みなし残業の上限とは? 45時間を超えられる? 36協定に基づくルールや間違った運用トラブルを解説

みなし残業を導入する企業は増えていますが、「上限はどれくらい?」「45時間を超えても大丈夫?」といった疑問を抱えている担当者もいるかもしれません。働き方改革により残業時間の上限が厳格化され、適切な制度設計は企業の信頼性にもつながります。
みなし残業は、給与計算をシンプルにする一方で、運用を誤ると労働基準監督署から指摘を受けるリスクもあるため注意が必要です。
本記事では、、36協定に基づく残業時間のルールから、みなし残業の仕組みや上限を解説します。記事を読むことで、みなし残業の基礎知識だけでなく、制度設計のヒントが得られるでしょう。将来のトラブルを回避し、安心して運用できる制度を構築するために、ぜひ最後までお読みください。
みなし残業制度の基礎をおさらいするには以下の記事もご確認ください。
→みなし残業制度とは? 会社側のメリットやデメリット、導入手順や注意点を解説


みなし残業の上限時間とは
みなし残業とは、企業が従業員へ支払う給与に、あらかじめ一定時間分の残業代を含める制度です。特定の職種や部署において、一定の残業時間が発生することを見越し、運用されています。
ただし、手当を支払っているからといって、無制限に残業を命じられるわけではありません。労働基準法に基づいて、従業員の健康を守るため残業時間の上限を守る必要があります。
みなし残業制でも、ほかの勤務体系と同様に、残業の上限時間を意識して制度を運用する必要があります。
みなし残業の上限は法律で定められていない
みなし残業の上限時間について、法律による明確な基準は定められていません。
みなし残業に関連する過去の判例によると、実際に設定されたみなし残業時間以外にも、割増賃金の妥当性や役職の有無などの事情を踏まえ、「有効」「無効」が判断されています。
2022年には大手IT企業の新卒初任給が、月42万円に引き上げられると同時に、みなし残業の相当時間が80時間と提示されたことが話題となりました。
一方で、みなし残業時間を月80時間相当とする規定が、公序良俗に違反すると無効になった事例もあります。
参考:『【事件名】 イクヌーザ事件(東京高裁平成 30.10.4 判決) 』広島県公式ホームページ
参考:『新卒採用募集概要』株式会社サイバーエージェント
ではみなし残業の時間数は、どのような基準をもとに設定すればいいのでしょうか。

36協定の上限である45時間に合わせるのが一般的
みなし残業についての法的な縛りはないものの、あまりにも長時間のみなし残業を設定するのは適切でないとみなされ、違法と判断されるおそれがあります。
近年の判例では、「36協定の上限に合わせること」や「36協定の内容」を基準とすることが求められています。
そもそも従業員に残業をさせるには、以下の2つの条件を満たすことが必須です。
- 就業規則などで「残業を命じることがある」旨を記載する
- 36協定を結ぶ
みなし残業制を導入するのであれば、36協定を必ず締結しなければなりません。
36協定を結んでいても、法律では時間外労働の上限が「月45時間まで」と決められています。そのため、みなし残業制度を運用する場合も、上限45時間を目安として設定するのが一般的です。
みなし残業の上限と36協定
みなし残業時間を超えて時間外労働が発生した場合は、超過分の残業代を別途支払う義務が発生します。割増率は通常の賃金に対して25%以上または50%以上です。
たとえば「みなし残業を月30時間」としているなか、実際には月40時間の残業をしたら、企業は追加で10時間分の割増賃金を支払わなければなりません。
上限時間や実際の労働時間を把握し、適切な運用を徹底することが重要です。
では36協定の上限である月45時間より、さらに多くの時間外労働が必要な業務状況になった場合、みなし残業制では特別な対応が必要なのでしょうか。
みなし残業の上限目安45時間を超過した場合
みなし残業制においても、特別条項付き36協定を締結すると、36協定の上限である45時間を延長して、時間外労働を命じられます。
ただし、制限なく何度も延長が適用できるわけではありません。業務の繁忙により、臨時的に45時間を超える場合に、1年に6回まで認められています。

時間外労働が月60時間超になった場合
あらかじめ設定したみなし残業時間を超えて、さらに時間外労働が月60時間を超えた場合は注意が必要です。
2023年4月から、猶予期間の経過により、大企業と同様に中小企業にも、50%の割増賃金が適用されるようになりました。
毎月の給与計算の起算日から残業時間数を加算し、60時間を超えたタイミングから、50%以上の割増率で割増賃金を算出する必要があります。
ただし、長時間におよぶ時間外労働は、従業員にとって精神的にも肉体的にも大きな負担となります。
あらかじめ設定したみなし残業時間の超過や、通常の36協定の上限である月45時間超の時間外労働、月60時間超の時間外労働を強いるような環境は見直しを検討しましょう。
参照:『月60時間を超える法定時間外労働に対して』厚生労働省
みなし残業時間とみなし労働時間
「みなし残業」と混同されやすい勤怠制度に「みなし労働時間」があります。
みなし残業は「実残業時間」にかかわらず、一定の残業時間分働いたとみなし固定残業代を付帯する制度です。
一方、みなし労働時間は「実労働時間」にかかわらず、一定の基準労働時間分働いたとみなす制度です。
みなし労働時間には以下の3種類があります。
- 事業場外みなし労働時間制
- 専門業務型裁量労働制
- 企画業務型裁量労働制
適用できる職種や導入手続きはそれぞれ異なります。みなし労働時間について詳しく知るには、以下の記事もあわせてご確認ください。
みなし残業の間違った運用・発生しやすいトラブル
みなし残業は、制度を正しく理解して適切に運用しないと、労務トラブルを引き起こすリスクが高い制度といえます。とくに、以下のような誤った運用が原因でトラブルが発生することがあります。防ぐための対策とあわせて確認していきましょう。
間違った運用1 | 求人票・や就業規則への表記が不十分 |
間違った運用2 | 残業代の未払い |
間違った運用3 | みなし残業代の単価を低く計算 |

