タイムカードの改ざんや不正打刻の対処法を解説! 処分と罰則や防止策

タイムカードの改ざんや不正打刻を見逃すと、未払い残業代や労基署からの指導、さらには訴訟へと発展しかねません。
タイムカードの改ざんは誰が行っても違法です。従業員による代理打刻や残業時間の水増しだけでなく、会社が残業代を抑える目的で定時打刻を命じるケースも一部で見られます。
「改ざんが発覚したらどう対応するか」「不正とはどこまでが違法か」「社員の解雇は認められるのか」といった不安を抱える労務担当者も少なくないでしょう。
本記事では、タイムカード改ざんが発覚した際の正しい対応手順や処分の注意点、不正を未然に防ぐ仕組みづくりについて解説します。
→不正をさせない仕組みづくりに「One人事」資料を無料ダウンロード
目次
タイムカード改ざん・不正打刻は違法性が高い
タイムカードの改ざんとは、本来の出退勤時間とは異なる時刻を、意図的に記録することです。
たとえば、上司が定時打刻を命じてそのまま残業を続けさせるケース、あるいは従業員が早退を隠して、定時退社と記録するケースなどがあります。
いずれも「小さなごまかし」のように思えるかもしれませんが、実際には、企業の社会的信頼を低下させる不正行為です。
タイムカードの改ざんは、使用者が行っても労働者が行っても法律違反です。最終的に重大な労務トラブルに発展しかねないため、企業として適切な対処法を知っておく必要があります。
打刻の正確性が重要な理由
タイムカードの打刻データは給与計算や残業代支払いの基礎となります。打刻データが改ざんされると、正しい賃金の計算・支払いはできません。
タイムカードの改ざんを放置すれば、未払い残業代や労基署の指導、裁判や紛争といったリスクを抱えることになります。

タイムカードの改ざん・不正でよくある事例
タイムカードの改ざんには、主に以下のような4つのケースがあります。
- 他人が代わりに打刻する
- 残業を多く見せる
- 押し忘れを装って遅刻を隠す
- 残業を少なく見せる
残業を少なく見せるのは、従業員が関与する場合と企業が関与する場合、両方のケースが考えられます。不正行為を未然に防ぐために、実際の職場でよくある事例を把握しておきましょう。
他人が代わりに打刻する
タイムカードに関する不正行為では、同僚や後輩などに打刻させる、いわゆる代理打刻が見られます。紙のタイムカードは「打刻機にカードを通すだけ」という手軽さがメリットですが、カードさえ手にできれば本人以外でも容易に打刻ができてしまいます。
また、あとから打刻者を確認するのも難しく、不正打刻に気づくのは難しいでしょう。
押し忘れを装って遅刻を隠す
上司からの叱責や給料の減額を回避するため、意図して押し忘れを装い遅刻を隠す従業員もいます。
実際には始業時刻に出勤していなかったにもかかわらず「打刻を忘れてしまった」と嘘の申告をして、あとから正規の時刻を記録するという手口です。
残業を多く見せる
残業代を実際よりも多く受け取るために、従業員が残業時間を水増しする場合もあります。具体的には、以下のような例が考えられるでしょう。
- 退勤時に打刻せず、あとから手書きで遅い時刻を記入する
- 終業後も職場で適当に時間をつぶし、時間が経ってから終業時間を打刻する
残業を多く見せた場合、企業は残業代を実際よりも多く支払うことになります。残業時間の水増しが常態化すると大きな損害にもつながりかねないため、対策を講じなければなりません。
残業を少なく見せる
残業時間の水増しとは反対に、残業時間を実際よりも少なく計上するパターンもあります。
たとえば「残業が多いと上司に注意されるから」「法律の上限以上に残業をしないと仕事が終わらないから」という理由で、みずから隠れ残業を行うといったケースです。
本人による過少申告でも、残業代を正確に支給しなかった場合は、企業が責任を追及されるおそれがあります。
残業を少なく見せる企業の改ざんの事例
タイムカードの改ざん事例で深刻なのは、企業や管理職がかかわるケースです。
本来であれば、法定労働時間を超えた労働には、法律上の義務として割増賃金が支払われます。
しかし、企業にとって残業代はコストの一部です。コスト削減を理由に、上司が社員へ定時打刻を命じ、実際にはサービス残業を強要するという悪質な対応も一部で見られます。
現場マネージャーが独断で指示する場合もあるため、経営層が知らないうちに慣習化して問題になることもあります。
改ざん者が企業でも従業員でも、組織全体にとって大きなリスクであることに変わりありません。

タイムカード改ざん(修正)と不正打刻の違い
タイムカードの「改ざん」と「不正打刻」は、どちらも「意図的に事実と異なる勤怠記録を残す」という意味で共通しています。しかし、改ざんはあとからデータを修正する行為、不正打刻は最初の打刻の時点で不正を行う行為という違いがあると理解しておきましょう。
