賞与(ボーナス)の決め方|中小企業はどう決める?基準や企業規模別の平均額も紹介
賞与(ボーナス)とは、毎月の給与とは別に支給される賃金の一種で、支給の有無や金額は、企業が自由に決められます。
賞与の決め方は自由度が高いため、「賞与の決め方に悩んでいる」「新しい賞与制度を導入する場合、どのような方法がよいかわからない」といった悩みを持つ担当者もいるようです。
本記事では、中小企業を中心とした賞与の決め方について解説します。賞与の基準や企業規模別の平均額、賞与を決める際の注意点なども紹介するので、賞与制度を見直す際に、参考にしてください。
そもそも賞与(ボーナス)とは
賞与とは、毎月支払う定期給与とは別に、従業員に対して一時的に支払う追加の賃金のことを指します。
定期で支払われる給与以外で、夏季と冬季に年に2回支給されるのが一般的です。支給方法や基準は企業や組織によって異なるため、一律の規定はありません。
また「賞与」の名称は、夏季手当や年末手当、期末手当など、支給時期に応じて異なる名目で呼ばれています。
国税庁による賞与の定義
賞与の定義は、国税庁によって以下の通り規定されています。
賞与とは、定期の給与とは別に支払われる給与等で、賞与、ボーナス、夏期手当、年末手当、期末手当等の名目で支給されるものその他これらに類するものをいいます。なお、給与等が賞与の性質を有するかどうか明らかでない場合、次のようなものは賞与に該当するものとされます。
(1) 純益を基準として支給されるもの
引用:『No.2523 賞与に対する源泉徴収 賞与の意義』国税庁
(2) あらかじめ支給額または支給基準の定めのないもの
(3) あらかじめ支給期の定めのないもの。ただし、雇用契約そのものが臨時である場合のものを除きます。
(4) 法人税法第34条第1項第2号≪事前確定届出給与≫に規定する給与(他に定期の給与を受けていない者に対して継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づき支給されるものを除きます。)
(5) 法人税法第34条第1項第3号に規定する業績連動給与
賞与(ボーナス)の3つの種類
賞与には、主に「基本給連動型」「業績連動型」「決算賞与」の3つの種類があります。それぞれについてご紹介します。
基本給連動型賞与
基本給連動型賞与は、多くの企業が採用している制度です。通常は「基本給の〇か月分」と示され、各種手当を差し引いた基本給を基準に計算します。
業績連動型賞与
業績連動型賞与は、個人や部門の業績によって支給金額が決まります。業績を上げられた分の利益を従業員に還元する仕組みといえます。
近年は「VUCAの時代」といわれるように、ビジネス環境の変化が目まぐるしく、業績が大きく変動して見通しも立ちにくいため、導入する企業が増えているようです。
決算賞与
決算賞与は、企業の決算状況に応じて金額が決定する仕組みです。決算月の前後で確定し、個人や部門ではなく、企業全体の業績が影響する点が業績連動型賞与と異なります。
賞与(ボーナス)の有無はどう決める?