求人票・就業規則への表記が不十分
みなし残業代に関する情報は、求人票や就業規則に、明確に記載されていなければなりません。金額や時間が記載されていないと、不備が原因で、労働者が制度内容を誤解し、トラブルに発展することがあります。
求人票や就業規則には以下の情報を必ず記載しましょう。
- みなし残業代の金額
- みなし残業代の計算方法
- 相当する残業時間数
- みなし残業時間を超えた分の追加支払いに関するルール
労働者との認識のズレを防ぎ、透明性を確保できます。
残業代の未払い
みなし残業として設定した時間数を超えて時間外労働をさせた場合は、別途手当を支払うことが必要です。残業代の未払いは、労働基準法第37条に違反する行為であり、重大なトラブルにつながります。
未払いが発生した場合、企業は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科されるおそれがあります。
就業規則に超過分の支払いルールを明記しておくと同時に、労働時間の管理を責任をもって行うよう注意しましょう。
万一、未払い残業代を請求されたときの対応を知るには以下の記事もご確認ください。
みなし残業代の単価を低く計算
みなし残業代を設定する際は、基本給をもとに割増賃金の時間単価を正確に計算する必要があります。
たとえば、以下の労働条件で、みなし残業代を3万円に設定した場合、みなし残業時間は10時間分に相当します。
- 基本給:38万4,000円
- 月の所定労働時間:160時間
- 基本給をもとにした時間単価: 2,400円(38万4000円÷160)
- 割増賃金の時間単価:3,000円(2400円×1.25)
- みなし残業代:30,000円(3,000円×10時間)
しかし、基本給の時間単価で見積もってしまうと、みなし残業代3万円を12.5時間分(30,000円÷2400円)と誤ってしまうケースもあるようです。
実際の割増単価を大幅に下回り、結果として労働基準法に違反となるため注意しましょう。
みなし残業制度を導入するメリット・デメリット
みなし残業制を導入する際は、誤った運用をしないよう、慎重に制度を設計する必要があります。
みなし残業制度のメリット・デメリットをあらためて確認し、制度設計の参考にしてください。
メリット | デメリット |
---|---|
・人件費の予算を立てやすい ・残業手当の計算の手間が省ける ・業務効率の改善につながる | ・従業員が残業しなくても毎月手当が発生する ・サービス残業や長時間労働につながる ・未払い残業代の発生が懸念される |
みなし残業制度を導入するメリット
みなし残業制は、手当の支払いにかかるコストをあらかじめ把握しやすく、人件費の予算を立てやすいという特徴があります。一定時間の枠内で残業代を一律に計算し支給できるため、賃金処理業務の手間が省けます。
従業員にとっても、残業の有無に関係なく、毎月安定した給与を得られるのはメリットです。効率よく仕事をこなした従業員が報われるという見方もあり、一人ひとりの業務効率が上がれば全体の改善につながるでしょう。
みなし残業制度を導入するデメリット
実際の残業がみなし残業時間を下回ったとしても、企業は一定の手当を支払う義務があります。
設定時間以下の残業で終える従業員が増えれば、かえって人件費がかさんでいるように感じるでしょう。
従業員のなかには、みなし残業時間を超過しても、すでに一定の手当を得ているため、追加の残業代を請求しにくいと感じる人もいるかもしれません。企業はサービス残業が発生しないように管理していく必要があります。
みなし残業制度は、従業員にあらかじめ設定した時間分の時間外労働を強制する制度ではないため、注意しましょう。
働き方改革の進展により、多様な働き方が広がっています。自社に合った勤務体系を見直したいとお考えなら、以下の記事も参考にしてください。
みなし残業の時間設定は45時間以下を目安に
みなし残業であっても、無制限に時間外労働を命じることはできません。運用するには36協定の締結が前提にあります。
みなし残業の上限に、明確な法規定はありませんが、36協定が定める時間外労働の上限とするのが妥当といえます。
36協定で締結できる法律上の時間外労働の限度は45時間なので、多くの会社で36協定の上限を「月45時間」と定めており、みなし残業の上限も45時間とするのが妥当です。
誤った運用で労働基準法に違反しないためにも、現状の労働時間データを収集し、妥当なみなし残業時間を設定しましょう。

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