労働契約法とは? 内容や重要ポイントをわかりやすく解説

労働契約法とは?内容や重要ポイントをわかりやすく解説

労働契約法は、会社と従業員が結ぶ労働契約について、成立や変更、終了に関する基本ルールを定めた法律です。とくに労働条件を変えるときの手続きや、解雇などの場面で何が問題になるかを整理できます。

一方で、労働基準法などとの役割の違いがわかりづらく、実務で迷うこともあるでしょう。

本記事では、労働契約法の目的や全体像をおさえたうえで、労働基準法との違い、実務上の注意点、企業側がとりたい対応を解説します。

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    労働契約法とは?成り立ちや原則をわかりやすく解説

    労働契約法は、労働者と使用者の間の労働契約について、基本ルールを定めた法律です。労働契約の成立から変更、終了に至るまでの過程で守るべき事項が整理されています。

    労働契約法の主な目的は、個別労働紛争を未然に防ぎ、労働者の保護と円滑な労使関係の構築をはかることです。

    条文は大きく、次のまとまりで構成されています。

    • 総則(第1条~5条)
    • 労働契約の成立・変更(第6条~13条)
    • 労働契約の継続・終了(第14条~16条)
    • 期間の定めのある労働契約(第17条~20条)※現在は第20条は削除され、パートタイム・有期雇用労働法に統合・移管

    労働契約法の基本原則を把握することは、人事担当者や経営者にとって、適切な労務管理を行ううえで不可欠といえます。

    成立背景

    労働契約法が制定された背景には、働き方の多様化と、個別紛争の増加があります。

    以前は、労働基準法などの労働関連法や判例によって労働関係が規律されていました。

    しかし雇用形態が多様化するなかで、より明確な労働契約のルールが、必要とされるようになったのです。

    とくに非正規雇用の増加にともない、有期労働契約で働く労働者の保護が課題になりました。

    そこで2012年の労働契約法改正で、無期転換ルールなどが導入され、雇止め不安の解消や、不合理な待遇差の是正が進められています。

    労働契約法を構成する基本の5原則

    労働契約法第3条では、労働契約における基本的な理念と共通の原則が定められています。

    これらは「労働契約の5原則」と呼ばれ、労働契約を締結・変更する際の重要な指針となります。

    • 労使対等の原則
    • 均衡考慮の原則
    • 仕事と生活の調和への配慮の原則
    • 信義誠実の原則
    • 権利濫用の禁止の原則

    労使対等の原則

    労働者と使用者が対等な立場で合意し契約を結ぶべきとされる原則です。現実の力関係の差を踏まえ、労働者保護の観点から、とくに重視されています。労働契約の締結だけでなく、労働条件の変更などでも、一方的に決めるのではなく合意をとらなければなりません。

    均衡考慮の原則

    仕事内容に見合った公正な条件設定を求めるルールで、働き方に応じて条件が変わることも適正とされています。ポイントは「正社員/パート」といった雇用形態だけで決めないことです。

    具体的には、仕事内容・勤務時間・責任の重さ・配置転換の有無など勤務実態を考慮して、賃金や福利厚生などの待遇を定めたり見直したりする必要があります。

    仕事と生活の調和への配慮の原則

    労働契約の締結・変更に際しては、労働者の仕事と、生活の調和(ワークライフバランス)にも配慮すべきとされています。

    長時間労働を前提にした条件変更や、生活に過度な負担が生じる運用にならないよう、働き方の実情を踏まえて検討する姿勢が求められます。

    信義誠実の原則

    労働契約の当事者は、信義に従い誠実に権利を行使し、義務を履行しなければならないとされています。これは民法の一般原則が労働契約にも適用されることを確認するものです。

    たとえば、労働者に不利益が生じる条件変更をするなら、理由や必要性を説明し、誠実に協議しなければなりません。使用者だけでなく労働者側も、就労や報告を誠実に行うことが求められています。

    権利濫用の禁止の原則

    権利の行使は、それが権利の濫用と認められるときは、許されないとされています。労働関係の紛争には権利濫用にあたる例が多いことから、とくに強調されています。

    形式的には権利があるように見えても、社会通念上相当といえないやり方で行使したものは無効です。これは使用者側だけでなく、労働者側にも当てはまります。

    労働基準法との違い・関連性

    労働契約法と労働基準法は、どちらも労働に関する法律ですが、性質や目的には重要な違いがあります。以下の表で2つの法律を比較します。

    労働契約法労働基準法
    性質民事法(私法)行政法(公法)の側面あり
    目的労働者と使用者の間の契約関係の明確化労働条件の最低基準の設定
    罰則なし(民事上の効力のみ)あり(懲役・罰金など)
    対象範囲労働契約を結んだ労働者(請負や委任で労務提供する人は含まない)雇用関係にある労働者のみ
    使用者の定義労働契約を締結する者事業主のほか、人事部長などの管理監督者も含む
    優先関係労働基準法の規定が優先される労働条件の最低基準として優先される

