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残業を15分単位で計算するのは違法|正しい計算方法を解説

企業は従業員の残業時間を把握する必要があります。そして、残業時間をもとに残業代を支払わなくてはいけません。なかには、残業時間を15分単位で計算しようと考えている企業もあるのではないでしょうか。

本記事では、15分単位で残業時間を計算しても問題ないのか解説します。最後まで読むと、残業に対して適切な対応方法がわかるため、ぜひ参考にしてください。

※本記事の内容は作成日現在のものであり、法令の改正等により、紹介内容が変更されている場合がございます。

残業を15分単位で計算するのは違法|正しい計算方法を解説
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    15分単位で残業時間を計算するのは原則として違法

    10分や15分単位など、端数を切り捨てて残業代を計算するのは原則違法です。労働基準監督署の行政指導や罰金の対象となる可能性があります。

    1分単位で計算することが基本

    原則、残業代は1分単位で計算する必要があります。ただし、事務を簡略化する目的(労働者に不利にならない場合)であれば、残業時間の端数を処理しても問題ありません。

    切り捨ては違法になる

    労働者の不利になるような切り捨ては法律違反です。15分などの残業時間を切り捨て処理していると、労働者から未払いの残業代の支払いを求められるなど問題になる可能性があります。

    実際過去に、5分未満の残業代を切り捨てたことで、裁判沙汰になった事例があります。人手不足が深刻化している近年、企業イメージの低下は致命的です。ただし、切り捨てが認められるケースもあります。

    違反時の罰則について確認

    残業時間を切り捨てた場合、以下の2つの法律に違反する可能性があります。

    労働基準法第24条賃金全額払いの原則
    働基準法第37条時間外・休日・深夜労働の割増賃金支払義務

    「賃金全額払いの原則」に違反すると、労働基準法第120条により、30万円以下の罰金が科せられます。また「時間外・休日・深夜労働の割増賃金支払義務」に違反した場合は、労働基準法第119条により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

    残業時間を切り捨ててもよいケースもありますが、法律に触れないように慎重に判断しましょう。

    参考:『労働基準法』e-Gov法令検索

    残業時間を切り捨ててもよいケースとは

    残業時間を1か月単位で集計する場合は、切り捨てが認められます。ただし、切り捨て・切り上げ、いずれか片方だけ行うことはできません。社内で統一ルールを設ける必要があります。

    特定の個人や会社が有利に働くように残業時間を切り捨てると、従業員に不利な運用を取り入れていると見なされる可能性があるため注意しましょう。

    残業時間の端数処理が容認されるケースもある

    残業時間の端数処理が容認されるケースは次の2つです。

    • 1時間未満の労働を1時間単位で計算する場合
    • 1円未満の端数がある場合

    上記のケースで端数処理を行ったとしても、労働基準法第24条や第37条に触れることはありません。理由は、従業員に不利に働かず、なおかつ事務処理の手間を省けるためです。

    参考:『3.残業手当等の端数処理はどうしたらよいか』厚生労働省

    1.1時間未満の労働を1時間単位で計算する場合

    1か月単位で労働時間を集計した結果、1時間未満の端数が生じるケースでは、切り捨てと切り上げのいずれかの手段が認められます。具体的には、30分未満は切り捨て、30分以上は切り上げです。

    たとえば、1か月の残業時間が10時間20分だと仮定します。この場合は20分を省いて、残業時間を10時間で計算しても問題ありません。反対に、1か月の残業時間が10時間40分だと仮定します。この場合は、残業時間を11時間として計算しても問題ありません。

    2.1円未満の端数がある場合

    1時間単位で残業代を計算した結果、1円未満の端数が出た場合、50銭未満は切り捨ててそれ以上の切り上げが認められます。たとえば、残業代を1時間単位で計算した際の金額が、1,675.35円だと仮定します。この場合、残業代を1,675円で計算しても問題ありません。

