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雇用保険被保険者転勤届とは? 書類の提出方法や手続きをわかりやすく解説

雇用保険では、被保険者が転勤する際に「雇用保険被保険者転勤届」を提出する必要があります。

ただし、すべての転勤が雇用保険で認められるわけではないため、正確に理解しなければなりません。転勤する際の「雇用保険被保険者転勤届」に関する手続き方法やルールを詳しく知らない方もいるでしょう。

本記事では「雇用保険被保険者転勤届」について、提出方法や流れ、必要書類などを解説します。従業員に転勤を命じる可能性がある企業の経営者や人事労務担当者は参考にしてください。

雇用保険被保険者転勤届とは? 書類の提出方法や手続きをわかりやすく解説
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    雇用保険被保険者転勤届とは

    雇用保険被保険者転勤届とは、雇用保険の被保険者が転勤する際に、ハローワークへ提出する書類です。

    雇用保険は事業所単位で適用されるため、転勤にともない事業所が変更になると、従業員の資格の喪失・取得手続きが必要です。書類が無事に提出・受理されないと、転勤手続きが完了しません。

    雇用保険だけでなく、ほかの社会保険の資格喪失・取得手続きも必要であるため、転勤が発生したら、もれなく手配しましょう。

    参照:『雇用保険事務手続きの手引き』厚生労働省(令和5年8月版)

    そもそも雇用保険とは

    そもそも雇用保険とは、労働者への給付支援や能力開発、雇用維持を目的にした保険制度です。加入要件を満たす労働者は、雇用される企業を通して雇用保険に加入しなければなりません。

    雇用保険の被保険者は以下の通り、4つの種類に区分されています。

    • 一般被保険者
    • 短期雇用特例被保険者
    • 高年齢被保険者
    • 日雇労働被保険者

    雇用保険の加入要件は「所定労働時間が1週間に20時間以上」「雇用見込みが31日以上」です。雇用保険は、区分によって細かい要件が設定されていることもあるため、厚生労働省のWebサイトを確認のうえ、正しく理解しましょう。

    雇用保険で受けられる給付

    雇用保険は、労働者が失業や休業した場合に、必要な給付支援(失業等給付)を行います。失業等給付は、大きく分けて以下の4種類です。

    失業等給付の種類概要
    求職者給付労働者が失業状態の際、生活安定と円滑な求職活動を行うための給付
    就職促進給付失業者が再就職するための援助や促進を目的とした給付
    教育訓練給付労働者の主体的な能力開発を支援し、
    雇用安定と再就職促進を目的とした給付
    雇用継続給付労働者の職業生活を継続するための援助や促進を目的とした給付

    転勤と混同しやすい言葉

    雇用保険被保険者転勤届を手配する前に、そもそも転勤には混同しやすい言葉があります。「異動」「出向」「赴任」など、転勤との違いを整理しておきましょう。

    転勤とは

    転勤とは、支店や営業所など複数の事業所がある企業で、従業員の勤務先が変更になることです。たとえば「東京本店から宮城支店」「横浜営業所から大阪営業所」に勤務地が変わる例が該当します。

    転勤は、あくまでも勤務先の変更を意味し、必ずしも住まいの引っ越しをともなうわけではありません。転勤ではなく「異動」と呼ぶ企業もあります。

    異動とは

    異動とは、勤務地や業務内容、役職が変わることを指します。

    たとえば、勤務地は変わらずに部署だけ変わる場合や、部署は変わらないが役職が変わる場合などです。異動は配置転換全般を指し、広い意味で使われているため、転勤も異動の一つといえます。

    出向とは

    出向は、ほかの会社で勤務することを指し、以下の2種類があります。

    • 在籍する企業に籍を置いたまま出向先の会社に勤務する「在籍出向」
    • 在籍する企業との雇用契約を終了し、出向先の会社と雇用契約を結ぶ「転籍出向」

    どちらの場合も、これまでの勤務先とは異なるほかの会社への勤務を意味します。出向は、従業員のスキルアップや出向先企業からの要望によって、限定的な期間で行われることが一般的です。

    出向とは、組織の従業員が一定期間、ほかの組織に一時的に異動することを指し、以下の2種類があります。

    在籍出向在籍する企業に籍を置いたまま出向先の会社で働く
    転籍出向在籍する企業との雇用契約を終了し、出向先の会社と新たな雇用契約を結ぶ

    どちらも、これまでとは異なる会社での勤務を意味します。従業員のスキルアップや出向先企業の要請を理由として、限定的な期間で実施されるのが一般的です。

    赴任とは

    赴任とは、企業から命じられることによって従業員が新たな勤務地で働くことです。赴任とは、これまでとは異なる勤務先へ、目的や理由を持って「向かう」という意味合いを強く持ちます。

    赴任とは、企業からの指示で従業員が新たな勤務地で働くことです。これまでとは異なる勤務先へ、目的や理由を持って「向かう」という意味合いを強く持っています。

    雇用保険被保険者転勤届が必要なケース

    雇用保険被保険者転勤届とは? 書類の提出方法や手続きをわかりやすく解説

    同じ会社の中で、被保険者の所属する事業所(勤務先)が変更になったとき、雇用保険被保険者転勤届の提出が必要になります。実際に働く勤務先が変わるという点がポイントです。

