雇用契約に違反したらどうなる? 罰則の対象と内容、違反事例とその対策も解説

雇用契約に違反したらどうなる? 罰則の対象と内容、違反事例とその対策も解説

雇用契約に違反すると、企業は責任を問われ、対外的なイメージを低下させてしまいます。条件によっては、罰則が科される可能性も否定できません。企業が受ける不利益は大きいため、気づかぬうちに雇用契約違反とならないよう、管理者は十分な注意が必要です。

本記事では、雇用契約違反にかかわる罰則の対象と内容、実際の違反事例、対策について詳しく解説します。雇用関係におけるトラブルを未然に防ぎ、健全な労働環境を整備するために、ぜひ参考にしてください。

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    雇用契約に違反したらどうなる?

    雇用契約が労働基準法に違反していたり、契約に反する業務を従業員に課したりすると、どのような事態になるのでしょうか。順を追って解説します。

    • 従業員は雇用契約を解除できる
    • 労働基準監督署から是正勧告がなされる
    • 改善されなければ罰則が適用される

    従業員は雇用契約を解除できる

    雇用契約の法律違反が発覚した場合、従業員は雇用契約を即時で解除できます。具体的には、企業が明示した労働条件と実際の労働内容との間に相違があった場合などです。これは、労働基準法第15条2項に規定されています。

    企業は従業員を採用する際、賃金や労働時間、就業場所などの労働条件を、書面などで明示しなければなりません。明示した内容に反する労働条件で従業員を働かせると、雇用契約違反とみなされます。

    参考:『労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール』厚生労働省
    参考:『労働基準法 第15条』e-Gov法令検索

    労働基準監督署から是正勧告がなされる

    労働基準法に違反するような雇用契約に対して、使用者は労働基準監督署から是正勧告がなされます。法律に反する労働条件で従業員を働かせたり、違法な雇用契約の締結が発覚した場合が該当します。

    是正勧告を受けて、企業は定められた期日までに違反事項を改善し、改善結果を労働基準監督署に報告しなければなりません。

    労働基準法は正社員だけでなく、すべての従業員が適用対象です。パート・アルバイト、契約社員を含め、すべての雇用形態の労働条件・雇用契約が労働基準法に違反していないか、確認しましょう。

    改善されなければ罰則が適用される

    雇用契約の違反が明らかとなり、労働基準監督署から是正勧告を受けたあとも、状況が改善されない企業は、罰則が科されます。

    是正勧告を無視するなど適切な対応を取らないと、刑事事件として立件される恐れもあります。立件されると企業名が公表される場合もあり、企業は社会的信用を失うことになりかねません。

    雇用契約に違反した場合の罰則と対象

    雇用契約に違反し、是正勧告を受けたあとも改善されない企業は、労働基準法により罰則が科される恐れがあります。

    労働基準法に定められた罰則の内容と、対象となる主なケースは以下の通りです。

    罰則の対象罰則の内容根拠となる条文
    ・労働者の意思に反して強制労働をさせた場合1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金第117条
    ・労働者と雇用者の間に入る中間搾取をした場合
    ※派遣契約などの場合を除く
    1年以下の懲役、または50万円以下の罰金第118条
    ・残業の上限規制や労働時間規定に違反した場合
    ・割増賃金に関する規定に違反した場合
    ・休憩時間に関する規定に違反した場合
    6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金第119条
    ・賃金の支払いに関する規定に違反した場合30万円以下の罰金第120条

    参照:『労働基準法』e-Gov法令検索

    処罰の対象は従業員と企業

    企業が罰則を受けるのは、雇用契約に違反したときだけではありません。締結した従業員が労働基準法に違反する行為を行った場合も同様です。

    雇用契約が締結されると、従業員は使用者の指示にしたがって行動する立場に置かれます。したがって、雇用契約を結んだ従業員の行動に対する責任は、企業に帰属するとみなされます。この考えを両罰規定といいます。

