健康保険(社会保険)に加入するメリット・デメリットを国保との違いから解説|任意継続の利点も
健康保険(社会保険)とは、病気やケガによる医療費を一部負担し、生活の安定を支援する公的な保険制度です。条件を満たす正社員や、アルバイト・パートなどの短時間労働者が加入しています。法人の事業所や一定の条件を満たす個人事業所には、健康保険への加入が義務づけられています。
本記事では、健康保険の加入対象となる事業所の概要や加入するメリット・デメリットを詳しく解説します。
企業は健康保険(社会保険)に加入しなければならない
健康保険とは、病気やケガをしたときをはじめ、出産や死亡時にも必要な給付を受けられる社会保険の一つです。
社会保険は、疾病や高齢、介護、失業、労働災害などのあらゆるリスクに備えるための制度で、社会全体で支え合うことを目的としています。誰もが必要とする最低限の保障を提供するのが社会保険です。
社会保険は、主に以下の5つの制度により構成されています。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 労災保険
- 雇用保険
上記5つの制度を「広義の社会保険」と呼び、狭義では、健康保険・介護保険・厚生年金保険の3つを「狭義の社会保険」といいます。
広義の社会保険 | 狭義の社会保険 | 健康保険 |
---|---|---|
介護保険 | ||
厚生年金保険 | ||
労働保険 | 労災保険 | |
雇用保険 |
要件を満たす事業所は「強制適用事業所」として、社会保険への加入義務があると同時に、要件を満たす従業員も社会保険に加入させなければなりません。
強制適用事業所でなくても、厚生労働大臣の認可を受けて、社会保険に加入する事業所を「任意適用事業所」といいます。
強制適用事業所
強制適用事業所とは、社会保険への加入が法律で義務づけられた事業所です。以下のいずれかに該当する場合は、強制適用事業所に分類されます。
- 常時1人以上従業員を使用するすべての法人事業所や国・地方公共団体
- 適用業種を行い、常時5人以上の従業員を雇用する個人事業所
健康保険における適用業種とは、以下の16事業です。
- 製造業
- 鉱業
- 電気ガス業
- 運送業
- 貨物積み卸し業
- 物品販売業
- 金融保険業
- 保管賃貸業
- 媒介斡旋業
- 集金案内広告業
- 清掃業
- 土木建築業
- 教育研究調査業
- 医療事業
- 通信報道業
- 社会福祉事業
参考:『社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入手続はお済みですか?』厚生労働省
任意適用事業所
任意適用事業とは、強制適用事業所には該当しないものの、厚生労働大臣の認可を受けることで社会保険に加入できる事業所です。
認可されるためには、被保険者に該当する従業員の2分の1以上の同意を得たうえで、事業主が管轄の年金事務所または事務センターに申請しなければなりません。
参考:『強制適用とならない事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき』日本年金機構
適用除外
社会保険の適用事業所で働く従業員は、原則として社会保険の被保険者です。ただし、一定の条件に当てはまる方は、日雇特例被保険者となる場合を除いて、健康保険の適用が除外されます。
除外される条件は以下の通りです。
- 勤めている会社が社会保険の適用事業所でない方
- 75歳以上の方(後期高齢者医療制度の対象)
- 後期高齢者医療の被保険者(後期高齢者医療制度の対象)
- パート・アルバイトなどの短時間労働者で、労働時間が短い、または労働日数が少ない方
- 船員保険の被保険者(船員保険の健康保険)
- 日々雇用される方(1か月を超えて引き続き使用される場合を除く)
- 臨時に雇用され、2か月以内の期間を定めて使用される方(当初の期間を超えて使用される場合を除く)
- 季節的業務に従事する方(当初から4か月を超えて使用される予定である場合を除く)
- 臨時的事業の事業所に雇用される方(当初から継続して6か月を超えて使用される予定である場合を除く)
- 所在地が一定しない事業所に雇用されている方
- 国民健康保険組合の事業所に勤めている方
- 厚生労働大臣、健康保険組合、または共済組合の承認を受けて国民健康保険に加入した方
健康保険(健保)のメリット
健康保険に加入するメリットを解説します。
- 扶養制度がある
- 給付範囲が広い
- 従業員と事業主で保険料を折半する
- 産前産後・育児休業中は保険料免除
- 任意継続制度がある
- 企業はキャリアアップ助成金を利用できる