賞与を支払うか否かは、企業や組織の基準で独自に決められるものです。
ただし、支給の有無や支払い要件などは、就業規則や雇用契約書に明記することによって、法的な義務が生じます。
・企業が策定する就業規則 ・労働組合と企業の間で締結される労働協約 ・個々の従業員と企業の間で締結される労働契約 |
就業規則の中には給与規程や賃金規程など、賃金の支払いに関する総合的な内容が別途記載されているのが一般的です。
自社の給与規程や賞与の支払い要件については、まずは就業規則を確認するようにしましょう。
賞与を決定する基準と方法
賞与を決定する基準や方法に絶対的な決まりはありません。なかには、社長が独自に賞与額を決定するという企業もあるといいます。
しかし従業員の納得感を高めるためには、公平性のある基準と方法に基づいた賞与制度が必要でしょう。
そこで賞与額を決めるための基準や方法についてご紹介します。
基準 | 方法・決め方 | 方式 | |
---|---|---|---|
1 | 基本給 | 基本給に支給率(支給月数)を掛ける | 連動方式 |
2 | 等級・役職 | 等級・役職に応じて一律に支給する | 定額方式 |
3 | 個人の業績評価 | 個人の業績評価を加味して支給率を決める | 連動方式 |
4 | 企業全体の業績 | 利益が出れば分配する (業績に応じて変動) | 連動(利益分配)方式 |
5 | 勤怠実績 | 賞与を減額する場合に用いる | 連動方式 |
実際は、これらの基準一つひとつ単体で用いるケースは少なく、組み合わせて決められることが多いようです。
基本給に支給率(支給月数)を掛ける方法
基本給に対して、決められた支給率を掛け合わせて賞与額を決める方法です。支給率として一般的に利用されるのが月数で、多くの日本企業で長く採用されてきました。
基本給(各種手当除く)×支給月数(1.5か月や2か月)=賞与支給額 |
従業員側としても馴染みのある決め方ですが、査定期間の本人の頑張りが直接的に影響しないため、支給されるのが当たり前に感じられてしまう恐れもあります。
従業員一人ひとりの人事考課の結果を踏まえるようにすると、モチベーション向上につながるかもしれません。
等級・役職の高さに応じて一律に支給する方法
等級や役職を基準に、一律に賞与額が決められる方法です。
支給率を掛けるような計算は必要なく、部長クラスは一律○万円など、職位や階層によって変動します。つまり、同じ等級・役職であれば、一定額の賞与が支給されるのです。
定額方式は、中小企業をはじめとした小規模な会社で採用されやすいとされています。等級や役職の数が少なく、運用しやすいためでしょう。
個人の業務成績を加味する方法
「基本給×支給月数」や「役職別の支給額」に、個人の成績を掛け合わせて決める方法です。従業員の目標達成度など、業績評価を加味して支給率を決めます。
例 |
---|
役職や等級ごとの標準額×支給率(業績評価の結果による支給係数)=賞与支給額 |
業績評価は、以下のような基準で評価されることが一般的です。
・売り上げの向上 ・企業全体の業績への貢献 ・業務に関連する資格の取得 ・外部研修への積極的な参加 ・チームリーダーやマネジメント職への昇進 |
結果を出した人を適切に評価して、賞与に反映させる仕組みといえます。個人の頑張りが賞与に直結するため、納得感を得られやすい方法でしょう。
高い評価を得た人は、賞与を受け取ったあとも、次の目標達成に向けてさらに真剣に業務に取り組むはずです。
企業の業績に連動して利益を分配する方法
企業全体の業績が好調な場合、賞与額に反映させる方法は「業績連動型」または「利益分配方式」と呼ばれます。
企業側のメリットは、先の見えない時代に、業績に応じて総支給額を柔軟に変更できることです。従業員側においても、組織の成長に関心を持つことができ、年齢が高く勤続年数が長いほど高くなる傾向にある「基本給連動型」より不公平感を感じにくいでしょう。
ただし、全社的な売り上げが低迷してしまうと、たとえ自身の部署が業績に貢献していても、賞与が減額されるのはデメリットといえます。
勤怠実績に応じて減額を決めることもある
従業員の勤怠実績を考慮して、賞与額を減額する場合もあります。
「査定期間中に3分の2以上の出勤が支給条件」「遅刻・欠勤日数に応じて減額」など罰則の意味合いが強く感じられるかもしれませんが、中途社員の在籍前の期間分を控除する目的もあるでしょう。
減額処理を認める場合は、就業規則の給与規程に明確に記載して、従業員に周知しなければなりません。