    従業員が労働基準法に違反するような行為をした場合、責任者である企業が責任を怠ったと考えられ、従業員と企業の双方が罰則を科されるでしょう。

    参照:『労働基準法 第121条』e-Gov法令検索

    雇用契約の違反事例15選

    雇用契約に違反したとみなされる事例には、どのようなケースがあるのでしょうか。主な違反事例を紹介します。

    • 性別や国籍を理由に差別する
    • 法定労働時間を超過、労働時間が実態と異なる
    • 最低賃金を下回る
    • 残業代・深夜・休日割増賃金が未払い
    • 転勤なしと契約書に記載があるのに、実際は転勤がある
    • テレワークありと契約書に記載があるのに、毎日出社を命じられる
    • 規定の休憩時間を与えない
    • 法定休日を与えない
    • 決められた休日・休暇を与えない
    • 妊娠・出産期の休暇を与えない
    • 予告なしで解雇する
    • 違約金、賠償金の支払いを強要する
    • 労災の申告が漏れている
    • 労働条件を明示しない
    • 就業規則に不備がある

    性別や国籍を理由に差別する

    性別や国籍を理由に差別するような規定は雇用契約違反です。

    性別や国籍、社会的身分などを理由に労働条件を変えることは、労働基準法第3条と第4条において禁止されています。

    同じ業務内容であるにもかかわらず「女性だから」「外国人だから」との理由で賃金を不当に減額するなどの差別的取り扱いをすると、雇用契約に違反したとみなされ、罰則の対象に該当します。

    参照:『労働基準法 第3条、第4条』e-Gov法令検索

    法定労働時間を超過、労働時間が実態と異なる

    「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超えて労働させることは、雇用契約違反です。

    ただし、法定労働時間を超えることが、あらかじめわかっている場合は、36協定を労使者間で締結することで、労働時間の上限を「月45時間・年360時間」まで拡大できます。

    臨時的で特別の事情がある場合は、特別条項付きの協定を締結することで、労働時間の上限をさらに延長可能です。ただし、特別条項を締結しても上限を超えてよい回数や時間の上限が設けられており、無制限に引き延ばせるわけではありません。

    また、労働時間が雇用契約で明示したものと異なる場合も、雇用契約違反にあたるため注意しましょう。

    参照:『時間外労働の上限規制わかりやすい解説』厚生労働省
    参照:『労働基準法 第32条』e-Gov法令検索

    最低賃金を下回る

    従業員に対して、最低賃金を下回る給与を支給することは違法です。万一、給与が最低賃金を下回っている場合、企業は差額を該当の従業員に支払わなければなりません。最低賃金を下回る給与を設定をした雇用契約は法律違反であり無効です。

    さらに、地域別最低賃金を支払わない場合、企業には50万円以下の罰金が科されます。また、特定最低賃金が適用される従業員に対して、特定最低賃金以上の賃金を支払わない場合は、最大で30万円以下の罰金が科される恐れがあります。

    参照:『もう、チェックした?まるわかり最低賃金』厚生労働省

    残業代・深夜・休日割増賃金が未払い

    割増賃金の適用が漏れてしまうような雇用契約は違反です。

    従業員の労働時間が法定労働時間を超えて、以下の例に該当する場合は、基本給に上乗せして割増賃金を支払わなければなりません。

    割増率
    法定労働時間を超える時間25%
    法定労働時間を超える時間(月60時間超)50%
    深夜労働(22〜5時)25%
    休日労働35%

    従業員に休日出勤日にさらに時間外労働をさせると、割増率35%と25%を足して60%の割増賃金を乗じた割増賃金の支払いが必要です。割増賃金の計算を誤ることがないよう、従業員の労働時間を客観的に管理し、労働実態にあわせて適切に賃金を支払いましょう。

    参照:『しっかりマスター 割増賃金編』厚生労働省

    転勤なしと契約書に記載があるのに、実際は転勤がある

    転勤がない労働条件で雇用契約を結んだ従業員に対して、転勤を命じるのは雇用契約違反です。また、契約時に転勤可能なエリアが限定されていた場合、エリア外への転勤を命じることも雇用契約違反に該当します。