    労働契約法は、企業と労働者の間で労働条件を公正かつ納得のうえで取り決めるための「民事法」です。

    一方で労働基準法は、企業が守るべき最低限の労働条件を定めた「行政法」であり、行政による監督権限がともないます。

    両者の最大の違いは、違反時の罰則の有無です。労働基準法に違反した場合には、罰金や懲役などの刑事罰が課されますが、労働契約法違反は、罰則の対象ではなく、民事上の争いとして解決されます。

    どちらの法律も労働条件を規定しており、労働契約法の多くの条文は、労働基準法を基礎にしています。そのため、労働基準法で定めた最低基準に反する契約内容は無効です。

    たとえば「休憩時間なし」や「有給休暇なし」といった契約は適用されません。基準を上回る有利な条件が定められている場合は、契約内容が優先されます。

    人事の実務にかかわる労働契約法の基本規定

    労働契約法は、労働条件の変更や解雇など、トラブルになりやすい場面の判断軸を示す法律です。

    人事労務担当者や経営者が、実務でおさえておきたい基本規定を見ていきます。

    • 安全配慮義務
    • 労働契約の成立
    • 労働条件の変更
    • 出向
    • 懲戒
    • 解雇

    実際の現場で迷いやすい場面を取り上げていますので、対応方法に困った際の参考にしてください。

    安全配慮義務に関する規定

    労働契約法第5条では、使用者の安全配慮義務について明確に規定されています。

    使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をするものとする

    引用:『労働契約法第5条』e-Gov法令検索

    安全配慮義務は、労働者が安全に働ける環境を整備する使用者の責任を明確にしたものです。職場における事故や健康障害を防止するための措置を講じることを使用者に求めています。

    具体的には、以下の対応が含まれます。

    • 適切な安全衛生教育の実施
    • 必要な保護具の提供
    • 定期的な健康診断の実施
    • 長時間労働の抑制によるメンタルヘルス対策

    安全配慮義務に違反した場合、使用者は民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。

    労働契約の成立に関する規定

    労働条件の明示義務は、労働基準法第15条に規定されているものですが、労働契約法においても重要な前提となっています。使用者は労働契約締結時に、賃金、労働時間その他の労働条件を労働者に明示しなければなりません。

    さらに2024年4月の法改正により、明示すべき労働条件の項目が拡充されました。絶対的明示事項として以下に関する事項などを書面で明示する必要があります。

    • 契約期間
    • 就業場所
    • 業務内容
    • 始業・終業時刻
    • 休憩時間
    • 休日
    • 賃金
    • 退職(とくに有期労働契約の場合は、契約更新の基準についても、明示が必要)

    明示方法については、原則として書面(労働条件通知書など)による交付が必要です。労働者が希望した場合には、電子メールなどの電子的方法による明示も認められています。

    明示義務を怠った場合、労働基準法違反として30万円以下の罰金に処される可能性があります。明示された労働条件が事実と異なる場合、労働者は即時に労働契約を解除することが可能です。

    参照:『労働基準法第 15条第 1項』厚生労働省
    参照:『労働基準法第15条』e-Gov法令検索

    労働条件の変更に関する規定

    労働契約法第8条は、労働条件の変更について、原則として労働者と使用者の合意により行うことを定めています。

    また、就業規則の変更によって労働条件を変更する場合については、第9条、第10条で特別な規定が設けられています。

    第9条の規定により、就業規則を変更しても、労働者の合意なく労働条件を不利益に変更することはできません。

    例外として第10条では、変更後の就業規則が周知されており、かつ内容が「合理的」といえる場合には、個別の合意がなくても変更が認められます。

    「合理的」と判断される基準としては、以下の要素が考慮されます。

    • 労働者の受ける不利益の程度
    • 労働条件の変更の必要性
    • 変更後の就業規則の内容の相当性
    • 労働組合などとの交渉の状況

    実務上、労働条件の不利益変更を行う際には、十分な説明と協議を行い、可能な限り労働者の理解と合意を得ることが重要です。

    出向に関する規定

    労働契約法第14条では、出向に関する規定が設けられています。

    使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

    引用:『労働契約法第14条』e-Gov法令検索

    出向命令が有効となるためには、以下の条件を満たさなければなりません。

    • 業務上の必要性があること
    • 対象労働者の選定が合理的であること
    • 出向先での労働条件が著しく不利益でないこと

    実務上は、出向規定を就業規則や労働契約に明記しておくことが重要です。

    出向命令を出す際には、出向の目的、期間、出向先での労働条件などを明確に説明し、可能な限り労働者の同意を得ましょう。

    懲戒に関する規定

    労働契約法第15条では、懲戒に関する規定が設けられています。

    使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

    引用:『労働契約法第15条』e-Gov法令検索

    懲戒処分が有効となるためには、以下の3つの要件を満たさなければなりません。

    1. 懲戒の原因となる事実が存在すること
    2. その事実が就業規則などで定められた懲戒事由に該当すること
    3. 選択された懲戒の種類・程度が相当であること

