非正規雇用はなぜ増えたのか? 理由や問題点、対策を解説
非正規雇用は、なぜ増えたのでしょうか。雇用形態には、正規雇用や非正規雇用などの種類があります。とくに近年では、非正規雇用の割合が大きくなってきています。従業員を非正規として雇用することは、企業にとってメリットがある一方でデメリットもゼロではありません。
本記事では、非正規雇用が増えた原因や非正規雇用の種類、メリットや問題点を解説します。非正規雇用労働者を多く雇用している企業や、人材不足に悩んでいる企業の経営層や人事担当者はぜひ参考にしてください。
非正規雇用とは?
非正規雇用とは、従業員を雇用する際に、無期労働契約を締結せずに雇う雇用形態のことです。非正規雇用の種類には、アルバイトやパート、契約社員や派遣社員などが挙げられます。非正規雇用の場合、雇用期間を限って契約を結ぶのが一般的で、労働時間や労働日数などは一人ひとりで異なります。
非正規雇用に関する割合や推移
非正規雇用の割合は増加しており、近年では全労働者のうち4割弱を占めています。厚生労働省のデータによると、2004年の31.4%に対して、2023年では37.1%と、この20年で約6%ほど増加しています。
2023年の非正規雇用の雇用形態別内訳では、パートとアルバイトに次ぎ、契約社員や派遣社員などが挙げられます。
近年では、特に65歳以上の非正規雇用労働者が増えており、雇用形態別ではパートやアルバイトの非正規雇用労働者が増加していることがわかります。
非正規雇用が増えた原因
非正規雇用は、なぜ増えたのでしょうか。非正規雇用が増えた代表的な原因には、以下のような点が挙げられます。
- 社会やビジネスの変化や人件費削減
- 働き方の多様化
- 子育てや介護など家庭事情
- 家計の補助
- 労働期間の長期化
- 人手不足
それぞれの原因について、詳しく解説します。
社会やビジネスの変化や人件費削減
技術の進化によりIT化やデジタル化が進み、インターネットはもちろんAIを活用するようになりました。さまざまな領域や業務で効率化や自動化が進んだことで、それまでの正規雇用中心の雇用形態だけでなく、非正規雇用の割合を増やす企業も見られるようになりました。
そのほか、企業のコスト削減においても、より人件費を抑えられる非正規雇用化が進んでいます。
働き方の多様化
現在の日本では、終身雇用や年功序列が崩れつつあり、成果主義を取り入れる企業が少なくありません。
将来の保証が得られにくい状況のなかでは、より柔軟に働ける非正規雇用を選ぶ人も増えてきています。このように、時代とともに労働者の働き方への意識も変化し、非正規雇用労働者が増えてきているのです。
子育てや介護など家庭事情
子育てや介護など、家庭事情によって正規雇用における仕事との両立が難しいため、非正規雇用を選択する労働者が増えてきています。
子育てや介護が落ち着いてから、再び社会に出ようとする場合においては、ブランクも長いため、非正規雇用となるケースも少なくありません。
家計の補助
家計の補助のため、非正規雇用で働くケースも少なくありません。たとえば、子どもが中学生に上がったタイミングなどで、妻である女性が家計や学費のためにパートで働くというケースが挙げられます。
家計や学費補助のために働く場合は、時間や都合に融通の利く働き方として非正規雇用が選ばれやすいといえるでしょう。
労働期間の長期化
正規雇用として定年を迎えた以降は、再雇用などによって非正規雇用として働くケースも少なくありません。日本人の平均寿命は伸びており、人生100年時代といわれていることもふまえると、年金だけでは定年後の生活が賄えないと感じる方も少なくないのでしょう。
人手不足
企業における人材不足も、非正規雇用が増えている原因の一つです。たとえば企業が正規雇用のための採用活動を行っても人材確保が出来ない場合、非正規雇用で人材を補充するしかありません。
また、企業によっては人材不足をあえて非正規雇用で補うケースもあるでしょう。
非正規雇用の種類
非正規雇用には、以下のようにいくつかの種類があります。
- 派遣労働者
- 契約社員
- パートタイム労働者やアルバイト
- 業務委託や請負
- 家内労働者
- 在宅ワーカー など
非正規雇用の種類によって、特徴は大きく異なります。そこで、非正規雇用の代表的な種類とそれぞれの特徴を解説します。
派遣労働者
非正規雇用の1つめは、派遣労働者です。派遣労働者は、人材派遣会社が労働者と雇用契約を結びます。労働者は派遣先企業の指揮のもと、働きます。派遣労働者に関するルールは『労働者派遣法』によって規定されています。
参照:『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律』e-Gov法令検索
契約社員
非正規雇用の2つめは、契約社員です。契約社員は、企業と契約を結ぶ際に労働期間を決めたうえで働きます。1年ごとに契約更新を行う場合が多いですが、契約期間の上限は原則3年とされています。
契約期間が満了になり、更新を行わない場合は、契約終了ということになります。企業は、契約社員の給与体系や退職金などの諸条件を、正規雇用の社員とは異なる設定を行うケースも少なくありません。
パートやアルバイト
非正規雇用の3つめは、パートやアルバイトです。パートやアルバイトは、1週間の所定労働時間が短い雇用形態です。パートやアルバイトに対しては『パートタイム・有期雇用労働法』が適用されます。
企業は、パートやアルバイトを雇用する際、給与や昇給、賞与や退職金の有無についても書面によって明確にしなければなりません。
業務委託や請負
非正規雇用の4つめは、業務委託や請負です。個人が企業から仕事を引き受け、報酬をもらう働き方です。業務委託や請負に関しては、企業に雇われる労働者ではないため『労働基準法』などが適用されません。
ただし、実態から労働者としての性質が大きいと判断できれば、労働法が適用されることもあります。企業側は、業務委託や請負で契約を結ぶ個人の働き方や業務内容などを把握し、適切に判断しましょう。
