ストック休暇(保存休暇)とは? メリットデメリット、使い方や企業事例も解説

ストック休暇(保存休暇)とは? メリットデメリット、使い方や企業事例も解説

ストック休暇とは、失効した年次有給休暇(以下、有給休暇)を将来のために積み立てておき、使えるようにする特別休暇です。

企業がストック休暇を導入することで、従業員が安心感をもって働けるなど、働きやすさの向上につながります。

本記事は、ストック休暇のメリットやデメリット、使い方や企業事例を解説します。これからストック休暇の導入を検討している企業はもちろん、従業員の働きやすさを改善したいと考えている人事担当者は、参考にしてください。

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目次アイコン目次

    ストック休暇とは

    ストック休暇とは、期限までに消化できなかった年次有給休暇を積み立てて使用できる特別休暇です。企業における法定外福利厚生として、柔軟な働き方を支援し、従業員エンゲージメントの向上も期待できるなどのメリットがあります。

    企業によっては「保存休暇」や「積立有給休暇」、取得理由によっては「リザーブ休暇」と呼ばれることもあります。

    ストック休暇は、看護や介護、病気療養など、長期的な休暇が必要になったときなどに使用できます。法定上の年次有給休暇は付与日から2年を過ぎると失効してしまいますが、企業にストック休暇が導入されていれば、失効してしまった有給休暇は無駄になりません。

    ストック休暇に関する法律上の扱い

    ストック休暇は、労働基準法によって定められた休暇ではなく、企業が任意に導入する制度です。

    労基法で義務づけられているのは、「年次有給休暇を一定日数付与すること」までであり、使い切れなかった有休を積み立てて活用する制度までは規定されていません。

    ストック休暇はあくまで会社独自の制度であり、導入するかどうかも、内容も企業の裁量に任せられています。

    具体的には、積立可能な上限日数や有効期限、利用目的、給与や賞与との関係、退職時の取り扱いも会社が自由に設計できます。

    ストック休暇と混同しやすい休暇

    ストック休暇とほかの混同しやすい休暇には、どのような違いがあるのでしょうか。休暇の違いを正しく知ることで、自社に必要な特別休暇の導入にも役立ちます。

    ストック休暇有給休暇リフレッシュ休暇
    法的根拠なし労働基準法なし
    導入義務任意義務任意
    主な目的将来の病気・介護などに備える労働者の心身回復・生活保障心身の回復・勤労意欲の向上
    付与のタイミング有給が消滅するタイミング入社から一定期間経過後、毎年付与(条件あり)勤続年数や年齢の節目
    時効企業が自由に設定2年で消滅企業が自由に設定

    有給休暇との違い

    ストック休暇と有給休暇の違いは、法律上の扱いやルールです。

    ストック休暇は、特別休暇であり、法律に根拠があるわけではなく、導入する義務はありません。時効までの期間や利用できる理由などのルールも就業規則や社内規程で自由に定めることができます。

    一方で有給休暇は、労働基準法第37条に基づき、条件を満たした社員に必ず付与しなければならない法定休暇です。有給休暇は、付与日から2年が経過すると消滅するなど、国が明確に基準を定めています。

    ストック休暇は企業の裁量、有給休暇は法律で強制という点が、両者をの違いを分けるポイントです。

    参照:『しっかりマスター労働基準法ー有給休暇編ー』厚生労働省

    リフレッシュ休暇との違い

    ストック休暇とリフレッシュ休暇は、どちらも会社が任意で設ける特別休暇ですが、目的や付与されるタイミングが異なります。

    ストック休暇は、本来であれば時効で消滅してしまう年次有給休暇を失効させず、病気療養や介護など将来のために積み立てて活用できるようにした制度です。有給休暇の残日数が消滅するたびに、ストックとして日数が加算されていきます。

