サービス残業とは|当たり前? 黙認は違法? なくならない理由と常態化を防ぐ対策
サービス残業とは、本来支払われるべき残業代が支払われていない「時間外労働」です。正式には「一時不払残業」といい、労働基準法で禁止されています。サービス残業が、今も当たり前に残っている企業もあるかもしれませんが、背景には多様な労働課題があります。
本記事では、サービス残業の実態や違法性を解説し、なくならない理由と社内へ定着を防ぐ対策まで紹介します。
サービス残業とは?
サービス残業とは、従業員が勤務時間外に働いても、超過分に対する手当が支払われていない状態を指します。
正式には「一時不払残業」といい、労働者にとっては「無給労働」つまり「タダ働き」です。
サービス残業につながる行動例 |
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・始業前や終業後に業務を進めて残業を申告しない ・自宅に仕事を持ち帰る ・勤務時間外に打ち合わせを実施して残業扱いにしない ・実際働いていた時間より少ない時間を申告する |
サービス残業が暗黙の了解となっている職場もあるかもしれませんが、常態化すると従業員のワークライフバランスが乱れ、長時間労働による健康リスクを高めます。
企業は労働時間の管理を徹底したうえで、従業員と協力して環境を改善し、サービス残業の解消に努めなければなりません。
サービス残業の実態
厚生労働省の2023年のデータによると、同年に労働基準監督署が扱った「サービス残業(賃金不払)」事案件数は21,349件と報告されています。対象となる労働者の数は181,903名でした。
昨年のサービス残業(賃金不払)データと比べると、件数は818件の増加、労働者数は2,260名の増加となっています。
参照:『賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)』厚生労働省
サービス残業が常態化しやすい業界・業種と理由
サービス残業はさまざまな業界・業種において確認されており、なかでも以下の4つの業回は、特に常態化しやすいといわれています。
飲食業界 | 決まった時間に退勤しにくいため |
IT業界 | 納期に間に合わせることが必要であるため |
建設業界 | 天候などによって予定が変わりやすいため |
運送業界 | 慢性的な人手不足が続いているため |
以上のように「勤務時間の遵守が難しい」「人手不足が続く」といった特徴がある業界・業種は、サービス残業が発生しやすい傾向があります。
サービス残業は当たり前ではない
サービス残業が常態化していると、意識が薄れてしまうかもしれませんが、サービス残業は決して「当たり前」ではありません。労働基準法違反となるため、企業は罰則を科される可能性があります。
サービス残業を強要された従業員は、断る権利があり、残業をするのであれば、残業代を請求する権利があります。「みんな当たり前にやっている」という考えは通用しません。
企業は長時間労働の原因を調査し、サービス残業の撤廃を目指し、全社的に取り組む必要があります。
サービス残業の違法性・罰則|どこまでが違反?
割増賃金を支払わない残業は、サービス残業であり違法です。同法第37条第1項には、法定労働時間を超える労働・休日出勤・深夜労働に対して、通常の賃金に対して割増賃金の支払いが義務づけられています。
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
引用:『労働基準法』e-Gov 法令検索
労働基準法第37条に違反した企業は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられる可能性があります。
ただし、どこからどこまでがサービス残業に当たるのか、判断が難しい場面もあるでしょう。サービス残業は上司から指示される場合はもちろん、従業員が勝手な判断で行っている場合も違法とみなされる可能性があります。
サービス残業の違法性を判断する基準は、以下の通りです。
違法 | 違法ではない |
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・自主的なサービス残業 ・サービス残業の黙認 ・能力不足を理由としたサービス残業 | 自主的なスキルアップ |
それぞれの基準、違法性について詳しく解説します。
自主的なサービス残業も罰則の可能性がある
サービス残業は使用者が関与せず、労働者の自主的な「隠れ残業」によって発生しているケースも考えられます。
使用者が労働者に強制的に課したサービス残業だけでなく、自主的な残業においても、企業は罰則を受ける可能性があります。
使用者が「サービス残業を命令しているわけではないから大丈夫」という認識を持っているとしたら誤りです。
サービス残業の黙認は違法
労働者のサービス残業を、企業が把握していながら、残業代を支払っていないのも違法です。
また、テレワークにおいて、従業員が勤務時間外で作業していることに気づいた場合も、オフィス内の労働と同様に、適切な残業代を支払う必要があります。
能力不足を理由としたサービス残業は違法
たとえ労働者の業務遂行能力が、不足していたとしても、サービス残業をさせる理由にはなりません。
たとえば「ほかの社員であれば、1日で終わる業務が終わらなかった」という理由で、残業代を支給しないのも、法的に認められないでしょう。
