入社時に身元保証書は必要? 民法改正の影響と書き方、拒否への対応も解説

内定者の入社時に「身元保証書」の提出を求めている企業も一定数いるでしょう。
身元保証書は、2020年の民法改正以降、書き方や身元保証人の条件を誤ると無効になるリスクが生じています。また、書いてくれる人がいないと相談されたり、提出を拒否されたりして悩む担当者も少なくありません。
本記事では、身元保証書の目的や正しい書き方、民法改正後の注意点、そして拒否された場合の対応策まで詳しく解説します。不安なく入社手続きを進めるためにご活用ください。
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目次

入社時に求める身元保証書とは
身元保証書とは、内定者の身元保証人が、企業に対して一定の責任を負う契約を結ぶための書類です。
具体的には、身元保証人が内定者に問題がないことを保証し、万が一、企業に損害を与えた場合に一定範囲で賠償責任を負うことを約束します。
企業が身元保証書の提出を求めるのは、本人が賠償できないリスクに備えるためです。
身元保証書は、入社手続き書類の一種ですが、法律で提出が義務化された書類ではありません。つまり、内定者は提出を拒否することも可能です。提出を強制できないことを、人事担当者は理解しておく必要があります。
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2020年民法改正による影響と変更点
2020年4月の民法改正により、身元保証に関する重要なルールが変更されました。とくに注目したいのは、賠償額の上限を必ず設定しなければならなくなったことです。
改正以降、身元保証人は、書面に記載された賠償額の上限について同意したとみなされます。
身元保証書に、企業が賠償額の上限を明記していなければ、身元保証契約は無効と判断されてしまいます。
参照:『2020年4月1日から保証に関する民法のルールが大きく変わります』法務省

身元保証書に記載する限度額
企業は、身元保証書に損害賠償額の限度額を必ず記載しなければならなくなりました。限度額は、企業の規模や従業員の業務内容に応じて、予測される損害額をもとに設定する必要があります。
ただし、あまりに高額な上限額を設定すると、身元保証人を引き受けてくれる人が見つからなくなる可能性もあります。具体的な目安としては、100万円から1,000万円の範囲で設定されるのが一般的です。該当する従業員の想定年収や業務内容を踏まえ、金額は慎重に決めましょう。
身元保証書の目的
身元保証書の目的は、単に賠償責任を負う保証人を指定することだけではありません。
人事担当者として、企業にとって身元保証書がなぜ必要なのかを理解することが大切です。
目的を把握しておけば、提出をためらう内定者がいた場合も、形式的な対応に終始せず、自信を持って書類の役割を説明できます。
入社する内定者に問題がないことを確認する
身元保証人となってくれる人物がいるという事実は、内定者が安心して採用できる候補者であるという証明になります。身元保証書には、内定者に問題がないことを確認する役割があるのです。
もし内定者に過去重大な問題があれば、保証人は責任を負う立場になりたがらないでしょう。また、身元保証書は履歴書や個人情報の正確性の裏づけとしても役立ちます。
内定者が身元保証してくれる人への責任を持つ
内定者の不正の抑止も身元保証書の提出目的の1つです。保証人の存在を認識することで、内定者は「迷惑をかけられない」という意識を持つようになります。身元保証書は、不正抑止効果も期待できます。
緊急時の連絡先を確保する
身元保証書の提出を求めるのは、緊急連絡先を確保する目的もあります。内定者が無断欠勤した場合や災害・事件などの緊急時、企業がすみやかに連絡を取れる手段として保証人情報が活用されます。
身元保証書は誰が書くべき? 本人との関係を解説
身元保証書に記載する保証人が「いない」「すぐに思いつかない」という内定者もいるかもしれません。
身元保証人を誰にするべきかについて、法的に厳密な決まりはありません。実務上は以下のような基準を設けるのが一般的です。
- 継続的で安定した収入がある
- 本人と生計を一にしていない
- 成人している
- 反社会勢力ではない
- 犯罪歴がない
条件にあてはまる人物に、内定者本人が依頼し、書いてもらうのが基本です。
本人との関係は家族でないとダメ?
身元保証人は必ずしも家族や近親者である必要はありません。親族以外にも、友人など社会的信用のある人物に依頼することも可能です。企業側は、保証人の条件を事前に内定者へ明示し、誰に依頼すればよいか迷わないよう説明しておきましょう。
配偶者は身元保証人になれる?