    一方、リフレッシュ休暇は従業員の心身のリフレッシュや勤労意欲の向上を目的とした休暇です。年齢や勤続年数などの節目にまとめて付与されるのが一般的です。

    ストック休暇のメリット

    ストック休暇の代表的なメリットは、主に以下の3点です。

    • 従業員の働きやすさを向上できる
    • 企業イメージ向上により人材確保につながる
    • 従業員のエンゲージメントが向上する

    ストック休暇を利用できる職場づくりは、従業員の安心感やエンゲージメント向上につながります。企業はストック休暇で得られるメリットを理解し、前向きに検討しましょう。

    従業員の働きやすさを向上できる

    ストック休暇は従業員の働きやすさを支える制度です。病気療養や介護などで長期の休暇が必要になった場合でも、ストック休暇を利用できれば従業員は安心して休めます。

    通常の有給休暇の残日数が足りなくても、ストック休暇を利用できるという安心感は、従業員のワークライフバランスを維持したり、心身の健康を増進したりすることにつながります。

    企業イメージ向上により人材確保につながる

    ストック休暇の導入は、人材確保の観点から魅力を高める施策としても有用です。

    従業員の働きやすさを重視している姿勢が社外にも伝われば、企業イメージが向上し、採用活動でのアピールポイントになります。応募者に「安心して働ける会社」として応募者の入社意欲を高め、人材確保においても好影響があるでしょう。

    従業員のエンゲージメントが向上する

    ストック休暇は、従業員のエンゲージメント向上にも効果的です。

    ストック休暇の導入は、従業員に「会社が働きやすい労働環境の整備に取り組んでいる」と感じてもらう機会となります。

    結果として、会社への信頼や感謝の気持ちが高まり、仕事への貢献意欲(従業員エンゲージメント)も強まるでしょう。

    ストック休暇のデメリット

    ストック休暇には、デメリットがあることも事実です。代表的なデメリットは以下の3点です。 

    • コストがかかる
    • 生産性低下を招くおそれもある
    • 形骸化してしまうと従業員の意欲低下を招く

    企業は、あらかじめ対策を検討し、デメリットによる弊害を防ぎましょう。

    コストがかかる

    ストック休暇を有給扱いとすると、賃金が発生するため、コストがかかり人件費が増加します。

    人件費以外にも、制度を運用するための管理業務や休暇管理など、間接的なコストも発生します。

    ストック休暇を無給にすることも可能ですが、従業員が安心して休暇を利用しにくくなるため、制度本来のメリットを十分に活かせません。

    生産性低下を招くおそれもある

    従業員がストック休暇を利用して長期的に休むと、その間の業務をほかのメンバーが担う必要があり、負担が偏ります。とくに同時期に複数人が取得した場合、業務全体の停滞につながり、組織の生産性低下を招くリスクがあります。

    形骸化してしまうと従業員の意欲低下を招く

    ストック休暇の制度があっても「取得しづらい雰囲気」があると、従業員は不満を感じ、意欲低下を招きます。制度を形骸化させないためには、取得しやすい環境を整えることが重要です。積極的に取得を呼びかけ、従業員が安心して活用できる体制を整備する必要があります。

    ストック休暇の使い方

    ストック休暇の使い方は、企業によってさまざまです。制度設計の段階で「どのような目的で利用できる休暇として認めるか」をあらかじめ定めるのが一般的です。

    目的詳細
    育児や介護育児休業や介護休業と組み合わせて使用する
    病気療養自分の体調不良や入院時に使用する
    家族の看護や介護子どもの看病や親の介護に使用する
    不妊治療自分や配偶者の不妊治療のために使用する
    ボランティア活動ボランティア活動への参加のために使用する
    そのほか子どもの学級閉鎖時などに使用する

