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給与明細の所得税と計算方法|記載項目や注意点、よくある疑問をわかりやすく解説

従業員に発行する給与明細には、労働時間や基本給などさまざまな項目を記載します。

そのうちの一つが、所得税に関する項目です。所得税は1年間の所得に対して課せられる税金です。毎月の給与明細に記載される所得税の金額には、どのような意味があるのでしょうか。

本記事では、給与明細に記載される所得税に関して、計算方法や注意点などをわかりやすく解説します。

 

目次アイコン 目次

    給与明細に記載される所得税とは?

    毎月の給与明細に記載される所得税は、あくまでも概算です。毎月の給与からは「源泉所得税」といわれる、概算の所得税を天引きし、年末調整で正しい金額になるよう精算します。

    所得税とは

    所得税とは、個人の所得に対して課せられる税金です。1月1日から12月31日までの1年間を対象とし、それぞれの所得に応じた税率をかけた金額が所得に課税されます。

    所得税は、会社から給与所得を得ている会社員だけでなく、事業所得を得ている自営業やフリーランスなど、一定以上の所得のあるすべての人が対象となる税金です。

    所得税の納付方法

    会社員の所得税は、会社が毎月の給与から天引きして、代わりに納付する決まり(源泉徴収制度)です。一方、個人事業主は年に一度確定申告を行い、それぞれの所得に応じた税額をみずから納付します。

    源泉所得税の計算方法

    給与明細に記載される源泉所得税の計算方法を紹介します。基本的な計算方法は、次の通りです。

    1. 課税対象額を計算する
    2. 1.を源泉徴収税額表にあてはめて源泉所得税額を求める 

    それぞれの手順について、以下で詳しく解説します。

    1.課税対象額を計算する

    まず、従業員一人ひとりの課税支給額を計算します。

    総支給額には、基本給のほかに各種手当も含まれますが、課税支給額とは、交通費や宿直手当など非課税の支給項目を除外したものです。

    課税支給額から社会保険料等(厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料・雇用保険料)を控除した額が、課税対象額です。

    2.源泉徴収税額表に当てはめて源泉所得税を求める

    次に、算出した課税対象額を、源泉所得税額表にあてはめて源泉所得税を求めます。源泉徴収税額表は、課税所得から源泉所得税を計算するための表で、毎年国税庁から公表されています。

    給与所得については「月額表」「日額表」の2種類があり、月次で支給される給与には月額表を使用します(日額表は、週払いや日払い等で使用)。

    参考:『No.2551 税額表の使い方と種類』国税庁
    参考:『令和6年分 源泉徴収税額表』

    本記事では月単位で給与が支給される場合に利用する月額表のみを取り上げます。月額表には「甲欄」と「乙欄」という大きな違いがあります。

    甲欄乙欄
    「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員にのみ適用左記以外の従業員
    年末調整あり年末調整なし

    年末調整では、基礎控除や扶養控除などの所得控除が生じ、税額が少なく計算されます。年末調整がある甲欄では、全体的に毎月の源泉所得税額が低く計算されるようになっています。また、扶養控除を反映させるため、扶養親族数に応じて源泉所得税が異なります。

    注意点

    扶養控除申告書は、従業員が主たる収入を得ている職場のみに提出するものです。提出がないのに甲欄を適用している場合は、税務調査で指摘を受けることがあるため、注意しましょう。

    また、賞与の源泉所得税には「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使用して計算します。

    参考:『賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和 5 年分)』国税庁

    給与所得の所得税の計算方法

    続いて、1年間の給与所得に対する所得税の計算方法を紹介します。

    1年間の所得税は、年末調整で計算され、源泉所得税との差額が精算されます。

    給与所得に対する所得税の基本的な計算方法は、次の通りです。

    1. 年間収入額を計算する
    2. 1から経費を差し引く
    3. 2から所得控除額を差し引いて課税所得を求める
    4. 3に所得税の税率をかけて所得税額を求める
    5. 4から税額控除額を差し引いて基準所得税額を求める

    それぞれの手順について、以下で詳しく解説します。

    1.年間収入額を計算する

    まずは、従業員一人ひとりの年間収入額を計算します。

    年間収入額とは、1月1日から12月31日までに支払った給与と賞与の合計額です。会社員のような給与所得者の場合は、1月から12月までの給料日に実際に支給された金額が対象です。

    たとえば、月末締め翌月20日払いの会社では、12月20日に支給される給与は前月の11月に働いた分です。12月に働いた分の給与は翌年1月20日に支給するため、その年の年間収入には含めない点に注意しましょう。

