離職票の賃金に含まれるものには何がある? 具体的な項目や賃金額の算出方法まで解説
雇用保険法では、賃金を以下のように定義しています。
この法律において「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うもの(通貨以外のもので支払われるものであつて、厚生労働省令で定める範囲外のものを除く。)をいう。 |
上記の通り、雇用保険法における賃金の定義は幅広く、どこまで賃金に含めてよいものか迷ってしまうことも少なくないでしょう。また、技能手当や旅費出張費など、イレギュラーなお金が含まれるのかどうかも気になる点です。当記事では、離職票の賃金欄を正確に記載するためのポイントを、具体例を交えながらご紹介します。賃金に含まれるもの・含まれないものをそれぞれ一覧でまとめているので、チェックリストとしてもご活用ください。
※当記事の内容は作成日現在のものであり、法令の改正等により、紹介内容が変更されている場合がございます。


離職票の賃金に含まれるものとは
離職票に記載する賃金に含まれるものとは、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 事業主が労働者に払ったもの
- 労働の対償として払ったもの
事業主が労働者に払ったもの
前提として、離職票に記載する賃金に含まれるのは「事業主が労働者に対して実際に支払いを行っているもの」のみです。日本ではあまり馴染みのない文化ですが、お客様から従業員個人に与えられたチップなどは原則として賃金に含まれません。
労働の対償として払ったもの
離職票に記載する賃金として算入するためには、支払われた金銭が「労働の対償(対価)」でなくてはなりません。ここでいう労働の対償とは、身体や手を動かして実際に提供された労働への対価だけでなく、「労働契約上、事業主が支給すべき」と考えられるすべてのものを指します。一方、従業員が立て替えたものを精算するための金銭や、持家取得や財形貯蓄を促す目的で事業主が負担する奨励金などは賃金に含まれません。
離職票の賃金に含まれるものの具体例
離職票に記載する賃金に含まれるものの中から、代表的な5つの項目をご紹介します。
- 基本給
- 休日手当・深夜手当
- 技能手当
- 住宅手当
- 通勤手当
それぞれについて詳しく解説しましょう。
基本給
基本給とは、各種手当や賞与などを含まない、給与のベースとなる賃金のことです。月給制の場合は毎月、日給制の場合は毎日、といったように、一定期間働くことで決まった金額が支給されます。なお、会社によっては、固定給や本給などと呼ぶこともあるでしょう。名称が違うだけで、支給額の考え方は変わりません。
休日手当・深夜手当
休日手当や深夜手当も、離職票の賃金に含まれます。
休日手当 | 法定休日における労働に対して、割増賃金を支払うもの |
深夜手当 | 深夜(原則として午後10時~午前5時)における労働に対して、割増賃金を支払うもの |
決まった金額が支給される基本給とは異なり、実際に働いた時間や日数によって変動するものです。
技能手当
離職票の賃金には、技能手当も含む必要があります。技能手当とは、業務内容に関連する特別な技能や、資格取得に対して支払われる手当です。たとえば、以下のような資格が該当します。
- 中小企業診断士
- 危険物取扱者
- 衛生管理者
- 日商簿記
- 基本情報技術者 など
また、通常は継続的に算入される部分なので、基本給のアップとは別に給与を上げる場合などにも利用されます。
住宅手当
会社の福利厚生の一環である住宅手当も、離職票の賃金に含まれます。住宅手当とは、従業員の家賃や住宅ローンを会社が一部補助する制度のこと。従業員の暮らしを補助する目的で支給され、毎月定額で支払われるケースが一般的です。近年は会社都合で引っ越しを余儀なくされた場合だけでなく、オフィス近くへの引っ越しにかかる費用を一部負担する会社も増えています。
通勤手当
通勤手当も、離職票の賃金に算入する手当の一つです。通勤手当とは、従業員の通勤にかかる交通費を会社が負担する制度のこと。電車やバスの運賃だけでなく、マイカー通勤の場合のガソリン代も支給される場合があります。ただし、通勤手当はあくまで福利厚生の一環です。就業規則や賃金規程に通勤手当に関する記載がない場合は、当然ながら離職票の賃金に含む必要はありません。
離職票の賃金に含まれないもの
次に、離職票に記載する賃金に含まれないものをいくつかご紹介します。
臨時に支払われる賃金
臨時的な支給理由によって支給される賃金は、離職票の賃金には含まれません。たとえば、以下のような賃金が該当します。
- 病欠中の従業員に支払われる加療見舞金
- 結婚する従業員に支給される結婚手当
「臨時に支払われる賃金」に含まれるためには、以下のいずれかの条件を満たさなければなりません。
- 支給事由が臨時的または突発的に発生したもの
- 支給事由の発生が不確定であり、非常に稀(まれ)であるもの
たとえば、病気は誰がいつ発症するかわからないため「支給事由が臨時的または突発的に発生したもの」に該当します。また、従業員が結婚するかどうかは不確定であり、一般的には何度もするものではないことから「支給事由の発生が不確定であり、非常に稀であるもの」と判断できるでしょう。
3か月を超える期間ごとに支払われる賃金
一定期間働くことで決まって支払われる賃金以外で、3か月を超える期間ごとに支給されるものは、離職票の賃金に算入しません。つまり、定期給与以外の賃金のうち、年間支給回数が3回以下のものが対象です。なお、年間支給回数の算定は、同一性質を持つ賃金ごとに行われます。たとえば、一般的に賞与と決算手当は同一性質を持つ賃金と考えられるため、賞与年2回+決算手当年2回の場合は年4回の支給として算定します。