労働基準法では、すべての労働時間に対して、適正な割増賃金の支払い義務を規定しています。労働者の成果に応じて、残業代に差をつけることはできません。
自主的なスキルアップは違法ではない
あくまでも従業員が、自身の能力を高めるために取り組む学習や訓練は、業務に含まれないため、サービス残業とはみなされません。
具体的には「特に会社から指示によるものではない業務関連の勉強を自主的に行う」「帰宅後に語学の勉強をする」などが挙げられます。
サービス残業を招く勤怠ルール違反の例
サービス残業が常態化している理由には、間違った方法で勤怠管理を行っているケースが考えられます。
何気なくやってしまいがちな勤怠ルール違反の例を6つ取り上げて紹介します。
- 出退勤のごまかし
- 残業時間の切り捨て、過小申告
- 始業前の業務
- 名ばかり管理職
- 時間外の打ち合わせ
- 仕事の持ち帰り
出退勤のごまかし
サービス残業が常態化する原因として、出勤退勤時間を事実と異なる時刻でタイムカードなどを記録し、本来よりも少ない残業時間を申告する従業員がいます。
会社からの指示による虚偽申告だけでなく、自分の評価が下がらないようにするため、自主的にサービス残業を行ってしまうケースです。
残業時間の切り捨て、過小申告
残業時間を分数まで数えずに切り捨てて、適切な時間を申告しない従業員がいることで、サービス残業につながります。残業時間は1分単位で正確に数えなければならず、15分単位の勤怠の丸めは違法です。
始業前の業務
始業前に仕事を開始することも、よくあるサービス残業の一例です。
従業員が、朝早く出社してメールの確認や資料の準備をするのが当たり前であり、早出残業代が未払いの場合は、違法とみなされる可能性があります。
定時前の業務が評価される環境であると、多くの従業員に波及してプレッシャーがかかり、長時間労働が常態化してしまうでしょう。
名ばかり管理職
「名ばかり管理職」によるサービス残業も深刻な問題です。管理監督者は原則として、労働基準法における時間外労働や休日労働の規定が適用されません。
しかし実際には、管理監督者を名乗りながら、役職権限がなく地位に相応しい待遇を受けていない「名ばかり管理職」が存在します。
社内では管理監督者と位置づけられていても、働き方が労働者と変わりない人が、残業して手当の支給を受けていない場合、サービス残業に該当します。
時間外の打ち合わせ
打ち合わせも業務の一部であり、所定労働時間後から開始される会議も、労働時間に含まれます。労働者を時間や場所で拘束しているため、時間を記録し、割増賃金を支払う必要があります。
退勤打刻後の社外打ち合わせであっても、オフィスにいないからといって例外ではなく、サービス残業にあたります。「打刻後だから残業代を払わなくてもよい」と判断するのは誤りであり、直行直帰の場合は適切な運用ルールや外で打刻できる仕組みが必要です。
仕事の持ち帰り
残業禁止を言い渡されたにもかかわらず業務効率化施策を実施しなかったり、以前と変わらない業務量を完了しなければならなかったりする企業で働く際は、仕事を持ち帰ってしまう社員が出てくることもあります。
終わらなかった仕事を持ち帰るケースの多くは、そのぶんの残業代が支払われなければならないので、サービス残業としてみなされるのです。
サービス残業が見過ごされやすい勤務形態
サービス残業は、たとえ企業が気づかなくても法的に問題がある状態です。見過ごされてしまうのは、従業員の働き方が影響している可能性もあります。
サービス残業が常態化しやすい「みなし残業代制度」と「裁量労働制」について、解説します。
みなし残業代制度
「みなし残業代制度」とは、あらかじめ固定の残業代が、賃金の中に含まれている制度です。
企業にとっては「残業代の計算がシンプルになる」、従業員にとっては「残業をしなくても一定の残業代が継続的に支給される」といったメリットがあります。
一方で、固定残業代分の時間を超過した場合に申告しにくく、サービス残業の温床となる場合があります。
裁量労働制
「裁量労働制」とは、実際に働いた実働時間ではなく、あらかじめ定めた一定時間分、働いたとみなす制度です。従業員が自分の判断で効率よく働け、柔軟な働き方を実現できるのがメリットです。
裁量労働制は、あらかじめ労働時間が決められているため、原則として残業が発生しないと考えられています。しかし、裁量労働制であっても、際限なく長時間労働ができるわけではありません。
みなし時間が法定労働時間を超えた場合など、一定の条件を満たすと残業代の支払いが必要です。制度を誤解していると、サービス残業を発生させてしまう可能性があるため注意しましょう。
サービス残業がなくならない理由・原因
サービス残業はなぜなくならないのでしょうか。企業が抱える課題・主な原因を3つ取り上げて解説します。
- 恒常的な忙しさ
- 職場の雰囲気
- 経営者の無理解
恒常的な忙しさ
従業員一人ひとりが多くの業務を抱え、社内全体が常に忙しい状態にあることが、サービス残業がなくならない原因の一つです。そもそも残業をしなければ業務が終わらない状況は望ましいとはいえません。
採用による人員の増加や業務プロセスの見直しといった対策が取られない限り、忙しさは改善せず、サービス残業を完全になくすのは難しいでしょう。
職場の雰囲気
