労働時間は原則1分単位で計算! 例外や違法となるケース、残業代の計算の仕方について解説
従業員の労働時間は、1分単位で計算することが原則です。ルールを逸脱した労務管理は労働基準法違反となります。その結果、罰則の対象になる可能性があるでしょう。
本記事では、労働時間の管理において違法となるケースや、例外的に認められるケースをそれぞれ解説します。残業代を計算する際の注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
労働時間は1分単位が原則
労働時間の管理・計算は、「1分単位」で行うことが原則です。まずは、労働時間を1分単位で管理する必要性について解説します。
労働時間は1分単位で計算する
従業員の労働時間を15分や30分単位で計算している企業もなかにはあるかもしれません。しかし、労働時間は1分単位で計算することが原則です。
たとえば「労働時間を30分単位で管理し、29分以下の労働時間は給与計算に入れない」というルールを採用している場合、労働基準法違反となり、罰則の対象です。
労働における賃金全額払いの原則
労働基準法第24条1項では「賃金は所定支払い日において、確定している全額を支払わなければならない」と定められています。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
引用:『労働基準法』e-Gov法令検索
労働時間の「1分単位の管理と計算」は法律で明文化されていません。
しかし、条文内の「賃金の全額を支払う」という記載から、たとえ1分単位であっても労働時間を切り捨ててはならないと解釈できます。これを「賃金全額払いの原則」といいます。
労働に対する賃金を全額支払うためには、労働時間を1分単位で正確に計上する必要があります。ただし、従業員に有利に働く処理であれば、例外的に切り捨て・切り上げが認められる可能性があります。
労働基準法は就業規則より優先される
法律で定められた内容は、会社の就業規則より優先されます。たとえ、就業規則に労働時間の計算に関するルールが記載されていたとしても、労働基準法の内容を遵守しなければなりません。
たとえば、就業規則に「労働時間は15分単位で計算する」といった規定があったとしても、労働基準法違反として無効と判断されます。違法と見なされた場合は、是正勧告の対象となりかねないため、就業規則には法律を遵守した内容を記載しましょう。
労働時間の1分単位の計算はいつから?
労判例によると労働基準法第32条による労働時間とは、「被雇用者(労働者)が雇用者(会社)の指揮命令下で会社のために働く時間」とされています。「指揮命令下にあること」というポイントを考慮すると、以下のような場合も労働時間と考える必要があるでしょう。
- 朝礼や体操などへの参加
- 作業に必須の制服への着替え
基本的に自由参加であって不参加でも評価に影響しない会合などは、労働時間に算入する必要はありません。また、休憩時間は労働から離れていると考えられるため、労働時間からは差し引いて計算します。
労働時間について違法となるケース
労働時間の管理・計算については法律で定められた方法があり、会社独自のルールを採用している場合は違法と判断される恐れがあります。
労働時間の管理・計算の仕方が違法となるケースや罰則について解説します。
労働時間の15分・30分単位での計算
労働時間は、原則として1分単位で計算しなければなりません。また、残業時間も労働時間として扱われるため、同様に計上しましょう。もしも残業代を15分・30分単位で計算している場合があります。
しかし、15分未満、30分未満の労働時間を切り捨てるといった運用方法は違法とみなされます。ただし、15分を30分、30分を1時間など、労働時間を切り上げて計算することは労働者の不利にならないため法律上は可能です。
早退や遅刻の切り上げ
従業員の早退や遅刻を切り上げて処理することも、違法とみなされるため注意しましょう。たとえば、10分の遅刻や早退を30分の遅刻や早退として扱うなど、ある種のペナルティとして切り上げ処理を行うことは違法です。
たとえ無断欠勤や遅刻が常習化している従業員であっても、労働時間の計算によるペナルティを科してはなりません。会社の罰則規定に基づいた減給など、法律の範囲で処理する必要があります。
違法な労働時間の計算に対する罰則
違法な労働時間の計算や賃金の切り捨てに対しては、法的な罰則が定められています。労働時間を違法に処理した場合、労働基準法第120条により30万円以下の罰金の対象となる恐れがあるでしょう。
違法な労働時間の計算は、従業員から訴訟を起こされる可能性があります。また、その事実がマスコミに報道されると、企業のイメージが悪化し、従業員の離職を招く可能性があります。