    ストック休暇は特別休暇であるため、使い方も企業が自由に決められます。ただし、一度付与された休暇は労働者の権利となるため、取得目的を企業がむやみに制限できません。

    ストック休暇の使い方を限定し過ぎてしまうと、利用しにくくなってしまうでしょう。幅広い利用シーンを認めれば、働きやすさや従業員満足度の向上につながります。

    ストック休暇の導入方法

    ストック休暇を導入する際は、次の5つのステップを踏むと円滑に進められます。

    1. ストック休暇の運用ルールを決める
    2. ストック休暇の申請手続きを明確化する
    3. 就業規則に明記する
    4. 従業員へ周知する
    5. 運用状況を定期的に確認する

    運用ルールによって、取得率も変わります。できるだけ利用しやすい内容を意識して設計しましょう。

    1.ストック休暇の運用ルールを定める

    ストック休暇の運用ルールを決めます。具体的に定めなければならない内容は、主に以下の4点です。

    • 積立日数の上限(年間の上限や日数の制限)
    • 休暇の取得単位(1日や半日、時間など休暇を取得できる単位)
    • 休暇の有効期限(ストック休暇が時効になるまでの期間)
    • 休暇の取得目的(介護や育児などストック休暇を取得できる理由)

    企業側だけでなく従業員側の希望をヒアリングしましょう。ストック休暇に関するルールは、企業ごとに異なります。たとえば、積立日数に関する制限や、休暇が時効になるまでの期間など、従業員の声や実用性も考慮して検討しましょう。

    2.ストック休暇の申請手続きを明確化する

    ストック休暇における申請手続きの方法を明確にしましょう。申請方法が明確化されていないと、申請ミスや申請漏れが起こり、従業員が希望する日に取得できなくなってしまう可能性もあります。

    運用側にとっても、統一された申請フローがあることで管理がしやすくなります。申請方法は、就業規則へ明記するだけでなく、従業員がいつでも気軽に確認できる状態にしておくことが大切です。

    3.就業規則に明記する

    ストック休暇の制度運用ルールや申請フローが決まったら、就業規則に明記します。就業規則に明記すれば、従業員との認識相違によるトラブルも防げます。就業規則を変更したら、労働基準監督署に届け出る必要があります。

    ▼就業規則の変更方法を知るなら、以下の記事をご確認ください。

    4.従業員へ周知する

    ストック休暇の導入を従業員へ周知します。伝え漏れのないよう、メール送付や書面による周知がおすすめです。全社会議などで周知する機会を設けると、全体に周知できます。

    ストック休暇に関する周知や取得促進が十分にされないと、制度が理解されず、取得を促進できません。従業員の働きやすさのために導入する制度であるからこそ企業側は、わかりやすい周知や取得促進に努めましょう。

    5.運用状況を定期的に確認する

    ストック休暇の導入後は、制度が適切に利用されているか定期的に確認しましょう。導入しただけで放置してしまうと、制度が定着せずに形骸化するおそれがあります。

    取得率が低いようであれば、どこに障壁があるのかを把握することが大切です。たとえば「申請手続きがわかりにくい」「上司が承認しづらい雰囲気がある」といった原因を洗い出し、制度の改善や周知方法の見直しにつなげましょう。

    ストック休暇の運用における注意点

    ストック休暇の運用では、以下に注意する必要があります。

    • 退職時のストック休暇の消化ルールを整理する
    • ストック休暇の給与・賞与への影響を明確にする
    • 通常の有給休暇との優先順位を決める
    • ストック休暇の利用を促進する

    とくに、退職時の扱いや給与・賞与への影響は、といった金銭にかかわる部分は、従業員とのトラブルにつながりやすいため注意が必要です。

    ポイントをあらかじめ整理し、必要に応じて社内規程などに明記しておきましょう。

    退職時のストック休暇の消化ルールを整理する

    退職時におけるストック休暇の扱いは、企業ごとに異なります。

    年次有給休暇は、退職が決まっていても従業員が希望し、会社が時季変更権を行使できなければ取得させなければなりません。

    一方でストック休暇は、特別休暇であるため、退職前に消化できるかどうかは企業側が決められます。退職時における代表的なストック休暇の扱いは、以下の3つの方法です。

    • 退職が決まっている場合はストック休暇を消化させない
    • 本人が希望すれば退職日までに残日数を消化させる
    • 残日数分の金額を退職金に上乗せする