家内労働者
非正規雇用の5つめは、家内労働者です。家内労働者とは、自宅などを作業場として、委託者から材料を受け取り、作業と納品を行うことで工賃を受け取る働き方です。家内労働者は、一般的には「内職」と呼ばれます。
家内労働者は、個人事業主として扱われますが、労働者としての側面が強い働き方であるため『家内労働法』が適用されます。企業が家内労働者に仕事を委託する際は、個人事業主や請負とは異なり、家内労働法を厳守した対応を行います。
参照:『家内労働法のあらまし – 東京労働局』厚生労働省東京労働局
非正規雇用のメリット
非正規雇用を行う企業側のメリットには、以下のような点が挙げられます。
- 人材を集めやすい
- 人件費削減につながる
それぞれの詳しい内容について紹介します。
人材を集めやすい
非正規雇用の場合、比較的人材を集めやすい点にメリットがあります。正規雇用の場合、長期間働くことが前提となるため、何度も面接や選考過程を経なければなりません。求職者側も、よりよい条件や環境を求めるため、他社との人材獲得競争が起こります。
非正規雇用の場合、度重なる面接は不要です。また、高度で専門的なスキルを求めるわけではないため、すぐに人材が見つかりやすいといえます。
人件費削減につながる
非正規雇用のメリットは、企業の人件費削減にもつながります。採用コストはもちろん、正社員を雇用する場合は、長期間にわたり人件費がかかります。
非正規雇用の場合は、設定した条件の中で給与などを支払うため、比較的人件費を削減しやすいでしょう。
非正規雇用が増えることのデメリットや問題点と対策
非正規雇用が増えることの問題点や課題には以下のような点が挙げられます。
- 正規雇用との賃金格差
- スキルアップや成長への支援
それぞれの問題点と対策を紹介します。
正規雇用との賃金格差
非正規雇用では、非正規雇用との賃金格差が生じます。正規雇用の場合、給与だけでなく賞与や交通費が支給されます。一方の非正規雇用は、時給や日給制が一般的であるため、賞与の対象外になったり交通費も全額支給でなかったりします。
賃金格差が大きいにもかかわらず、非正規雇用と正規雇用の業務内容が同等である場合は、非正規雇用の不満が募ったり、モチベーションが低下したりしかねません。企業は、非正規雇用の待遇改善やモチベーション向上施策などを検討しましょう。
スキルアップや成長への支援
非正規雇用が増えることの問題点は、非正規雇用労働者の成長機会が少ないという点も挙げられます。
企業は、非正規雇用に向けた教育や人材育成への取り組みが手薄になりがちです。非正規雇用のスキルアップを促進できれば、組織全体における人材のレベルを底上げできるため、企業にもメリットがあります。
厚生労働省では、非正規雇用の従業員に向けたスキルアップへの助成も行っています。こうした助成制度を活用しながら、非正規雇用労働者への人材育成にも注力してみてはいかがでしょうか。
非正規雇用と改正労働契約法
非正規雇用に関する法律として『改正労働契約法』があります。これは労働契約法が改正されたもので、平成24年8月10日に公布(※)されました。
改正内容としては以下の3点がポイントです。
- 無期労働契約への転換
- 「雇止め」法理の法定化
- 不合理な労働条件の禁止
それぞれのポイントを解説します。
※施行日は(2)が平成24年8月10日、(1)(3)が平成25年4月1日
1.無期労働契約への転換
無期労働契約への転換とは、有期労働契約の更新において、契約期間が通算5年を超えた場合、労働者の申し出によって、期間の定めのない契約(「無期労働契約」)に転換できる制度です。無期労働契約への転換は、労働者の雇用安定を目的としています。
有期労働契約で働く人にとって、繰り返し更新を行う働き方は「雇止め」の不安が常に付きまといます。そこで、長期間にわたって働く場合には雇用期間の定めをなくして働けるようにしました。
2.「雇止め」法理の法定化
雇止め法理は、最高裁判所の判例によって確立したもので、改正労働契約法にも規定されました。雇い止め法理は、一定の場合において、企業側による雇止めができないとする内容です。
対象となるのは以下のいずれかの労働契約です。
- 過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同じと認められるもの
- 労働者において、有期労働契約の契約期間満了時に、契約更新されると期待する合理的な理由があると認められるもの
どちらかに該当する場合であって、企業側の雇止めが「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない」場合は、雇止めができないことになります。
3.不合理な労働条件の禁止
不合理な労働条件の禁止とは、有期労働契約と無期労働契約で、期間の定めを理由として、不合理な労働条件の差を設けることを禁止する定めです。
非正規労働者は、雇い止めの不安を抱えていることによって立場が弱く、労働者側に不都合となる労働条件が設定される場合も少なくありませんでした。
改正労働契約法によって、企業は不合理な格差のある労働条件を設定できなくなり、非正規雇用の働く環境が改善されやすくなりました。
参照:『有期労働契約の新しいルールができました 労働契約法改正のあらまし』厚生労働省
まとめ
企業における非正規雇用の増加は、複合的な要因によって引き起こされています。
社会やビジネス環境の変化にともなう人件費削減の必要性や、働き方の多様化への対応、子育てや介護などの家庭事情に配慮した雇用形態の提供、家計の補助を目的とする労働者の増加、労働期間の長期化、人手不足への対策など、さまざまな背景が存在します。
非正規雇用を活用する企業は『改正労働契約法』を正確に理解し、遵守することが不可欠です。企業は、非正規雇用労働者を貴重な人材として捉え、適切な雇用条件の下で育成していくことが重要です。