有給休暇は入社後すぐ付与すべき? 分割条件と2回目以降の注意点、退職リスクへの備え

有給休暇は、入社後すぐに付与することも可能です。労働基準法では原則「6か月後・10日付与」ですが、前倒しても法的な問題はありません。むしろ、新入社員が急な体調不良や家庭の事情に対応しやすくなり、働きやすい環境を構築できます。
一方で、早期退職による精算や管理の複雑化など、実務上の注意点もあります。
本記事では、有給休暇の入社後すぐ付与について、分割付与の法的要件から、2回目以降の実務上の注意点、退職リスクへの対策まで詳しく解説します。
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目次[表示]
有給休暇を入社後すぐに付与することは可能
有給休暇は、入社後すぐに付与することが法律上可能です。最近では、多くの企業が柔軟な運用を取り入れており、「働きやすさ」を示す取り組みとして評価されることも増えています。
「6か月後に10日付与」では、体調不良や家族の事情といった急な休みに対応できず、新入社員が不安を抱えやすいのが現状です。入社日に近いタイミングで有給を付与すれば、引っ越し手続きや通院など、どうしても避けられない用事にも対応でき、心理的な負担が軽くなります。
安心して働ける環境は、結果的にエンゲージメントを高め、企業側の採用力も向上するでしょう。
もちろん、管理が複雑になる・早期退職の対応が難しいといった課題もあります。ただし、制度設計をていねいに行えば、リスクは十分にコントロールできます。大切なのは「付与のタイミング」と「運用ルール」を明確にすることです。

有給休暇の基本の付与ルール
有給休暇には、労働基準法で定められた付与の基準があります。
- 雇入れから6か月継続して働いていること
- その6か月のうち、全労働日の8割以上出勤していること
以上の2つの要件を満たすと、有給休暇が10日付与されます。
たとえば、4月1日入社の場合、8割以上出勤していれば10月1日に10日付与される仕組みです。出勤率は「出勤日 ÷ 全労働日」で計算し、業務上の負傷による休業や育児・介護休業、有給取得日などは出勤扱いになります。
付与日数は勤続年数に応じて増加します。
- 入社6か月後:10日
- 1年6か月後:11日
- 2年6か月後:12日
以降は2日ずつ増えて最大20日になります。
パート・アルバイトのように週の勤務日数が少ない場合は「比例付与」が適用されます。週30時間未満かつ週4日以下の場合、所定労働日数と勤続年数に応じて、1日〜15日の範囲で付与されます。
▼パートタイムの有給付与・比例付与について詳しく知るには、以下の記事もご確認ください。
有給を入社後すぐに付与するなら分割(前倒し)で
有給休暇は通常、入社から6か月経過し、出勤率が8割以上 になった時点で、10日付与されます。これが労働基準法で定められた基本ルールです。
ただし、10日をまとめて付与する必要はありません。一部を入社日に前倒しし、残りを6か月後に付与する 「分割付与(前倒し付与)」 が認められています。
たとえば、4月1日に入社した社員に、以下のようなルールの適用が可能です。
- 入社日に5日付与
- 10月1日に残りの5日を付与
入社直後に、体調不良・通院・引っ越しなど、どうしても避けられない事情が発生した場合、欠勤扱いになるのは従業員にとって不便です。
不安を軽減できるため、前倒し付与を導入する企業は年々増えています。従業員の安心感が高まり、従業員満足度やパフォーマンス向上にもつながっています。
分割できる条件
有給休暇の分割付与を行うには、厚生労働省の通達に基づく要件を満たす必要があります。ポイントは次のとおりです。
- 対象は「初年度の有給休暇」のみ
- 繰り上げ期間の出勤率は「全出勤」とみなす
- 2年目以降の付与日も繰り上げる必要がある
- 残りの日数は入社後6か月経過した日を基準として付与する
以上の条件を満たしていない運用は、分割付与として認められず、結果的に労働基準法違反となる可能性があります。制度を導入する際は、付与日や計算方法を正確に管理するよう注意しましょう。

