従業員の解雇手続きの流れとは? 解雇の種類や留意点をわかりやすく解説

従業員の解雇手続きの流れとは? 解雇の種類や留意点をわかりやすく解説

問題行動がある社員を解雇することになったとき、頭によぎるのは「法的に問題ないのか? トラブルにならないか? 」という不安ではないでしょうか。

従業員の解雇には、正当な理由や適切な手続きが必要であり、一定の条件を満たさなければなりません。

本記事では、従業員の解雇手続きの基本的な流れを解説しています。進め方や法的な要件、トラブル回避のポイントもわかりやすく整理しました。頻繁に発生することではありませんが、万が一のために、参考にしてください。

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目次アイコン目次

    正社員を解雇するには

    正社員を解雇するには、法的に問題がないか、次の2つを確認しなければなりません。

    • 客観的に合理的な理由(能力不足・勤務態度・会社の経営難など)
    • 社会通念上相当と認められる手続き(就業規則・法令に基づく運用)

    解雇権の濫用に該当しないか、十分に検討しましょう。

    また、労働基準法では原則として「30日前の解雇予告」または「30日分の解雇予告手当」の支払いを義務づけています。たとえば、解雇を伝えた当日に従業員を解雇するような「即日解雇」は、平均賃金の30日分を支払う必要があります。

    参照:『労働基準法』e-Gov法令検索

    解雇の種類や要件・基本的な手続きの流れ

    従業員を解雇する際は、「理由」と「背景」に応じて、取るべき手続きが少し変わります。

    まずは、解雇の種類ごとに要件や進め方の違いを理解しましょう。

    解雇には次の4種類があります。

    • 普通解雇
    • 整理解雇
    • 諭旨解雇
    • 懲戒解雇

    それぞれの解雇要件や、基本的な手続きの流れを順番に紹介します。

    普通解雇

    普通解雇は、懲戒解雇や整理解雇など、特定の事情によらない解雇を指します。労働契約で定められた労働提供の義務を果たさない場合に、企業が労働契約を終了させることです。

    たとえば、業務命令に従わない・勤務態度が著しく悪い・能力不足で業務遂行に支障があるといったケースです。

    従業員側に原因があるとはいえ、同意を得ずに一方的に労働契約を終了するため、一定の要件を満たさなければなりません。

    普通解雇の要件

    普通解雇を有効とするためには、従業員の立場を守るため、以下の要件を満たす必要があります。

    • 客観的に正当で合理的な解雇理由がある
    • 法律が定める「解雇禁止」に該当しない
    • 解雇予告または解雇予告手当の支払いをする
    • 従業員に通知する

    普通解雇をする際は、業務命令違反のような正当で合理的な理由が必要です。次のような観点から、最終的に裁判所が妥当性を判断します。

    • 解雇しなければならないほど重大な理由であるか
    • 従業員に改善の機会を十分に与えたか
    • 配置転換や降格、教育など解雇を回避するための手立てを取ったか

    普通解雇の手続きの流れ

    普通解雇の手続きの流れは、次のとおりです。

    1. 解雇の方針を決定する
    2. 解雇理由を検討する
    3. 解雇理由証明書を作成・交付する
    4. 従業員に解雇する旨を通知する
    5. 解雇後の退職手続きを進める

    会社全体で解雇の方針が決まったら、解雇理由の伝え方を検討します。具体的かつ詳細に、就業規則や過去の対応履歴といった根拠を提示することが大切です。

     解雇理由証明書は、従業員が請求した場合、必ず交付しなければなりません。拒否した場合、労働基準法第120条により、30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。

    また、解雇通知は法的に有効にするため、本人に確実に伝えたことを証明できるようにしましょう。 口頭のみではなく、解雇予告通知書を交付し、受領印をもらうなどの対応が必要です。

    最後に、離職票の作成や退職金の支給、最終給与の支払い、各種社会保険の脱退手続きなど、必要な退職処理を進めます。

    参照:『労働基準法』e-Gov法令検索

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    整理解雇

    「経営状況の悪化によって、人員削減を避けられない」といった状況で、検討されるのが整理解雇です。

    整理解雇とは、業績の悪化した会社が、事業継続が困難であることを理由に実施する解雇です。従業員に責任はなく、会社側の都合によるもので、一般的に複数の従業員が同時期に解雇されます。

    整理解雇の要件

    整理解雇を法的に問題なく実施するための要件は、次のとおりです。

    • 客観的に人員整理をする必要性が認められる
    • 解雇を回避するための努力義務を果たしている
    • 解雇する従業員の選定に妥当性がある
    • 解雇手続きの妥当性がある