労働時間における「丸めの例外」
労働時間は原則として「1分単位で、正確に」計上する必要があります。しかし、例外として労働時間の「丸め」が認められるケースも存在します。
労働時間の勤怠管理における丸めの例外とは
「丸め」とは、打刻時間を切り上げたり、切り捨てたりすることです。
行政通達(1988年3月14日付通達 基発第150号)によると、事務の簡略化のため、1か月における時間外労働・休日労働・深夜労働の時間については、30分以上1時間未満の時間を1時間に切り上げ、30分未満の時間を切り捨てることが認められています。
通常であれば労働基準法違反ですが、担当者の業務負担を軽減するため、例外的に「丸め」が許可されているのです。
参照:『19880314 基発第150号 労働基準法関係解釈例規について』情報公開推進局
参照:『端数処理のソレダメ』新居浜労働基準監督署
丸めの例外における注意点
打刻時間を丸めて処理することが認められているのは、あくまで賃金の割増対象となる時間外労働・休日労働・深夜労働のみです。
また、アルバイトやパートのように時給制で働く従業員については、1か月通算でも労働時間を1分単位で計算する必要があります。
たとえ時間外労働・休日労働・深夜労働であっても、1日単位で労働時間を丸めることは違法です。うっかり違法な処理をしてしまわないよう、例外的な処理については適用条件を十分確認しておきましょう。
残業代の計算における注意点
労務管理を担当するにあたって、残業代の計算でつまずいてしまう方は多いものです。
そこで、ここからは残業代の計算における注意点を解説します。残業代を計算する際は、主に以下の3つのポイントに注意しましょう。
- 労働における法定内残業・法定外残業
- 50銭未満の賃金の四捨五入
- 1か月の賃金の端数処理
労働における法定内残業・法定外残業
残業には、法定内残業と法定外残業の2種類があります。
法定内残業とは、法定労働時間内(1日8時間、週40時間)に収まる残業のことです。たとえば、所定労働時間が7時間で1時間残業した場合は、法定労働時間(1日8時間)に収まっていると判断されます。
一方、法定外残業とは、法定労働時間内に収まらない残業のことです。上記の例の場合、2時間残業した場合は1日9時間働いていることになり、1時間分は法定外残業として計上します。法定外残業には割増賃金を支払う必要があるため、給与計算の際は注意が必要です。
時間外労働に対する割増率
労働基準法第37条に基づき、賃金の割増率は下記の通り適用されます。
時間外労働(法定労働時間を超えた労働) | 2割5分以上 |
---|---|
深夜労働(22~5時までの間の労働) | 2割5分以上 |
休日労働(法定休日における労働) | 3割5分以上 |
月60時間を超える時間外労働 | 5割 |
月60時間を超える時間外労働については、2023年4月1日から中小企業でもに割増率が5割に設定されています。
参照:『法定労働時間と割増賃金について教えてください。』厚生労働省
参照:『割増賃金の計算方法』厚生労働省
参照:『月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます』厚生労働省
50銭未満の賃金の四捨五入
割増賃金の計算において、1時間あたりの賃金額と割増賃金額に1円未満の端数が生じる場合があります。端数は「50銭未満は切り捨て、50銭以上1円未満は切り上げる(1円とする)」というルールに基づいて処理しましょう。
なお、1か月あたりの割増賃金で生じた円未満の端数処理も、同様に処理します。
参照:『3.残業手当等の端数処理はどうしたらよいか』厚生労働省 東京労働局
1か月の賃金の端数処理
1か月の賃金を計算した際に生じた1,000円未満の端数は、翌月に繰り越して支払うことが可能です。
また、1か月の賃金の合計額における100円未満の端数は、「50円未満は切り捨て、50円以上100円未満は切り上げ」というルールに基づいて処理できます。
ただし、これらの端数処理を行うためには、あらかじめ就業規則に記載しておく必要があります。
参照:『3.残業手当等の端数処理はどうしたらよいか』厚生労働省 東京労働局
例外を除き、労働時間は原則1分単位で管理しましょう
一部の例外を除き、労働時間は1分単位での管理が原則です。1分を超えた単位ごとに労働時間を管理する場合、労働基準法違反となり、罰則が科せられる可能性があります。
労働基準法は就業規則よりも優先されるため、会社独自のルールを設けている場合は注意が必要です。労働時間や残業時間の計算は複雑化しやすいため、便利な勤怠管理システムの導入を検討してみましょう。
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