解雇の種類|条件や違い、処分の流れも解説

解雇の種類|条件や違い、処分の流れも解説

解雇には、いくつかの種類があります。企業が従業員の解雇を検討する際は、理由や状況などから適切な解雇をしなければなりません。

本記事では、解雇の種類や違いを解説します。正当な理由に基づく解雇を行うためにも、企業の経営層や人事担当者は参考にしてください。

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    解雇とは?

    解雇とは、企業が従業員と結んだ雇用契約の解消を意味します。労働契約法では、客観的かつ合理的な理由や社会通念上相当とする理由がない限り、企業は労働者を解雇できないと定めています。そのため、企業は軽微な理由から従業員を解雇できません。しかし、逆をいえば正当な理由があれば解雇を認められるということです。

    参照:『労働契約法 第16条』e-Gov法令検索

    解雇の種類と違い

    解雇には、以下の種類があります。まずは一覧表で解雇種類の概要や違いを確認してみましょう。

    解雇種類特徴法的根拠
    普通解雇・従業員の債務不履行を理由とした解雇民法 第627条
    労働契約法 第16条
    労働基準法 第20条
    懲戒解雇・もっとも重い懲戒処分(就業規則への規定が必要)
    ・従業員の悪質な行為に対して行われる
    労働契約法 第15条
    整理解雇

    ・企業の経営不振や事業縮小を理由とした解雇
    ・企業側の一方的な都合で行う
    ・回避努力の実行や客観的な根拠の提示など要件あり

    労働契約法 第16条
    整理解雇の4要件(裁判例)

    普通解雇

    普通解雇とは、企業が問題のある従業員との雇用契約を解消することを意味します。従業員は企業と結ぶ雇用契約において、労務提供する義務が発生します。従業員の義務である労務提供をしないことは、解雇理由に該当し、普通解雇の対象となります。

    普通解雇における解雇理由は、従業員の能力不足や心身の疾患、勤怠状況や勤務態度が悪く職場に迷惑をかけていることなどが例として挙げられます。普通解雇では、30日以上前までに、解雇予告をするもしくは解雇予告手当金を払うことで解雇可能です。

    参照:『労働基準法 第20条』e-Gov法令検索

    懲戒解雇

    懲戒解雇とは、企業における懲戒処分の中でもっとも重い処分を意味します。企業に多大な迷惑をかけたり、組織秩序を崩す行動をしたりしている従業員に対して、解雇を命じます。懲戒解雇など懲戒処分をする際は、就業規則への明記が必要です。

    諭旨解雇との違い

    諭旨解雇とは、企業が従業員に自主退職を勧告し、従業員がみずから退職届を出すよう促すことを意味する懲戒処分です。諭旨解雇は、従業員の問題行為や不正行為などを対象にした重い処分といえます。

    懲戒解雇との違いは、処分内容の厳しさと解雇までの対応に違いがあります。懲戒解雇は即時的に従業員を解雇するもっとも厳しい懲戒処分であるのに対し、諭旨解雇は従業員に情状酌量の余地があり、従業員が納得したうえで退職を選択します。また、懲戒解雇には退職金の支給がない(または少ない)のに対して諭旨解雇は退職金を支給されることが一般的です。

    参照:『48 解雇、雇止めと退職勧奨』大阪府

    整理解雇

    整理解雇とは、企業が経営不振から、事業継続のためにする人員削減のための解雇を意味します。整理解雇は、普通解雇や懲戒解雇とは異なり、企業側の都合による一方的な解雇です。そのため、企業がする整理解雇は、より厳しい基準で判断されます。

    参照:『労働契約の終了に関するルール』厚生労働省

    整理解雇における4つの要件

    整理解雇をする場合、以下の4つの要件を満たさなければなりません。

    要件詳細
    整理解雇の必要性がある人員削減のための整理解雇について、企業経営上に十分な必要性がある
    整理解雇を回避する努力をしている整理回避を回避するために、配置転換や希望退職者を募集するなどの措置を講じている
    対象者の選定に合理性がある整理解雇の対象者を選ぶ基準に合理性がある
    労働者側と十分な協議が尽くされている労働者や労働組合に解雇の必要性や時期ややり方などの説明を行っている