- 従業員に安定的な環境を提供できる
扶養制度がある
社会保険には扶養制度があるため、世帯あたりの保険料額を抑えられます。
一方、国民健康保険の場合は扶養制度がありません。家族全員が被保険者として加入しなければならず、その分月々の保険料が割高になります。
給付範囲が広い
健康保険に加入するメリットの一つに、給付範囲の広さが挙げられます。具体的な給付の種類は、以下の通りです。
- 療養費
- 高額療養費
- 傷病手当金
- 出産手当金
- 出産育児一時金
- 埋葬費
健康保険は、国民健康保険では任意給付である出産手当金や傷病手当金も支給されるため、より手厚い生活保障といえます。
出産手当金とは、産前産後の休業期間中に給与相当額の約3分の2が支給される制度です。また、出産育児一時金として、原則として50万が給付されます。
健康保険における傷病手当金は、病気やケガにより、継続して4日以上働けなくなった場合に、給与相当額の3分の2程度が通算して1年6か月間給付される手当です。
さらに、2022年に実施された法改正により、社会保険(健康保険)の適用範囲が拡大されました。
企業の規模や従業員の雇用期間など適用条件が緩和され、条件を満たすパート・アルバイトのような短時間労働者が新たに加入できるようになり、より多くの労働者が社会保険の恩恵を受けられるようになりました。
従業員と事業主で保険料を折半する
健康保険に加入した場合、保険料は従業員と事業主で折半します。全額自己負担となる国民健康保険に比べ、従業員の負担額が軽減される点がメリットといえるでしょう。
産前産後・育児休業中は保険料免除
健康保険に加入している場合、産前産後休業中や育児休業期間中に申請をすれば、保険料が事業者負担分と従業員負担分のどちらも免除されます。
免除された期間は保険料を支払ったとみなされるため、従業員にとって不利益になることはありません。企業にとっても、保険料の支払いを免除されるのはメリットといえるでしょう。
参照:『厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)』日本年金機構
任意継続制度がある
健康保険の任意継続制度とは、退職によって被保険者の資格を喪失したあとも、最長で2年間引き続き同じ健康保険に加入できる制度です。
国民健康保険の保険料よりも安く抑えられるケースもあり、健康保険の無加入状態を防げます。会社の健康保険のサービスを継続して利用できる点も、従業員にとってメリットといえるでしょう。
企業はキャリアアップ助成金を利用できる
政府は、いわゆる「年収の壁問題」に対応するため、2023年10月20日よりキャリアアップ助成金の手続きを開始しました。
キャリアアップ助成金には、以下の5つのコースが設けられています。
- 正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 社会保険適用時処遇改善コース
たとえば「社会保険適用時処遇改善コース」では、雇用する短時間労働者に対して、取り組みを行った事業主に、労働者1人あたり最大50万円の助成金が支払われます。
取り組みの内容は以下の通りです。
- 新たに社会保険の加入要件を満たし、被保険者となった際に、賃金総額を増加させる取り組み(手当支給や賃上げなど)を行った場合
- 週の所定労働時間を4時間以上延長するなどの措置を実施し、これにより当該労働者が要件を満たし、社会保険の被保険者となった場合
「労働者の収入を増加させる取り組み」とは、以下の3つが該当します。
- 手当の支給や賃上げなど(手当等支給メニュー)
- 労働時間の延長(労働時間延長メニュー)
- 1と2を組み合わせる取り組み(併用メニュー)
キャリアアップ助成金は、2026年3月31日まで利用できます。検討している企業は早めに申請しましょう。
参照:『キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)』厚生労働省
従業員に安定的な環境を提供できる
社会保険に加入すると、国民健康保険に比べて広範囲の保険給付を受けられるため、従業員にとって安定した環境を提供できる点が大きなメリットです。
従業員に安心して働き続けられる企業だと感じてもらうことが、離職率の低下や有能な人材の確保にもつながるでしょう。
健康保険(健保)のデメリット
健康保険に加入することはメリットがある一方で、デメリットもあります。
- 収入が上がると保険料が高くなる
- 任意継続制度は事業主負担がなくなる
収入が上がると保険料が高くなる