    給与には基本給のほかに各種手当も含まれますが、交通費や宿直手当など非課税の所得は除外して考えます。

    2.1から給与所得控除(経費)を差し引く

    次に、先ほど算出した年間収入額から経費、または給与所得控除を差し引きます。

    自営業者は仕入れ代や通信費などを経費として計上します。給与所得者が仕事に使った経費は「会社の経費」として扱われるため、個人の年間収入からは差し引きできません。

    その代わり、給与所得者は収入から給与所得控除を差し引くことができます。控除額は収入によって決まっているため、間違えないように注意しましょう。

    収入金額控除額
    ~162万5,000円55万円
    162万5,001円~180万円収入金額×40%−10万円
    180万1円~360万円収入金額×30%+8万円
    360万1円~660万円収入金額×20%+44万円
    660万1円~850万円収入金額×10%+110万円
    850万1円~195万円(上限)

    出典:『No.1410 給与所得控除』国税庁

    3.2から所得控除額を差し引いて課税所得を求める

    さらに、所得控除をして課税所得を算出します。

    所得控除とは、納税者の生活や家族構成などにあわせて、所得額から一定金額を差し引きできる制度です。

    社会保険料控除、扶養控除や社会保険料控除、地震保険料控除などさまざまな種類があるため、該当する従業員については忘れずに差し引きましょう。

    基本的に、所得控除は従業員からの申告に応じて対応します。従業員が自分にあてはまる制度を利用できるよう、企業側が詳細を周知することも大切です。

    参照:『No.1100 所得控除のあらまし』国税庁

    4.3に所得税の税率をかけて所得税額を求める

    3のステップで各種控除を差し引いた金額を「課税所得」として、所得税率を乗じることで所得税額を計算します。

    日本では、所得の金額に応じて税率が変動する累進課税制が採用されています。計算には国税庁が公表している「所得税の速算表」を使用すると便利です。

    課税所得金額所得税率控除額
    1,000円~194万9,000円5%0円
    195万円~329万9,000円10%9万7,500円
    330万円~694万9,000円20%42万7,500円
    695万円~899万9,000円23%63万6,000円
    900万円~1,799万9,000円33%153万6,000円
    1,800万円~3,999万9,000円40%279万6,000円
    4,000万円~45%479万6,000円

    出典:『No.2260 所得税の税率』国税庁

    速算表にあてはめると、課税所得が450万円の場合の所得税率は20%であるため、所得税額は以下のように計算できます。

     課税所得×所得税率−控除額=4,500,000×0.2−427,500=472,500(円)

    5.4から税額控除額を差し引いて基準所得税額を求める

    最後に、4で算出した金額から税額控除額を差し引きます。

    税額控除とは、所得税額から一定の金額を差し引ける制度です。住宅ローンを組んだときの住宅ローン控除や、国内企業の株式からの配当収入がある場合の配当控除などが該当します。ただし、配当控除を受けるためには確定申告が必要です。

    税額控除額の差し引き後、最終的に従業員が実際に納める所得税額を、基準所得税額といいます。2037年までは、「基準所得税×2.1%」の復興特別所得税が課せられるため注意しましょう。

    給与明細に所得税の記載は義務づけられている

    従業員を雇用するうえで欠かせない「労働基準法」には、給与明細の発行について明記されていません。

    しかし、所得税の規則を定める「所得税法」では、第231条に給与明細の発行義務が明文化されています。

    (給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)
    第二百三十一条 居住者に対し国内において給与等、退職手当等又は公的年金等の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その給与等、退職手当等又は公的年金等の金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、その支払を受ける者に交付しなければならない。

    引用:『所得税法 第231条』e-Gov法令検索

    労働基準法に基づく行政通達でも、使用者は従業員一人ひとりに対して、次の項目を記載した計算書を交付するよう記載されています。

    • 基本給や手当、そのほか賃金の種類ごとの金額
    • 源泉徴収税額と従業員の給与から控除した金額(健康保険料や厚生年金保険料など)
    • 口座振り込みや手渡しなどにより、実際に支払われた金額

    参照:『賃金の口座振込み等について』都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知

    所得税は、上記の項目のうち「源泉徴収税額と従業員の給与から控除した金額(健康保険料や厚生年金保険料など)」に該当するため、給与明細に記載しなければなりません。

    給与明細の記載項目|所得税は何に含まれる?

