賞与を年4回支給する際の社会保険の手続き方法|年3回以下との違いを解説
賞与は、夏と冬の年2回支給するケースが多いですが、企業によっては期末手当や決算手当などを別途支給する場合もあります。
健康保険・厚生年金保険では、労働の対償として支払われるもののうち、年3回以下のものを賞与、年4回以上のものを報酬とみなします。賞与の支給回数によって社会保険の手続き方法が異なるため、注意が必要です。
本記事では、賞与を年4回支給する際の社会保険の手続き方法を詳しく解説します。
賞与とは
賞与とは、毎月支給される「定期給与」とは別に支給される給与のことです。賞与は、別名「ボーナス」「特別手当」「一時金」とも呼ばれます。
賞与の有無はそれぞれの企業の方針によって異なり、設定するかどうかは企業が自由に決定できます。支給する際は、企業の状況や従業員の貢献度によって異なるため、毎回同じ金額が賞与として支給されるわけではありません。
夏季・冬季賞与とは別に、ノルマや目標達成時に臨時ボーナスのように不定期に発生するケースもあります。
賞与の種類と目的
賞与は、企業利益の一部を従業員に還元する目的で支給されます。従業員のモチベーション向上や査定評価後の後払いなどの役割があり、経営上の管理ツールとして活用される一面をあわせ持っています。
賞与は、支給目的や支給額の設定方法によって、大きく次の3つに分類されます。
賞与の種類 | 内容 |
---|---|
基本給連動型 | 基本給に所定の倍率をかけて算定する賞与。比較的多くの企業が採用している |
業績連動型 | 企業や特定の部門、個人の業績に連動して支給額を算定する成果主義タイプの賞与 |
決算賞与 | 決算後に支給される賞与。例年3〜4月に支給されるケースが多い |
基本給連動型賞与は、多くの企業が取り入れている賞与の種類です。募集要項などに「基本給〇か月分」と記されているケースが多く、各種手当を差し引いた基本給を基準に算出します。
業績連動型賞与とは、個人や部門の業績によって支給金額が変動する賞与です。よりよい成績を収めたいと考える従業員にとっては高額な報酬を得られるチャンスとなり、経営層にとっては優秀な人材の確保・定着が期待できるでしょう。
決算賞与は、企業の決算状況に応じて金額が決まる賞与です。一見、業績連動型と似ているものの、決算月の前後に確定すること、個人や部門ではなく企業全体の業績が影響することが大きく異なるポイントです。
賞与から所得税と社会保険料が控除される
賞与からは、所得税法などで定められているように、所得税や復興特別所得税、社会保険料が差し引かれます。
定期給与の金額とは異なるため、支払われた賞与の金額に応じて控除額が設定されるのが大きな特徴です。ただし、住民税は控除の対象ではありません。
賞与では「標準賞与額」をもとに、税金を割り出します。標準賞与額とは、所得税を控除する前の賞与の総支給額から1,000円未満を切り捨てた額のことです。標準賞与額の上限は、厚生年金保険法では1か月あたり150万円まで、健康保険法では年度累計で573万円までと定められています。
参照:『東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法』e-Gov法令検索
賞与の支給が年4回になると「報酬」に変わるケースがある
社会保険では支給回数が3回以下のものを賞与とみなします。年4回以上賞与を支給する場合、社会保険上では「賞与に係る報酬」として扱われます。賞与ではなく報酬として判断されるため、標準賞与額ではなく、標準報酬月額の対象として保険料を算出しなけばなりません。
賞与に係る報酬とみなされる条件は、以下の通りです。
- 就業規則や給与規定などで年に4回以上支給すると定められている
- 賞与の支給が7月1日前の1年間で合計4回以上実施されている
参照:『「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」 の一部改正について』日本年金機構
年4回以上の賞与を支給した際の手続き方法
