就業規則は勝手に変更してもよい? 見直しの際の注意点・手順とは
就業規則とは、雇用主と従業員の間で交わされたルールのことです。賃金や労働時間などさまざまな取り決めがあります。従業員に知らせず就業規則を勝手に変更してよいか、疑問に思われている方もいるのではないでしょうか。労働契約法第9条で「労働者の合意なく就業規則を不利益に変更できない」と定められています。そのため、就業規則の変更には細心の注意を払わなければなりません。
そこで本記事では、就業規則の変更についてくわしく解説します。さらに、注意点や手順もお伝えするので、ぜひ最後までご覧ください。
就業規則は勝手に変更してもよいのか
就業規則の勝手な不利益変更は原則不可能です。従業員へ説明して同意を得る必要があります。しかし、合理的な内容であれば同意を得られなくても不利益に変更可能です。
合理的な判断基準は下記の3つを中心にして考えられます。
- 通常の業務上での必要性
- 高度の業務上での必要性
- 極度の業務上での必要性
たとえば、極度の業務上の必要性とは、会社経営が危うい状態を指します。人件費の削減など必要な状況で、従業員は不利益を受けるでしょう。しかし、会社が倒産する可能性が高い以上、就業規則の変更が必要です。
なお、変更後の内容が合理的であれば、個別の同意を得ることなく就業規則を不利益に変更することも可能です。ただし、この場合であっても周知は必要です。
労働契約法第10条 |
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就業規則の変更は、その変更が合理的であり、かつ変更後の就業規則が労働者に周知されているなどの所定の要件を満たす必要があります。 |
従業員に就業規則を変更しなければいけない理由をていねいに説明しましょう。
従業員にとって不利益な就業規則の変更例
従業員にとって不利益な就業規則の変更例は下記のような内容です。
- 労働時間の増加
- 手当制度の廃止、給与の減給
- 従業員から不満が出そうな内容のもの
不利益な条件に変更する場合は合理的な理由が必要です。平成29年9月に、給与の減給が不法行為として裁判所に認められた事件がありました。
概要 |
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定年後の継続雇用制度を設けている会社で、定年に達したフルタイムの無期雇用労働者が、短時間労働者として賃金を大幅に減額する再雇用条件を提示された。労働者は再雇用の機会を不当に侵害し不法行為に当たるとして損害賠償を求め提訴。 |
判決 |
継続雇用制度の導入の趣旨に反し、裁量権を逸脱または濫用したものであり、不法行為が成立すると判示した。 |
業務量は大幅に減ったとはいえないにもかかわらず、月額賃金335,500円(時給換算1,944円)から時給900円へ減額されており、違法性が認められました。従業員にとって不利益な就業規則は法律で罰せられます。
就業規則の決まりを3つ紹介
就業規則について覚えておくべき大切なことは以下の3つです。
- 就業規則の役割は社内ルールを明確にする
- 就業規則には記載すべき内容がある
- 就業規則の内容は必要に応じて変更する
順番に解説します。
就業規則の役割は社内ルールを明確にする
就業規則は社内ルールを明確にするものです。ルールが決められていないと社内の規律が乱れたり、従業員とのトラブルに発展したりする可能性があります。たとえば、賃金を決めるときや解雇するときなど、就業規則に基づいた手続きが必要です。
また、営業秘密の漏えいを禁止するなどの項目を就業規則に書くことで、企業を守る役割も担います。会社と従業員の双方にとって、重要な社内ルールです。
記載すべき内容がある
就業規則には記載する内容が3種類あります。記載する内容は下記の表にまとめました。
意味 | 内容 | |
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絶対的明示事項 | 必ず就業規則に記載しなければならないこと | 労働時間に関する内容 賃金に関する内容 退職に関する内容 |
相対的明示事項 | 制度が存在する場合に記載すること | 退職手当に関する内容 職業訓練に関する内容 災害補償に関する内容 など |
任意的記載事項 | 社会通念などを踏まえて会社独自で定めるもの | 応募や採用に関する内容 副業に関する内容 など |
絶対的明示事項の記載がない就業規則は、労働基準法第89条違反になるので注意しましょう。
就業規則の内容は必要に応じて変更する
就業規則は、さまざまな状況にあわせて変更する必要があります。たとえば、以下の状況の場合が見直すきっかけです。
- 創業以来、就業規則内容を見直していない
- 最低賃金が改定された
- 経営状況が悪化した
- 企業の実態と就業規則が合っていない
会社組織の拡大や縮小、社会情勢の変化にともない就業規則の変更が必要です。見直す際は、従業員の不利益とならないよう意識してください。
就業規則を変更する手順を5ステップで解説
就業規則を変更する手順を以下の5ステップで解説します。
- 変更箇所を決めて、新しい条文を考える
- 就業規則変更届を作成する
- 意見書を作成する
- 労働基準監督署に書類を提出する
- 社内に就業規則の変更を周知する