    ただし、1円未満の金額であっても一律に切り捨てると、会社側が利益を得るために行っているとみなされ、違法行為となる可能性があります。端数を切り捨てる場合は、同様に50銭以上を切り上げる対応をしましょう。

    参考:『3.残業手当等の端数処理はどうしたらよいか』厚生労働省

    残業代の適切な計算方法を解説

    残業代を計算する方法は次の通りです。

    1. 1時間あたりの基礎賃金を計算する
    2. 残業時間を計算する
    3. 割増率を使って残業代を計算する

    それぞれ解説します。

    1.1時間あたりの基礎賃金を計算する

    1時間あたりの基礎賃金は「(計算した賃金の総額 – 除外賃金)÷ 所定労働時間」で計算できます。所定労働時間とは、雇用契約書で定められた労働時間を指します。該当する除外賃金は次のような項目です。

    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われる賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

    諸手当を引いた賃金が220,000円で1か月の所定労働時間が160時間の場合、1時間あたりの基礎賃金は次の式で計算します。

    220,000(円)÷160(時間)=1,375円(1時間あたりの基礎賃金)

    2.残業時間を計算する

    残業時間は、1か月のトータル労働時間から所定労働時間を引いて求めます。そして、次の残業の種類に応じて残業代が異なります。

    法定内残業法定労働時間を超えない範囲での残業
    法定外残業(時間外労働)法定労働時間を超える残業
    休日労働法定休日に発生した労働
    深夜労働22〜5時に発生した労働

    注視すべきポイントは、法定内残業です。法定内残業とは、法定労働時間(1日8時間/1週間40時間)内で発生した残業です。

    たとえば、所定労働時間が7時間の従業員が8時間の労働を行ったとします。この場合、所定労働時間を超えてはいますが、法定労働時間を超えていません。このように所定労働時間を超えて、法定労働時間内の残業を法定内残業と呼びます。

    法定内残業は法律により割増率が定められていません。そのため、通常の労働時間の賃金で残業代を計算しても問題ありません。ただし、雇用契約書や就業規則に法定内残業の割増率が記されている場合は、それに沿って計算します。

    3.割増率を使って残業代を計算する

    残業代を計算するには次の式を利用します。

    1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間数=残業代

    割増率は残業の種類によって異なります。

    【残業の種類別】割増率一覧表

    残業の種類ごとにより割増率を次の表にまとめましたので参考にしてください。

    残業の種類割増率
    法定内残業通常労働の賃金orあらかじめ定められた法定内残業の割増率で計算
    法定外残業(時間外労働)1.25倍以上(法定外残業が1か月で60時間を超えた場合は1.50倍以上)
    休日労働1.35倍以上
    深夜労働(深夜手当)1.25倍以上

    1時間あたりの基礎賃金が1,375円で、40時間の法定外残業が発生した場合の計算式は次の通りです。

    1,375円(円)×1.25倍×40(時間)=68,750(円)

    なお、割増率は残業の種類ごとに合算する必要があります。たとえば、休日労働に深夜労働が重なった場合の残業代は、1時間あたりの賃金に1.60倍以上をかけます。

    企業が注意したい残業時間の対応

    次のケースや制度ごとの残業時間の対応方法を解説します。

    • 朝礼・終礼
    • 遅刻・早退
    • 店舗が閉店後の労働
    • 着替え
    • フレックスタイム制
    • 裁量労働制

    正確に残業時間を計算するためにも、それぞれの状況に応じた対応をおさえておきましょう。

    朝礼・終礼

    所定労働時間が9〜18時であっても、朝礼や終礼により、早めに出勤したり定時より遅く退勤したりするケースがあります。

    8時55分〜9時まで朝礼を実施した場合、5分の労働時間を足して計算しましょう。終礼が所定労働時間よりあとに設けられているのであれば、同様に労働時間として計算する必要があります。朝礼や終礼にかかった時間を切り捨てて処理することは認められないため注意しましょう。

