退職時の有給消化は人手不足でも拒否NG|違法性や消化を促す企業対応

退職時の有給消化は人手不足でも拒否NG|違法性や消化を促す企業対応

退職者から有給休暇の消化を請求され、「人手が足りず業務が回らない」「どこまで調整できるのかわからない」と悩む人事担当者は少なくありません。有給休暇は法律で強く保護されているため、企業側が簡単に拒否できるものではありません。しかし、業務への影響が大きい場合は、調整が求められるケースもあります。

本記事では、退職時の有給消化に関する基本ルール、人手不足を理由に対応できる範囲とできない範囲、円満な退職につなげるための実務ポイントまで、わかりやすく整理して解説します。

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    退職時の有給消化を拒否するのは違法

    退職時の有給消化を、企業が一方的に拒否することはできません。

    年次有給休暇は労働基準法で認められた労働者の権利です。退職直前であっても取得させなければなりません。

    退職時の有給消化を認めない企業は、違法性を問われる可能性があります。

    人手不足や業務都合といった理由であっても例外ではありません。企業は申し出を前提にスケジュール調整を行う必要があります。

    退職時は有給の時季変更権が認められない

    会社には「時季変更権」という権利が労働基準法で認められていますが、退職時には適用できません。

    時季変更権とは、従業員が指定した日に有給休暇を与えることが、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、別の日に変更を求められる権利です。

    退職が決まっている場合は変更できる日が存在しないため、時季変更権を行使することは実質的に不可能です。

    退職日以降への変更もNG

    退職日以降に、時季変更権を使うことも法的に認められていません。有給休暇は在職期間中にしか設定できないものであり、退職日を越えての日程変更はできないからです。

    会社が退職日以降に有給取得日を指定した場合、労働者は有給休暇を消化できないまま退職することになります。これでは、有給休暇の取得を拒否されたのと変わりありません。

    退職予定日までの全期間を有給休暇で申請された場合、企業側としては法律上、認めざるを得ないのが現状です。

    退職時の有給消化を拒否するとどうなる?

    では、もし万が一、企業側が退職時の有給消化を拒否した場合、どうなるのでしょうか。次のような重大な事態に発展するリスクがあります。

    • 労働基準監督署からの行政指導・立ち入り調査
    • 悪質と判断された場合の刑事罰

    まず退職者が対応を不服として労働基準監督署へ相談すると、無料・匿名であってもその段階で調査対象になります。

    労働者が有給申請メールや音声記録などの証拠を提示した場合、監督署は企業へ事実確認を行い、必要に応じて立ち入り調査を実施します。

    調査の際は、有給休暇の扱いだけでなく、残業管理・36協定・賃金計算など労務管理全体も精査されるため注意しなければなりません。

    違反が確認されると「是正勧告」が出され、企業は期限内の改善が義務づけられます。改善に応じない、または悪質と判断されると、最終的には労働基準法39条違反として 「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されるのです。

    退職時の有給取得は法律で強く保護されています。企業側が安易に拒否すれば、労務リスクや企業イメージの悪化などが次々と発生します。

    退職時の有給消化は、拒否するかどうかではなく、いかに早期に調整し、円満に取得してもらうかという視点が重要です。不要なトラブルを避けるためにも、退職時の有給消化は原則認める運用を徹底し、社内ルールも整備しておきましょう。

    退職前に有給消化を促進するには?

    退職者の有給消化をめぐるトラブルは、ちょっとした行き違いから問題へ発展することも少なくありません。だからこそ、退職が決まった段階ですみやかに有給残日数を確認し、退職日までのスケジュールを退職者と一緒に整理することが大切です。

    ここでは、退職時に有給消化を促すための対策を3つ紹介します。

    1. 日頃から有給休暇の残日数を管理する
    2. 退職日と最終出社日を早めに決める
    3. 有給消化のスケジュールを立ててもらう

    日頃から有給休暇の残日数を管理する

    有給休暇の残日数を把握しておくと、退職時の急な調整を避けられます。人事部門は従業員の有給取得状況を定期的にチェックし、残日数が多い従業員には計画的な取得を促しましょう。その際は、勤怠管理システムなどを活用して自動化すると便利です。

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    有給休暇は付与日数が10日以上の労働者に対して年5日の取得義務があります。企業としては日頃から、職場全体で計画的な取得を促す仕組みづくりが重要です。上司やリーダーが率先して休暇を取れば、部下も取得しやすい雰囲気となるでしょう。

    半休や時間単位の制度、計画年休の導入も有効な対策です。制度を活用すれば、従業員は業務の都合にあわせて柔軟に有給を取得でき、退職時に多くの有給が残る状況を防げます。

    退職日と最終出社日を早めに決める

    最終出社日から退職日までを有給消化にあてられるよう、早めにスケジュールを確定しておくことが重要です。

    退職の申し出があった時点で、人事担当者は退職者と面談し、有給残日数と希望する退職日を確認します。引き継ぎ期間を十分に確保することで、現場の混乱を防ぎながら有給取得につなげられます。