有給休暇の分割に関する注意点
有給休暇を入社後すぐに付与する分割付与について、とくに注意したい5つのポイントを紹介します。いずれも厚生労働省の通達に基づく要件を踏まえた注意点です。一つずつ詳細を確認していきます。
入社初年度のみ適用できる
分割付与の対象となるのは、入社した初年度に発生する有給休暇に限られています。「入社後、最初に年次有給休暇の権利が発生するまでの期間」に適用可能です。
つまり、2年目以降について、分割運用は認められていません。同時に、すでに有給を持っている従業員には適用できません。制度の対象者を明確に区別する必要があります。
また、会社が任意で付与する上乗せ有休の設定は、企業の自由です。上乗せ有休を繰り上げて付与しても、法定有休の一部を前倒しした扱いにはなりません。法定の有給休暇の付与義務は変わらず発生します。誤解しないように注意が必要です。
残りの付与日数は入社6か月経過した日までに全日付与する
分割して付与したあとの残りの日数は、必ず入社6か月経過した日までに、すべて付与しなければなりません。
4月1日に5日を前倒し付与した場合、同年10月1日には、残りの5日を付与します。6か月以内に付与しないと、付与漏れとして労基法違反となる可能性があるため、注意が必要です。
勤怠管理システムの設定ミスや、担当者のチェック漏れが原因で、付与が遅れる場合も考えられます。アラート機能やチェック体制など、ミスを防ぐ体制を整えておきましょう。
2回目・2年目の付与基準日は入社日を基本とする
分割付与を採用すると、次回以降の付与日も前倒しされます。初回に付与した日が、その後の基準日になるためです。
たとえば、4月1日に5日を前倒し付与した場合、2年目の付与は翌年4月1日までに行わなければなりません。本来の基準日である10月1日よりも半年早くなります。
法定どおり付与する社員と、前倒しで付与する社員が混在すると、管理が複雑化します。従業員ごとの基準日を正確に把握し、付与漏れや重複付与を防ぐための管理方法を整えておきましょう。

ルールを就業規則に明記する
分割付与制度を導入する際は、就業規則への明確な記載が必要です。入社時に何日付与し、6か月間継続勤務の際に残りの何日を付与するかを具体的に規定しなければなりません。
2回目の基準日についても、何月何日とするかを明記する必要があります。「入社時に5日付与し、入社から6か月経過後に残り5日を付与する。2回目以降の付与は入社日を基準日とし、毎年入社応当日に付与する」といった具体的な記載が求められるでしょう。
分割付与の対象者についても明確に定義する必要があります。正社員のみに適用するのか、契約社員も含むのか、試用期間中の従業員はどう扱うのかなど詳細な条件を規定しておきましょう。のちのちのトラブルを防げます。労働者代表との協議を経て、適切な手続きを踏んで就業規則を変更することが重要です。
有給休暇を入社後すぐ付与する分割を適用する場合は、就業規則に必ず明記しましょう。
- 入社時に何日付与するのか
- 6か月後に残りを何日付与するのか
- 2回目の基準日をいつにするのか
- 対象者は誰か(正社員・契約社員・試用期間中の扱い)
細かく定義しておくことで、社内の混乱やトラブルを避けられます。なお、就業規則の変更には、労働者代表との協議や届け出など、適切な手続きが必要です。
▼就業規則の変更手続きを知るには、以下の記事もご確認ください。
勤怠管理の煩雑さを解消しておく
有給休暇の分割付与を行うと、出勤率の計算方法も変わります。基準日を繰り上げた期間は「全出勤」とみなすため、勤怠データの補正処理が必要です。
2年目の出勤率算定も少し特殊で、次のように計算しなければなりません。
| (出勤日数+繰り上げ期間の全労働日数)÷(1年間の全労働日数) |
休暇日数の管理に手作業が多いと、ミスも起こりやすくなります。
有給休暇を入社後すぐ付与する制度を導入する前に、勤怠管理システムが分割付与に対応しているか、設定変更が必要かを確認しておくと安心です。
さらに、担当者向けの操作マニュアルや研修を実施し、運用体制を固めておくとよいでしょう。
有給休暇を入社後すぐに付与する分割のメリット
有給休暇を分割して入社後すぐ前倒し付与する制度は、従業員にも企業にもメリットがある取り組みです。
従業員は入社直後から安心して働け、企業は「働きやすい会社」という印象を高められるため、採用力や定着率の向上につながります。
導入が進んでいる背景には、働き方改革や従業員満足度の向上があります。入社から6か月間は本来有給がなく、体調不良や急な用事でも欠勤扱いです。不安をなくすだけで、業務に集中しやすくなる人は少なくないでしょう。
また、採用競争が激化するなか、柔軟な休暇制度は求職者にとって魅力として映ります。有給取得率の高さや働きやすさを示せるため、優秀な人材の確保に効果的です。
なかには、入社初日に最大10日を付与する企業もあります。早期から休める環境を整えることで、従業員エンゲージメントが高まり、結果としてパフォーマンスも向上するでしょう。