内定者が既婚者であれば、配偶者を身元保証人にしようと考える方は多いでしょう。
企業側は、配偶者を保証人として認めるかどうかを明示することが大切です。企業によっては、配偶者を保証人にできない条件を定めている場合があります。
身元保証人の条件として「本人と生計を一にしていない人物に限る」と定めていると、多くの場合、配偶者は保証人にはなれません。一般的に、夫婦は別々に家計を管理していても「生計を一にしている」とみなされます。
企業は、身元保証人として配偶者を認めるかの方針を、内定者に事前に説明しておきましょう。身元保証書における保証人の基準を示しておけば、修正の手間を省けます。
身元保証書の書き方|代筆はNG
身元保証書は、企業側でテンプレートを用意するのが一般的です。記載項目に法的な決まりはないため、必要な情報を企業が任意で設定します。よく使われる項目は以下のとおりです。
項目 | 記載内容 |
---|---|
日付 | 入社日 |
本人の情報 | ・氏名住所 ・電話番号 ・捺印 |
身元保証で約束する内容 | ・本人が企業の就業規則やルールを守り、誠実に業務に取り組むこと ・本人が企業に損害を与えたときに責任を負うこと(上限金額も記載) ・身元保証書の期限 |
身元保証人の情報 | ・氏名 ・住所 ・電話番号 ・本人との関係 ・捺印 |
企業が注意したいのは、代筆と捺印です。本来の目的からそれるため、内定者本人による代筆を認めてはいけません。捺印は印鑑の種類は問わず、認印でも問題ないとされています。
身元保証書の記入・提出に関する注意点
身元保証書は、提出してもらえば安心というものではなく、提出後も適切な対応が必要です。入社時の身元保証書の記入・提出にあたって注意したい3つのポイントを整理します。
- 身元保証書は更新する
- 損害が発生したら身元保証人へ通知する
- 損害額の請求は裁判所の定めに従う
身元保証書は更新する
身元保証書は、一度提出されたら永久に有効というわけではありません。身元保証法により、保証の有効期間は次のように定められています。
期限を定めるとき | 5年 |
---|---|
期限を定めないとき | 3年 |
期間を過ぎた身元保証書は無効です。企業は有効期限を管理し、従業員にあらためて提出してもらう必要があります。期限切れを放置すると、万一のトラブル時に保証が機能しないリスクがあるため、注意しましょう。
参照:『働く上で知っておきたいこと~労働法令の基礎知識~』厚生労働省
参照:『身元保証法第2条』e-Gov法令検索
損害が発生したら身元保証人へ通知する
従業員の行動によって損害が発生した場合、企業は身元保証人に必ず通知しなければなりません。通知を怠ると、あとから損害賠償請求ができなくなる可能性もあります。
問題発生を把握した時点ですみやかに保証人へ書面などで連絡を取りましょう。保証人も状況を把握できるようにすることで、契約解除リスクの回避にもつながります。
身元保証人の契約解除権について
身元保証契約は、保証人側から解除できる権利が認められています。従業員に重大な問題行動があり、企業側が適切な対応を取らないままでいると、保証人が将来にわたって契約解除を申し出ることが可能です。
企業は、保証人が契約解除する権利を持っていることを理解したうえで、誠実に管理・運用する必要があります。
損害額の請求は裁判所の定めにしたがう
従業員の行為によって損害が発生した場合でも、企業が請求できる金額は裁判所が最終的に判断します。損害額のすべてを必ずしも請求できるわけではありません。一方的に損害賠償額を決めると、支払い能力を超えた金額になることもあるためです。
裁判所は以下の要素を考慮して、請求額を決めます。
- 従業員の過失の有無
- 会社の管理体制(指導・教育の有無、再発防止策の有無など)
企業は、損害額の根拠や過失の内容を客観的に説明できるよう、記録を残しておくことが大切です。
なお、裁判所が決定する損害額は、行為の内容にもよりますが、一般的に請求額よりも減額されます。これは信義則(社会生活において、権利の行使や義務の履行を誠実に行うことを求める原則)に基づいて、過度な負担を避けるためです。
身元保証書に関するルールを明確にしておく
企業は、身元保証書に関するルールを定め、就業規則に明記しておく必要があります。認識相違によるトラブルを防止するためです。とくに次のようなケースに備えて、事前に定めておきましょう。
- 従業員が退職したあとに損害が発覚した場合
- 身元保証人が亡くなった場合
- 身元保証人を変更したい場合
- 身元保証書が提出されない場合
身元保証人が責任を果たせなくなったときに、企業や従業員がどのような対応をとるのかを含め、明確なルールを決めておきましょう。ルールが不明確だと、トラブル時に企業も従業員も対応に困ることになります。
身元保証書の提出が必要なことを内定前に伝える
入社時の身元保証書の提出については、内定を出す前に求職者へ伝えておくと、トラブル防止に役立ちます。最終面接のタイミングで確認するとよいでしょう。
もし候補者から、保証書を出せないと反応があった場合、企業はその事情も踏まえて採用を検討できます。事前に伝えることで、将来のトラブルや手続きのやり直しを防げます。
身元保証書の提出を拒否されたら?