職場全体に「サービス残業は当たり前」という雰囲気が漂っていると、社員たちがサービス残業を拒否しにくくなります。上司が積極的にサービス残業をしている企業も、その影響が部下にも及んでしまうでしょう。
職場全体に「サービス残業は当たり前」という雰囲気があると、従業員がサービス残業を拒否できません。社内の雰囲気が無言の圧力となります。
特に上司が積極的にサービス残業をしていると、部下も「自分もやらなければ」と気を遣ってしまうでしょう。評価への影響を気にして断れないケースもあり、サービス残業の根深い問題となっています。
経営者の無理解
経営者側に「サービス残業は違法である」という認識が欠けていることもあります。しかし、そういった場合も罰則を受けることは変わりません。
そもそも経営層に「サービス残業」に対する危機意識が欠けている場合があります。暗黙の了解で労働を強制して、生産性を確保しようとする人もいるかもしれません。
労働生産性向上への過度な追求により、環境改善が後回しにされてしまうと、労働者の負担は増えるばかりです。
サービス残業の問題は経営が率先して取り組まなければならない課題といえます。
サービス残業を企業が放置するリスク
サービス残業の問題は、個人の健康を損なうだけでなく、放置すると企業にもさまざまな社会的リスクが生じます。リスクが積み重なると、最終的に自社の信頼性が低下するおそれもあります。
- 罰則の対象となる
- 情報漏えいの可能性がある
- 適正な人事評価を妨げる
罰則の対象となる
サービス残業は違法なので、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。労働関係法令に違反した企業として企業名が公表されることもあると覚えておきましょう。
サービス残業が発覚すると、労働基準法に定める、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに労働基準監督署により、企業名が公表されて、社会的な信用を落としてしまうリスクもあります。
悪評が広がり、勤怠管理が適切に運用されていないイメージが定着すると、採用活動や営業活動に影響があるでしょう。
情報漏えいの可能性がある
自宅への持ち帰りなど、オフィス外でのサービス残業には、情報漏えいのリスクも潜んでいます。
たとえば、セキュリティ環境が整っていない場所で作業を進めると、ウイルス感染により顧客情報や社内機密が流出するかもしれません。
また、カフェや公共の図書館などで業務を行うと、意図せず第三者にデータを見られる可能性も高まります。
個人情報の情報漏えいが発生すれば、法的な罰則だけでなく、取引先との関係にも大きな損失をもたらし、企業イメージの低下につながるでしょう。
適正な人事評価を妨げる
サービス残業によって、本来の業務時間外で業務が行われると、正確な労働時間の把握が困難になり、成果が正しく評価できません。
定時内で働く生産性の高い従業員が正しく評価されず、不公平感やモチベーションの低下を招くリスクがあります。
本来であれば、適正な成果評価により、一人ひとりに適した育成計画を立てる必要があります。
しかし、サービス残業が常態化することで、正確な評価ができず、戦略的な人材育成ができないと、組織全体の成長が鈍化するおそれがあります。
サービス残業の常態化を防ぐ対策
サービス残業を当たり前にしないために、有効な3つの対策を紹介します。
- 客観的な方法での適正な勤怠管理
- 制度の適正な運用
- 残業を減らす取り組み
以上を取り入れてサービス残業の防止に向けた職場づくりを目指しましょう。
客観的な方法での適正な勤怠管理
サービス残業をなくすには、まずは勤怠管理の制度を高め、客観的な手段を用いた仕組みの整備が必要です。自社の運用ルールに適した勤怠管理システムを活用して、出退勤時間や労働時間を正確に記録しましょう。
労働時間の正確な把握により、サービス残業や過剰労働のリスクが軽減されます。また、定期的にデータを確認し、システムと実際の状況が一致していることを確認することも重要です。
制度の適正な運用
サービス残業防止のために、柔軟な働き方を実現する制度として「変形労働時間制」や「フレックスタイム制」の導入も一案です。
導入する場合は、制度の内容を従業員にわかりやすく周知し、運用後も定期的に意見を聞くことで、適切な制度運用を推進する必要があります。
残業を減らす取り組み
サービス残業の削減には、そもそも残業自体を減らす取り組みが必要です。具体的には以下の対応が考えられます。
- ノー残業デー
- 〇時以降はパソコンの電源オフ
- 申請なしの残業禁止
常態化しているサービス残業をなくすには、職場全体の意識改革が必要です。残業を減らし効率的に仕事をこなす姿勢を評価する環境を構築しましょう。
サービス残業を当たり前にしない勤怠管理を
サービス残業とは、割増賃金を支払わずに従業員に残業をさせる違法行為です。
「残業は当たり前」という風潮の職場で発生しやすく、恒常的な忙しさや経営者の無理解など複合的な要因が影響しています。
サービス残業と知りながら見てみぬふりを続けると、最終的に企業全体の信頼性を低下させてしまうリスクが考えられます。
厳格な勤怠管理や、業務に適した勤務制度の導入を通して、サービス残業をなくす努力が必要です。
勤怠管理・残業管理を徹底するとともに、残業自体を減らし、労働環境の改善を目指しましょう。
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