    従業員に発行する給与明細は、主に次の3つの要素で構成されています。

    • 勤怠
    • 支給
    • 控除

    所得税額は給与明細の控除項目に記載します。そのほかの記載項目も含め、詳しく解説します。

    勤怠

    給与明細の勤怠欄には、出勤日数や労働時間など、従業員の勤怠に関する情報を記載します。給与計算のもととなる大切な情報なので、正しく記載する必要があります。

    勤怠欄の主な記載項目は、次の通りです。

    • 出勤日数
    • 欠勤日数
    • 休日出勤日数
    • 有給休暇日数
    • 労働時間
    • 残業時間 など

    記載される勤怠情報は、給与締め日までの1か月分です。会社によって締め日が異なり、たとえば20日が締め日であれば、前月21日から当月20日までを対象とします。

    支給

    給与明細の支給欄には、従業員に支払った給与の内訳を記載します。

    支給欄に記載されるのは従業員への総支給額であり、税金や社会保険料を差し引く前の金額です。いわゆる「額面」とも呼ばれるもので、従業員が実際に受け取る「手取り金額」とは区別されます。

    支給欄の主な記載項目は、次の通りです。

    • 基本給
    • 残業手当
    • 休日出勤手当
    • 深夜手当
    • 通勤手当
    • その他手当

    基本給とは、各種手当を含まない給与のベースとなる金額のことです。

    残業した場合は残業手当、休日出勤した場合は休日出勤手当を、基本給に加算して支給します。

    控除

    給与明細の控除欄には、毎月の給与から差し引いた税金や社会保険料の金額を記載します。

    従業員の税金や社会保険料は、毎月の給与から天引きする方法で徴収し、会社が代わりに納付する決まりです。

    控除欄の主な記載項目は、次の通りです。

    • 健康保険料
    • 雇用保険料
    • 介護保険料(40歳以上のみ)
    • 厚生年金保険料
    • 住民税
    • 所得税

    健康保険料は協会けんぽであれば都道府県ごとに異なり、また健康保険組合ごとに異なります。雇用保険料は定期的に保険料率の見直しが行われます。

    住民税は年間所得が確定してからでないと計算できないため、新卒入社の従業員は、2年目から控除します。

    控除欄の所得税について

    所得税は年間所得に対して課せられるものです。会社員は年間所得をある程度推定できるため、毎月概算の金額(源泉所得税)を天引きし、所得が確定する年末に調整します。この調整が、いわゆる年末調整と呼ばれるものです。

    給与明細で所得税を天引きしなくてもよい?

    所得税は、基本的に給与(報酬)から差し引く必要があります。給料額が少ない場合は発生せず、給与明細にも所得税は記載されません。

    所得税が発生しない従業員の例
    「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している
    扶養親族なし扶養親族1名
    月給の課税対象額が88,000円未満月給の課税対象額が119,000円未満

    所得税が発生しないため、当然ながら給与明細への所得税に関する記載は不要です。

    給与明細に記載する所得税の注意点・疑問

    最後に、給与明細に所得税を記載する際の注意点や、よくある疑問について解説します。

    • 扶養配偶者や扶養親族によって控除額が変わる?
    • 課税か非課税かを間違えやすい所得は?
    • アルバイトでも所得税は引かれる?

    扶養配偶者や扶養親族によって控除額が変わる?

    課税所得から差し引きできる控除額は、扶養配偶者や扶養親族の人数によって変動します。

    扶養家族の人数は、子どもの独立やライフステージの変化などによって変わります。

    たとえば、年の途中で子どもが就職して扶養親族でなくなった場合、毎月の源泉所得税を増額しなければなりません。対応が漏れると、年末調整で年間の差額を徴収する必要があります。

    予想外の高額になると従業員から指摘を受ける可能性があるため、従業員の最新情報を把握できる体制を整備しておくことをおすすめします。

    課税か非課税かを間違えやすい所得は?

    従業員が受け取る金額の中には、所得税の対象外になるものもあります。非課税所得を間違えて課税所得に含まないよう注意しましょう。

    たとえば、次の所得は非課税です。

    • 通勤手当(通勤方法や条件、限度額による)
    • 遺族年金
    • 失業保険
    • 所得補償の保険金 など

    給付金は条件によって課税・非課税が決定します。

    アルバイトでも所得税は引かれる?

    アルバイトやパートでも、次の場合は所得税を天引きしなければなりません。

    • 年収が103万円を超える場合
    • 月収が8万8,000円以上の場合

    条件を下回る場合も、扶養控除等(異動)申告書を提出していなければ、乙欄で計算されるため、最低でも3.063%の所得税が課されます。

    アルバイト・パートは働き方や収入が人それぞれ異なり、所得税法上の扶養に入っているか否かも個別に把握する必要があります。

    所得税を正しく計算し、給与明細に記載を(まとめ)

    所得税とは、個人の1年間の所得に対して課せられる税金です。給与所得者は、会社が源泉所得税を毎月徴収し、従業員の代わりに国へ納める必要があります。

    また、労働基準法に基づく行政通達より、徴収した源泉所得税額は給与明細に記載しなければなりません。所得税の計算方法を理解し、正しい金額を記載しましょう。

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