正当な解雇理由とは? 例や条件、不当解雇についても解説
解雇理由は、企業が従業員を解雇する際に社会的相当性があるかどうかを判断するために重視されます。企業として問題行為がある従業員を解雇する場合は、解雇理由が必要です。
本記事では、解雇理由について解説します。解雇理由になる例や解雇理由の通達、不当解雇になるケースもご紹介しますので企業の経営層や人事担当者は参考にしてください。
解雇理由とは
解雇理由とは、企業が従業員を解雇する際の理由を指します。企業は、正当な理由がない限り、従業員を解雇できません。企業が解雇するためには、たとえば組織に重大な迷惑をかけたり、著しく職場の規律や風紀を乱したりするような行為があったことなどの理由が必要です。
一般的な解雇理由
解雇理由にはさまざまな内容がありますが、一般的には、心身の疾病や繰り返し起こる勤怠の乱れなどによる労務提供義務の債務不履行が挙げられます。ほかにも、悪質な勤務態度や情報漏えいなど、企業や組織に重大な迷惑がかかる行為などが解雇理由に該当します。解雇理由は、客観的かつ合理的であることや社会通念上相当であることが必要とされます。
従業員の能力不足を理由に解雇できるのか
従業員の能力不足による解雇も、認められる場合があります。しかし、企業側が対象従業員に指導をしても改善の見込みがないような状況でなければ、正当な解雇理由にはなりません。能力不足だけでなく、どのような理由による解雇でも、企業が注意指導や改善対策を講じたかどうかが重視されます。
解雇とは
解雇とは、企業が従業員との雇用契約を一方的に終了させることを指します。企業は、解雇に値する正当な理由があれば、従業員を解雇できるとしています。また、解雇する際は原則30日以上前までに本人に伝えなければなりません。
解雇の法的根拠
解雇の法的根拠は、民法や労働基準法にあります。法律上の根拠からは、基本的に客観的かつ合理的な理由や社会通念上相当とされる理由があれば、従業員の解雇が認められます。しかし、解雇について社会通念上相当とされるケースは多くないため、基本的に軽微な理由では解雇は認められにくいといえます。
参照:『民法627条』e-Gov法令検索
参照:『労働契約法第16条』e-Gov法令検索
解雇の種類
解雇の種類には、以下の3つが挙げられます。
解雇種類 | 特徴 | 法的根拠 |
---|---|---|
普通解雇 | ・従業員の債務不履行を理由とした解雇 | 民法 第627条 労働契約法 第16条 労働基準法 第20条 |
懲戒解雇 | ・もっとも重い懲戒処分(就業規則への規定が必要) ・従業員の悪質な行為に対して行われる | 労働契約法 第15条 |
整理解雇 | ・企業の経営不振や事業縮小を理由とした解雇 ・企業側の一方的な都合で行う ・回避努力の実行や客観的な根拠の提示など要件あり | 労働契約法 第16条 整理解雇の4要件(裁判例) |
それぞれの解雇がどのような性質を持つのか、確認してみましょう。
普通解雇
普通解雇とは、企業が問題のある従業員との雇用契約を解消するための解雇です。従業員は企業と結ぶ雇用契約において、労務提供する義務が発生します。従業員の義務である労務提供をしないことは、解雇理由に該当し、普通解雇の対象となります。
普通解雇における解雇理由は、従業員の能力不足や心身の疾患、勤怠状況や勤務態度が悪く職場に迷惑をかけていることなどが例として挙げられます。普通解雇では、30日以上前までに解雇予告をするもしくは解雇予告手当を払うことで解雇が可能となります。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、企業における懲戒処分の中でもっとも重い処分です。企業に多大な迷惑をかけたり、組織秩序を崩す行動をしている従業員に対して、解雇を命じます。懲戒解雇をはじめとする懲戒処分を行う際は、就業規則への明記が必要です。
整理解雇
整理解雇は、企業が経営難に直面した際に、事業の存続や継続を図るために実施する人員削減です。
整理解雇は、普通解雇や懲戒解雇とは異なり、企業側の一方的な解雇です。そのため、普通解雇や懲戒解雇と比較すると、整理解雇をする企業はより厳しい基準で判断されます。
解雇理由の例や条件
解雇には正当な理由が必要です。解雇の種類によっても認められる理由が異なります。それぞれの代表的な例を紹介します。
普通解雇の理由例【能力不足や勤務態度などによる債務不履行】
普通解雇は、従業員が雇用契約で約束した労務を提供しないことで債務不履行となり、解雇に至ります。そのため、従業員の心身の疾患による欠勤や意欲の欠落からくる業務態度の悪さなどが理由として挙げられます。
懲戒解雇の理由例【欠勤や著しい勤務態度の不良などの問題行為】
懲戒解雇は、企業が従業員の問題行為に対して実施する懲戒処分としての制裁です。懲戒解雇は、懲戒処分の中でもっとも重い処分です。そのため、刑法犯罪や情報漏えい、繰り返し起こる無断欠勤など、企業経営や組織運営に重大な悪影響を及ぼす可能性のある行為などが理由として挙げられます。
整理解雇の理由例【企業の経営上の問題】