身元保証書は、法律上は任意の書類です。内定者によっては、身元保証書を出したくないと主張することもあるかもしれません。内定者から拒否されたとき、企業はどのような対応をとればよいのでしょうか。人事担当者は次の3つの対応を検討しましょう。
身元保証書の目的や必要性を伝える
まず、身元保証書を拒否する内定者に対して、提出理由を金銭面と人物面から説明します。
- 金銭的な保証:損害が発生したときの備え
- 人物面の保証:信用や人物評価の裏づけ
単に身元保証人情報を集めるためではないことを理解してもらう必要があります。企業と従業員双方の安心を確保するためであることを伝えましょう。他社でも広く採用されている慣例であることも補足すると納得を得やすくなります。
保証目的以外で個人情報を使用しないと伝える
身元保証書に書かれた保証人の個人情報については、保証や緊急連絡の目的以外で使用しないと明確に伝えます。保証人として家族の情報を提供する場合、不安を抱く人もいるはずです。個人情報の取り扱い注意を約束して、提出を拒否する内定者の不安を軽減するよう努めましょう。
就業規則への記載を確認して対応する
身元保証書がいつまでも提出されなかったら、就業規則の規定をもとに対応を検討します。身元保証書の提出要否について規定がある場合、企業側は最終的に内定取消や解雇といった検討も可能です。ただし、安易に適用せず、提出を拒否する本人と十分に話し合いましょう。
身元保証書に関する相談を受けたときの対応
企業の人事担当者は、内定者から身元保証書の提出について相談を受けることもあります。「頼める保証人がいない」「すぐに書いてもらえない」といった事情が背景にあると考えられます。
身元保証書の提出に困っている内定者がいた場合、担当者は親身になって対応しましょう。
具体的には以下のような対応を検討します。
提出期限を伸ばす
保証人候補が遠隔地に住んでいるという理由で、内定者がすぐに身元保証書を用意できないケースもあります。
企業側は、提出期限を延長するなど、柔軟な対応を検討しましょう。人事担当者は、内定者に提出時期について希望を聞いたうえで、無理のないスケジュールの調整が必要です。
身元保証人の選択肢を提案する
なかには親や兄弟など、頼れる親族がいない内定者もいるかもしれません。身元保証人を頼める人がいないと相談を受けたら、まずは親身になって話を聞きましょう。
親族に頼れる人がいない場合、友人や知人など社会的信用のある人物を保証人にする方法を提案します。どうしても保証人が見つからなければ、身元保証代行サービスの活用や、代替策を検討します。
柔軟な姿勢を示し、内定者との信頼関係を維持しながら、問題の解決を目指しましょう。
まとめ
身元保証書は、企業が内定者から任意で取得するものの、万が一の損害に備えた重要な書類です。入社前に、本人だけでなく、身元保証人にも責任がおよぶことを承諾してもらう目的があります。
民法改正により、身元保証書の書き方や保証人の条件を誤ると、無効になるリスクがあり、更新や通知などの管理も欠かせません。保証人がいない場合や身元保証書の提出を拒否された場合の対応も、あらかじめ想定しておく必要があります。
人事担当者は、注意点や法律上のルールを理解し、内定者に目的と必要性をていねいに説明したうえで、納得して提出してもらいましょう。適切な対応を心がけることで、法的リスクやトラブルを未然に防ぎ、安心して入社手続きを進められます。
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