ボランティア休暇とは【給料の扱い】デメリットや証明方法と導入事例を解説

ボランティア休暇とは【給料の扱い】デメリットや証明方法と導入事例を解説

ボランティア休暇は、従業員がボランティアに参加するための休暇制度です。自然災害の多い日本では、ボランティア休暇の導入は、企業が社会的責任(CSR)を果たすためにも重要です。

しかし、ボランティア休暇は法定休暇でないため、運用ルールは各社で設計が必要です。どこまで有給にするのか、どう証明を求めるのか迷いますよね。

本記事では、ボランティア休暇の概要や給料の扱い、導入手順などを解説します。他社事例も紹介しますので、ボランティア休暇導入の判断にお役立てください。

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目次アイコン目次

    ボランティア休暇とは

    ボランティア休暇とは、従業員がボランティア活動に参加する目的で認める特別休暇(法定外の福利厚生)です。法令で一律の義務はなく、日数・対象活動・証明方法などのルールは企業ごとに設定しなければなりません。

    ボランティア休暇を通じて、社員が地域に貢献したり、困っている人を直接支援したりすることで、企業としてもCSRの観点から意義のある取り組みといえます。

    ボランティア休暇が注目されたきっかけ

    ボランティア休暇が注目されるようになったのは、1995年1月の阪神淡路大震災です。

    多くの市民ボランティアが、被災地へ向かい支援活動に参加したことで、企業として制度を通じた後押しの必要性が認識されました。

    さらに2011年3月の東日本大震災も、大きな転機といえます。地震や津波で被害にあった地域の復興支援が長期化し、企業が従業員の活動を支えるボランティア休暇の重要性が、あらためて強く意識されました。

    ボランティア休暇を導入する企業の割合

    ボランティア休暇は、過去の2つの災害をきっかけとして広まりましたが、普及率はまだそれほど高くありません。

    では、いま日本企業の「ボランティア休暇」はどれくらい導入が進んでいるのでしょうか。

    令和4年度のデータによると、導入企業は6.5%にとどまっています。

    導入する企業の割合6.5%
    導入を予定している企業0.7%
    導入を検討している企業15.9%

    導入検討層が一定数存在することを踏まえると、今後、導入企業はゆるやかに増えていく可能性もあります。

    参照:『事業主のみなさまへ 従業員の社会貢献や成長を後押しするためにボランティア休暇制度を導入しましょう』厚生労働省

    ボランティア休暇は民間企業だけでなく公務員も取得可能

    ボランティア休暇は、民間企業だけでなく公務員にも特別休暇として整備されています。自治体によって細かいルールは異なりますが、多くは年間5日を上限とするケースが一般的です。

    千葉市でも、1年度のうち最大5日まで取得できるボランティア休暇を認めています。同市の制度は、被災地での活動だけでなく、障がい者の援助や自治会活動まで対象を広げているのも特徴です。

    また東京都でも、被災者支援など社会に貢献する活動を理由とした、年5日以内のボランティア休暇制度を設けています。

    参照:『ボランティア休暇実施要領』千葉市
    参照:『職員の勤務条件|勤務条件関係|東京都人事委員会』東京都

    ボランティア休暇における給料の扱い

    ボランティア休暇は法律で義務づけられたものではないため、有給・無給の扱いは企業が独自に決められます。

    一般的に、有給として扱う企業が少なくありません。無給にすると収入が減ってしまい、積極的に休みを取得する従業員が少なくなるためです。制度を整えても使われなければ意味がありません。

    一方で、ボランティア休暇のすべてを有給にすると企業のコスト負担が重くなります。コストを抑えたい場合は、「年5日の範囲で有給」「海外など長期取得だけは無給」というように、条件を設けるとよいでしょう。

    ボランティア休暇の取得日数

    ボランティア休暇の日数は、年間5〜10日程度が目安です。福利厚生が手厚い大企業では、長期取得を認めている場合もあります。

    具体的な日数や一度に取得できる期間の上限は、活動内容によって個別に設計することをおすすめします。

    国内の短期活動なら1日から数日、半日や時間単位など柔軟な設計だと利用しやすいでしょう。海外や長期的な支援活動では数週間から数か月、または最長1年に設定し、休職扱いにするケースもあります。