整理解雇は、企業の経営状況悪化などによる人員整理が理由として挙げられます。そのため、従業員側の問題ではありません。整理解雇する際は、解雇回避の努力が十分になされたことや解雇手続きが適切に実施されたか、解雇対象者の選出の合理性などが重視されます。
不当解雇について
不当解雇とは、企業が実施する解雇に対して、合理性が認められない解雇を指します。不当解雇に関するリスクや不当解雇になる例を紹介します。
解雇が無効になった場合のリスク
解雇が無効になると、慰謝料を請求されることで無断なコストが発生したり、対象従業員が職場に戻ってくることになれば職場環境に悪影響がもたらされたります。また、企業が解雇の判断をしたことで、本来労務を提供できる状態にあった対象従業員に、解雇後の期間における賃金を支払う必要も生じます。
不当解雇の具体例
不当解雇は以下のような具体例が挙げられます。
- 理由に相当性がない解雇
- 解雇予告をしない解雇
- 解雇予告手当を支払わない即時解雇
- 解雇理由に相当性がない解雇
- 従業員が企業の法律違反を指摘したことを理由とした解雇
- 労働組合への加入を理由とした解雇
- 性別を理由とする解雇
- 解雇できない期間(業務上の疾病などによる療養期間や産前産後休暇期間のその後30日間)の解雇など
このように、不当解雇につながる理由は少なくなく、企業は簡単に解雇できません。そのため、企業が従業員の解雇を検討する際は、正当な理由があるかどうか慎重に判断しましょう。
参照:『労働契約法 第16条』e-Gov法令検索
参照:『労働基準法 第19条』e-Gov法令検索
解雇の理由の通知について
解雇理由を企業が従業員に伝えるのは当然です。従業員が理由もわからずに解雇通知を受けたら、トラブルにつながります。そのため企業が従業員を解雇する際は原則解雇理由も伝えましょう。
解雇理由を伝える義務
企業は、従業員に解雇理由を求められた場合、速やかに解雇理由証明書を交付しなければなりません。解雇理由の通知義務は労働基準法で定められており、違反した場合は30万円以下の罰金が科される可能性があります。
参照:『労働基準法 第22条、第120条』e-Gov法令検索
解雇理由の通知方法
解雇理由を通知する方法を紹介します。企業が従業員を解雇する際は、従業員とのトラブルを避けるためにも理由を伝えるのがおすすめです。解雇理由を伝える方法としては、口頭や通知書面、解雇理由証明書による方法があります。従業員からの求めがあった場合は、労働基準法により「解雇理由証明書」の交付が義務付けられている点も理解しましょう。
口頭
解雇理由を通知するためには、口頭で伝える方法があります。解雇予告や解雇通知を口頭で行う際に、あわせて理由も説明する方法です。しかし、解雇を伝える方法として、口頭だけでなく書面の交付をすることでより確実な証拠を残せます。そのため、解雇理由についても、書面に記載しておくのがおすすめです。
解雇予告通知書や解雇通知書
解雇理由は、解雇予告通知書や解雇通知書に記載する方法があります。解雇を伝えたことを証明するために書面の交付を行います。書面には、解雇日だけでなく解雇理由もあわせて明記することが大切です。
解雇理由証明書
解雇理由証明書は、解雇理由を記載する書類です。解雇理由証明書は、必ず交付しなければならない書類ではありませんが、従業員から請求があった際は交付する義務があります。対象の従業員が正確な解雇理由を知るためと、解雇理由に関する記録を残すためです。解雇理由が明確になってないことにより、不当解雇として扱われたり、労働基準法違反となる恐れがあります。企業が従業員から解雇理由の説明を求められた場合は、速やかに交付しましょう。
解雇後に企業が気をつけるべきこと
解雇した企業が注意すべきことを解説します。解雇したら終わりではなく、解雇後の対応にも注意しなければなりません。そこで、解雇後の対応として企業が意識すべき点を紹介します。
解雇理由は変更や追加できない
解雇理由が認められない場合、あとから解雇理由を変更したり、あと付けで追加したりすることは避けましょう。解雇理由が変わることで、仮に変更した解雇理由に正当性があるとしても、解雇の有効性は認められません。解雇予告や解雇通知、解雇理由証明書によって解雇理由を伝えたタイミングで明確にされていない場合は、理由として扱われないためです。
労働審判や裁判に発展した場合
解雇をめぐり、従業員の納得が得られない場合など、裁判や労働審判につながることがあります。労働審判や裁判に発展した場合、解雇理由や解雇の流れなどが重要になります。正当な理由に基づく解雇である必要性はもちろんですが、解雇予告通知書や解雇理由証明書などの書面による証拠などを確保しておきましょう。また、早期解決のためには、弁護士などの専門家に相談を依頼することも大切です。
まとめ
解雇理由は、客観的かつ合理的であることや正当性が認められるものでなければなりません。解雇理由に社会通念上の相当性がない場合、不当解雇につながり、労使間のトラブルや社会的信用の失墜にもつながりかねません。
企業が従業員の解雇を検討する際は、まずは従業員による問題行為の原因などを把握し、注意指導や他の処分を検討することが大切です。
それでも状況が改善しないような場合には、正当な理由があるかどうかを判断し、適切な手順や対応による解雇を実施しましょう。