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雇用保険の未加入は違法? 入ってないとどうなる? 罰則や対処法・遡る手続きを解説

雇用保険の未加入は違法? 入らないとどうなる? 罰則や対処法・遡る手続きを解説

一定条件を満たす従業員を雇用する場合、企業には雇用保険の加入義務が生じます。これは法律で定められたルールであり、未加入の状態を放置することは明らかな違法行為です。悪質な場合は罰則が科される恐れもあるため、十分な注意が必要です。

本記事では、雇用保険に未加入の状態を放置する法的リスクや、未加入の対処法を解説します。雇用保険にさかのぼって加入するための手続き方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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    雇用保険の未加入がある会社は違法|罰則は?

    雇用保険への加入は、雇用保険法第7条に定められた企業の義務です。

    万一、加入条件を満たしているにもかかわらず手続きを怠った場合は、雇用保険法第83条1号に基づいて、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられる恐れがあります。

    第八十三条 事業主が次の各号のいずれかに該当するときは、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
    一 第七条の規定に違反して届出をせず、又は偽りの届出をした場合

    参照:『雇用保険法』e-Gov法令検索

    なお、「加入条件を満たす従業員はいない」と虚偽の届出をしていた場合の罰則も、懲役6か月以下または罰金30万円以下です。

    罰則を受けるまでの流れ

    雇用保険の手続きを怠るのは違法行為ですが、すぐに罰則が科せられることはほとんどありません。

    通常はまず、労働局による調査が進められ、違反の事実が認められると是正するように指導・勧告がなされます。繰り返し指導・勧告を受けているにもかかわらず手続きを怠った場合は、罰則が適用される可能性があります。

    雇用保険の加入条件をおさらい

    あらためて雇用保険の加入条件をおさらいしましょう。

    雇用保険の加入条件は、以下の2つです。

    • 31日以上働く見込みがある
    • 週の所定労働時間が20時間以上

    雇用保険には雇用形態にかかわらず加入させる必要があるため、条件を満たしていれば、アルバイトやパートも被保険者として認められます。ただし、雇用保険には複数の適用除外条件もあります。

    たとえば、昼間の学校に通っている学生は、基本的に雇用保険には加入できません。一方、夜間や定時制、通信制などの場合は問題ありません。加入条件や適用除外条件を理解したうえで、従業員の個別の状況を正しく把握することが大切です。

    雇用保険の未加入を放置するリスク

    従業員が加入条件を満たしているにもかかわらず手続きを怠ると、以下のようなリスクが発生します。

    従業員が失業保険を受けられない

    雇用保険に加入していないと、従業員は失業保険を受けられません。

    失業保険とは、失業者が安心して就職活動ができるよう、失業中の生活を保障する制度のことです。給付日数や給付額は人それぞれ異なりますが、失業保険があるのとないのとでは、失業中の生活費の負担に大きな差が生じます。

    従業員に離職票が交付されない

    離職票とは、失業保険の受給手続きに必要な書類です。雇用保険に加入していないと、そもそも失業保険を受けられないので、企業としても離職票の交付はできません。

    従業員が再就職関連の給付を受けられない

    雇用保険に加入していないと、従業員が再就職関連の給付を受けられなくなります。たとえば、再就職関連の給付には以下のようなものがあります。

    再就職手当失業保険の支給残日数が一定以上ある失業者が、早期に1年以上の雇用が見込まれる安定した就職先を見つけた場合に支給される手当
    就業促進定着手当再就職手当を支給された労働者が、再就職先で6か月以上雇用され、前職よりも給与が下がった場合に支給される手当
    就業手当失業保険の支給残日数が一定以上ある失業者が、臨時のパートやアルバイトなど、再就職手当の対象外の形態で再就職した場合に支給される手当
    常用就職支度手当障がいを持つ人や45歳以上の人など、一般的に就労が困難とされる失業者が1年以上の雇用が見込まれる安定した職業に就いた場合に支給される手当

    従業員が育児休業給付を受けられない

    育児休業給付とは、1歳または1歳2か月未満の子どもを育てる従業員が、育児休業を取得した場合に支給されるものです。ただし、1歳6か月または2歳までの延長も可能です。

    育児休業給付も、雇用保険の枠組みに含まれます。雇用保険に加入していない場合は、従業員が育児休業給付を受けられず、育児休業中の金銭的負担を軽減できなくなってしまいます。

    従業員が介護休業給付を受けられない

    介護休業給付とは、家族の介護のため、休業を余儀なくされた従業員に対して支給されるものです。

    介護休業給付も、雇用保険の枠組みに含まれます。雇用保険に加入していない場合は、従業員が介護休業給付を受けられず、介護休業中の金銭的な負担を軽減できなくなってしまいます。

    企業の信用が失われる

    雇用保険の手続きを怠ると、従業員からの信頼を損ねるリスクもあるでしょう。信頼関係が崩れた結果、モチベーションの低下や離職を招く可能性も考えられます。

    また、失業給付や育児休業給付など、従業員が本来受けられるはずの給付を受けられないことで、損害賠償を請求される場合もあります。事態が大きくなれば、社会的信用の失墜にもつながりかねません。

    雇用保険の未加入はどこで確認する?

