有給休暇の前借りに応じるのは違法? 対応パターンと退職リスクを解説

有給休暇の前借りに応じるのは違法? 対応パターンと退職リスクを解説

従業員から有給休暇の前借りの依頼があった場合、認めてよいのか、断るべきなのか、判断に迷ったことはありませんか。有給休暇の前借り自体は違法ではありませんが、運用方法を誤ると労働基準法違反となるケースがあります。

本記事では、有給休暇の前借りに関する法的な考え方や具体的な対処法、注意点について詳しく解説していきます。

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目次アイコン目次

    有給休暇の前借りに対応するのは違法?

    有給休暇を前借りすること自体は違法ではありませんが、運用には注意が必要です。

    法律では、有給休暇の前借りについて明確な規定がなく、企業の裁量で対応を決められます。ただし、従業員から依頼があったとしても、企業は必ず応じる義務もありません。

    前借りを制度として認める場合は、就業規則で明確な規定が必要です。有給休暇は、入社から6か月間継続して勤務した日に、全労働日の8割以上出勤した従業員に対して、10日付与されるのが基本です。有給休暇を付与する日を基準日といいます。

    企業の判断で基準日より前の付与も可能ですが、後ろに倒すことは、従業員の不利益となるため認められていません。前借りを認めると、基準日より前に休暇を取得することになるため、勤怠管理が煩雑にならないようにルールを整えておきましょう。

    次に付与する有給休暇から差し引くのは違法

    今後付与される予定の有給休暇から差し引けばいいのでは?と思う方もいるかもしれません。

    前借り分を次回の付与予定の法定日数から差し引くことは、労働基準法に違反します。労働基準法第39条において、年次有給休暇の付与日数は法律で定められており、法定日数を下回ってはいけないからです。

    参照:『労働基準法39条』e-Gov

    有給休暇の前借りへの対応は法定日数を上回る付与が必要

    では、どのように有給休暇の前借りに対応すればよいのでしょうか。もし前倒しで休暇を使うのであれば、次の付与日数から差し引くのではなく、法定日数とは別に、追加で休暇を与えるしかありません。

    日付対応
    8月20日(前借りの申請)1日付与(=特別有給休暇。法定日数を上回る)
    10月1日(入社半年/有給休暇の基準日)法定どおり10日付与(減らさない)

    実質的には前借りではなく、企業が独自に「特別有給休暇」を付与する対応となります。法定有給休暇のみで対応しようとすると、次回付与分から差し引く違法な対応しかできないためです。

    有給休暇の法定付与日数をおさらい

    有給休暇の法定付与日数を再確認しておきましょう。

    企業は勤続年数に応じて、出勤率8割を満たす労働者に、法律で決められた有給日数を付与する必要があります。フルタイム労働者の場合、入社から6か月経過後に10日が付与され、段階的に増加していきます。具体的な付与日数は以下のとおりです。

    • 勤続6か月で10日
    • 1年6か月で11日
    • 2年6か月で12日
    • 3年6か月で14日
    • 4年6か月で16日
    • 5年6か月で18日
    • 6年6か月以上で20日

    パートタイム労働者の場合、週所定労働日数や1年間の所定労働日数に応じて付与日数が異なります。たとえば週4日勤務の場合、勤続6か月で7日の付与となります。

    ▼有給休暇の比例付与について詳しく知るには以下の記事もご確認ください。

    参照:『年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています 』厚生労働省

    従業員から有給休暇の前借りを希望された場合の対処法

    従業員から有給休暇の前借りを希望された場合、企業の運用方針によって選択が異なります。以下に3つの対応パターンを紹介していきます。

    有給休暇の付与日数前借りしたい場合の対応
    法定日数を上回っている法定10日に対して15日付与5日まで前借り可
    法定日数のみ法定10日に対して10日付与特別休暇の付与例:法定有給休暇ではなくリフレッシュ休暇適用
    分割付与例:通常半年後に付与する10日分の休暇うち、4日分を入社時に付与。4日であれば、実質的に前借り対応可

    法定日数を上回る有給休暇を付与している場合

    法定日数を超えて有給休暇を付与している企業では、超過分の範囲内で前借りが可能です。たとえば、法定の10日に対して15日を付与している場合、5日分までは前借りが認められます。

    法定日数を超えている場合でも、運用ルールを整備したうえで就業規則への明記が必要です。前借りの上限日数の設定や申請手続きの方法、退職時の取り扱い、管理方法などを明確にしましょう。

    法定どおりの有給休暇日数を付与している場合

    法定に沿った日数のみ有給休暇を付与している企業では、前借りは実質的に不可です。たとえば、入社半年の基準日で10日を付与すべきところを8日に減らし、基準日前に2日付与することは違法です。前倒しで対応した場合も、基準日には法定の10日を必ず付与する必要があります。

    法定に沿った日数を付与しているなら、以下のような制度を活用しましょう。

    • 特別休暇
    • 有給休暇の分割付与(入社初年度だけ)

    特別休暇を付与する

    企業独自の休暇として前倒しの有給取得を認める方法です。例としてリフレッシュ休暇やバースデー休暇、アニバーサリー休暇、私傷病特別休暇を法定の有給休暇に代用します。

    特別休暇は、法定の年次有給休暇とは異なり、法律の規制を受けないため、企業が自由に運用が可能です。就業規則に明記すれば、有給として前借りのような対応も認められます。

    有給休暇を分割付与する

    入社初年度のみ、有給休暇を数回に分けて付与することで前借りに対応できます。

    たとえば入社時に4日、6か月経過後に6日を付与するといった運用です。基準日を迎えていない段階でも、付与済みの4日を休暇として使えます。入社時点で先に付与すれば、実質的に有給休暇の前借りに応じることが可能です。