    どの方法を採用するかは企業の裁量で。就業規則に明記してトラブルを防止しましょう。

    ストック休暇の給与・賞与への影響を明確にする

    ストック休暇を取得した日を「出勤扱い」とするかどうかは、給与計算だけでなく、賞与の算定にも影響します。

    ストック休暇は、本来消滅する有給休暇を活用する制度であるため、一般的には出勤扱いとする企業が多いです。

    企業は、ストック休暇を給与や賞与にどう反映させるか、扱いをあらかじめ整理し、従業員に明確に示しておくことが重要です。

    通常の有給休暇との優先順位を決める

    ストック休暇は、期限までに使い切れなかった年次有給休暇を積み立てて利用できる制度です。その性質上、基本的には 年次有給休暇を優先して取得し、残日数をすべて消化したあとにストック休暇を使う運用が一般的です。優先順位を明確にしておくことで、従業員も安心して利用できるでしょう。

    ストック休暇の利用を促進する

    ストック休暇は、制度を導入しただけでは十分に利用されないかもしれません。


    「有給休暇を期限までに使い切れなかったのに、ストック休暇は取りづらい」「期限内の有休を使いきってしまい、ストック休暇も使いたいとは言いにくい」と従業員が感じて、利用を控える可能性もあります。

    従業員が安心して取得できるように、制度の趣旨を周知し、組織全体で利用しやすい雰囲気をつくることが大切です。

    ストック休暇を導入する企業事例

    ストック休暇は制度の設計や運用方法によって、従業員の取得率や制度の浸透度が変わります。自社で導入を検討する際には、他社がどのように制度を整備し、どんな成果を得ているかを参考にしてみるのも一案です。

    2社の導入事例を取り上げ、役立つポイントを紹介します。

    コニカミノルタ株式会社

    コニカミノルタ株式会社では、育児や介護、通院といった理由で使える「ストック休暇」を設けています。

    経営統合を契機に、企業と労働組合が協力して制度づくりを進めるなかで、次世代を担う子どもが育つ環境整備の必要性から、リフレッシュ休暇とあわせて設立されました。

    同社におけるストック休暇の制度は、最大40日まで積み立てられるのが特徴です。

    設立当初は、育児や家族の看護での利用が想定されていました。現在は不妊治療や子どもの学校における学級閉鎖への対応など、幅広い用途で利用できるようになっています。

    参照:『コニカミノルタ株式会社 リフレッシュ休暇/ストック休暇』厚生労働省

    参照:『人事制度 – 新卒採用情報』コニカミノルタ株式会社

    株式会社高島屋

    株式会社高島屋では、ストック休暇の一例として「リザーブ休暇」を1996年に導入しました。介護や看護、育児、不妊治療といった特定の目的に限定して利用できる制度です。

    失効した年次有給休暇の積み立て範囲内であれば、年間40日までを上限として、1日単位で使用できる点が特徴です。

    参照:『働き方 | 高島屋新卒採用サイト』株式会社高島屋

    まとめ

    ストック休暇は、期限までに使えず失効する有給休暇を、将来に備えて積み立てて使用できる特別休暇です。

    ストック休暇があれば、有給を期限内に使いきってしまったり、有給休暇を使わずに消滅させてしまったりしても、無駄にせず活用できます。

    ストック休暇制度の導入により、安心して働ける環境が整い、従業員満足度や従業員エンゲージメントの向上につながります。また、「働きやすい会社」という対外的なイメージアップも期待できるメリットがあります。

    「従業員の働きやすさを高めたい」「モチベーションを向上させたい」と考えている企業は、ストック休暇の導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

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