    大切な従業員をどうしても解雇しなければならないような、経営上の理由があるかどうかが重要なポイントです。解雇を回避するために、役員報酬のカットや配置転換、希望退職者の募集など、さまざまな努力を果たしているかも確認されます。

    解雇する従業員の選定基準が合理的であり、公平性があることも重要です。さらに、従業員や労働組合に対して経営資料などを提示しながら解雇理由を説明し、納得してもらえるように努力しなければなりません。

    整理解雇の手続きの流れ

    整理解雇の手続きの流れは、次のとおりです。

    • 整理解雇の方針・基準を決定する
    • 解雇する従業員を選定する
    • 従業員や労働組合と協議を重ねる
    • 解雇予告または解雇予告手当の支払いをする
    • 整理解雇を実施する
    • 解雇後の退職手続きを行う

    整理解雇は会社都合での退職にあたります。自己都合による退職とは失業保険の受け取り時期や内容が異なるため、離職票を含む必要書類をすみやかに作成しなければなりません。

    また、労働契約や就業規則における退職金の支給基準を満たしていれば、整理解雇であっても退職金を支払う義務があります。

    諭旨解雇

    諭旨解雇とは、解雇に相当する違反を犯したり、不祥事を起こしたりした従業員に対する懲戒処分です。従業員のそれまでの功績や将来のキャリアを考慮して、もっとも重い懲戒解雇を避けるために実施されます。

    会社が従業員に退職するよう勧告し、労使間で納得したうえで退職届を提出させるのが論旨解雇の一般的な流れです。ただし、従業員が退職を拒否した場合は、諭旨解雇から懲戒解雇に移行するため、事実上の強制退職といえるでしょう。

    ▼退職届を提出してもらう方法は、以下の記事よりご確認ください。

    諭旨解雇の要件

    諭旨解雇の手続きを法的に問題なく進めるには、以下の要件を満たさなければなりません。

    • 就業規則上に懲戒処分の種別・事由が定められている
    • 就業規則が従業員に周知されている
    • 懲戒権や解雇権の濫用に該当しない

    あらかじめ就業規則において、論旨解雇を含む懲戒処分の種類や対象となる違反行為を定めておく必要があります。また、懲戒処分の種別・事由を明記した就業規則を、全従業員に周知しておかなければなりません。

    労働契約法で定める懲戒権や解雇権の濫用に該当しないかどうかも重要なポイントです。万が一、会社が権利を濫用していると判断された場合は、解雇が無効となるため注意しましょう。

    参照:『労働契約法』e-Gov法令検索

    諭旨解雇の手続きの流れ

    諭旨解雇の手続きは、次の手順で進めます。

    • 就業規則の規定を確認する
    • 問題となる行動や証拠を調査する
    • 懲戒事由を検討する
    • 弁明の機会を設ける
    • 諭旨解雇処分の可否を決定する
    • 解雇の30日前までに懲戒処分通知書を交付する

    諭旨解雇を検討する際は、就業規則の規定を確認したうえで、問題となる従業員の行動や証拠を調査します。違反行為をしていないにもかかわらず、諭旨解雇処分を下してしまうと、懲戒権や解雇権の濫用に該当するため注意が必要です。

    就業規則のどの部分に違反しているかを判断し、懲戒事由を検討したら、従業員に弁明の機会を与えましょう。調査結果や弁明内容を総合的に踏まえ、最終的な処分を決定します。

    諭旨解雇が決まったら、解雇日の30日前までに懲戒処分通知書を従業員に交付します。

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    懲戒解雇

    懲戒解雇とは、重大な職場規律違反や企業秩序違反に対する制裁として実施される処分です。懲戒解雇は以下のような懲戒処分の一種です。

    1. 戒告・けん責
    2. 減給
    3. 出勤停止・自宅謹慎
    4. 降格
    5. 諭旨退職(諭旨解雇)
    6. 懲戒解雇

    懲戒解雇は懲戒処分のなかで、もっとも重い処分です。退職金は支払われない、または減額されるケースも多くあります。

    懲戒解雇の要件

    懲戒解雇を法的に問題なく手続きするための条件は、次のとおりです。

    • 就業規則において懲戒解雇事由が定められている
    • 懲戒解雇事由に該当する
    • 懲戒解雇の意思表示がされた
    • 懲戒権や解雇権の濫用に該当しない

    懲戒解雇を有効とするには、就業規則に明記された懲戒解雇処分の事由に該当しなければなりません。従業員本人へ伝わるように、懲戒解雇の意思を表示したかどうかも重要なポイントです。

    従業員の言い分を聞かずに懲戒解雇処分を下してしまうと、無効となる可能性があります。懲戒権や解雇権の濫用にあたらないようにするためにも、弁明の機会を設けましょう。

    懲戒解雇の手続きの流れ

    懲戒解雇の手続きの流れは、次のとおりです。

    • 懲戒解雇の事前検討を行い、弁明の機会を与える
    • 懲戒解雇通知書を作成・通知する
    • 職場内で懲戒解雇を発表する
    • 解雇後の退職手続きを行う