    少しでも転勤の可能性がある場合は、雇用契約書にあらかじめ「転居をともなう転勤あり」と明示しておきましょう。

    テレワークありと契約書に記載があるのに、毎日出社を命じられる

    雇用契約書と異なる労働条件で働かせると、雇用契約違反にあたります。

    会社によっては、働きやすい職場環境をアピールするために、雇用契約書や労働条件通知書に「テレワークあり」と記載することもあるでしょう。

    しかし、実際はテレワークがなく、従業員に毎日出社を求めていた場合、雇用契約書と異なる労働条件での勤務として、雇用契約違反とみなされます。

    規定の休憩時間を与えない

    法律の規定に反して休憩時間を十分に与えないと、雇用契約違反に該当します。

    企業は「労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間」を従業員に対して与えなければなりません。

    労働時間には、実際に作業が発生していないものの、指示があれば、すぐに業務を開始できる状態で待機する時間も含まれます。具体的には、電話番の時間やドライバーが荷物の積み下ろしを待つ時間などです。従業員が完全に業務から離れられるよう、休憩時間に配慮しましょう。

    参照:『労働基準法 第34条』e-Gov法令検索

    法定休日を与えない

    労働基準法第35条に違反し、法定休日を与えなかった場合は雇用契約違反です。

    同法の規定により、企業は従業員に「1週間で1日、もしくは4週間で4日以上の法定休日」を与える必要があります。

    ただし、振替休日を付与する、もしくは36協定を締結したうえで、休日出勤に対する割増賃金を支払うのであれば違反になりません。

    参照:『労働基準法 第35条』e-Gov法令検索

    決められた休日・休暇を与えない

    雇用契約書に明示した休日や休暇を与えていないときも、雇用契約違反とみなされます。

    2019年4月より、有給休暇が年に10日以上付与される従業員に対して、年5日以上の有給休暇を取得させることが企業に義務づけられました。

    有給休暇は、従業員がリフレッシュしたり、ワークライフバランスを保ったりするために必要な休暇です。企業は有給休暇を年5日以上取得を促進し、労働環境を整備する必要があります。

    参照:『年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説』厚生労働省

    妊娠・出産期の休暇を与えない

    6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性が休業を申し出たにもかかわらず、就業させることは労働基準法により禁止されています。また、従業員本人からの請求がなかったとしても、産後8週間以内は就業させてはいけません。

    ただし、産後6週間を経過した従業員が復帰を申し出た場合、医師により支障がないと認めた業務に就業させることは、違法ではありません。

    参照:『労働基準法 第65条』e-Gov法令検索

    予告なしで解雇する

    解雇予告規定に従わずに従業員を解雇すると、雇用契約違反とみなされます。

    従業員を解雇する必要性がある場合、企業は従業員に対して、少なくとも30日前には解雇通知を行う必要があります。

    万一、30日前までに解雇通知をしなければ「不足分の日数×平均賃金」で算出した金額を、解雇予告手当として支給しなければなりません。たとえば、解雇予定日の25日前に解雇予告をした場合は「5日×平均賃金」で算出した金額を支払います。

    参照:『労働基準法 第20条』e-Gov法令検索

    違約金、賠償金の支払いを強要する

    違約金や賠償金の支払いを指示するような雇用契約は違反です。企業は従業員に対して、違約金や賠償金の支払いを強要する契約を締結することが禁じられているためです。

    従業員の行為により会社に不利益が生じたとしても、企業は請求できません。給与から違約金や賠償金を差し引く行為や、借金の返済のために天引きする行為は違法とされています。

    参照:『労働基準法 第16条』e-Gov法令検索

    労災の申告が漏れている

    企業が労災の申告をしないのは違法です。

    従業員が、業務に従事する中で負傷したり、病気にかかったりした場合で、業務との因果関係が明らかであれば、療養補償給付や休業補償給付、障害補償給付などの給付を受けることができます。

    しかし、企業が労災の申請をしなければ、従業員は給付を受けられません。「労災の事実を隠ぺいしたい」「責任を負いたくない」と考え、企業が労災を申請しないと、従業員に不利益になります。事態が発覚したら適切に申請処理を進めましょう。

    参照:『労働基準法 第75条〜第77条』e-Gov法令検索

    労働条件を明示しない

    従業員を採用するときに、労働条件を明示しないのは違法です。

    従業員の雇い入れ時には、賃金や労働時間、就業場所などの規定された必要事項を記載した労働条件通知書もしくは雇用契約書兼労働条件通知書を作成し、従業員に対して明示しなければなりません。