    懲戒処分を行う前は、事実関係を十分に調査し、本人が弁明する機会を与えたうえで、過去の類似事例と比べたときに均衡といえるかも考慮することが重要です。

    懲戒処分の種類や事由を就業規則に明確に定めておく必要もあります。

    解雇に関する規定

    労働契約法第16条は、解雇に関する規定です。

    解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする

    引用:『労働契約法第16条』e-Gov法令検索

    また第19条では「雇止め法理」が法定化されており、一定の条件を満たす有期労働契約の労働者については、契約期間満了時の雇止めに制限が課されています。

    雇止め法理が適用されるのは、以下のケースです。

    1. 反復更新された有期労働契約で雇止めが実質的に無期労働契約の解雇と変わらない
    2. 有期労働契約の期間満了時にも更新されるものと期待できる合理的な理由がある

    解雇が有効となるためには、解雇の理由が客観的に合理的であり、社会通念上相当であることが必要です。

    具体的には、能力不足や勤務不良、経営上の必要性などが解雇を検討する理由となります。

    いずれの場合も、次の点が判断の際に見られやすいポイントです。

    • 解雇に至る前に指導や注意を行っていたか
    • 改善に向けた機会を設けていたか
    • 配置転換など他の対応を検討できたか

    近年の労働契約法改正でおさえたいポイント

    労働契約法は2008年の施行以来、社会情勢や雇用環境の変化に対応するため、複数回の改正が行われてきました。

    とくに2012年と2020年の改正は、有期労働契約に関するルールの整備や同一労働同一賃金に関する規定の見直しなど、実務に大きな影響を与える内容でした。

    非正規雇用労働者の処遇改善や雇用の安定化を目的としています。人事担当者や経営者は、改正内容を正確に理解し、適切に対応することが求められます。

    改正内容を把握せずに従来の雇用管理を続けると、労働紛争や法的リスクが生じる可能性があるため、最新の法改正に対応した労務管理体制の構築が必要です。

    有期労働契約の無期労働契約への転換

    有期労働契約は契約期間が定められた雇用契約であり、無期労働契約は期間の定めのない雇用契約です。2012年8月の労働契約法改正により、第18条に「無期転換ルール」が新設されました。

    無期転換ルールでは、同一の使用者との間で有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換されます。通算期間のカウントは2013年4月1日以降に開始した有期労働契約が対象となり、契約期間が通算5年を超えた時点で無期転換申込権が発生します。

    無期転換後の労働条件は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一です。就業規則などで無期転換後の労働条件を別途定めることも可能です。企業側は、無期転換申込権の発生時期を管理し、無期転換後の処遇や配置について事前に検討しておく必要があります。

    参考:『労働契約法第18条』e-Gov法令検索

    有期労働契約の「雇止め法理」の法定化

    2012年の労働契約法改正では、第19条に「雇止め法理」が法定化されました。従来の最高裁判例(東芝柳町工場事件、日立メディコ事件)で確立された法理を明文化したものです。

    雇止め法理が適用されるのは、次の場合です。

    • 過去に反復更新されてきた有期労働契約で、実質的に無期契約と異ならない状態にある場合
    • 労働者が契約の更新を合理的に期待できる場合

    条件に該当すると、使用者が雇止めをするには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要となります。

    実務上の対応としては、契約締結時に更新の有無や判断基準を明確に示すことが重要です。雇止めを行う場合は、少なくとも30日前までに予告し、労働者から請求があれば雇止めの理由を証明する書面を交付しなければなりません。

    雇止め法理に違反した場合、雇止めが無効となり、有期労働契約が更新されたものとみなされます。結果として、予期せぬ人件費負担や労働紛争のリスクが生じるため、適切な手続きの遵守が不可欠です。

