、年末調整では9月10日に支払われた給与も対象とします。

    実際の支払いが前後した場合は死亡日との関係で判断する

    死亡退職者の年末調整について、何かの理由で給与の支払いが前後した場合は、本来の支払い日と死亡日との関係で判断します。

    締め日毎月25日
    本来の支払い日翌10日
    実際の支払い日翌15日
    死亡日9月12日
    年末調整の対象給与9月15日までに支払った給与

    実際に給与が支払われたのは従業員が亡くなってからですが、本来の支払い日は死亡日の前です。そのため、9月15日に支払った給与は死亡前に支払われたものとして、年末調整の対象となります。

    死亡退職者の年末調整手続きの流れ

    死亡退職者の年末調整手続きは、次の流れで実施します。

    1. 相続財産に含まれる給与を確認する
    2. 年末調整対象の給与額を計算する
    3. 遺族に源泉徴収票を送付する

    それぞれのステップについて、以下で詳しく解説します。

    相続財産に含まれる給与を確認する

    まずは、死亡退職者の給与のうち、相続財産に含まれるものを確認しましょう。従業員が亡くなったあとに支給期が到来した給与については、相続財産として扱われます。

    たとえば、毎月末締め・翌20日払いの企業で、従業員が6月15日に亡くなった場合、給与所得として扱われるのは前月の5月20日に支給した分までです。6月20日に支払われる5月分の給与は、相続財産として扱われます。

    締め日月末
    支払い日翌20日
    死亡日6月15日
    年末調整の対象給与5月20日までに支払った給与(=1〜4月分の給与)
    ※5月分(=6月20日に支払われる給与)は相続税の対象

    年末調整対象の給与額を計算する

    次に、死亡退職者の年末調整の対象となる給与額を計算します。先ほどの例で考えると、5月分の給与は相続財産とみなされるため、年末調整の対象となるのは1~4月までの給与です。

    通常支払われる給与だけでなく、賞与についても、死亡日より前に支払った場合は年末調整の対象となります。

    遺族に源泉徴収票を送付する

    納税者の遺族は、亡くなった人の代わりに「準確定申告」という手続きが必要な場合があります。準確定申告には、源泉徴収票が必要になるため、年末調整の手続きを終えたら遺族に対して給与所得の源泉徴収票を交付しましょう。

    源泉徴収票には「死亡退職」のチェック欄があるため、◯をつけるのを忘れないよう注意しましょう。

    死亡退職者の年末調整における注意点

    死亡退職者の年末調整においては、配偶者控除・扶養控除や退職金などの取り扱いを誤ると、本来よりも税負担が増してしまう恐れがあります。

    配偶者控除・扶養控除や退職金、保険料控除、未対応の給与の支払い方法における注意点について解説します。

    配偶者控除・扶養控除の扱い

    配偶者控除や扶養控除といった各種控除は、通常の年末調整と同様に処理しましょう。

    配偶者控除や扶養控除は、死亡日時点での状況に応じて判断されます。たとえば、配偶者控除には「配偶者の合計所得が48万円以下」という要件があります。

    死亡退職者の年末調整においては、配偶者の当年の1月1日から12月31日までの間の合計所得金額を死亡時の現況で見積もって要件を判定します。判定後に偶発的な事情によって、配偶者に所得が発生したとしても、判定に影響はありません。

    退職金の扱い

    退職金は、従業員が退職してから支払われるものです。死亡退職者の退職金についても退職後、つまり死亡日よりもあとに支払われることとなるため、相続財産とみなされ、年末調整の対象からは外れます。

    死亡退職以外で、退職金を支給する際に作成する『退職所得の源泉徴収票』も必要ありません。

    参照:『死亡による退職の場合』国税庁

    保険料控除の扱い

    年末調整では、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料などの社会保険料や、生命保険料控除・地震保険料控除などの保険料を支払った額に応じて、所得控除を受けられます。

    保険料控除は実際に支払った金額が対象となるため、その年の初めから従業員が亡くなるまでに支払った金額に基づいて算出します。

    社会保険の被保険者資格は死亡日の翌日に喪失するため、社会保険料の支払いが必要なのは、死亡日の前月分までです。死亡日が月末最終日でない限り、死亡後に支給期を迎える給与からは、社会保険料は天引きしません。

    ただし、雇用保険料は賃金が支払われるたびに徴収するため、死亡後に支給期を迎える給与からも控除します。

    未対応の給与の支払い方法

    亡くなった人の銀行口座は凍結されてしまうので、未払いの給与を振り込めなくなることがあります。死亡退職者の給与が支払えない場合、遺族の銀行口座に送金するか、手渡しで支払うのが一般的です。

    死亡退職者の年末調整はいつまでにやればいい?

    通常、年末調整は10月から翌1月ごろにかけて実施されます。年間の給与額が確定してからでないと、所得税の精算ができないためです。しかし、死亡退職者の年末調整は、年末の時期を待たずに亡くなった時点で実施する必要があります。

    人が亡くなると、遺された家族に対して相続が発生します。相続財産の種類は幅広く、現金・預貯金はもちろん、不動産や有価証券も含めて故人の財産をすべて把握しなければなりません。

    財産には従業員が亡くなる前後に支給された給与も含まれるため、遺族に対して正確な金額をすみやかに伝える必要があります。

    また、亡くなった従業員の状況により、遺族は「準確定申告」を行わなければなりません。通常の確定申告と同様、準確定申告には源泉徴収票が必要です。

    準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内なので、遺族が円滑に手続きを進められるよう、企業にも迅速な対応が求められます。

    死亡退職者におけるその他の手続き

    従業員が亡くなり死亡退職となった場合、年末調整以外にも次のような手続きが必要です。

    • 社会保険の資格喪失手続き
    • 住民税の徴収方法の切り替え(特別徴収→普通徴収)
    • 退職金や死亡弔慰金、企業保険の手続き

    従業員が亡くなると、死亡日の翌日に各種社会保険の資格を喪失するため、事業主が資格喪失の手続きを行わなければなりません。具体的には、日本年金機構の事務センターまたは管轄の年金事務所に『被保険者資格喪失届』を提出します。提出期限は、事実の発生から5日以内です。

    資格喪失日以降は健康保険証を使えなくなるため、すみやかに回収しましょう。亡くなった従業員に扶養されている家族がいる場合は、全員分の保険証を回収します。

    また、従業員の住民税は毎月の給与から天引きしますが、死亡退職後は相続人が支払うことになるため、住民税の徴収方法を特別徴収から普通徴収に切り替える手続きが必要です。

    具体的には、各自治体の窓口に『特別徴収に係る給与所得者異動届出書』を提出します。提出期限は、異動が発生した日の翌月10日までです。

    企業によっては退職金や死亡弔慰金、企業保険の手続きも必要です。

    死亡退職者の年末調整はすみやかに手続きを(まとめ)

    年末調整の手続きは、死亡退職者についても実施する必要があります。

    死亡退職者の年末調整手続きでは、いつからいつまでの給与が対象となるのかを明確にすることが重要です。

    年末調整(源泉徴収)の対象となるか、相続税の対象となるかは、死亡日と支給期(支払い日)の関係により決まります。なんらかの事情で給与の支払いが前後した場合も、本来の支払い日で判断されるので注意しましょう。

    人が亡くなると、遺された家族には相続手続きが発生するほか、場合によって「準確定申告」を進める必要があります。いずれの手続きにも、亡くなった従業員の給与について正確な情報が必要です。

    遺族が手続きを滞りなく進められるよう、死亡退職者の年末調整は、従業員が亡くなった時点ですみやかに取りかかりましょう。

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