| 改ざん | あとから時刻を修正する |
| 不正打刻 | タイムレコーダーを押す際に、実態とは異なる時間を記録する |
改ざんは、あとから打刻データを書き換える行為です。たとえば、管理者が勤怠システムにアクセスして残業時間を短く修正したり、従業員が手書きで出退勤時刻を書き直したりするケースです。タイムレコーダーを押した記録そのものを変更します。
一方で不正打刻は、打刻の時点で虚偽の記録を残す行為です。社員が同僚に代わりにカードを押させる代理打刻や、実際より遅い時間に退勤打刻をする残業時間の水増しが典型例です。
いずれの場合も、結果的に労働時間の記録がゆがめられ、未払い残業代や過大な賃金請求につながります。法的にはいずれも重大なリスクがあり、企業は区別して把握したうえで対応策を講じることが重要です。
タイムカード改ざん・不正の原因
タイムカードの改ざんや不正打刻が起きる背景には、お金・評価・職場環境の3つの要因がかかわっています。企業の管理体制や評価制度そのものが不正を助長することも少なくありません。
1. 金銭的な動機
もっともわかりやすいのは、残業代や給与をめぐるお金の問題です。
- 従業員が「残業代を多く得たい」と考えて時間を水増しする
- 反対に企業が「コストを抑えたい」と定時打刻を命じる
このように利害が衝突する場面では、タイムカードの改ざんが発生しやすくなります。
2. 評価や処分を避けたい心理
金銭以外に多いのが「評価に影響するから」という理由です。
- 遅刻や早退を隠して叱責や減給を避ける
- 「残業が少ない=やる気がない」と見られるのをおそれ、残業を多く見せる
- 反対に「残業が多すぎると評価が下がる」と思い、時間を少なく申告する
評価制度や上司の意識が社員の行動を変えてしまうのです。
3. 職場環境や企業文化
さらに深刻なのは、組織そのものが不正を後押ししているケースです。
- 長時間労働を美徳とする文化
- 成果よりも「働いている姿勢」で評価する制度
- 紙のタイムカードや自己申告制など、アナログで不正を見抜きにくい体制
勤怠管理がずさんで、コンプライアンス意識に欠けるような環境では「少しくらいごまかしても大丈夫」という空気が広がり、不正が常態化してしまう可能性があります。
タイムカードを改ざんした場合の罰則・リスク
タイムカードを改ざんすると、具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか。発覚すれば、法律違反として、企業や従業員が責任を問われる可能性があります。「これくらいならよいだろう」と安易に考えないように注意が必要です。
タイムカードの改ざんが法律上どのように扱われ、どんな罰則があるのかを、それぞれの立場から解説していきます。
| 違反主体 | 法律・条文 | タイムカードの改ざんの結果、該当する違反行為 | 罰則・ペナルティ |
|---|---|---|---|
| 企業側 | 労働基準法第37条第1項 | 未払い残業代 | 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 労働基準法第114条 | 未払い残業代の精算 | 本来の2倍の残業代を支給する義務 | |
| 労働基準法第120条第4項 | 虚偽の帳簿・書類提出 | 30万円以下の罰金 | |
| 労働契約法第5条 | 労働時間管理を怠り、安全配慮義務違反 | 損害賠償請求 | |
| 社員 | 刑法246条(詐欺罪) | 残業を水増しして残業代を不正受給 | 10年以下の拘禁刑(罰金刑なし) |
| 刑法159条(私文書偽造罪) | 紙のタイムカードを改ざん | 1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金 | |
| 刑法161条の2(電磁的記録不正作出罪) | 電子的な打刻データを改ざん | 5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
企業側:労働基準法違反
企業側の主導によるタイムカードの改ざんは、主に残業時間を少なく見せる目的で行われます。これは、本来支払うべき残業代を支給していないことになるため、労働基準法に違反する重大な行為です。違反すると、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます。
また、労働基準法第114条により裁判所は、労働者が請求すれば、本来支払われるべきだった残業代と同額の支払いを命じることができるとしています。未払い分とあわせると、最大で2倍の金額を支払う必要があるということです。
さらに、タイムカードの改ざん自体が、虚偽の帳簿書類の作成・提出とみなされ、労働基準法第120条第4項違反となる可能性もあります。違反すると、30万円以下の罰金が科されます。