年4回以上賞与を支給した場合は、賞与に係る報酬とみなされるため、毎年7月に行われる「定時決定」の際に提出する「算定基礎届」に含めて算出します。
定時決定とは、毎年1回標準報酬月額を決定し直し、実際の報酬と標準報酬月額に大きな差が生まれないように実施する手続きです。事業主は、7月1日時点で雇用しているすべての被保険者について、直近3ヶ月間(4月、5月、6月)の報酬月額を「算定基礎届」にまとめて提出します。
厚生労働大臣は、提出された算定基礎届の内容をもとに、各被保険者の標準報酬月額を再計算し、決定します。
新たに決定された標準報酬月額は、当年9月から翌年8月までの1年間にわたって適用されます。
年3回以下の賞与を支給した際の手続き方法
賞与の支給回数が年に3回以下の場合、賞与の支給日から5日以内に年金事務所に対して「被保険者賞与支払届」を提出しなくてはなりません。届け出た内容により、決まった標準賞与額に応じて、賞与の保険料額が算出されます。
賞与にかかる保険料の算出方法は、以下の通りです。
賞与の保険料額=標準賞与額×健康保険・厚生年金保険の保険料率 |
また、健康保険や厚生年金保険のそれぞれで、上限が以下の通り定められています。
区分 | 上限 |
---|---|
健康保険 | 年間573万円(4月1日~3月31日までの累計額) |
厚生年金保険 | 1か月150万円 |
【年4回と年3回以下】保険料にどの程度差が出る?
賞与を年に4回支給した場合と、年3回以下支給した場合では、社会保険料にどの程度の差が生じるのでしょうか。例を挙げながら解説します。
(1)月額賃金59万円(賞与なし)の年間保険料
健康保険料 | 厚生年金保険料 | 月額 | 年額 |
---|---|---|---|
29,441円 | 53,985円 | 83,426円 | 1,001,112円 |
(2)1に年間賞与100万円を12分割した額を加算した年間保険料
健康保険料 | 厚生年金保険料 | 月額 | 年額 |
---|---|---|---|
33,932円 | 59,475円 | 93,407円 | 1,120,884円 |
(2)ー(1)=年額119,772円
(3) 年に3回以内で合計100万円の賞与を支給した場合の年間保険料
健康保険料 | 厚生年金保険料 | 合計 |
---|---|---|
48,902円 | 59,475円 | 108,377円 |
支給回数の違いにより、ひと月で約1万円近くの保険料の差額が出ることがわかります。平均報酬月額や賞与の額によっても、保険料に差が生じると覚えておきましょう。
さらに従業員が40歳になった月から、介護保険料の支払いも発生します。健康保険料率は、都道府県によって異なるため、計算する際は注意しましょう。
参照:『令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)』全国健康保険協会
年4回以上の賞与を支給するポイント
年に4回以上賞与を支給する場合、担当者としてどのようなことに気をつけるべきでしょうか。4つのポイントを紹介します。
- 給与が一定以上なら保険料も一定となる
- 社会保険の給付が増える
- 標準報酬月額によっては年金額に反映されない
- 給与が一定以下なら保険料の負担が増える
給与が一定以上なら保険料も一定となる
標準報酬月額が65万円以上(報酬月額63万5,000円以上)の従業員に、年に4回以上の賞与を与える場合は、支給額が増えても厚生年金保険料は変わりません。実際の報酬月額が63万5,000円以上であれば、標準報酬月額は一律65万円として扱われます。
厚生年金保険の標準報酬月額は、1〜32等級まで区分されており、上限を65万円と定めています。健康保険料の場合は、報酬月額が135万5,000円まで段階的に上がるため、注意が必要です。
また、一定以上の収入がある従業員に対して、年に3回以下の賞与を支払った場合、従業員は保険料を都度支払う必要がある点もポイントです。
社会保険(厚生年金保険)の給付が増える
標準報酬月額が上限額を上回らない場合、年4回以上賞与を支給すると、標準報酬月額も増えます。