    また、1年間の取得回数の上限を設定しておくと、運用の効率化にもつながるでしょう。

    積立年休を利用する方法もある

    ボランティア休暇を有給で運用する場合、「積立年休(積立有給休暇)」を活用する方法もあります。

    積立年休とは、時効で消滅した年次有給休暇を企業が積み立てておき、特定の目的に使えるようにする任意の制度です。

    労働基準法で規定された年次有給休暇は、本来であれば2年を過ぎると、自動的に失効してしまいます。

    「ボランティア参加」に積立年休を充てれば、失効分の有効活用になり、休暇取得の促進にもつながります。

    ▼積立有給休暇について詳しく知るなら、以下の記事もご確認ください。

    ボランティア休暇を導入するメリット

    ボランティア休暇の導入は、企業にとって主に3つのメリットがあります。

    • 企業イメージが向上する
    • 企業が社会的責任を果たせる
    • 従業員の人材育成につながる

    ボランティア休暇と人材育成の関連は、すぐにイメージできない方も多いでしょう。しかし、活動を通じて得られる学びは、通常業務だけでは身につけられない経験の一つです。

    3つのメリットについて、具体的に見ていきましょう。

    企業イメージが向上する

    ボランティア休暇の導入は、広報・ブランディングの観点で効果的で、企業イメージの向上につながります。

    制度の導入や取得実績を社外に発信すれば、「社会に開かれた企業」という印象を与えられ、採用活動でも注目されやすくなります。

    他社との差別化や、好感度の高い企業イメージを形成できるでしょう。

    企業が社会的責任を果たせる

    ボランティア休暇は、CSR(企業の社会的責任)を実践する手段の一つです。従業員が活動しやすい環境を用意することは、間接的な社会貢献であり、企業が社会課題の解決に対して責任を果たす姿勢のあらわれといえます。

    ボランティア活動は、本来なら時間に余裕がなければ参加できません。制度がなければ、従業員は「やりたいけど休めない」と参加をあきらめることもあるでしょう。

    ボランティア活動に対して理解がある会社は、顧客からの信頼も獲得でき、長期的な企業価値向上につながります。

    従業員の人材育成につながる

    ボランティア活動は、従業員の成長の場として人材育成にも好影響があります。

    従業員はボランティア活動を通して、普段接しない人々と出会って新たな人脈を築いたり、困難な状況で協働してリーダーシップやコミュニケーション能力を磨いたりできます。

    活動経験は、会社で働くだけでは得られない貴重なものです。従業員満足度や従業員エンゲージメントの向上にもつながります。

    結果として、従業員一人ひとりがより広い視野を持ち、会社にとっても人材育成の効果が期待できます。

    ボランティア休暇を導入するデメリット

    ボランティア休暇には、デメリットもあります。具体的なデメリットは以下の3点です。

    • 生産性の低下を招く可能性がある
    • 有給にするとコストがかかる
    • ボランティア中に負傷のリスクがある

    ボランティア休暇の導入を検討している企業は、デメリットを理解したうえで対策を考えておきましょう。

    生産性の低下を招く可能性がある

    従業員がボランティア休暇を積極的に取得しすぎると、仕事を休む人が増えて、全体の生産性を落とす可能性があります。

    残った従業員への負担が重くなり、最悪の場合、長時間労働や体調不良、ストレス増加といった問題につながるリスクも否定できません。

    とくに従業員数の少ない企業では影響が大きくなりやすいでしょう。

    対策として、導入初期は「年3日まで」や「同じ日に取得できる人数は3人まで」など、運用ルールをあえて厳しめに設ける工夫が必要です。

    有給にするとコストがかかる

    ボランティア休暇を有給とすると、人件費の増加や勤怠管理・給与計算の手間といったコストが発生するのはデメリットです。

    しかし一方で、無給にしてしまうと従業員が取得しにくくなり、せっかく制度を設けても形骸化しかねません。

    企業は「コストはかかるがメリットも大きい」ことを理解したうえで、日数制限を設けるなど現実的な運用ルールを検討する必要があります。

    ボランティア中に負傷のリスクがある

    ボランティア休暇を利用中の活動内容によっては、従業員が負傷をするおそれもあります。とくに被災地での救助活動では、二次災害のリスクも無視できません。

    企業としては、大切な従業員を守るために安全面の注意を促しましょう。あわせて、万が一に備えてボランティア保険への加入を推奨する対応も検討すると安心です。

    ボランティア休暇の導入手順

    ボランティア休暇のメリット・デメリットを理解したら、次に気になるのは「実際にどう導入するか」ではないでしょうか。いざ導入しようと思っても、「どこから手をつければいいのか」と迷う方もいるはずです。導入の全体像を6つのステップに分けて解説します。

    1.目的を明確化する

    2.給与の有無を決める

    3.取得できる条件を決める

    4.申請フローを明確化する

    5.就業規則に明記する

    6.従業員へ周知する

    1.目的を明確化する

    まずはボランティア休暇を導入する目的をはっきりさせましょう。目的は「企業の社会貢献を活発にする」だけではありません。従業員の成長を促すことも立派な目的です。

    ボランティア活動では、多様な人との出会いや経験を通じて、多角的に物事を考える力が養われます。目的を明確にしておくことで、社内全体の理解も得やすくなります。

    2.給与の有無を決める

    次に、ボランティア休暇中に給与を支払うかどうかを決めます。有給にすればコストはかかりますが、取得率は向上しやすくなります。コストが気になる場合は、日数制限を設けたり、長期取得の場合は休職扱いとして無給したりするなどのルールを設けると安心です。

    3.取得できる条件を決める

    ボランティア休暇をどのような条件で取得できるかを定めましょう。たとえば「取得できる日数」「対象となる活動」「事前・事後に提出すべき書類」を決めます。

    取得条件を設定しないまま導入してしまうと、本来の目的と関係のない休暇取得が増えてしまいます。1日単位だけでなく、半日単位や時間単位でも利用できるようにすると、参加しやすさが高まるはずです。

