年末調整における定額減税とは? 企業が行うべき対応などを解説
2024年度から導入された定額減税は、従業員の税負担を軽減し、生活の安定をはかる制度です。狙いは低所得層や中所得層への経済的援助を充実させることにあります。定額減税の措置により、企業は年末調整を通じて、従業員の所得税および住民税を軽減する対応をしなければなりません。
本記事では定額減税の基本概要から、対象者の条件、具体的な対応方法、適用例までを詳細に解説します。企業が実務上の課題に対処するための実践的な情報を紹介するので、担当者は参考にしてください。
年末調整における定額減税とは
定額減税は、所得税および住民税に対して一定額を減税することで、従業員の税負担を軽減する新しい税制措置です。制度の導入により、従業員の税金負担が一定程度、直接的に軽くなります。
定額減税の主な特徴は以下の3点です。
定額減税制度の主な特徴 | |
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適用税目 | 所得税および個人住民税が対象 |
減税方式 | 定額控除。従業員の収入にかかわらず一律の額が適用 |
目的 | 低・中所得層に対する税負担の軽減。生活の質の維持または向上 |
定額減税は、減税額が一律であるという点ではシンプルな仕組みといえます。可能な限り税務処理のミスを回避し、従業員に対して透明性のある税務管理を実現することを目指しています。
年末調整時の定額減税の対象者と減税額
定額減税を適用するためには、特定の条件を満たす必要があります。定額減税の対象者の条件と具体的な減税額について詳しく解説します。
対象者となる従業員
定額減税の対象となる従業員は、以下の条件を満たす必要があります。
定額減税制度の対象条件 | |
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合計所得金額が1,805万円以下 | 給与収入、事業所得、利子所得などすべての所得が含まれる |
国内居住者 | 日本国内に住所を有し、または過去1年以上日本に居住している者 |
年収2,000万円以下 | ※給与収入のみの場合 |
合計所得金額が2,015万円以下 | ※子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除を受ける場合 |
住民税の均等割のみが課税対象となる納税義務者は、定額減税の対象外です。
減税額
定額減税の具体的な減税額は以下の通りです。
所得税の減税額 | ||
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本人(納税者) | 3万円。納税者自身の所得税額から直接控除される。 | |
同一生計配偶者 | 3万円 | 【同一生計配偶者とは】納税者と生計を一にし、かつ合計所得金額が48万円以下の配偶者 |
扶養親族 | 1人あたり3万円 | 【扶養親族とは】納税者の扶養下にある親族で、特定の条件を満たす者 |
個人住民税(地方税)の減税額 | ||
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本人(納税者) | 1万円。納税者自身の住民税額から直接控除される。 | |
控除対象配偶者 | 1万円 | 【控除対象配偶者とは】前年の合計所得金額が1,000万円以下の配偶者で一定の要件を満たす者 |
扶養親族 | 1人あたり1万円 | 【扶養親族とは】納税者の扶養下にある親族で、特定の条件を満たす者 |
控除対象配偶者を除く同一生計配偶者 | 1万円※令和7年度分の個人住民税から |
たとえば扶養親族が3人いる場合、所得税からは3万円 × 3人 = 9万円、住民税からは1万円 × 3人 = 3万円が減税され、合計12万円の税額軽減が実現します。
企業は従業員が条件を満たすかどうかを確認し、適切に年末調整を行う必要があります。
対象者とならない従業員
定額減税の対象外となる従業員は以下の通りです。
定額減税制度の対象とならない人 |
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合計所得金額が1,805万円を超える場合 |
国外に長期間滞在している場合 |
対象外となる従業員には、従来の税率に基づいた通常の税額計算が行われます。
年末調整時の定額減税への対応方法
年末調整において定額減税を適用する際は、さまざまな状況に応じた対応が求められます。特定のケースにおける対応方法を詳しく解説します。
- 従業員の扶養家族が増えた場合
- 従業員の扶養家族が減った場合
- 甲欄適用者の従業員が6月2日以降に入社した場合
- 従業員の合計所得見積額が1,805万円を超えた場合
従業員の扶養家族が増えた場合
扶養家族が増加した場合、新たな扶養家族の情報を反映させるために、従業員は扶養控除等申告書を更新します。