    従業員ごとに雇用保険の加入・未加入を確認したい場合は、給与明細・ハローワーク・雇用保険被保険者証のいずれかで確認できます。

    給与明細

    雇用保険の加入・未加入は、従業員に発行している給与明細で確認が可能です。「雇用保険」の項目に金額が記載されているなら、給与から雇用保険料を天引きしていることになるので加入済みと判断できます。

    ハローワーク

    給与明細から判断できない場合は、管轄のハローワークに赴きましょう。雇用保険の被保険者には個別の番号が与えられているので、従業員ごとに番号があるかを確認すれば、加入済みと判断できます。

    具体的には、ハローワークに雇用保険被保険者資格取得届確認照会票を提出することで確認が可能です。照会票は『ハローワークインターネットサービス』でダウンロードできるほか、その場で交付してもらうこともできます。

    参照:『雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票』ハローワークインターネットサービス

    雇用保険被保険者証

    従業員を雇用保険に加入させると、ハローワークから雇用保険被保険者証が交付されます。つまり、雇用保険被保険者証があるということは、その従業員は雇用保険に加入していると判断できるのです。

    なお、2003年5月以降に雇用された従業員については、雇用保険被保険者証だけでなく、雇用保険被保険者資格取得等確認通知書も交付されます。加入・未加入は後者でも確認できるので、保管している書類をチェックしてみましょう。

    雇用保険の未加入への対処法

    本来雇用保険に加入させるべき従業員の未加入が発覚したら、すみやかに加入手続きを行い、必要な保険料を納付する必要があります。

    雇用保険の加入手続きが遅れていた場合、発覚時点からさかのぼって手続きを行うことができます。ただし、雇用保険料は事業主と従業員で負担するため、遡及期間が長いほど従業員の負担額も増えてしまいます。

    雇用保険の加入期間は、各種給付の受給要件や支給期間に影響するため、従業員本人との相談のうえで、適正に手続きを進める必要があります。

    また、2010年9月までは2年までしか遡って加入できませんでしたが、現在は2年を超えた手続きも認められています。対象となるのは、雇用保険の加入手続きが済んでいなかったにもかかわらず、給与から保険料を天引きしてしまっていた場合です。

    ただし、2年を超えてさかのぼる場合は、給与明細や源泉徴収票など、給与から雇用保険料が天引きされたことを確認できる書類の提出が必要です。

    雇用保険の未加入で遡って加入する手続き

    雇用保険に加入するためには、まず事業主の手続きを済ませたあと、個別の手続きを進めます。雇用保険に会社が未加入だった場合と、従業員が未加入だった場合では、最初に行う手続きが異なります。

    それぞれのケースにおける具体的な手続き・対応を解説します。

    会社が未加入だった場合

    会社自体が雇用保険に未加入だった場合は、まず労働基準監督署に次の書類を提出し、保険関係成立の手続きを行います。

    • 保険関係成立届
    • 労働保険概算保険料申告書

    次に、管轄のハローワークに雇用保険適用事業所設置届を提出しましょう。

    また、以上の手続きと並行して、従業員個別の手続きも行います。雇用保険適用事業所設置届と一緒に、ハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出しましょう。

    従業員が未加入だった場合

    会社は雇用保険に加入しているものの、特定の従業員の加入手続きが済んでいなかった場合は、ハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出します。

    また、ハローワークから指示されたら、遅延理由書や以下のような書類を添付しましょう。

    • 直近2年間の労働者名簿(全従業員分)や賃金台帳、出勤簿
    • 雇用契約書または労働条件通知書
    • そのほか、ハローワークから指示された書類

    雇用保険の未加入に関する疑問

    最後に、本記事で解説した内容をもとに、雇用保険の未加入に関するよくある疑問に答えていきます。

    雇用保険に入ってないとどうなる?

    雇用保険に加入していないと、従業員が失業保険や育児休業給付、再就職関連の手当などの各種給付を受けられなくなってしまいます。制度を利用できない状況は、従業員にとって大きなリスクとなるため、信頼関係を損ねることにもなりかねません。

    雇用保険未加入の場合の罰則は?

    雇用保険への加入資格があるにもかかわらず手続きを怠ると、労働局による指導・勧告が行われます。指導・勧告を繰り返されても一向に是正しない企業は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられる恐れがあります。

    雇用保険はあとから加入できる?

    雇用保険は、さかのぼって手続きが可能です。さかのぼって手続きする場合も、基本的には通常の手続きと同様、管轄のハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出しましょう。

    ただし、追加の書類を求められる場合もあるため、あらかじめハローワークに相談してから手続きを進めると安心です。

    また、会社自体が雇用保険に加入していなかった場合は、まず保険関係成立の手続きを済ませたあとで、雇用保険適用事業所設置届を提出します。

    雇用保険に未加入の場合は、迅速に対処しましょう

    雇用保険への加入は、法律で定められた企業の義務です。加入条件を満たす従業員を雇用しているにもかかわらず、手続きを怠ると、指導・勧告の対象となります。悪質と判断されると罰則が科せられる恐れもあるため、迅速に対処することが重要です。

    雇用保険に加入しないと、従業員がさまざまなリスクを被ってしまいます。未加入が発覚したら従業員にもきちんと説明・相談したうえで、必要な手続きを進めましょう。

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