    また、退職日が決まってから動き出すのではなく、退職意思を伝えられた段階で相談を始めるのが理想です。たとえば「3月末退職なら、最終出社日を2月中旬に設定し、残りを有給消化にあてる」といったように、具体的な提案を行いましょう。

    早めの調整によって、引き継ぎと有給消化の両立がしやすくなります。

    有給消化のスケジュールを立ててもらう

    有給残日数を踏まえ、退職者本人に「どう取得するのか」を具体的に計画してもらうのも一案です。

    人事担当者は残日数を正確に伝えたうえで、「○日を最終出社日にし、その後○日有給を取得する」などの具体案を提示してもらいます。取得希望日はメールや申請書類に残してもらうと、のちのトラブル防止にもつながります。

    退職者自身に計画を立ててもらうことで、責任感を持って引き継ぎ業務にも取り組んでもらえるでしょう。

    企業側は提示された案を踏まえ、業務への影響を最小限にしながら調整します。双方が納得できるスケジュールをつくり、円満な退職につなげていきましょう。

    急な退職時の有給消化でよくあるトラブル

    退職が急に決まった場合、有給休暇を消化しようとしても、引き継ぎとの兼ね合いもあり、現場ではトラブルが生じがちです。

    とくに人手不足の部署では、引き継ぎが混乱したり、退職予定者と認識がズレたりすることも少なくありません。

    ここでは、退職時の有給消化で企業が直面しやすい主なトラブルと対策を紹介します。

    引き継ぎが間に合わない

    有給消化と退職準備を並行して進めると、退職までに引き継ぎが十分に進まず、業務が滞るトラブルが起きやすくなります。

    引き継ぎが間に合わない原因としては、後任者の決定遅れや、業務の属人化が一般的です。

    たとえば有給休暇が多く残っている従業員から「1か月後に退職します。有給はすべて使います」と申し出があれば、引き継ぎが終わらないまま休暇に入ってしまうおそれがあります。

    退職時の有給取得を拒否できないため、引き継ぎ期間を確保するには、会社側の依頼や説得によって退職日自体の延期を合意してもらうしかありません。

    そうすると、引き継ぎを先に進め、有給消化をすることになり、最終出勤日が当初想定より延びることがあります。

    しかし、引き継ぎの遅れを理由に有給取得を拒否することはできません。トラブルを防ぐには、退職の意思表示があった段階で、早めに後任者を確保し、余裕を持った引き継ぎ計画を立てることが重要です。同時に業務の棚卸しをして、優先順位をつけてから取り掛かりましょう。

    引き止め・引き延ばしをする

    「後任がいない」「今は辞められない」と、有給消化を認めず、退職を引き延ばす行為は、法的に認められません。

    企業としては差し迫った状況かもしれませんが、労働者は退職の意思表示から2週間で辞められることになっています。会社側が退職日を強制的に延ばすことはできません。

    とくに重要プロジェクトの担当者が辞める場合、「プロジェクトが終わるまで退職を待ってほしい」と引き延ばすケースがありますが、引き止めは労働者の権利を侵害する行為です。

    退職者は、有給消化の計画を変更する必要はありません。トラブル防止のためには、普段から人員配置計画を見直し、特定の人材に業務が集中しない体制づくりを進めることが重要です。

    有給休暇が残ったまま従業員が退職した

    有給消化ができないまま従業員が退職すると、有給休暇は失効し、労働者の不利益につながります。

    スケジュール調整ができなかった、会社が違法に拒否した、本人があきらめたなどが原因です。

    有給休暇は、退職と同時に権利が消滅するため、使わずに退職すると機会を逃してしまいます。

    トラブルを防ぐには、退職の申し出を受けた時点で残日数を確認し、有給消化の方針を明確に説明することが重要です。

    消化状況をリアルタイムに把握できる体制を整える必要があります。

    退職時の有給消化に関する質問

    退職にともなう有給消化では、労働者から寄せられる疑問も多く、企業の人事担当者は適切に回答できるように準備しておく必要があります。誤った対応をするとトラブルにつながる可能性もあるため、正しい理解が欠かせません。

    自己都合退職でも有給休暇は取得できる?

    有給消化は自己都合退職の場合でも当然認められ、退職理由によって取得可否が変わることはありません。

    労働基準法では、有給休暇は労働者の健康維持と休養を目的とした権利と定めています。企業側が「急な退職だから使えない」と制限することは違法となる可能性があります。

    自己都合退職でも会社都合退職でも、有給消化の条件に差はありません。

    引き継ぎ調整は望ましいものの、法的には労働者の申請により取得できるのが原則です。企業側は退職理由にかかわらず、有給消化の機会を確保する必要があります。

    有給休暇の買い取りできる?

