固定残業代の2つの計算方法|基本給と手当で含むのはどちら? みなし残業の運用例を解説

固定残業代の2つの計算方法|基本給と手当で含むのはどちら? みなし残業の運用例を解説

固定残業代制度とは、従業員の残業代をあらかじめ給与に含めることで、給与計算の簡素化をはかる仕組みです。

ただし、固定残業代の計算方法は企業によって異なるため、自社のルールを正確に把握する必要があります。また、計算のルール次第では従業員のモチベーションが左右される可能性もあるため、どの方法を採用するのか慎重に検討したいところです。

本記事では、固定残業代の計算における2つの主要な方法について、計算例を交えながら解説します。

 

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    固定残業代(みなし残業代)とは

    固定残業代とは、企業があらかじめ想定した残業の中で、残業時間にかかわらず決められた残業代を支給する制度です。まず、固定残業時間を設定し、そこから固定残業代を算出して毎月の給与と一緒に支給します。

    固定残業代はみなし残業代と呼ばれることもあります。よく似た言葉に「みなし労働時間制」があり、固定残業代(みなし残業代)は残業時間に限った制度なのに対し、みなし労働制は労働時間全体を一定にして給与を支給する制度です。

    固定残業代を採用すれば、毎月の残業代を計算する必要がなく、給与計算の業務負担を軽減できます。ただし、残業が少ない企業では、固定残業代を導入すると人件費がかさむ恐れもあるでしょう。

    固定残業代の2つの計算方法

    固定残業代の計算方法には「手当型」と「組込型」の2種類があります。固定残業代の利点を活かすためには、自社に適した計算方法を選ぶことが重要です。

    1.手当型(手当に含む)

    手当型は、通勤手当や扶養手当などの各種手当と同じように、固定残業代を手当の一種として支給します。給与明細や求人票にも「基本給○円、固定残業代○円」と、それぞれの金額を分けて記載します。

    手当型は、従業員が「基本給に上乗せして支給されている」という実感を得やすく、モチベーションアップにつながるのがメリットです。また、残業の有無に関係なく一定額の手当が支給されるため、就業時間内に仕事を終わらせようという意識が高まり、生産性の向上にもつながるでしょう。

    ただし、手当型は基本給と固定残業代を別々のものとして扱うため、基本給をもとにボーナスを計算する企業では、組込型と比べて支給額が少なくなってしまいます。従業員が不満をため込むことがないよう、運用方針を定めるとよいでしょう。

    2.組込型(基本給に含む)

    組込型では、基本給に固定残業代を含めて支給します。給与明細や求人票には「基本給○円(○時間の固定残業代として○円を含む)」と記載します。

    残業が多い企業では、基本給に固定残業代を組み込むことで、手当型に比べて人件費の削減につながる場合もあるでしょう。ただし、求職者の誤解を招かないよう、求人票には固定残業代を含む金額であることを明記する必要があります。

    組込型は手当型と比べて、従業員が「固定残業代を支給されている」という実感を得づらく、モチベーション低下につながりかねません。特に、手当型から組込型に切り替えると、固定残業代を超える残業が発生したときに、手当型より1時間当たりの残業代が下がってしまい、従業員が不満を募らせる恐れがあります。

    固定残業代を手当に含む計算方法(手当型)

    固定残業代における手当型の計算式は、以下の通りです。

    固定残業代=(総給与額÷月平均所定労働時間)×固定残業時間×1.25

    月平均所定労働時間は、以下の計算式で算出できます。

    月平均所定労働時間=(365日-年間休日)×1日の所定労働時間÷12か月

    まず「総給与額÷月平均所得労働時間」で1時間あたりの給与額を計算し、固定残業時間を乗じます。法定労働時間は「1日8時間/週40時間」までと定められているため、超過する固定残業代については、時間外労働の割増率(25%)も掛ける必要があります。

    計算例

    手当型の固定残業代を、具体的な数値をあてはめて実際に計算してみましょう。

    給与総額230,000円
    月平均所定労働時間160時間
    固定残業時間40時間

    この場合、固定残業代の計算結果は以下の通りです。

    (230,000÷160)×40×1.25=71,875(円)

    固定残業代を基本給に含む計算方法(組込型)

    固定残業代における組込型の計算式は、以下の通りです。

    固定残業代=基本給÷{月平均所定労働時間+(固定残業時間×1.25)}×固定残業時間×1.25

    手当型と同様に月平均所定労働時間は以下の計算式で算出します。

    月平均所定労働時間=(365日-年間休日)×1日の所定労働時間÷12か月

    計算例

    組込型の固定残業代を、具体的な数値をあてはめて実際に計算してみましょう。

    基本給230,000円
    月平均所定労働時間160時間
    固定残業時間40時間

    この場合、固定残業代の計算結果は次の通りです。

    230,000÷{160+(40×1.25)}×40×1.25=54,762(円)
    ※端数処理のルールにより、50銭未満を切り捨て、50銭以上1円未満を1円に切り上げ

    参照:『3.残業手当等の端数処理はどうしたらよいか』東京労働局

    固定残業代は基本給に含むべきか? 手当に含むべきか?