    転勤として認められないケース

    原則として転勤が発生したら雇用保険被保険者転勤届を準備しなければなりません。しかし、雇用保険において「転勤」と認められないケースもあります。

    たとえば、一時的な「出張」や「駐在」です。

    転勤はあくまでも被保険者が勤める企業で所属する事業所を変更することを指します。転勤とみなされるかどうかは、以下の基準が目安となり、就業の実態を含めて総合的に判断されます。

    • 辞令交付の有無
    • 指揮監督者の変更
    • 給与支給場所の変更

    転勤の判断が難しい場合は、事業主側がハローワークに確認しましょう。

    雇用保険被保険者転勤届の提出

    雇用保険被保険者転勤届を提出する際は、以下のルールに沿って進めます。

    必要書類雇用保険被保険者転勤届
    ・ホームページでダウンロード
    添付書類・雇用保険適用事業所台帳
    ・既交付の雇用保険被保険者資格喪失届と氏名変更届
    ・転勤の事実や転勤日や確認できる書類(辞令など)
    ・企業の組織図や雇用保険被保険者証など
    書類提出先転勤後の事業所を管轄するハローワーク
    ・直接ハローワークへ提出
    ・電子申請
    提出期限転勤した日の翌日から10日以内

    雇用保険被保険者資格喪失届の書類は、ハローワークのWebサイト上でダウンロードできます。書類の印刷については、「A4白色用紙に等倍(倍率100%)で印刷する」など、細かい規定がありますので、正しい情報を確認しましょう。

    雇用保険被保険者資格喪失届の書類は、ハローワークのWebサイトからダウンロードできます。印刷は「A4白色用紙に等倍(倍率100%)で印刷する」など、細かい規定があるため、正確な情報を確認しましょう。

    参照:『帳票印刷のポイント』ハローワークインターネットサービス

    転勤にともなう雇用保険や社会保険の手続きは、転勤後の事業所を管轄するハローワークで行う必要があるため、間違えないように注意しましょう。

    雇用保険と社会保険では、手続きの期限が異なります。事業主は両方の手続きが漏れないように早めに準備しましょう。

    参照:『被保険者についての諸手続き』厚生労働省徳島労働局

     雇用保険被保険者資格喪失届提出後の流れ

    雇用保険被保険者転勤届が受理されると、以下の書類が交付されます。交付される書類と保管について、確認しておきましょう。

    雇用保険被保険者資格喪失届会社で保管
    雇用保険被保険者転勤届受理通知書会社で保管
    雇用保険被保険者転勤届受理通知書(被保険者通知用)被保険者に返却       
    雇用保険被保険者証被保険者に返却

    特定の法人は雇用保険被保険者転勤届の電子申請が義務化されている

    特定の法人は雇用保険被保険者転勤届を提出する際に、電子申請が義務化されています。特定の法人とは、具体的に資本金額が1億円を超える会社や相互会社などが該当します。

    政府は、行政手続きのコスト削減を目的に、2020年4月以降、社会保険手続きの一部において電子申請を義務化しました。雇用保険被保険者転勤届の電子手続きもその一環です。

    そもそも電子申請とは

    電子申請とは、インターネットを通じてパソコンなどの端末から行う行政手続きです。

    これまでも光ディスクなどを使用した電子化が行われていましたが、特定の法人ではインターネットを利用した方法が義務化され、行政手続きの効率化がさらに進んでいます。

    電子申請が義務化された特定の法人

    電子申請が義務化された特定の法人は、以下の通りです。

    • 資本金、出資金または銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人
    • 相互会社(保険業法)
    • 投資法人(投資信託および投資法人に関する法律)
    • 特定目的会社(資産の流動化に関する法律)

    電子申請が義務化された手続き

    電子申請が義務化された社会保険における手続きは、以下の通りです。

    保険種類手続き
    雇用保険・被保険者資格取得届
    ・被保険者資格喪失届雇用保険
    ・被保険者転勤届
    ・高年齢雇用継続給付支給申請
    ・育児休業給付支給申請
    健康保険厚生年金保険・被保険者報酬月額算定基礎届
    ・被保険者報酬月額変更届
    ・被保険者賞与支払届
    労働保険一括有期事業を含む継続事業を行う事業主が提出する以下の申告書
    ・年度更新に関する申告書
     (概算保険料申告書や確定保険料申告書、一般拠出金申告書)
    ・増加概算保険料申告書

    参照:『2020年4月から特定の法人について電子申請が義務化されます。』厚生労働省

    まとめ

    雇用保険被保険者転勤届とは、雇用保険の被保険者が転勤する際に、ハローワークへ提出する書類です。転勤にともない、被保険者の勤務先が変更になる場合は、雇用保険被保険者転勤届の書類を提出し、申請手続きを行わなければなりません。

    申請手続きには「雇用保険被保険者転勤届」だけでなく、添付書類や手続き期限などのルールがあります。必要事項を押さえ、期限を守れるように実務を進めましょう。