    遅刻・早退

    労働時間が予定よりも少なくなった場合は、その分を差し引いて計算します。たとえば、所定労働時間が9〜18時で、体調不良により17時50分に退社したと仮定しましょう。この場合は本来の労働時間から10分差し引いて計算します。

    退社時刻を17時45分で計算する(15分単位での切り捨て)ことは認められません。

    店舗が閉店後の労働

    店舗が開業した後に発生する労働時間も、1分ごとに計算することが必要です。

    たとえば、閉店後の作業時間や翌日の準備時間などです。労働時間を正確に記録するためには、従業員には仕事が完了した時点で退勤打刻してもらうなどの対応が必要でしょう。閉店後の作業時間を労働時間に含めないなど、独自のルールを定めた場合は違法になるため、注意しましょう。

    着替え

    会社によっては、制服に着替えて業務する必要があるでしょう。安全性を考慮した結果など、業務上必要な着替えの時間は、基本的に使用者の指揮命令下にあると判断され、労働時間に含まれます。

    個別の実態によりますが、着替えを含む作業開始前の時間も、労働時間に該当すると認められた過去の判例もあります。

    フレックスタイム制

    フレックスタイム制とは、決められた期間の中で、従業員が自分で毎日の始業・終業時間を決められる制度です。1日や週の労働時間が法定労働時間を超えた場合でも、残業扱いにならないケースがあります。

    これには清算期間が関係しています。清算期間とは、労働すべき時間を定めた期間です。最長3か月幅で、清算期間を定められます。フレックスタイム制における残業は「清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えた労働」が対象です。

    たとえば、清算期間を1月とし、暦日数が31日であった場合で考えましょう。清算期間が31日における法定労働時間の総枠は177.1時間です。そして実労働時間は180.1時間だったとします。この例では、3時間が法定外残業となり、割増賃金の支払いが必要です。

    フレックスタイム制の残業時間は清算期間で数える必要があるため注意しましょう。

    裁量労働制

    裁量労働制とは、あらかじめ決まっている時間、労働したとみなして労働時間を計算する制度です。労働時間が8時間と決められていれば、10時間働いたとしても8時間分の労働として見なされます。実働時間に応じた残業代は支払われません。

    ただし、深夜労働や休日出勤が発生した場合は割増賃金の支払いが必要です。

    残業時間を切り捨てたことで未払い賃金を請求された事例

    残業時間を切り捨てたことで未払い賃金を請求された事例には、以下の2つがあります。

    • 5分未満の切り捨て
    • 15分単位の切り捨て

    5分未満と15分単位の労働時間の切り捨ては、いずれも労働基準法に違反することです。実際に違反した会社がどのようになったのかを見ていきましょう。

    1.5分未満の切り捨て

    大手飲食店チェーンが5分未満の労働時間を切り捨てていた事例です。労働組合に加入している従業員が、2年にさかのぼって未払い賃金の支払いをもとめました。結果、会社は未払い賃金を従業員に支払い、全社における労働時間の計算単位を1分に変更しました。

    参照:『すかいらーく、5分未満の切り捨て賃金支払いへ パートらに16億円』朝日新聞デジタル(2022)

    2.15分単位の切り捨て

    薬局チェーンが15分単位で労働時間を計算していた事例です。 残業時間が1分単位で計算されていなかったため、従業員が厚木労働基準監督署に申告を行いました。代理人によれば、チェーン全体で数億円規模の未払い賃金が発生していたとのことです。

    参考:『15分単位切り捨て処理やめよ/ドラッグストア労働者/労基署に残業代未払いを申告』機関紙連合通信社(2018)

    まとめ

    1か月で残業時間を計算した結果、1時間未満や1円以下の端数が出た場合は、切り上げたり切り捨てたりしても問題ありません。

    ただし、状況を問わず切り捨てることはNGです。会社が有利に働く運用を取り入れていると見なされます。最悪、法律に違反するでしょう。実際、5分未満や15分単位での切り捨てを行ったことで裁判沙汰になった事例もあります。企業イメージを下げないためにも、残業時間の計算は適切に実施しましょう。

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