また、育児・介護休業や有給休暇は、賞与を減額する理由にはならないでしょう。そのような従業員を不当に扱うことは、法律で禁止されています。
育児・介護休業は勤務日数に応じて、有給休暇は通常通り勤務していると見なして、賞与を計算する必要があります。
中小企業に多い賞与の決め方
中小企業は、業績が安定していないことも少なくないでしょう。
「基本給×支給月数」や「等級・役職に応じた一律額」で賞与を決定してしまうと、業績が悪化していても毎回、相当な額を支払わなければならなくなります。
そのため、数十人規模の中小企業では、業績連動型賞与を導入する傾向があるようです。
また、従業員数が数人程度の企業では、社長が従業員一人ひとりと面談したうえで金額を決定する方法や、各従業員に対して一定の金額を賞与として支給する固定額方式なども採用されています。
前者の場合は、ある程度個人の業績や評価なども反映されますが、後者においては業績や役職に関係なく、従業員全員に同額の賞与を支給するため、設立が間もない企業に向いている方法といえるでしょう。
賞与額の出し方
業績連動型賞与の出し方
業績連動型賞与は、企業の業績に応じて支給金額が変動する方式です。利益を従業員に還元する方式ともいえます。
業績連動型賞与は、一般的に、以下の手順で賞与額を出します。
1.賞与原資を設定 2.業績指標の選定 3.個人の業績評価と支給率の設定 4.賞与計算 |
1.賞与原資総額の設定
まずは年度初めに、いくらを賞与に当てられるか、賞与の原資総額を設定します。これは通常、企業全体の業績目標や利益目標と関連づけて決められます。
2.業績指標の選定
業績を測定するための指標が選定されます。一般的な指標には、売上高や利益、生産性などがあります。これらの指標は、企業の業種や目的に合わせて選ばれます。
3.個人の業績評価と支給率の設定
決められた指標に基づいて業績が評価されます。評価の結果、目標の達成度や個人の貢献度に応じて賞与の割合(支給率)が設定されます。
たとえば、目標達成率が高い場合や優れた成果を上げた従業員には、高い割合の賞与が支給されます。
4.賞与計算
評価結果と割合設定に基づいて、従業員ごとの賞与額を計算します。通常は基本給や勤務期間などの要素と組み合わせて計算されることが多いです。
個別賞与額の出し方
個別賞与は、従業員個人の業績や貢献度に基づいて支給される方式です。一般的には人事評価を活用する方法が多いでしょう。個別賞与の出し方は、主に以下の通りです。
1.評価基準の設定 2.評価の実施 3.賞与の割り当て |
1.評価基準の設定
まず、企業は従業員の業績を評価するための基準を設定します。売上目標の達成度やプロジェクトの成果、能力開発の取り組みなどが評価の基準となることが多いです。
2.評価の実施
評価期間が終了したあと、上司などの評価者が従業員の業績を評価します。評価は定性的な評価や定量的な指標に基づいて行われます。
3.賞与の割り当て
評価結果に応じて、個々の従業員に支給される賞与の割合が決定されます。評価の高い従業員や成果の大きなプロジェクトに関与した従業員には、高い割合の賞与が与えられるのが特徴です。
賞与の平均額とは
賞与の金額は業界や企業の規模によって異なります。
2022年(令和4年)の厚生労働省のデータによると、5人以上の従業員を抱える事業所における、1人当たりの賞与平均は40万円に近い金額となっています。
賞与の種類 | 平均支給額 | 前年比 |
---|---|---|
夏季賞与 | 389,331円 | +2.4% |
年末賞与 | 392,975円 | +3.2% |
企業規模別
同じデータで企業の規模別で見ると、夏季賞与の平均額は前年と比較して、100人以上の事業所で増加し、99人以下になるとやや減少していることがわかります。
事業所規模 | 平均支給額 | 前年比 |
---|---|---|
500人以上 | 673,602円 | +5.9% |
100〜499人 | 441,551円 | +5.7% |
30~99人 | 336,960円 | −0.4% |
5~29人 | 264,470円 | −0.3% |
一方、年末賞与の平均額は、事業所規模にかかわらず増加しています。
事業所規模 | 平均支給額 | 前年比 |
---|---|---|
500人以上 | 642,349円 | +3.3% |
100〜499人 | 452,892円 | +6.6% |