    企業が整理解雇を実施するには、一方的な決定で進められるわけではありません。十分な対応を取り、慎重に進めなければなりません。

    参照:『整理解雇には4つの要件が必要』厚生労働省

    懲戒処分の種類と違い

    解雇の種類に、懲戒解雇があります。懲戒解雇は、企業が問題行為をした従業員に対する懲戒処分です。企業が実施する懲戒処分にはいくつかの種類があり、従業員の問題行為の重大さに応じて判断します。懲戒処分の種類は以下の通りです。

    懲戒処分の種類罰則例
    懲戒解雇解雇
    諭旨解雇自主退職を勧告
    降格役職の降格
    出勤停止(公務員では停職)一定期間、欠勤扱い
    減給給与の減額
    譴責(けんせき)始末書の提出
    戒告・訓告・訓戒注意指導のみ

    それぞれの懲戒処分の特徴について「解雇の種類」で紹介した懲戒解雇と諭旨解雇以外の処分を以下でご紹介します。

    降格

    降格とは、これまでの役職から下位の役職に引き下げる懲戒処分です。降格処分をすると、役職に応じた給与額なども下がることが多いです。そのため、降格処分を受けた従業員は、元の役職に昇格しない限り、給与額も下がったままということになります。ただし、企業の就業規則などによっては、降格が必ずしも給与の減額になるとは限りません。たとえば役職が下がっても給与額が同じ設定の場合は、給与額は変わりません。

    出勤停止

    出勤停止とは、一定期間出勤を禁止とする懲戒処分です。出勤停止の期間に法律上の決まりはなく、就業規則によりますが、目安としては数週間程度です。出勤停止期間は欠勤扱いになるため、無給です。また、公務員の場合、出勤停止と同等の処分を「停職」といいます。

    減給

    減給とは、従業員の給与を減額する懲戒処分です。企業は、労働基準法第91条に従って減額します。減給処分は、処分対象の従業員に経済的な制裁を与えますが、その程度として出勤停止よりは小さくなります。

    参照:『労働基準法 第91条』e-Gov法令検索

    譴責(けんせき)

    譴責(けんせき)とは、処分対象の従業員に注意指導をしたうえで、始末書を提出させる懲戒処分です。注意指導をする懲戒処分には、戒告なども挙げられますが、譴責(けんせき)はより重い処分にあたります。始末書を提出させる目的は、問題行動に対して、従業員みずからが受け止め、繰り返さないと誓約させるためです。

    戒告や訓告、訓戒

    戒告や訓告、訓戒とは、処分対象の従業員に注意指導をする懲戒処分です。組織では、上司が日常的に注意指導をすることがあります。

    戒告や訓告との違いとして、懲戒処分としての注意指導には、次のような特徴があります。

    まず、従業員本人に問題行動を反省させる効果があります。具体的な指導を通じて、自身の行動の問題点を認識し、改善する機会を与えます。また、ほかの従業員に対しても、問題行動の危険性を認識してもらう役割があります。

    解雇する手順

    解雇する流れや手順について解説します。解雇する際は、理由だけでなく適切な手順を踏んでいたかどうかも重視されるため、企業は正しい手順を理解しましょう。

    1.退職勧奨をする

    解雇する前に、企業側は従業員に対して退職勧奨をしてみましょう。退職勧奨は、企業が従業員に自らの意思で退職を申し出てほしいと呼びかける意味合いがあります。退職勧奨の場合も解雇予告が必要です。しかし、退職勧奨は従業員に自主的な退職を促しているだけであるため、解雇のように労働契約法などによって厳しく制限されません。ただし、あくまでも自主的な退職を促す呼びかけであるため、度の過ぎた退職勧奨はパワハラと判断される場合もあります。パワハラと判断された場合には、慰謝料を請求される場合もあるため、注意しましょう。

    2.解雇の正当性と理由を整理する

    解雇を検討する際は、解雇に正当な理由があるかどうかを検討します。正当な理由があるかどうかは、企業が定める就業規則に基づいて判断します。

    就業規則に解雇事由として規定されていない理由をもとに解雇すると、不当解雇につながる可能性もあります。また、解雇理由について整理したら書面などにまとめておきます。対象従業員から聞かれた際などにわかりやすく伝えましょう。