入社後すぐに有給を付与した従業員が退職! 対応策は?
分割付与のリスクは、入社後すぐに有給を付与した従業員の早期離職です。企業としては後味が悪いかもしれませんが、有給の取得は労働者の正当な権利であり、取り消しはできません。
実務では、退職の申し出があったら、すぐに残日数と取得予定を確認し、引き継ぎの調整を始めること が重要です。業務への影響を最小限に抑えられます。
制度設計としては、入社時の付与日数を3日程度に抑える運用も一案です。残りは6か月後に付与すれば、従業員の安心感と企業側のリスクコントロールを両立できるでしょう。
また、有給消化を円滑に進めるためには、退職の意思意向をできるだけ早く伝えてもらいたいところです。法律上は「2週間前の申し出」で足りますが、早い段階で共有してもらえば、引き継ぎも計画的に進められます。
有給休暇の分割付与|管理・退職リスクを回避するには?
有給休暇を入社後すぐに付与する場合、複数のメリットがある一方、管理が複雑になる・早期退職で有給を使い切られるといった課題もあります。
リスクを避けるには、制度設計を工夫し、代替手段の検討がポイントです。代表的な回避策は次の2つです。
- 入社時特別休暇を導入する(法定有休とは完全に分ける)
- 斉一的取扱いで有給の基準日をそろえる(管理をまとめてシンプルに)
それぞれの仕組みと効果を解説していきます。
入社時特別休暇の導入を検討する
早期離職に備える対策は、入社時特別休暇の採用です。
入社時特別休暇とは、企業が独自に付与する「法定外の休暇」です。
入社日から初回の有給付与までの間に、3〜5日ほどの休暇を使えるようにする制度で、分割付与とは異なり、法定有給の前倒しにはあたりません。
そのため分割付与のように、以下のような管理負担が発生しません。
- 有給の基準日がずれる
- 出勤率の計算が複雑になる
取得理由を「本人の体調・家族の看護・通院など」に限定すれば、制度の悪用も防げるでしょう。
退職リスクに備えながら、新入社員の安心感を確保できる対策といえます。
斉一的取扱いを適用する
分割付与の複雑さを回避する対策は、斉一的取扱いの採用です。
斉一的取扱いとは、全従業員の有給休暇の基準日を、会社が一定の日にそろえる方法です。入社日がバラバラでも、統一基準日にそろえられるため、労務管理がシンプルになります。
斉一的取扱いは、厚生労働省の通達で「労働者にとって有利になる場合」に限り認められています。つまり、本来の法定基準日より前倒しになる範囲で適用が可能です。
たとえば、6月15日入社の従業員で本来の基準日は12月15日です。これを会社として、10月1日に設定できます。本来の基準日より早いため、労働者にとって有利な扱いとされるためです。
斉一的取扱いを導入すると、次のような効果が期待できます。
- 全従業員の基準日を年1〜2回にまとめられる
- 分割付与のような出勤率の補正計算が不要
- 付与漏れ・重複付与の防止につながる
管理負担を最小限にしたい企業にとって、有効な選択肢です。
まとめ|有給休暇の分割は管理・ルール設定が重要
有給を入社後すぐ付与する企業は一定数あり、分割付与はその対応策です。
入社直後から休める環境は、従業員にとって大きな安心材料であり、企業ブランドの向上にもつながります。
一方で、分割付与を導入するには、厚生労働省の通達に基づく管理が欠かせません。基準日の前倒し、出勤率の補正計算、2回目の付与時期の管理など、運用を誤ると法令違反のリスクが生じます。
重要なのは、制度設計と管理体制の整備です。自社に適した方法を選びながら、従業員が安心して働ける環境を整えていきましょう。
有休管理をシンプルに|One人事[勤怠]
One人事[勤怠]は、入社時の初回分割付与にも対応した勤怠管理システムです。基準日や付与日が従業員によって異なるケースでも、自動で適切な付与を行えます。
有給残数や取得状況も可視化されるため、管理者は各従業員の状況を一目で把握可能です。有給休暇の取得促進や業務調整にも役立てられるでしょう。
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