    有給消化が困難なまま退職する場合でも、原則として有給休暇の買い取りは、労働基準法で禁止されています。

    買い取りを認めると「心身をリフレッシュする時間を確保する」という有給休暇の本来の趣旨に反するからです。

    ただし例外的に、次のようなケースでは、買い取っても違法ではありません。

    • 退職時にどうしても消化しきれず消滅する有給
    • 会社独自で法定日数を超えて付与した有給
    • 時効により消滅する有給

    たとえば、未消化の有給が15日残っていても、退職日までの労働日が10日しかない場合、残り5日は物理的に取得できないため買い取りが可能です。ただし、企業側に買い取り義務はありません。就業規則や過去の運用によって対応が異なります。

    退職時に40日連続の有給消化はできる?

    退職時の有給消化は、40日連続であっても法律上は取得が可能です。有給休暇が40日残っているのであれば、日数をすべて消化する権利が労働者にはあるためです。

    退職日が確定しているなら、企業側から時季変更権を行使して、有給休暇の取得時期を別日に変更させるのは難しく、結果として連続取得は止められません。

    ただし現実問題として、会社の通常業務に支障が出るのなら、混乱を避ける調整が必要です。

    • 複数日に分けて取得する
    • 有給取得前に引き継ぎを完了させる

    企業側は長期の有給消化を尊重しつつ、業務運営への影響を最小限に抑える対応を行いましょう。

    パート・アルバイトでも退職前に有給消化できる?

    パート・アルバイトの退職時でも有給消化はもちろん可能です。雇用形態による取得制限は認められていません。

    労働基準法では、有給休暇は「一定の条件を満たしたすべての労働者に付与される権利」として明確に定められています。初めて有給が付与される条件は、以下のとおりです。

    • 勤続6か月
    • 全労働日の8割以上出勤

    要件を満たせば、所定労働日数や所定労働時間に応じて、比例付与のルールに基づいた有給が付与されます。

    有給消化を無理に拒否したり、雇用形態による扱いの差をつけたりすることは違法です。企業側はパート・アルバイトに対しても、正社員同様の適切な有給消化の機会を提供しなければなりません。

    有給消化を促すには申請フローを整備しておくことも重要

    有給消化をスムーズに進めるためには、申請フローの整備も欠かせません。

    有給休暇の申請方法は企業によって異なりますが、基本的には申請書に必要事項を記入して社内の担当者に提出する形式が一般的です。

    近年では、メール・チャット・クラウドサービスなど、紙以外の方法で有給申請できる企業も増えています。

    企業は申請方法を就業規則に明記し、以下のような項目について、規定を具体的に定めておく必要があります。

    • 取得日数
    • 申請方法
    • 申請期限
    • 取得期限

    有給消化を確実に進めるためには、退職を問わず、申請期限を明確にしておくことが大切です。

    一般的には前日までの申請が多いものの、会社によっては「原則3日前までに届出し、上司の承認を得ること」と定めており、事後申請を禁止しているケースもあります。

    有給消化に関する申請・承認の遅延を防ぐには、退職時の混乱を考慮しつつ、休暇申請の電子化を進めることも一案です。

    紙の休暇届では書類の準備に始まり、記入・提出・承認・保管までの工程が多く、手間や時間がかかります。

    一方で、勤怠管理システムやワークフローシステムを活用すれば、申請から承認までをオンラインで完結できます。ミスや遅延を防ぎながら休暇管理を効率化できるでしょう。

    有給の申請・管理には|One人事[勤怠]

    One人事[勤怠]は、有給休暇の申請・管理の効率化も助ける勤怠管理システムです。残日数や取得状況を可視化でき、有給休暇の付与から取得までを一元管理できます。

    取得が遅れている従業員に、自動でアラートを通知することも可能です。申請から承認までのフローがデジタル化されることで、煩雑な紙の手配もなくなり、当事者の負担を減らせるでしょう。

    One人事[勤怠]の初期費用や操作性については、当サイトより、お気軽にご相談ください。専門のスタッフが貴社の課題をていねいにヒアリングしたうえでご案内いたします。

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    まとめ|人手不足でも退職時の有給消化を支援

    退職時の有給休暇の消化は、人手不足であっても企業が拒否できない労働者の権利です。拒否すれば、労働基準監督署の調査・是正勧告、さらには刑事罰にまで発展するリスクがあります。

    労務トラブルを防ぐには、法令遵守はもちろんのこと、計画的な調整が欠かせません。

    退職の申し出を受けた段階で有給残日数を把握し、最終出社日と退職日を分けて設定することで、引き継ぎと有給消化の両立をはかりましょう。日頃から有給取得を促進し、業務の属人化を避けておくことも、有給が大量に残らないための重要な対策です。

    また、有給申請フローの電子化を進めることは、有休消化を促す仕組みの一つといえます。残日数の可視化やアラート通知など、運用面の負担も大幅に軽減できるでしょう。

    企業に求められるのは、いかに円滑に有休消化を支援し、円満退職につなげるかという姿勢です。適切な制度運用と準備を整え、退職者と現場の双方が納得できる対応を心がけましょう。