社会保険料は、加入者の年齢や収入により変動します。年収が高くなればなるほど保険料も高くなるため、事業者・従業員双方にとって負担が大きくなるでしょう。
また、健康保険を含む社会保険料は、毎月の給与だけでなく賞与(ボーナス)も対象とされます。
任意継続制度は事業主負担がなくなる
退職した従業員が任意継続制度を利用する場合は、事業主負担がなくなるため、従業員にとっては納めなければならない保険料が倍増し、負担が大きくなります。
任意継続の保険料は、収入の有無に関係なく、原則として変動しません。また、以前は2年間加入し続ける必要がありましたが、2022年1月の制度改正を受け、加入者が希望すれば、申し出た翌月に脱退することが認められています。
公的医療保険制度は健康保険と国民健康保険に分かれる
公的医療保険制度には、健康保険と国民健康保険の2種類があります。それぞれの違いや、健康保険と比較した場合の国民健康保険に加入するメリット・デメリットを解説します。
健保と国保の違い
健康保険と国民健康保険の違いは、以下の通りです。
健康保険 | 国民健康保険 | |
---|---|---|
対象となる人 | ・会社員とその扶養家族 ・公務員とその扶養家族 | ・個人事業主 ・農業 ・漁業従事者 ・社会保険に加入していないパートやアルバイト |
医療費 | 原則として3割負担 | |
出産育児一時金 | 原則として50万円 | |
出産手当金 | 支給 | 任意給付 |
傷病手当金 | 支給 | 任意給付 |
保険者 | 全国健康保険協会または勤務先が所属する健康保険組合 | 居住する都道府県と市区町村 |
保険料の計算 | 会社が計算 ※給与額によって変動 | 自治体が計算 ※前年度の所得によって変動 |
保険料の支払い | 給与から天引きし、半分は会社が支払う | 加入者が全額支払う |
家族が増えた場合の保険料 | 同じ | 増える |
国保のメリット
国民健康保険に加入するメリットは、以下の通りです。
- 保険料が毎月の収入に関係なく毎月定額である
- 前年度の所得よりも高収入の年は、保険料が割安になる
- 健康保険のように事業主負担がないため、事業主の支出は少なく済む
国民健康保険は前年度の所得によって算出された固定額の保険料を支払います。随時改定によって年度途中に保険料が変動することもある健康保険と異なります。保険料は毎月定額となるため、加入者は月々の固定費をある程度予測できるでしょう。
また、事業主の負担がないため、企業の支出を抑えられるのはメリットです。
国保のデメリット
一方、国民健康保険に加入するデメリットは、以下の通りです。
- 養う家族分の保険料も支払う必要がある
- 出産手当金や傷病手当金が任意給付となる
- 出産育児一時金が法定任意給付となる
国民健康保険に加入する最大のデメリットは、扶養制度がないことです。養う家族が増えるほど、保険料の負担が大きくなります。
出産手当金や傷病手当金が任意給付であり、支給されないことが多い点も、加入者にとって大きな負担です。出産育児一時金も法定任意給付であり、特別な事情がある場合は給付されないこともあります。
退職後の健康保険(任意継続制度)について
続いて、従業員が退職後に、健康保険の任意継続制度を利用する場合のメリット・デメリットを解説します。
メリット
退職後に健康保険を任意継続するメリットは、以下の通りです。
- 国民健康保険よりも保険料を安く抑えられるケースがある
- 被扶養者の保険料がかからない
- 国民健康保険よりも充実した保障を受けられる
- 会社の健康保険のサービスを利用できる
国民健康保険よりも割安な保険料で加入できるケースがあること、そして手厚い保障を受けられることが大きな利点といえます。
デメリット
退職後に健康保険を任意継続する従業員側のデメリットは、次の通りです。
- 事業主負担がない
- 申請期限と利用期限がある
- 傷病手当金や出産手当金は対象外となる場合が多い
退職後に国民健康保険へ切り替えるべきか、任意継続制度を利用すべきかは、従業員が居住するエリアや加入している健康保険によっても異なります。保険料が全額負担となる点を踏まえて、従業員自身に判断してもらいましょう。
まとめ
健康保険は、病気やケガをはじめ、出産時や死亡時に必要な給付が実施される制度です。国民健康保険より給付の範囲が広いのが特徴です。
健康保険の保険料は事業主と従業員で折半であり、扶養家族が増えても保険料が上がらないという点で、従業員の負担を軽くできます。
企業は、健康保険を通して、従業員に安心して働ける環境を提供しているといえるでしょう。
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