参照:『労働基準法第37条』『労働基準法第114条』『労働基準法第120条』e-Gov法令検索
企業側:労働契約法違反
労働契約法第5条では、企業に対して安全配慮義務を課しています。
引用:『労働契約法第5条』e-Gov法令検索
(労働者の安全への配慮)第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
タイムカードの改ざんにより労働時間が適切に管理されていないとなれば、安全配慮義務を果たしていないとみなされるおそれがあります。
場合によっては、従業員から損害賠償を請求される可能性もあるでしょう。
従業員側:刑法違反
従業員によるタイムカードの改ざんが悪質な場合は、複数の刑法に違反します。
たとえば、従業員がタイムカードの改ざんにより残業時間を多く見せかけた場合は、企業を騙して残業代を受け取ったとして詐欺罪が成立します。詐欺罪には罰金刑がなく、成立した場合の罰則は10年以下の拘禁刑です。
また、紙のタイムカードの改ざんは、1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金を科される私文書偽造罪です。
一方、電子的な打刻データの改ざんには電磁的記録不正作出罪が成立し、5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を科されます。

タイムカードの改ざん発覚から処分までの対応方法
タイムカード改ざんの罰則内容を知ると、「社内で改ざんが見つかったら、対象の従業員にどう対応すればいいのか」と不安になる方もいるでしょう。
ここからは、タイムカード改ざん発覚時の基本的な流れを解説します。基本的に以下の3ステップで進めます。
- タイムカードを改ざんした証拠を集める
- 従業員の懲戒処分を検討する
- 残業代の返還を請求する
証拠の収集から処分の検討、過払い残業代の返還請求まで、順を追って確認していきましょう。
タイムカードを改ざんした証拠を集める
タイムカードの改ざんが発覚したら、まず最初に必要なのは、不正を裏づける証拠の収集です。
証拠がないまま、一方的に決めつけると、従業員との信頼関係を損なうおそれがあります。
当該従業員を懲戒処分するのであれば、なおさら客観的な証拠が欠かせません。
客観的な証明となるのは、以下のような記録です。
- タイムカードの打刻記録
- 監視カメラの映像
- ビルの入退館記録
- 上司や同僚の目撃証言
- 業務日報
- パソコンの使用履歴
- メールやチャットの送受信履歴 など
ただし、従業員によっては、不正行為という認識のないまま記録を修正してしまったケースもあります。必ず個々の事情をヒアリングしたうえで、公平に対処することが大切です。
従業員の懲戒処分を検討する
タイムカード改ざんの証拠がそろったら、次に検討するのは従業員の懲戒処分です。厳しく対処する姿勢を見せることで、不正の繰り返しを抑制にもつながります。
懲戒処分には以下のような種類があります。不正の程度や悪質さに応じて適切な処分を下すようにしましょう。
| 戒告(かいこく) | 口頭または文書での厳重注意 |
| 譴責(けんせき) | 口頭または文書での厳重注意に加え、始末書の提出を求める |
| 減給 | 賃金から一定金額を差し引く |
| 出勤停止 | 就労を一定期間禁止する |
| 降格 | 役職や職位を引き下げる |
| 諭旨解雇(ゆしかいこ) | 退職届の提出を促し、提出された場合は自己都合退職として扱う |
| 懲戒解雇 | 労働契約を一方的に解除する |
悪質性が低ければ、比較的軽い処分である戒告や譴責の判断が妥当です。
一方、長期にわたって残業時間を水増しし、残業代を不正に受け取っていた場合は、懲戒解雇が認められる場合もあります。
残業代の返還を請求する
タイムカードの改ざんによって残業代を多く支払っていた場合、企業には従業員に返還を求める権利(不当利得返還請求権)があります。
まずは従業員に直接返還を求め、応じれば話し合いで解決が可能です。応じない場合は、法的手続きを検討する必要があります。必要に応じて弁護士に相談し、相応の手続きを進めましょう。
また、返還請求を行うには「過剰に支払った金額」を正確に算出しなければなりません。誤った金額提示は、さらなるトラブルを招きかねませんので、慎重に対応しましょう。
タイムカード改ざんで従業員を処分する際の注意点
タイムカードの改ざんを理由として、処分へ踏み切る前にポイントをおさえておきましょう。
- 正確な労務管理・勤怠管理を徹底する
- 段階的に指導し、改善の機会を与える
- 解雇の妥当性を冷静に判断する
- 適切な処分手続きを踏む
- 打刻や処分のルールを明確にする