    従業員が問題行動を起こした場合は、改善する機会や弁明の機会を与えることが大切です。それでも解決しなければ、懲戒解雇通知書を作成・通知しましょう。職場内で懲戒解雇を発表し、失業保険のための離職票発行など必要な退職手続きを進めます。

    【解雇理由別】正社員を解雇するための条件

    解雇の条件を満たせば、以下のような理由が正当な解雇事由として認められます。

    従業員の解雇手続きにあたって、「どの理由が正当と認められるのか」は、非常に判断が難しいポイントです。以下では、よくある解雇事由ごとに、必要な条件を一覧で紹介しています。

    解雇理由条件
    能力不足繰り返し適切な指導をしていても、従業員の態度や評価が改善しない状況が積み重なっている
    協調性の欠如・協調性の欠如により、業務に大きな支障が出ている
    ・適切な指導を繰り返し行っても、一向に改善しない
    職務怠慢や勤務態度不良職務怠慢や勤務態度不良が顕著であり、繰り返し指導をしても改善が見込めない
    病気やケガによる就業不能・回復する可能性があるのかを考慮している
    ・休職や業務軽減などの措置によって解雇を回避する努力をしている
    無断欠勤説明や正当な理由もなく、長期にわたって無断欠勤が続いている
    犯罪行為犯罪行為の内容や悪質性、会社への影響などを踏まえて判断している
    会社の経営不振・人員削減の必要性がある
    ・解雇回避のための努力をしている
    ・解雇する従業員の選定や手続きの妥当性がある

    解雇理由を裏づける、改善指導歴や記録の準備も大切です。とくに能力や態度の問題は、主観的な印象と判断されないよう、具体的な根拠をもとに、社内でよく検討しましょう。

    不当解雇とならないために企業がすべき対応

    解雇の判断や手続きを誤ると、不当解雇とみなされて慰謝料請求などの訴訟に発展するリスクがあります。以下では、企業が実施したい代表的な対応策を3つに整理して紹介します。

    • 法律上の解雇制限に注意する
    • 解雇手続きを適正に進める
    • 解雇前に退職勧奨を検討する

    法律上の解雇制限に注意する

    まずおさえたいのは、「そもそも解雇してはいけない時期・状態がある」ということです。

    労働基準法により、以下の期間は原則として解雇が禁止されています。

    • 業務上のケガや病気の治療のために休業する期間と、その後の30日間
    • 女性従業員の産前産後の休業期間と、その後の30日間

    法律を遵守しない場合は解雇が無効となるため、注意しましょう。

    参照:『労働基準法』e-Gov法令検索

    解雇手続きを適正に進める

    従業員の解雇手続きは、形式的な対応だけでは相手の納得が得られず、不十分な場合があります。たとえば、手続きが雑だったり、説明責任が果たされていなかったりすると、解雇自体が無効と判断されるリスクもあります。

    以下は、企業が最低限対応すべき解雇手続きです。

    • 解雇予告もしくは解雇予告手当の支払い
    • 解雇理由証明書の作成・交付

    以上の手続きを完了させたからといって、すべての解雇が、必ずしも有効と認められるわけではありません。

    解雇の有効性は、最低限の手続きを踏んだうえで、就業規則や解雇事由の妥当性をもとに、総合的に判断されます。

    また、「誰に、いつ、どう伝えたか」といった対応記録に残すことも、欠かせない解雇手続きの一部といえるでしょう。

    解雇前に退職勧奨を検討する

    いきなり「解雇します」と伝える前に、退職勧奨という選択肢も一案です。

    退職勧奨とは、企業が従業員に退職を提案し、話し合いを重ねて、最終的に合意のうえで退職してもらう方法です。解雇よりもトラブルになりにくい方法といえるでしょう。

    ただし、長期間、複数回にわたって退職勧奨をすると、退職強要と判断されるリスクがあるため、話し合いには慎重さが必要です。

    まとめ|従業員の解雇手続きでトラブルを防ぐために

    解雇は、従業員の今後の生活・キャリア・人生に大きな影響を与えます。裁判で認められる、解雇の条件は非常に厳しいものです。

    従業員の解雇手続きは、慎重で誠実な対応を積み重ねなければ、不当解雇とみなされ、法的にも社会的にもリスクがあります。

    たとえ企業側の主張に正当性があっても、話題にあがると、社内外からの信用低下につながりかねません。

    不当解雇による労使トラブルを回避するためにも、解雇の種類や要件、手続きの流れを整理しておきましょう。

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