隠れ残業とは? ステルス残業やサボり残業との違いや防止策を解説

長時間労働が社会問題として注目されるなか、「隠れ残業」への関心が高まっています。企業の労務管理においても、従業員の健康管理においても深刻な課題となっているのが現状です。
本記事では隠れ残業の定義から、似て非なる「サービス残業」や「サボり残業」との違い、発生する理由を解説します。人事労務担当者の方はもちろん、従業員一人ひとりが知っておくべき隠れ残業の基礎知識から対策まで、わかりやすくまとめます。働き方改革を推進するうえで役立つ情報が満載ですので、ぜひ最後までお読みください。


隠れ残業(ステルス残業)とは
隠れ残業とは、会社に申告した残業時間よりも長く働くことです。ステルス残業とも呼ばれています。予定していた勤務時間よりも長く働いていることが特徴です。
リモートワークやフレックスタイム制度が普及するなかで、勤怠管理があいまいになり、本来の労働時間が見逃されることがあります。表面的には労働時間が短縮されたように見えるものの、実際は長時間化しています。
隠れ残業は、法律違反や従業員の健康を損なうリスクに直結するため、企業としても早急な対策が必要です。
サービス残業との違い
サービス残業は、残業代の支払いを避けるために企業が意図的に残業時間を記録しない、または従業員に残業申告をさせない状況を指します。
一方、隠れ残業は必ずしも企業の意図的な関与があるわけではありません。
従業員自身の判断で残業時間を申告せずに仕事を続けるケースも多く見られます。
労働基準法では、いずれの場合も法令違反となる可能性が高く、企業は適切な労働時間管理を行う義務があります。
サボり残業との違い
サボり残業は、実際には必要のない残業を意図的にすることを指します。
具体的には、日中の業務時間を効率的に使用せず、意図的に仕事を残業時間帯まで引き延ばすような行動を意味します。
対して隠れ残業は、業務量が多いために時間内に終わらない、または目標達成のために余分な時間が必要となり、やむを得ず行われるケースが大半です。
残業管理に課題がある方は以下の記事もご確認ください。