タイムカードの改ざんが事実でも、企業側の労務管理に問題があると、解雇のような厳しい処分が認められない可能性があります。たとえば、次の2つのケースです。
- 勤怠管理のルールが不明確だった
- 従業員の裁量で打刻のタイミングを決められる状態だった
- 注意をせずに放置していた
- 喫煙などで長時間の離席者を認めていた
また、不正打刻をした従業員に適切な指導や注意喚起をせず、いきなり解雇に踏み切るのも望ましくありません。妥当性がなく、処分が重いと判断されるおそれがあります。
とくに懲戒解雇は、もっとも重い処分です。厳しい条件を満たさなければなりません。
十分な調査を行ったうえで、故意・悪質性の有無、反省の度合い、企業に与えた損害の大きさなどを総合的に確認しましょう。従業員に弁明の機会を与えるなど、定められた手続きを踏むことも重要です。
万が一、不当解雇と判断された場合は、解決までの期間の給与に加えて、解決金の支払い義務が生じることもあります。事前に処分ルールを明確にし、手続きを適正化しましょう。
タイムカード改ざん・不正を防ぐための対策
タイムカードの改ざんが発覚した場合、もっとも大切なのは再発防止です。タイムカードの改ざんを起こさせない環境づくりとして、3つの対策を紹介します。
- 就業規則を整備して周知する
- タイムカードを管理者が保管する
- 勤怠管理システムを活用して改ざんをさせない
就業規則を整備して周知する
まずは、タイムカードの改ざんが不正行為であることを明確にしましょう。就業規則に「改ざんを禁止する」旨や「懲戒処分の対象になる」ことを記載し、従業員に周知します。従業員に認識を持ってもらうことが大切です。
懲戒処分は就業規則に基づいて行う必要があります。規則が不十分だと、違反者に適切な処分を下せません。あらかじめ就業規則の整備は不可欠です。
新入社員研修では「勤怠の基本ルール」を、管理職研修では「監督責任やコンプライアンス」を重点的に伝えるなど、階層ごとに教育を徹底するのもおすすめです。
タイムカードを管理者が保管する
紙のタイムカードを従業員がいつでも手にできる状態にしておくと、不正に修正されるリスクが高まります。そのため、タイムカードの管理者を決め、保管するのも一つの手法です。
具体的には、鍵のかかる引き出しや金庫に厳重保管し、管理者が鍵を預かります。物理的な制約を設けることで、不正を未然に防止できます。
ただし、管理者の手間が増えるというデメリットもあります。現場の負担と改ざん対策のバランスを考えて導入しましょう。
勤怠管理システムを活用して改ざんをさせない
タイムカード改ざんの根本的な対策としては、勤怠管理システムの活用もおすすめです。
勤怠管理システムには、生体認証・ICカード・GPSなど、本人以外が打刻できない仕組みが用意されています。代理打刻や修正を抑制することが可能です。
また、打刻履歴(ログ)は自動的に保存されるため、紙のタイムカードとは異なり、あとからの書き換えは困難です。
勤怠管理システムには、労働時間を自動で集計したり、残業時間が多い従業員にアラートを通知したりと、業務効率化に欠かせない機能も充実しています。
タイムカードの改ざん防止と、業務改善の両方を実現できるのは大きなメリットです。

まとめ|タイムカードを改ざんさせない勤怠管理に
タイムカードの改ざんは違法性が高く、重大な労務トラブルに発展するリスクがあります。
まずは従業員に「タイムカードの改ざんは不正行為である」と周知し、一人ひとりの意識を高めることが大切です。就業規則にも不正とみなすこと、懲戒処分の対象になることを明記し、抑止力を高めましょう。
また、生体認証打刻やICカード打刻などに対応した勤怠管理システムを導入し、不正が起こりにくい環境を整えることも重要です。
勤怠管理をラクに|One人事[勤怠]
One人事[勤怠]は、不正打刻の抑止にもお役立ていただける勤怠管理システムです。
- 勤怠不正が発覚した
- 打刻漏れが多い
- 労働時間や残業時間の集計に不安がある
勤怠管理やタイムカード打刻に課題がある企業をご支援しております。
One人事[給与]と連携すれば、給与計算に自動で紐づけられるため、より速くより正確に業務を進められるでしょう。
One人事[勤怠]の初期費用や気になる操作性については、当サイトより、お気軽にご相談ください。専門のスタッフが貴社の課題をていねいにヒアリングしたうえでご案内いたします。
当サイトでは、勤怠管理の効率化に役立つ資料を無料でダウンロードいただけます。勤怠管理をラクにしたい企業の担当者は、お気軽にお申し込みください。
| 「One人事」とは? |
|---|
| 人事労務をワンストップで支えるクラウドサービス。分散する人材情報を集約し、転記ミスや最新データの紛失など労務リスクを軽減することで、経営者や担当者が「本来やりたい業務」に集中できるようにサポートいたします。 |