順番に解説します。
1.変更箇所を決めて新しい条文を考える
はじめに変更箇所を決めて、新しい条文を考えてください。労働法規に違反していないか、正社員やパート・アルバイトまで適用させるのかなど、適用範囲の確認も行いましょう。変更案に問題がなければ、取締役会などで権限を持つ人の承認を受けます。
2.就業規則変更届を作成する
変更案ができたら就業規則変更届を作成します。就業規則変更届はフォーマットの指定がありません。任意で準備するか、厚生労働省のWebサイトからもダウンロードできます。
参考:『主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)』厚生労働省
最終的に労働基準監督署に提出する書類なので、書き間違いがないように記入しましょう。
3.意見書を作成する
意見書を作成します。意見書とは、就業規則の作成や変更に対して労働者の代表の意見を記した書類です。労働者の代表は以下の2種類に分けられます。
- 労働者の過半数で組織する労働組合
- 労働者の過半数を代表する者
いずれも労働者の過半数以上であることが要件です。労働組合が組織されていない場合、挙手や投票などで選出されることが一般的です。また、全従業員の同意を得る必要はありません。同意書には代表者の意見や日付、代表者の署名や押印などをしてもらいます。
4.労働基準監督署に書類を提出する
労働基準監督署に提出する書類は以下の3つです。
- 就業規則変更届
- 意見書
- 新しい就業規則
準備できたら、労働基準監督署へ提出します。各書類は会社控え用と労働基準監督署用で、2部ずつ用意しましょう。労働基準監督署で受付印をもらったあと保管します。
5.社内に就業規則の変更を周知する
手続きが完了したら、従業員に変更した就業規則について周知します。新旧の就業規則を比較できると分かりやすいです。どこが変わったのか、マーカーで印をするなどして違いを周知しましょう。全員の目に届くような掲示をおすすめします。
就業規則を変更する際の注意点
就業規則を変更する際の注意点は以下の3つです。
- 不利益変更が認められる要件を把握しておく
- 不利益変更の必要性をていねいに説明する
- 事業場ごとに変更手続きが必要
順番に解説します。
不利益変更が認められる要件を把握しておく
不利益変更が認められる要件を把握しておきましょう。従業員にとって不利益になる変更は原則認められていませんが、内容によっては変更可能です。たとえば下記のような場合は、従業員に周知を行ったうえで変更できます。
- 就業規則の変更に合理性があると認められる
- 経営危機にある場合の賃金の減額
- 赤字が複数期続いている
会社の存続にかかわる場合などは説明責任を果たしたうえで、変更できることを知っておきましょう。
不利益変更の必要性をていねいに説明する
不利益変更する際は、従業員へていねいな説明が必要です。なぜ就業規則を変更するのか理由を伝えないと、従業員の不満につながります。さらに、従業員からの意見があればきちんと耳を傾けて話を聞きましょう。従業員にとっては不利益な内容なので、普段以上に繊細なサポートが必要です。
事業場ごとに変更手続きが必要
同じ会社でも事業場ごとに就業規則の変更手続きが必要です。就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場ごとに必要な書類なので、会社が同じでもそれぞれで準備しなければなりません。就業規則の変更内容が同じであれば、会社単位で一括届出もできます。
就業規則の変更を受け入れてもらうためのポイント
従業員に就業規則の変更を受け入れてもらうには、以下のポイントが大切です。
- 多くの従業員に同意書を書いてもらう
- 過半数代表者としっかり話し合う
- 経過措置や代替措置を用意するのもおすすめ
順番に解説します。
多くの従業員に同意書を書いてもらう
多くの従業員に同意書を書いてもらうことが大切です。手続き上は、従業員の過半数の代表者から意見を聞けばよいです。しかし、多くの従業員に変更内容を話して、同意を得ることで従業員が納得して働ける環境をつくれます。もちろん、強引に同意させようとしてはいけません。双方が納得する形で同意が取れるよう意識してみましょう。
過半数代表者としっかり話し合う
過半数の代表者と複数回、話し合うことも大切です。従業員に就業規則の変更についての同意を強制したり、企業が一方的に決定したりすると無効です。何度も話し合うことで不満が取り除けるでしょう。
経過措置や代替措置を用意するのもおすすめ
経過措置や代替措置を用意するのもおすすめです。いきなり就業規則を変更して、新しいルールを適用すると不満を感じる従業員が出てくる場合があります。時間をかけて新しい就業規則に移行する経過措置、従業員にとって不利益の度合いが少なくなる代替措置を検討しましょう。急激な変化に対する心理的な負担が減らせます。
まとめ
就業規則は企業と従業員で話し合いながら決めていくものです。変更する場合は、案を取りまとめたうえで従業員と話し合う機会を複数回設けましょう。一方的な変更は原則認められていません。双方が納得することで、心地よい関係性を構築できるでしょう。
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