    ただし、分割付与には以下の条件をすべて満たす必要があります。

    • 入社初年度のみ
    • 分割して付与する日数の合計が、法定日数(6か月経過時は10日)以上
    • 最初の付与から1年以内に次の付与日が設定されている

    ▼有給休暇の付与タイミングについて詳しく知るには、以下の記事でもご確認ください。

    分割付与の仕組みを利用すれば、基準日前の休暇希望に柔軟に対応できるでしょう。分割付与で有給休暇の前借りに対応する場合も、就業規則に記載し、付与時期やルールなど内容を明確にしておくことが前提です。

    ただし、従業員が入社6か月以内に早期退職してしまったとしても、先に付与した休暇を返還してもらうことはできません。

    ▼早期離職について課題がある方は、以下の記事もご確認ください。

    参照:『労働基準法の一部改正の施行について』厚生労働省

    有給休暇の前借りを認めることによるリスク

    柔軟な対応に見える「有給休暇の前借り」ですが、通常の制度として認めるにはリスクもあります。

    入社したばかりの従業員が、急な家庭の事情や体調不良により、有給休暇を使えればとても助かるはずです。一人ひとりの安心感につながり、働きやすさが向上するでしょう。

    しかし制度として前借りを認める場合、担当者には実務負担がかかります。有給休暇の前借りに付随する実務対応や懸念を整理し、導入は慎重に判断しましょう。

    前借りしたまま退職されるケースもある

    もっとも大きなリスクは、有給休暇を前借りした従業員が、最初の基準日前に退職するケースです。企業側には損失が発生し、前倒しで付与した有給休暇分の賃金を返還してもらうことは、法律上できません。

    給与からの差し引きも基本的に不可能です。あとから欠勤扱いに変更する対応も、法的な問題に発展する可能性があります。特別休暇として処理するほかなく、企業側の一方的な損失となってしまいます。

    希望者が想定以上に増える可能性がある

    一人の有休前借りがきっかけで、ほかの従業員からも、同様の要望が相次ぐ可能性があります。同様に対応しなければ、不公平感が職場に広がってしまうため、明確な付与・申請ルールに沿って平等に運用しなければなりません。

    管理が複雑になる

    有給休暇の前借りを認めると、従業員ごとに付与タイミングがずれ、有給管理が複雑化します。法律で義務づけられている「年5日取得義務」の管理にも影響が出るかもしれません。「誰がいつまでに何日取らなければならないのか」を個別に管理しなければならず、一律の処理が難しいため、対応に手間がかかります。

    ▼義務化の背景や企業の責任を詳しく確認するには、以下の記事をご覧ください。

    有給休暇に関する法律に違反した場合の罰則

    ここまで、有給休暇の前借りに対応する方法や、リスクについて紹介してきました。

    では万一、前借りを含め、有給休暇に関する対応を誤ってしまったらどうなるのでしょうか。最悪の場合、企業(使用者)は、労働基準法違反として以下のような厳しい罰則を受けるリスクがあります。

    年5日の有給休暇取得義務に違反30万円以下の罰金
    不適切な前借り処理など、その他の労働基準法第39条違反最大6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金

    罰則は従業員1人あたり1件の違反として数えられます。複数の従業員に対して違反があった場合、人数分の罰則が科されるため注意が必要です。また、よくある具体例も以下で紹介します。

    • 有給休暇の取得を拒否する
    • 法定の有給休暇を与えない
    • 有給休暇の繰り越しを認めない
    • 年5日の取得義務を履行しない

    有給休暇に関する法令違反は、罰則だけでなく、企業イメージの低下や労務トラブルにもつながる問題です。

    会社として前借りを認めるか認めないかを慎重に判断し、法令に沿った運用ルールを整備しましょう。

    有給休暇の管理には勤怠管理システムがおすすめ

    有給休暇を効率的に管理するには、勤怠管理システムの活用がおすすめです。

    有給休暇前借り対応では、従業員ごとに基準日や残日数を正確に把握する必要があります。勤怠管理システムなら、個別の基準日や付与履歴、消化状況を簡単に確認でき、煩雑化の防止に役立ちます。

    前借りによって法定日数を下回らないよう、リアルタイムで残日数を把握することもできるため、安心して運用できるでしょう。

    労働基準法第39条で義務化された「年5日の取得義務」についても、システムのアラート機能によって、違反リスクを未然に防げます。

    有給休暇を柔軟に管理|One人事[勤怠]

    One人事[勤怠]は、煩雑な有給休暇の管理をシンプルにする勤怠管理システムです。有給休暇の付与日と取得日はすべて記録され、従業員ごとの基準日はいつでも確認が可能です。また、特別休暇の管理など、前借り対応に必要な処理も自動化が実現します。

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    まとめ

    有給休暇の前借りは、法律で禁止されているわけではありません。ただし、次回の基準日に付与される法定の有給日数から差し引く運用は、労働基準法に違反するため注意が必要です。

    前借りに対応する方法としては、以下のような対応が考えられます。

    • 法定日数を上回る有給休暇をあらかじめ付与する
    • 特別休暇として、独自に前借り分を与える
    • 入社初年度に分割付与を活用することで、実質的に前借りに近い運用を行う

    以上の対応には、退職時に未消化分が発生するリスクや、管理の手間が増えるといった課題もあります。無理に前借り制度を導入するのが現実的でない企業もあるでしょう。

    有給休暇の前借り制度を検討する前に、従業員が計画的に休暇を取得できる環境づくりこそ、健全な職場環境につながります。

    ▼有給休暇の取得率を向上させたい場合は、以下の記事も参考にしてみてください。