時短勤務でも残業は命じられる? 残業制限や割増賃金の支払いなど企業の対応を解説

育児や介護と仕事を両立するために、時短勤務を選ぶ従業員は増えています。しかし、繁忙期や人手不足で、時短勤務者に残業をお願いしたくなることもあるでしょう。一方で、本人は「断っていいのか」「周囲にどう思われるか」と葛藤を抱える人もいるでしょう。
時短勤務者に残業を依頼することは可能ですが、本人には断る権利があります。
本記事では、時短勤務者における残業の取り扱いについて解説します。残業をさせた場合の計算方法や企業が配慮したい注意点についても紹介するので、実務にお役立てください。
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目次

時短勤務とは
時短勤務とは、育児や介護をする従業員が、所定労働時間を短縮する制度です。正式には「短時間勤務制度」と呼び、育児・介護休業法に基づいて企業に導入が義務づけられています。
企業は、3歳未満の子どもを育てる従業員から申し出があった場合、原則時短勤務を認めなければなりません。一方、3歳以上の子どもを育てる従業員については、時短勤務の導入は努力義務とされています。
適用条件と対象外
短時間勤務制度が適用されるには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 3歳未満の子を養育する従業員
- 日々雇用される労働者でない
- 1日の所定労働時間が6時間以下でない
- 短時間勤務制度が適用される期間に育児休業をしていない
- 労使協定により適用除外とされた従業員でない
ただし、次のいずれかに該当する従業員は、あらかじめ労使協定に定めておくことにより制度の対象外となります。
- 雇用から1年未満の従業員
- 週の所定労働日数が2日以下である従業員
- 業務の性質上、時短勤務措置を取ることが難しい業務に就く従業員

時短勤務も残業できる?
時短勤務者に残業をさせること自体は、原則として違法ではありません。時短勤務制度は育児・介護休業法に基づく制度であり、利用者の残業が全面的に禁止されているわけではないためです。
残業の免除申請がある場合は制限される
時短勤務の残業について、重要なのは「本人が了承している場合に限る」ことです。
一定の条件を満たした従業員から「残業免除の申請」があった場合、企業は時短勤務者に残業を命じることができません。免除申請がある限り、たとえ繁忙期であっても残業を求めることはできません。
時短勤務は、本来「育児や介護と仕事の両立を支援するための制度」です。制度上、残業が認められていても、安易に残業をさせるのは適切とはいえないでしょう。頻繁に残業が発生すれば、家庭とのバランスが崩れ、制度の意味が薄れてしまいます。
企業としては、現場の状況に配慮しつつも、時短勤務者が無理なく働けるよう、残業は最小限にとどめ、労働時間を適切に管理する必要があります。
参照:『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』e-Gov法令検索
時短勤務者の残業免除ルール
時短勤務者に残業をお願いすることは可能ですが、残業免除を申請した従業員に対しては、一切の残業を命じることができません。申請による残業免除は「育児・介護休業法」に規定された、強制力のある規定です。申し出を拒否したり、残業を強制したりすれば、法令違反とされる可能性があります。
残業免除の対象者
時短勤務者における残業免除の対象は、小学校就学前の子どもを育てている、または要介護状態にある家族を介護している従業員です。
入社1年未満、週の所定労働日数が2日以下の従業員は、あらかじめ労使協定に除外規定を設けていれば対象から外れます。日雇い労働者は、労使協定に除外規定を設けなくても対象外です。
対象者 | ・小学校就学前の子どもを養育する従業員(2025年4月より年齢引き上げ) ・要介護の家族を介護する従業員 |
---|---|
労使協定により対象外にできる人 | ・所定労働日数が1週間に2日以下の従業員 ・入社1年未満 |
残業免除の申請方法と注意点