そして更新された申告書に基づき、年末調整で扶養控除の増加を反映させ、税額を再計算し、扶養控除の増額分を反映させます。
たとえば、子供が新たに生まれた場合、扶養控除が追加され、税額が軽減されます。
企業は、扶養家族の変更にともなう税額の調整を適切に実施し、年末調整で正確な税額を計算する必要があります。
従業員の扶養家族が減った場合
扶養家族が減少した場合には、扶養控除等申告書の内容を修正し、税額を調整する必要があります。
そして更新された申告書に基づき、年末調整での税額を再計算し、扶養控除の減少分を反映させます。
扶養家族の減少により、扶養控除の額が減少し、税額が増加する場合があります。
企業は扶養家族の減少にともなう税額の変動を正確に反映させるため、適切な対応が必要です。
甲欄適用者の従業員が6月2日以降に入社した場合
甲欄適用者が6月2日以降に入社した場合、月次減税の適用がありません。そのため、年調減税での対応が必要です。具体的には以下の手順で手続きを進めます。
入社時 | 月次減税の適用がないため、通常の手順で税額を控除します。 |
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年末調整 | 年調減税を実施し、定額減税を反映します。 |
6月2日以降に新たに入社した従業員に対しては、定額減税が適用されないため、企業は入社月からの給与に対して通常の手順で税額を控除し、年末調整で定額減税(年調減税)を実施します。
従業員の合計所得見積額が1,805万円を超えた場合
合計所得見積額が1,805万円を超えた場合には、定額減税の対象外となりますが、月次減税は適用されます。
月の給与からは減税を実施し、年末調整の際に、合計所得が1,805円を超えた場合に、月次減税した税額を徴収する必要があります。
高額所得者に対しては、定額減税の適用がありませんが、月次減税をする必要があるため注意しましょう。
年末調整における定額減税の具体例
定額減税の適用例をケース別に具体的に確認してみましょう。
- 単身者
- 配偶者が扶養対象の夫婦共働き世帯
- 配偶者が扶養対象外の夫婦共働き世帯
単身者
年収が800万円の単身者の場合、所得税からは3万円、個人住民税からは1万円の減税が適用されます。合計で4万円の税額軽減が実現します。単身者においては、扶養家族がいないため、減税額は本人の分のみが適用されます。
配偶者が扶養対象の夫婦共働き世帯
夫の年収が1,200万円、妻の年収が100万円で、妻が扶養対象となる場合、夫には所得税から6万円、住民税から1万円の減税が適用されます。
妻には、住民税から1万円の減税が行われます。合計で8万円の減税が適用され、税額の軽減が実現します。
配偶者の収入や扶養状況に応じた減税額を正確に計算し、年末調整で反映させましょう。
配偶者が扶養対象外の夫婦共働き世帯
夫の年収が1,200万円、妻の年収が500万円で、配偶者が扶養対象外の場合、夫には所得税から3万円、個人住民税から1万円の減税が適用されます。
そして妻も同様に所得税から3万円、個人住民税から1万円が減税されます。夫婦2人合計で8万円の減税が適用され、税額の軽減が実現します。
企業は、従業員の配偶者の年収も考慮しながら適切に税額を計算し、年末調整で正確に反映させる必要があります。
年末調整時の定額減税に必要な申告書など
年末調整において定額減税を適用するためには、正確な申告書と書類の管理が不可欠です。以下の書類を正しく管理し、適切な手続きが実施されるようにしましょう。
扶養控除等申告書
従業員の扶養家族の情報を記入します。扶養家族の追加や変更があった場合は、申告書を更新することで、正確な扶養控除の額が反映されます。
定額減税のための申告書
定額減税の適用を受けるために必要な申告書で、減税額が計算に用いられます。申告書には、従業員の所得や扶養状況が記載されており、減税の対象となるか否かが判断されます。
住民税の決定通知書
個人住民税の減税額を確認するための通知書です。企業は通知書をもとに住民税の税額を調整します。通知書には、前年の所得や扶養家族に基づく税額が記載されています。
企業は以上の書類を適切に管理し、年末調整の手続きに必要な情報を整える必要があります。
特、扶養家族の変更や新たな扶養対象の追加があった場合には、申告書の更新と提出を迅速に進めましょう。
また定額減税に関する情報は、従業員に対しても適切に説明し、理解を促すことが重要です。
まとめ
定額減税は、従業員の税負担を軽減し、生活の安定をはかるための重要な制度です。企業は従業員の扶養家族の変動、中途入社者、所得の変動に応じて適切に対応することで、年末調整をスムーズに進められます。
最新の情報を常に把握したうえで、従業員にていねいに説明すると、信頼性を向上でき、従業員の満足度も高められます。
年末調整の手続きに不明点がある場合は、専門家や税務アドバイザーに相談し、正確な対応を行うことが大切です。新しい定額減税制度の導入を通じて、企業全体の税務管理を円滑に進めていきましょう。