30~99人 | 354,645円 | +2.8% |
5~29人 | 274,651円 | +0.6% |
夏季賞与と年末賞与はどちらも、事業所規模ごとの平均支給額は同じ水準で推移しています。また、事業所規模が大きくなるにつれて、平均支給額も大きいことがわかりました。
業界別
続いて、主な業界別の夏季賞与の平均額をご紹介します。
産業 | 平均支給額 | 前年比 |
---|---|---|
製造業 | 527,118円 | +7.0% |
情報通信業 | 687,247円 | +3.3% |
卸売業・小売業 | 357,998円 | +0.1% |
医療・福祉 | 275,083円 | −0.1% |
同じ業種の年末賞与の平均額は、以下の通りです。
産業 | 平均支給額 | 前年比 |
---|---|---|
製造業 | 514,074円 | +2.4% |
情報通信業 | 662,768円 | −1.2% |
卸売業・小売業 | 365,502円 | +6.2% |
医療・福祉 | 309,224円 | +0.3% |
業界別に見ても、夏季賞与と年末賞与の平均支給額は、変動が少ないようです。ただし、卸売業・小売業と医療・福祉は年末賞与の方が多い傾向にあるようです。
参照:『毎月勤労統計調査 令和4年9月分結果速報等(13ページ)』厚生労働省
参照:『毎月勤労統計調査 令和5年2月分結果速報等(13ページ)』厚生労働省
賞与を決めるときの注意点
最後に、賞与を決めるときの注意点についても押さえておきましょう。
限度を超える減額にならないよう注意する
賞与の支給額は、業績や今後の事業展開、人事評価などを考慮して企業ごとに決めることができます。それだけでなく、従業員の勤怠状況などを踏まえたうえで、減額することも可能です。
しかし、減額を行う際は合理的かつ正当な理由がなければなりません。度を超える減額や、理由なく不支給にすることは認められません。
また、賞与の減額は従業員の士気やモチベーションを損なう可能性があります。財務状況や業績を考慮しながら、適切な範囲内で賞与額を調整しましょう。
算定理由を明確にする
賞与の算定理由は従業員に対して明確に伝える必要があります。
具体的な成果や評価基準、業績指標などに基づいて算定されることを、従業員に理解してもらい、公平性と透明性を確保するようにしましょう。
ただ周知するだけでなく、従業員が自身の業績や貢献度を把握し、賞与の算定結果に納得感を持てるようにすることが重要です。
また、業績悪化により賞与を支給しない場合も同様に「なぜ支給できないのか」を明らかにし、従業員に真摯に伝えたうえで納得を得るようにしましょう。
シンプルな制度設計にする
賞与制度はシンプルでわかりやすい設計にすることが重要です。
複雑なルールや手続きは混乱を招き、従業員の不満や不正確な判断を生む可能性があります。また、賞与を計算する人事労務担当者の負担にもつながります。
明確な基準や目標に基づいてシンプルに設計し、従業員が理解しやすい賞与制度にしましょう。
新制度はタイミングを見計らって導入する
もし自社で新しい賞与制度を導入する場合は、タイミングを慎重に選ぶ必要があります。従業員や組織の状況を考慮し、最適な時期を見計らって導入することが重要です。
突然の変更や導入による混乱や不安を最小限に抑えるために、変更を事前に説明し、従業員からのフィードバックや意見を考慮することも忘れないようにしましょう。
通常の手続きではないケースに注意する
賞与は通常、社会保険料を控除した額を支給します。しかし、退職予定者やすでに退職している従業員の賞与の場合、退職日や支給日によっては社会保険料控除の対象外となることもあります。
また、産前産後休暇や育児休暇を取得している従業員についても、社会保険料の控除が不要な場合があります。
賞与を計算する際は、支給対象者の状況を正確に把握し、間違いのないよう注意しましょう。
まとめ
賞与は企業が従業員に対して支給する特別な賃金です。支給に関する法的な義務はなく、基本給に連動させたり、企業や個人の業績を連動させたり、さまざまな方法によって支給額を決められます。
特に中小企業の場合、業績が不安定になることも考えられるため、賞与の支給基準や金額などは慎重に決める必要があるでしょう。
また、支給する側と受給する側の双方が正しく制度を理解できるよう、賞与に関する注意点も押さえておくようにしましょう。
当記事でご紹介した賞与の基準や方法、賞与額の出し方を参考にしながら、自社に合った賞与制度を検討してみてください。