隠れ残業(ステルス残業)が発生する主な理由
隠れ残業が発生する背景には、主に3つの要因があります。
- 働き方の多様化によって勤怠管理が複雑化している
- 労働時間が強制的に制限されている
- 業務量や目標設定が適切でない
複数の課題がからみ合っているため、さまざまな視点から確認することがポイントです。一つずつ確認していきましょう。
働き方の多様化によって勤怠管理が複雑化している
隠れ残業は、柔軟な働き方の普及にともない、一律的な勤怠管理が難しくなったことにで発生しています。
自宅での業務が中心であるリモートワークは、オフィスのように出退勤時間を厳密に管理できません。
またフレックスタイム制では、自分のペースで働けるぶん、実際にどれくらいの時間働いているのか企業側が把握しにくい傾向にあります。
人の目が届かなくなったことで、自発的に労働時間を延長してしまうケースも隠れ残業の温床となっています。
隠れ残業の防止には、柔軟な働き方を維持しながらも、勤怠管理ルールの再構築が必要となるでしょう。
労働時間が強制的に制限されている
隠れ残業の原因は、労働を中断しなければならない状況と、業務量の不均衡にあります。
働き方改革関連法により時間外労働の上限が規制され、長時間労働を防ぐ仕組みが導入されました。
しかし、法律や社内ルールで時間外労働が制限されても、業務量が今までと変わらなければ、従業員は隠れ残業をせざるを得ません。
業務量が以前と変わらず多いまま、働ける時間に限りがある場合、従業員は時間に追われながらストレスを抱えることにもなります。
業務量や目標設定が適切でない
従業員に課される業務量や目標設定が適切でない場合も、隠れ残業が発生しやすくなります。
厳しいノルマや短期間でのプロジェクト遂行は、時間外労働が増える原因となるためです。
達成基準が現実的でない場合、従業員に無理をさせ、モチベーションも落としてしまうかもしれません。
また特定の人に対する過剰な業務量やチーム内での負担の偏りも、同様に隠れ残業を招く原因となります。
隠れ残業を防ぐには、適切な目標設定と業務配分の再検討が必要です。定期的に業務量を調整して、各従業員が過度な負担を抱えないように配慮しましょう。
隠れ残業(ステルス残業)によって生じるリスク
隠れ残業は従業員の健康と、企業経営の両方に大きな影響を与えます。
厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」によると、長時間労働による健康障害の労災請求件数は年々増加し、2023年度は過去最多を記録しました。
企業のコンプライアンス違反として労働基準監督署から是正勧告を受けるケースもあるため、とくに注意したいリスクを次に解説していきます。
参考:『令和5年度「過労死等の労災補償状況」を公表します』厚生労働省
従業員のワークライフバランスがくずれてしまう
隠れ残業は業務とプライベートの境界線があいまいになることが問題です。放置すると従業員のワークライフバランスが大きくくずれるリスクがあります。
表面上はタイムレコーダーの記録が所定労働時間内に収まっていても、実際には勤務時間外に業務を続けているケースも少なくありません。
その結果、プライベートの時間が削られて家族や友人との交流が減り、リフレッシュできないままストレスが蓄積します。
十分な休息が取れないままでいると、やがて「仕事に追われている」感覚が強まり、うつ病やバーンアウトといった深刻な問題を引き起こすリスクがあります。
モチベーションや生産性の低下を招いてしまう
隠れ残業が常態化すると、従業員のモチベーションが低下し、 「自分の労働が正当に評価されていない」 という不満を持ちます。
とくに過大な業務量や非現実的な目標設定がある場合、従業員はどれだけ努力しても成果が認められないと感じてしまうでしょう。
悪循環を防ぐには、適切な業務量を与え、現実的な目標を設定することが重要です。
健全に働ける環境を整えることが、企業全体の生産性とパフォーマンスの向上につながります。
企業が適切な業務量を把握できなくなる
隠れ残業を放置すると、企業は実際の業務量を正確に把握できず、業務効率化やリソースの適切な配分を考えられなくなります。
定時に退勤したと記録されていても、実際には時間外に無報酬で業務を続けている場合、本人への負荷が見えにくいからです。
企業は適切な労務管理のために、どの従業員に業務が集中しているのか、または過労状態にあるのか、特定する必要があります。
隠れ残業を防ぐためには、従業員が労働時間内で無理なく業務を遂行できるように、業務量を見直し、適切な負荷配分を行うことが必要です。
賃金未払いとして法律違反とみなされるケースもある
隠れ残業が外部に発覚すると、企業は残業代未払いで労働基準法違反に問われるリスクがあります。
法定労働時間を超える業務に対しては、労働基準法により、割増賃金の支払いが必要です。違反した場合は、6か 月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
記録上は労働が行われていないように見える「隠れ残業」であっても、実際は働いているのであれば、残業代を支払わなければなりません。
従業員の意思による隠れ残業であっても、未払い賃金の請求訴訟に発展し、企業が責任を問われるケースもあります。
リスクを回避するには、労働時間の管理を徹底し、従業員が正確に勤務時間を記録できる透明性のある勤怠管理が不可欠です。