    4.申請フローを明確化する

    ボランティア休暇の取得申請フローもあらかじめ決めておきましょう。「申請期限」「申請方法」を定めておくと、円滑に運用できます。

    また、バースデイ休暇やアニバーサリー休暇など、ほかの特別休暇と同じルールにするとわかりやすいでしょう。ただし、災害ボランティアのように緊急性のある活動では、直前や口頭での申請も認めるなど柔軟さが必要です。

    5.就業規則に明記する

    ボランティア休暇に関するルールを決めたら、必ず就業規則に反映させます。具体的には、以下の項目を明記します。

    • 給与の扱い
    • 取得可能日数
    • 取得対象者
    • 申請方法
    • 申請期限
    • 活動後における報告義務の有無

    あいまいだと労務トラブルの原因になるため、制度に関する内容はすべて明記しましょう。

    ▼就業規則の変更方法を知るなら、以下の記事をご確認ください。

    6.従業員へ周知する

    ボランティア休暇の運用が整備できたら、従業員へ周知して活用を促進しましょう。新しい制度をつくっただけで、放置されてしまうケースは少なくありません。

    従業員が不安なく取得できるよう、ていねいに説明します。社内説明会やイントラネットでの告知、申請フローのマニュアル化も効果的です。

    ボランティア休暇の活動証明はどう行う?

    ボランティア休暇を運用する際は、従業員から活動証明を申告してもらうことをおすすめします。証明を求めないと、虚偽申請をするおそれもあるからです。

    具体的な方法としては、活動前の証明書類や活動後の報告書を提出してもらう対応が一般的です。具体的な対応例としては、次のようなものがあります。

    事前申請事後申請
    ・申請書のみを提出
    ・申請書と活動証明書類を提出
    ・活動証明書類を提出
    ・報告書を提出

    どの対応を採用するかは、企業ごとに異なります。取得申請時に申請書のみを提出してもらう場合でも、ボランティア先やボランティア活動団体のサイン・押印を必須にするなど、信頼性を確保しましょう。

    活動を証明する書類の提出

    活動証明は、ボランティア休暇が本来の目的で使われているかを、企業として確認するものです。事前に「参加予定」を証明できれば、客観的な証拠として残せます。

    証明書類としては、活動団体の署名や捺印欄を設けるのが一般的です。

    ただし、従業員が提出期限に間に合わない場合に備え、次のような代替方法を認めておくとよいでしょう。

    • ボランティア活動団体とのメールのやり取りなどを印刷して提出
    • ボランティア活動団体から発行される、具体的な活動に関するお知らせを提出

    活動報告書の提出

    「証明書」に対して、実際にボランティア活動に参加したことを確認するために提出を求めるのが「活動報告書」です。


    従業員に「活動当日にどのような活動をしたのか」を具体的に報告してもらい、事前の証明だけでは不十分な部分を補えます。

    活動前に提出する「証明書」よりも活動後の「報告書」のほうが、どちらかというと証拠として確実性が高いです。

    「証明書」と「報告書」両者を組みあわせてルールを整備してもよいでしょう。

    ボランティア休暇導入の企業事例

    ボランティア休暇を実際に導入している他社は、どのような設計にしているのでしょうか。ボランティア休暇の事例2社を紹介します。成功のポイントや工夫を知れば、自社での運用イメージも描きやすくなるはずです。

    富士フイルムシステムサービス株式会社

    富士フイルムシステムサービス株式会社は、社会貢献活動の一環として、年5日のボランティア休暇制度(特別休暇)を導入しています。

    同社は、地域清掃活動や環境保全活動にも積極的に取り組んでおり、事業活動以外の場面でも社会に貢献している点が特徴です。

    背景には、事業活動以外でも企業市民として社会で助けあう存在でありたいという考えがあります。

    従業員が自発的に活動に参加できるよう、ボランティア休暇も前向きに支援しています。

    参照:『ボランティア活動』富士フイルムシステムサービス株式会社

    JIDホールディングス株式会社

    JIDホールディングス株式会社は、年2回の有給ボランティア休暇を導入しています。制度設立のきっかけは、2019年に発生した大型台風でした。

    開始初年度は、従業員の約90%が、ボランティア休暇を利用して活動に参加しています。

    同社のボランティア休暇は、有給扱いに加え、活動中の負傷に備えて従業員全員分の保険に加入しているのも特徴です。実用性の高い休暇制度として運用されています。

    参照:『ボランティア休暇の設立』JIDホールディングス株式会社

    まとめ

    ボランティア休暇は、企業が独自に設ける特別休暇制度の一種です。阪神淡路大震災や東日本大震災をきっかけに注目され、いまではCSRの一環として導入を進める企業もあります。

    ボランティア休暇の導入で、企業イメージの向上や従業員の成長支援といった副次的な効果も期待できます。一方で、生産性やコストの課題もあるため、自社にあったルール設計が欠かせません。

    「社会的責任を果たす企業でありたい」「従業員が誇りを持てる環境を整えたい」と考える企業にとって、ボランティア休暇は選択肢の一つです。制度の導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

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