将来受け取る厚生年金保険の年金額は、現役時代に納付した保険料に応じて算出されます。つまり、標準報酬月額が高額になることで、納付すべき保険料が上がるとともに、将来の年金受給額も増えるのです。
ただし、傷病手当金や出産手当金は、あくまでも標準報酬月額をもとに算出されるため、賞与額は対象外です。年3回以下の賞与の場合は、健康保険の給付支給額に反映されないと覚えておきましょう。
標準報酬月額によっては年金額に反映されない
従業員の給与が一定以上の場合は、年4回以上賞与を支給したとしても、将来の年金額は上がりません。
標準報酬月額が上限額である65万円を超えた場合は、月々の保険料の負担は抑えられます。ただし、上限65万円を超える部分が、将来の年金額に反映されないと覚えておきましょう。
給与が一定以下なら保険料の負担が増える
従業員の給与が一定以下の場合、賞与を年に4回支給すると標準報酬月額も上がるため、保険料が変動します。傷病手当金や出産手当金など、社会保険(健康保険)に加入することで恩恵を受けられる一方で、支払わなければならない保険料も高額となることを理解しておきましょう。
年4回以上の賞与を支給する際の注意点
最後に、年4回以上の賞与を支給する場合、5つの注意点を詳しく解説します。
- 労務担当者や現場の管理職の負荷が大きくなる
- 将来の年金給付額に反映されないケースがある
- 随時改定があった場合にも反映させなければならない
- 就業規則や賃金規程に定める必要がある
- 同じ性質の賞与を年に4回支給する場合は報酬とみなされる
労務担当者や現場の管理職の負荷が大きくなる
賞与の支給回数を増やすということは、それだけ従業員を査定する回数も増えることになります。
社会保険の定時決定や随時改定の際は、賞与額を反映させた賃金での手続きも必要です。労務担当者だけでなく、現場の管理職の負荷も増える点に留意しましょう。
将来の年金給付額に反映されないケースがある
標準報酬月額が上限65万円を超える場合は、社会保険料の負担は抑えられまますが、将来の年金給付額に反映されないケースがあります。従業員の将来もらえる年金が減るなどの不都合が生じる恐れがあるので、注意しましょう。
随時改定があった場合にも反映させなければならない
賞与を年に4回以上支給した場合は、定時決定後の7月以降の随時改定においても加算しなければなりません。
随時改定では昇給で固定的賃金に変動があり、変動月からの3か月間の標準報酬月額と従前の標準報酬月額に2等級以上の差が生じた場合に、4か月目の標準報酬月額から改定されます。
就業規則や賃金規程に定める必要がある
従業員に対して賞与を年4回支給する場合は、就業規則や賃金規程に事前に定める必要があります。
万が一、会社都合で4回目の支給をしなければならない場合は、3回の賞与を支払う際と同様に、賞与支払届を管轄の年金事務所または事務センターに提出しましょう。
同じ性質の賞与を年に4回支給する場合は報酬とみなされる
年に4回賞与を支給する場合は、賞与の性質が同じでなければなりません。
たとえば、ノルマ達成時に支給するインセンティブ賞与と、夏季・冬季賞与は性質が異なる賞与です。
性質が異なる賞与を支給した場合は、支給回数は別々に数える必要があります。名称は関係がなく、異なる性質の賞与の支給回数を合算して年4回とすることはできません。
あくまでも性質が同一の賞与を年4回支給した場合に報酬とみなされるのです。
賞与の支給回数によって手続きが異なる(まとめ)
社会保険では、労働の対償として支払う金銭のうち、支給回数が年3回以下のものを「賞与」とみなします。一方で、年4回以上支給する場合は「賞与」ではなく「賞与に係る報酬」となり、手続きの方法も異なるため注意が必要です。
人事や労務担当者は、「賞与」と「賞与に係る報酬」の違いや、支給回数によって社会保険手続きや給付が変わる仕組みを正しく理解する必要があります。
年4回の賞与と年3回以下の賞与、それぞれのメリットや注意したいポイントをよく理解したうえで、賞与の支給回数を決めましょう。
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