    3.解雇予告通知書などを作成する

    解雇が決定したら、まずは解雇予告通知書もしくは解雇通知書の書類を作成します。書類には、主に以下の点を記載しましょう。

    • 解雇予告日(書面を交付する日付)
    • 解雇日
    • 解雇事由
    • 解雇の根拠

    企業は、解雇について口頭で伝えるだけでなく、解雇予告通知書を交付することで、解雇予告に関する証拠にもなります。また、解雇の理由だけでなく根拠についても明記しておきます。

    4.解雇を伝える

    解雇について、企業は口頭で対象従業員に伝えます。企業が解雇をする際は、基本的に解雇予告として30日以上前に予告します。30日前までに解雇予告ができない場合は、不足する日数分の解雇予告手当を支給しなければなりません。

    5.解雇予告通知書を渡す

    解雇を口頭で伝えたら、あわせて解雇予告通知書(または解雇通知書)を渡しましょう。口頭だけでなく書面にも残しておくことで、企業が従業員へ確実に伝えたという記録を残せます。解雇にめぐってはトラブルにもつながりやすいため、形として証拠を残しましょう。

    6.解雇の発表

    企業が解雇をする際は、解雇の事実を表します。誰がいつ付けで解雇されたのかを公表しましょう。しかし、対象従業員へも配慮しなければならないため、どこからどこまでの情報を公表するのか事前に決めておきましょう。解雇について公表することには、企業の懲戒処分を社内全体に認識してもらい、組織の秩序を維持する意味合いがあります。

    解雇が認められないケース

    解雇は、いつでも認められるわけではありません。そこで、解雇が認められない代表的なケースをご紹介します。

    正当な理由がない

    解雇は、正当な理由がない状況では認められません。正当な理由とは、雇用契約で約束した労務提供がされず債務不履行に陥っていることや、従業員が企業に重大な迷惑をかけたり、組織の規律を乱したりする行為をしたことなどです。問題行動の程度が軽微である場合やほかの懲戒処分の選択肢があるような場合は、解雇は認められません。

    解雇できない期間である

    解雇は、いつでも認められているわけではありません。たとえば、業務上の疾病などによる療養期間や産前産後休暇期間のその後30日間など、解雇できない期間があります。企業は、対象従業員が解雇できない期間にあるかどうかも確認しましょう。

    参照:『労働契約の終了に関するルール』厚生労働省

    解雇予告と解雇予告手当

    解雇では、企業が30日以上前に予告する解雇予告をするのが原則です。解雇予告ができなかった場合は、解雇予告手当を支払います。解雇予告と解雇予告手当について、解説します。

    解雇予告とは

    解雇予告とは、企業が従業員を解雇する際に、30日前までに対象従業員に解雇を予告することを意味します。労働基準法では、解雇予告を規定しています。解雇予告は、従業員側が突然解雇された場合に被る不利益が大きいことに配慮して設けられました。

    参照:『労働基準法 第20条』e-Gov法令検索

    解雇予告手当とは?

    解雇予告手当とは、企業が30日以上前の予告(解雇予告)をせずに従業員を解雇する際に支払うべきお金を意味します。企業は、解雇を通知した日から解雇日までの長さに応じて、最大30日分の平均賃金を支払わなければなりません。

    参照:『労働基準法 第119条』e-Gov法令検索

    解雇予告手当を支給しなくてもよい場合

    解雇予告手当は、支払わなくてもよいケースもあります。具体的には以下のような状況です。

    • 災害などにより、やむを得ず解雇する状況
    • 従業員側に重大な問題がある
    • 特定の雇用契約を結んでいる場合

    このように、企業は震災などによって復旧不可能な状況に陥ってしまった場合は解雇予告手当の支払いはしなくてもよいとされています。また、従業員の問題によって解雇するような場合も同様です。どちらの場合も、労働基準監督署長の認定を受ける必要があります。さらに、短い期間の有期雇用契約など、特定の雇用契約を結んでいる従業員に対しては、解雇予告手当の支払いだけでなく解雇予告そのものも不要としています。

    まとめ

    解雇の種類は、普通解雇と懲戒解雇、整理解雇があります。企業が従業員を解雇する際は、正当な理由があるかどうかを慎重に判断しなければなりません。解雇が決定したら、適切な手順を踏んで解雇手続きを進めます。また、企業が従業員に解雇を伝える際は、口頭だけでなく書面による予告や通知によって、記録を残しておきましょう。