隠れ残業(ステルス残業)を防止するための5つの対策
隠れ残業を防止するためには、企業として主に5つの対策をとる必要があります。
- 労働時間のルールを共有する
- 固定業務の見直しと効率化をはかる
- 従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
- 目標設定や業務分担が適切かを見直す
- 勤怠管理システムを活用する
企業の労働生産性を維持し、法的責任を問われないためにも、できることから対策をしていきましょう。
労働時間のルールを共有する
隠れ残業を防ぐためには、勤怠管理について明確なルールを策定し、全従業員に周知することが重要です。
ルールのあいまいさは、隠れ残業を見過ごす原因となるため、労働時間の開始・終了時刻、休憩時間の取り方、時間外労働の手続きや条件などを明示します。
また、従業員が自主的に労働時間を超えて働くことがないよう、無理のない範囲で業務量を調整し、定期的に指導しましょう。
透明性のある勤怠管理により、従業員が安心してルールを守れる環境を整えることで、隠れ残業が発生しない文化を根づかせることが可能です。
固定業務の見直しと効率化をはかる
隠れ残業を防ぐためには、従業員が担当している固定業務を定期的に見直し、効率化をはかることが重要です。
業務のなかには自動化が可能なタスクや、必要性が薄れたタスクもあるはずです。業務を洗い出して業務プロセスを再構築することで、効率的に作業を進められるでしょう。
また、あらためて業務の優先順位を明確にすることも重要です。無駄な作業や優先度の低い業務に時間を割くことがなくなると、限られた時間内でコア業務に集中できます。
固定業務の見直しによる効率化で負担を減らし、隠れ残業をさせない仕組みをつくりましょう。
従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
じつは従業員同士のコミュニケーション促進も、隠れ残業を防ぐ重要な対策の一つです。
日常的に業務の進捗や問題点を共有することで、滞っている作業や特定の従業員に偏った業務負荷を早期に発見できます。
とくにリモートワークやフレックスタイム制度を導入している企業では、チーム全体で情報を共有しやすい環境整備がより一層求められます。
ビデオ会議やチャットツールなどを活用し、コミュニケーションの質を高めることで、業務の進捗がスムーズになり、隠れ残業の減少につながるでしょう。
目標設定や業務分担を見直す
隠れ残業を防ぐためには、現実的な目標設定と公平な業務分担がポイントです。
非現実的な目標や期限が設定されると、プレッシャーで追い込まれた結果、メンバーに隠れて働く者もあらわれるでしょう。
隠れ残業が発生しやすい状況を変えるには、業務の進捗状況をチーム全体で共有し、負担が偏らないように業務を調整する必要があります。そのために管理職の役割は大きいです。チーム全体でバランスの取れた業務配分ができるように、環境を整えましょう。
勤怠管理システムを活用する
勤怠管理システムを上手に活用することで、従業員の出退勤や労働時間を正確に把握し、隠れ残業防止の助けとなります。
アナログな勤怠管理に比べて勤怠管理システムは、一人ひとりの勤怠実績をタイムリーに可視化しやすくなっています。
パソコンのログ管理を同時に行えば、勤怠記録との相違が判別でき、隠れ残業を特定できるでしょう。無駄な残業が発生している場合は、アラート機能で通知することも可能です。
勤怠管理システムは、勤怠実績の透明性を確保し、長時間労働の改善にも役立つ重要なツールです。

勤怠管理システムを活用して隠れ残業を防止(まとめ)
隠れ残業は、企業や従業員にとってさまざまなリスクを負う問題です。タイムレコーダーに記録しない時間外労働が放置されると、従業員の健康を損ねるだけでなく、法令違反や生産性低下といった問題に発展します。
また,、サービス残業やサボリ残業のように似ている言葉を混同せず、原因を本質的に捉えた対策が必要です。
勤怠管理システムは、隠れ残業を防ぐための有効なツールです。従業員の出退勤時間や労働時間を正確に把握しやすい機能が搭載されており、リモートワークやフレックスタイム制といった柔軟な働き方にも対応しています。労働時間の透明性を確保し、長時間労働時間が発生した際にはアラート機能で早期の対応が可能です。
勤怠管理システムを活用することで、隠れ残業のリスクを減らし、従業員が健全に働ける職場環境を実現できるでしょう。労働時間の適切な管理は、従業員の健康を守り、組織全体のパフォーマンス向上に取り組む重要な取り組みの一つです。
隠れ残業を防ぎ、企業の成長を支えるためにも、勤怠管理システムの導入と活用を積極的に進めていきましょう。
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