特別賃金
祝祭日や創立記念日など、特別なタイミングで支給される賃金を指します。就業規則や賃金規定などに定めがなく、恩恵的に支給される場合は離職票の賃金には含まれません。
離職票の賃金に含まれないものの具体例
離職票に記載する賃金に含まれないものの中から、代表的な5つの項目をご紹介します。
- 休業補償費
- 傷病手当金
- 工具手当
- 旅費出張費
- 退職金
それぞれについて詳しく解説しましょう。
休業補償
休業補償費とは、労働基準法第76条に定められた制度です。使用者は業務中に発生した怪我や病気を理由に休業を余儀なくされた従業員に対し、平均賃金の60%を支払うことが必要です。休業補償は労働の対償ではないため、離職票の賃金には含みません。なお、よく似た名称の休業手当は賃金の一種であるため、混同しないよう注意しましょう。
傷病手当金
傷病手当金とは、業務外の病気や怪我で療養中の従業員やその家族を支援する制度です。傷病手当金は健康保険制度における給付金なので、離職票の賃金には含みません。
工具手当
業務に使用する工具の代金を支給する工具手当は、実費弁償的な性質を有するとみなされます。純粋な労働の対価ではなく、あくまで立て替え金の精算として支給されるものなので、賃金とは認められません。
旅費出張費
旅費出張費は、工具手当と同様に実費弁償的な性質を持つと考えられます。出張の際の交通費や宿泊代は、実際にいくらかかるのか事前に把握することが困難です。業務上の経費を従業員が立て替え、会社が精算するという流れになるため、賃金とはみなされません。
退職金
退職金は、離職票の賃金として算入しないものの代表例です。通常、退職金は、その会社に属した従業員に一度のみ支給されるもの。給与とは異なり定期的に支給されるものではないため、賃金には含まれません。なお、前払退職金として毎月決まった額を支給しているものについては、賃金として算入します。
離職票の賃金に含まれるもの一覧
以下に、離職票に記載する賃金に含まれるものを一覧でまとめました。ここまでご紹介したもの以外にも、さまざまな給与や手当が離職票の賃金として算入されます。賃金として計算する範囲がわからなくなったときは、ぜひチェックリストとしてご活用ください。
- 基本給
- 業績給
- 資格給
- 調整給
- 役職手当
- 時間外手当
- 休日出勤手当
- 深夜残業手当
- 通勤手当
- 前払退職金
- 家族手当
- 住宅手当
- 単身赴任手当
- 勤務地手当
- 皆勤手当
- 精勤手当
- 被服手当
- 宿直 ・ 日直手当
- 技術手当
- 危険作業手当
- 研修手当
- 食事補助
離職票の賃金に含まれないもの一覧
次に、離職票に記載する賃金に含まれないものを一覧でまとめました。
- 賞与
- 特別賞与
- 出張旅費
- 転勤旅費
- 傷病見舞金
- 結婚祝金
- 死亡弔慰金
- 出産見舞金
- 出産手当金
- 傷病手当金
- 解雇予告手当
- 奨励金
- 利子補給
- 表彰金・金一封
- 休業補償
- 有給休暇の買上げ
- そのほか臨時に支払われる手当
賞与や特別賞与は、年間の支給回数によって扱いが変わります。離職票の賃金には「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」は含まない決まりになっているため、賞与や特別賞与の支給回数が年3回以下の場合は賃金に算入しません。
賃金額の算出方法
離職票に記載されるのは手取り金額ではなく、賃金総額です。賃金総額とは、労働保険の対償となる賃金のこと。基本給に各種手当などを加算していき、合計の金額を記載します。なお、離職票の必要書類(離職証明書)の提出期限は、雇用保険の資格喪失日の翌日から10日以内です。提出期限内に退職月の賃金が確定できない場合は、いったん「未計算」と記載しておきましょう。
離職票の賃金に含まれるか判断がつかない場合は?
離職票に記載する賃金に含まれるか判断できないときは、厚生労働省が作成した『賃金月額の算定の基礎となる賃金の範囲』を参照するのがおすすめです。賃金の範囲から賃金に含まれる・含まれないものの例がわかりやすくまとまっています。特例の取り扱いをするものについても解説されているため、離職票に賃金額を記入する際はぜひ参考にしてください。それでも判断ができない場合は、管轄のハローワークに問い合わせるとよいでしょう。
離職票の賃金に含まれるものを把握しましょう
離職票に記載する賃金には、基本給だけでなく休日手当や住宅手当といった各種手当が含まれます。一方、傷病手当や結婚手当などの臨時的に支払われる賃金は、離職票には記載しません。離職票の賃金に含まれるか否かについては、「決まった額が継続的に支払われているかどうか」「労働の対償として支払われているかどうか」が重要なポイントです。わからない場合は厚生労働省の資料を参照するなどして、正しい賃金総額を記載しましょう。
人事労務の業務負担を軽減するなら、『One人事』の導入もおすすめです。『One人事』は人事労務をワンストップで支えるクラウドサービスです。人事労務情報の集約からペーパーレス化まで、一気通貫でご支援いたします。電子申請や年末調整、マイナンバー管理など幅広い業務の効率化を助け、担当者の手間を軽減。費用や気になる使い心地について、お気軽にご相談いただけますので、まずは当サイトよりお問い合わせください。
当サイトでは、サービス紹介資料はもちろん、無料のお役立ち資料をダウンロードいただけます。業務効率化のヒントに、こちらもお気軽にお申し込みください。