時短勤務者が残業免除を希望する場合、開始希望日の1か月前までに、会社へ申し出る必要があります。一度の申請で1か月以上1年以内(深夜残業のみ半年以内)の期間で効力が発生し、申請は何度でも可能です。申し出を受けた企業は、原則として希望を受け入れなければなりません。
ただし、育児・介護休業法によって、事業運営に明らかな支障が出る場合は、請求を拒否できるとされています。単に繁忙期という理由だけでは、認められないため注意しましょう。
時短勤務者の残業免除で制限される労働時間
残業免除を申請した時短勤務者に対して、制限されるのは次の3つの時間外労働(残業)です。
申請により制限される労働時間(残業) | 期間 | 割増賃金の支払い | |
---|---|---|---|
法定内残業 | 所定労働時間を超えたものの、1日の法定労働時間8時間に満たない残業 | 1回の申請で1か月以上1年以内 | 義務なし(就業規則により設定可)、通常賃金の支払いが必要 |
法定外残業 | 日8時間・週40時間を超える時間外労働 | 必須(25%以上) | |
深夜労働 | 午後10時~午前5時の労働 | 1回の申請で1か月以上6か月以内 | 必須(25%以上、深夜労働が法定外残業になる場合は50%以上) |
いずれの労働においても、時短勤務者が申請すれば、企業は残業を依頼できません。請求回数に制限はなく、繰り返し申請できます。一方で、申請がなければ、残業させても問題ないとされていますが、注意点もあります。確認していきましょう。
法定内残業(所定労働時間超~8時間未満)
法定内残業は、時短勤務者の所定労働時間を超えたものの、1日の法定労働時間8時間に満たない残業です。時短勤務では所定労働時間を原則6時間としているため、6時間1分~8時間未満の残業が該当します。
法定内残業に対する割増賃金の支払いは、法律で義務づけられていないため、超過分を支払えばよいとされています。ただし企業の裁量で就業規則に支払いを義務づけることも可能です。
法定外残業(1日8時間・週40時間を超える時間外労働)
法定外残業は労働基準法で定められた「1日8時間・週40時間」を超える労働です。たとえば、時短勤務者が1日9時間働いた場合、8時間を超えた1時間が法定外残業に該当し、割増賃金の支払い義務が発生します。
36協定が締結されていれば、時短勤務者であっても1か月あたり45時間以内、1年あたり360時間まで法定外残業をすることが可能です。ただし、育児介護休業法では小学校就学前の従業員か申請した場合には、36協定に基づく法定外残業を1か月あたり24時間以内、1年あたり150時間以内に制限できます。
残業免除の申請があると、残業は一切させてはならず、免除申請があるケースとないケースで対応が異なるため、混同しないよう注意しましょう。
深夜残業
午後10時から翌朝5時までの時間帯の労働も、免除対象に含まれます。時短勤務者が育児・介護をしながら深夜帯に働くことは心身への負担が大きく、特に配慮が求められる時間帯です。深夜残業も法律に沿った割増賃金を支払う必要があります。
深夜残業の制限については、同居家族による育児サポートの有無など、ほかの残業より厳しく除外規定を設けられる場合があります。
労使協定により対象外にできる人(深夜残業のみの条件) |
---|
・所定労働時間のすべてが深夜にある従業員 ・妊娠出産、ケガや病気などで深夜帯に保育 ・介護ができる16歳以上の同居家族がいる従業員 |
一般的に、時短勤務者が深夜を含むシフトや職種に就くことは少ないでしょう。ただし、本人が深夜勤務を希望する場合も、まったくないとはいえません。希望する場合は、必ず生活状況や健康面への影響を十分に確認したうえで、無理のない勤務体制を整えることが重要です。
時短勤務の残業代
時短勤務者に残業をさせた場合、時間帯に応じて残業代(割増賃金)を支払う義務が発生します。
まず原則として、法定外残業には割増賃金の支払いが必要です。一方で、法定内残業(所定労働時間を超えて8時間未満までの労働)については、割増賃金の支払い義務はありません。
ただし、企業の就業規則で支払いを定めている場合は、その規定に従って残業代を支払う必要があります。