    固定残業代を基本給に含むか、手当に含むかは、企業が自由に決められます。

    ただし、組込型では基本給に残業代が含まれていることがわかりづらく、従業員が残業代のルールを誤認してしまう恐れがあります。

    特に、給与明細に「基本給」とだけ記載している場合は、残業代の支払いや算出方法についてトラブルを招きかねないため注意が必要です。

    また、組込型は総給与額から固定残業代を差し引いた分が基本給になるため、これまで手当型で運用していた企業では、従業員の基本給が減ってしまいます。

    基本給が下がることは労働条件の不利益変更にあたるため、従業員の同意を得なければなりません。しかし、仮に同意が得られたとしても、従業員との信頼関係が崩れる原因になる可能性は十分あるでしょう。

    このように、組込型には一定のリスクがあるため、導入は慎重に検討する必要があります。

    固定残業代の計算で注意したいこと

    固定残業代の計算では、以下のポイントに注意しましょう。

    就業規則に内訳を明記する

    固定残業代制度を導入するためには、企業と従業員、双方の合意が必要です。

    また「基本給と、そのうち固定残業代はいくらか」「手当として支給される固定残業代はいくらか」「固定残業時間を何時間として見積もっているのか」といったポイントを明確にし、就業規則に記載しなければなりません。

    加えて時間外労働・深夜労働・休日出勤における割増率も明示し、従業員が自社の制度をいつでも正確に把握できるようにします。

    ただ記載するだけでなく、従業員の理解を得られるよう周知を徹底することも大切です。

    最低賃金を下回らない

    基本給や固定残業代は、都道府県が定める最低賃金を下回らないように設定しなければなりません。

    万が一、最低賃金を下回っている場合は最低賃金法違反となり、50万円以下の罰金が科せられる恐れがあります。また、従業員の求めに応じて、本来支払うべき残業代を支給しなければなりません。

    国内では定期的に最低賃金の引き上げが進められています。最低賃金と同等もしくは、やや上回る程度に基本給や固定残業代を設定している企業では、改正に気づかないと最低賃金を下回ってしまう恐れがあります。

    常に最新の情報をチェックし、必要に応じて見直すようにしましょう。

    参考:『最低賃金法』e-Gov法令検索

    みなし残業時間45時間/月を超えない

    「1日8時間/週40時間」を超える時間外労働には上限規制が設けられており「月45時間/年360時間」までと定められています。そのため、固定残業代におけるみなし残業時間は、月45時間を超えないように設定しなければなりません。

    参照:『時間外労働の上限規制 わかりやすい解説』厚生労働省

    固定残業代を超えたら残業代を加算する

    「固定残業代制なら、残業時間が少なくても多くても残業代は一律固定」と勘違いしている人もいます。しかし、固定残業代制度を導入しても、あらかじめ定めた固定残業代を超える分については、追加で残業代を支給しなければなりません。

    たとえば、固定残業時間を30時間に設定していて、実際の残業時間が32時間だった場合は、超過した2時間分の残業時間を加算して支給します。

    固定残業代の時間を超えた場合の計算方法・手順

    固定残業代を超過した分の残業代は、以下の式で計算が可能です。

    超過分の残業代=1時間あたりの賃金×超過分の残業時間×割増率

    ここからは、従業員の残業時間が固定残業時間を超えた場合の計算について、詳しく解説します。

    1.1時間あたりの賃金を算出する

    まずは、1時間あたりの賃金を算出します。

    1時間あたりの賃金は「1か月の賃金÷月平均所定労働時間」で計算します。1か月の賃金には、基本給だけでなく各種手当も含まれます。

    2.超過分の残業時間を掛ける

    次に、1時間あたりの賃金に超過分の残業時間を掛け算します。たとえば、固定残業時間が30時間で、実際の残業時間が35時間だった場合は、1時間あたりの賃金に超過した5時間を掛けます。

    3.残業の種類に応じて割増率を掛ける

    最後に、残業の種類に応じた割増率を掛けましょう。「1日8時間/週40時間」の法定労働時間を超過した分については、25%以上の割増率を適用します。

    また、22時から翌5時までの時間が含まれる場合は25%以上、休日労働が含まれる場合は35%以上の割増率を上乗せしなければなりません。たとえば、時間外労働かつ休日労働の場合は、計60%以上の割増率を適用する必要があります。

    残業の種類別に、割増率をまとめると、以下の通りです。

    残業の種類支給条件割増率
    時間外労働法定労働時間を超える労働25%以上
    時間外労働が上限規制(月45時間・年360時間)を超えるとき25%以上
    時間外労働が月60時間を超えるとき50%以上
    深夜労働22~5時までの労働25%以上
    休日労働法定休日の労働35%以上

    出典:『しっかりマスター労働基準法 割増賃金編』東京労働局

    計算例

    以下のケースにおける固定残業代を超えた分の残業代を実際に計算してみましょう。

    1か月あたりの賃金320,000円
    月平均所定労働時間160時間
    固定残業時間30時間
    実際の残業時間40時間

    固定残業時間が30時間なのに対し、実際の残業時間は40時間なので、超過分の残業時間は10時間です。法定外残業の割増率25%を掛けると、計算結果は以下の通りです。

    固定残業代を超えた分の残業代=320,000÷160×10×1.25=25,000(円)

    固定残業代の計算をラクにするには?

    固定残業代制度を導入すると残業代の計算を簡素化でき、業務負担を軽減できます。しかし、従業員とのトラブルを防ぐためには、固定残業代の計算方法について正しく理解することが重要です。担当者に悪気がなくとも、誤った運用方法をとると違法性を問われる恐れがあります。

    手当型・組込型、それぞれの特徴や計算方法を把握したうえで、固定残業代を正しく計算しましょう。固定残業代を含め、給与計算の正確性を高めるなら、作業を簡略化できる勤怠管理システムや給与計算システムを活用するのがおすすめです。

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