    参照:『労働基準法 第15条』e-Gov法令検索

    就業規則に不備がある

    就業規則に不備があるのは法律違反にあたります。

    常時10人以上の従業員を雇用する企業では、就業規則を作成し、労働基準監督署長に届け出ることが義務づけられています。

    また、就業規則には以下の項目について記載する必要があります。不備があって何かが漏れていると労働基準法違反にあたります。

    • 始業時刻や終業時刻、休憩時間
    • 休日
    • 労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合は就業時転換に関する事項
    • 賃金の決定や計算方法
    • 賃金の支払い方法
    • 賃金の締め切りや支払いの時期
    • 昇給に関する事項
    • 退職に関する事項や解雇事由

    参照:『労働基準法 第89条』e-Gov法令検索

    雇用契約に違反しないための対策

    雇用契約に違反し、トラブルに発展することのないよう、企業は事前に対策を講じる必要があります。知らぬ間に、雇用契約に違反しないための対策を解説します。

    • 労働条件を記載した雇用契約書を作成する
    • 専門家に確認してもらう
    • 勤怠管理を見直す
    • 従業員に説明する
    • 従業員が果たすべき義務を確認する

    労働条件を記載した雇用契約書を作成する

    法律上、雇用契約書の作成は義務ではなく、作成しない場合でも労使間での合意があれば、雇用契約は成立します。

    ただし、雇用契約書を作成せずに口頭で契約を結ぶと、認識の食い違いによるトラブルにつながる恐れがあります。

    トラブルを避けるためにも、労働条件について労使間で合意を得た証拠として雇用契約書を作成した方が安全といえます。企業と従業員で署名・捺印を行い、両者が契約書を1部ずつ保管しておきましょう。

    専門家に確認してもらう

    雇用契約の違反が発覚する前に専門家に確認してもらいましょう。

    労働条件通知書や雇用契約書兼労働条件通知書でに明示した労働条件が、労働基準法に違反していると、違反部分が無効になります。

    たとえば、休憩時間が法律で定められた時間に満たない場合や、残業に関する記載がなく、実際に残業代が未払いの場合は、労働基準法違反です。

    以前作成した雇用契約書が、法改正によって、知らぬ間に労働基準法に違反しているという可能性も否定できません。内容を弁護士や社労士に確認してもらうとともに、定期的に見直す必要があるでしょう。

    勤怠管理を見直す

    雇用契約に違反しないよう、勤怠管理を見直しましょう。

    従業員が法律で定められた労働時間の上限を超えて働くと、労働基準法違反にあたり、企業には罰則が科されます。従業員の長時間労働を防止するためにも、勤怠管理を適切に行うことが重要です。

    また、適切で客観的な方法の勤怠管理により、従業員の有給休暇の取得状況をスムーズに把握できます。有給休暇を年10日以上付与する従業員に対しては、年に5日以上の有給休暇を確実に取得させなければなりません。

    従業員の休暇管理が煩雑になっている企業は、専用の勤怠管理システムの導入も検討してみましょう。

    従業員に説明する

    雇用契約について従業員に正しい認識を持ってもらうことも違反防止のために大切です。

    労働条件を正しく理解してもらうためには、すべての従業員に対して十分な説明を行う必要があります。労働条件を明示した雇用契約書を作成し、契約を締結したとしても、内容を十分に理解されていないと意味がありません。

    従業員は理解しているつもりでも、認識に食い違いがあると、労務トラブルに発展しかねません。入社時に個別に機会を設けてていねいな説明を心がけ、全従業員に正しく労働条件の内容が伝わるようにしましょう。

    従業員が果たすべき義務を確認する

    雇用契約違反の対策として、従業員個人にも協力してもらう必要があります。

    行きすぎた長時間労働や決められた休暇の未取得により、従業員が健康を害した場合は、労働管理を行う義務を怠ったとして、企業側が罰則を受けます。

    このような事態を避けるためにも、従業員にも法律を遵守する義務があることを伝え、労働時間の上限を守って働くことや、勤怠を正しく記録することを徹底してもらいましょう。

    雇用契約の違反防止に向けて適切な対応を(まとめ)

    雇用契約に違反すると、企業は行政から指導を受けたり、最悪の事態として罰則を受けたりする可能性があります。

    雇用契約違反を防止するためには、労働条件や労働の実態が違法ではないか、本記事で紹介した違反事例を参考に、あらためて確認してみましょう。

    労働時間や休憩時間が契約に違反しないよう、勤怠管理を適切に行うことも重要です。

    有給休暇の取得を促進するには、専門サービスの導入も検討しましょう。

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