時短勤務者の残業代計算
時短勤務時の残業代計算は、フルタイム労働者と同様に、残業の種類ごとに割増率を掛け算して算出します。
残業の種類 | 割増 | 計算 |
---|---|---|
法定内残業時間 | 100% | 通常時給×法定内残業時間 |
法定外残業時間 | 125% | 通常時給×法定外残業時間×1.25 |
深夜残業+法定外残業 | 150% | 通常時給×深夜残業時間×1.5 |
企業が時短勤務者に残業をさせる場合は、労働時間の区分を確認したうえで、該当する割増率で残業代を計算・支給することが必要です。
勤怠記録や就業規則との整合性も重要となるため、あいまいな管理は避け、たとえ1分でも労働時間の超過分を把握できる体制を整えましょう。
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時短勤務の残業に関する注意点
時短勤務制度は、育児や介護と仕事の両立を支援するために設けられた制度です。制度の趣旨を踏まえると、時短勤務者に安易に残業を求めることは望ましいとはいえません。
あくまでも時短勤務者の負担にならないように、残業をさせる際に、企業があらかじめ注意したい4つのポイントを紹介します。
- 残業せずに済むよう業務量を調整する
- 時短勤務者に残業を強制しないよう注意する
- 時短勤務制度の意義を社内で共有する
- ハラスメントに注意する
残業せずに済むよう業務量を調整する
時短勤務者に残業が発生しないよう、所定労働時間内で完結できるように、業務量や目標を調整しましょう。
時短勤務者に過度な業務を課し、残業で補わせてしまうと、制度の本来の目的である「両立支援」が実現できません。無理のない体制を整えることが、結果的に職場全体の生産性向上にもつながります。
時短勤務者に残業を強制しないよう注意する
時短勤務者が残業を了承しているから問題ないと考えるのは少し危険です。背景に「断りづらい雰囲気」や「職場への遠慮」があるかもしれません。特に上司や先輩からの依頼は、心理的に断りにくいものです。
企業は、制度の趣旨や本人の状況を踏まえて、残業が本当に必要か・妥当かを慎重に判断する姿勢が求められます。暗黙のプレッシャーで、時短勤務者に残業を強制しないようにしなければなりません。
時短勤務制度の意義を社内で共有する
時短勤務は、限られた時間で成果を出す働き方を支える制度です。一部の従業員だけが制度を利用しているように見えると、周囲のフルタイム従業員から「不公平ではないか」といった声が上がることもあります。
温度差を防ぐためには、制度の目的や利用条件、企業としての支援方針を社内で説明し、理解を深めてもらうことが重要です。
制度利用者と、そうでない従業員が互いに納得し、尊重し合える職場環境づくりを心がけましょう。
ハラスメントに注意する
時短勤務者に対して、上司が残業を強要したり、フルタイム従業員と比較して差別的な扱いをしたりする行為は、パワーハラスメントです。
「時短なのに早く帰るな」「周りに申し訳ないと思わないのか」といった発言も、無意識のうちに相手を追い詰めてしまうことがあるでしょう。
企業としては、管理職に対して制度に関する研修を実施するなど、ハラスメントを未然に防ぐ意識づけが必要です。

まとめ
時短勤務者における残業の取り扱いは、法定内残業か法定外残業かによってルールが異なり、対応を誤ると法令違反となる可能性もあります。
企業の担当者は、労働時間を正しく管理し、該当する区分ごとに残業代を適切に計算・支給できる体制を整えることが重要です。
また、一定の条件を満たす従業員から残業免除の申請があった場合、企業は希望を尊重し、残業を命じることはできません。
制度の趣旨を踏まえ、本人の同意があったとしても、無理な残業になっていないかを常に意識し、配慮ある運用を徹底しましょう。
特に上司や現場責任者には、制度内容と対応方針を事前に共有し、現場任せにせず組織全体で正しい管理体制を築く必要があります。
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