    参考:『労働契約法第19条』e-Gov法令検索
    参照:『主な裁判例』厚生労働省

    有期労働契約と無期雇用契約で不合理な労働条件の禁止

    2012年の労働契約法改正では、不合理な待遇差の禁止が新たに規定されました。

    有期契約労働者と無期契約労働者の間で、期間の定めがあることを理由とした不合理な労働条件の相違を禁止しています。

    労働条件の相違が不合理かどうかは、次の3つの事情を考慮して判断されます。

    • 職務内容
    • 職務内容・配置の変更範囲
    • その他の事情

    この規定により、有期契約労働者の待遇改善が進められることになりました。

    なお、2020年4月の改正により、労働契約法第20条は削除され、代わりにパートタイム・有期雇用労働法に同様の規定が整備されています。

    これにより、有期・パートタイム労働者の待遇改善に関する法制度が一本化されています。

    参考:『パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために』厚生労働省
    参考:『短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律』e-Gov法令検索

    同一労働同一賃金への対応

    2020年4月の法改正により、同一労働同一賃金に関する労働契約法の規定はパートタイム・有期雇用労働法に一本化されました。これは「働き方改革」の一環として行われたものです。

    同一労働同一賃金とは、同じ仕事をしている労働者には同じ賃金を支払うべきという考え方です。正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差を禁止し、均等・均衡待遇を求めています。

    企業としては、次の流れで整理すると進めやすくなります。

    1.正社員と非正規社員の待遇の違いを洗い出す

    2.待遇差の内容や理由を説明できるよう整理する

    3.不合理な待遇差がある場合は是正する

    4.労働者に対して待遇差の内容や理由を説明できる体制を整える

    法改正に対応するためには、賃金制度の見直しや人事評価制度の整備が必要となる場合があります。待遇差の説明義務に対応するため、賃金や各種手当の支給基準を社内で明文化することが重要です。

    労働条件の明示義務の追加

    労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務は、労働契約法の運用においても重要な前提となっています。2024年4月の労働基準法施行規則の改正により、明示が必要な絶対的明示事項が追加されました。

    新たに明示義務となったのは「就業場所・業務変更の範囲」です。

    明示方法については、原則として書面(労働条件通知書など)による交付が必要です。労働者が希望した場合には、電子メールなどの電子的方法による明示も認められています。

    明示義務を怠った場合、労働基準法違反として30万円以下の罰金に処される可能性があります。明示された労働条件と実際の労働条件が異なる場合、労働者は即時に労働契約を解除できるほか、損害賠償請求の対象となるかもしれません。

    労働条件の明示は、労使間のトラブル防止の基本となるものです。とくに有期労働契約の場合は、契約更新の有無や判断基準についても明示することが重要です。

    労働契約法に違反した場合

    労働契約法に違反した場合、労働基準法のような直接の罰則は基本的にありません。しかし、民事上のトラブルや訴訟リスクが生じるのは事実です。

    • 労働条件や就業規則の変更が無効になる
    • 解雇、雇い止めが無効になり、地位確認(在職扱い)や解雇期間中の賃金相当額の支払いが必要になる
    • 紛争対応のための時間と費用が発生する
    • 損害賠償を請求される

    企業側の労働契約法違反が認められると、労働者は契約解除権の行使、損害賠償請求、無効な契約条項の是正などの権利を行使できます。

    なお、労働基準法の違反と関係している場合、労働基準監督署によって是正勧告や行政指導を受ける場合もあります。是正勧告を受けた企業は、指定期日までに違反状態を解消し、「是正報告書」を提出しなければなりません。是正勧告にしたがわないと、直接的な罰則はありませんが、企業名の公表や書類送検など厳しい措置につながります。

    参照:『労働契約法のあらまし』厚生労働省
    参照:『労働契約法』e-Gov

    労働契約法を遵守するために人事がやること

    労働契約法の原則やルールを踏まえて、人事担当者は具体的にどのような実務対応をとるべきでしょうか。 トラブルを未然に防ぐために、優先して確認・整備しておきたいポイントを解説します。

    労働条件や待遇についての合意形成方法

    労働条件や待遇の決定・変更は、労働契約法の基本である「労使対等の原則」に基づいて行うことが重要です。合意形成のために、以下のポイントを意識しましょう。

    1. 具体的な数字やデータで説明する 

    「経営が厳しいから」といった表現では、不信感を招きかねません。「売上が前年比で〇%下がっているため」「残業時間を月〇時間削減するため」など、具体的な数字や客観的なデータを用いて、変更の必要性を明確に伝えましょう。

    2. 変更の「背景」を包み隠さず共有する 

    決定事項だけを伝えるのではなく、なぜその変更が必要なのかといった背景や会社が置かれている経営課題を開示することが重要です。決定に至るまでの経緯が見えることで、従業員の理解と信頼が得やすくなります。

    3. 一方的な押しつけにならない「着地点」を探る 

    交渉は勝ち負けではありません。会社側の都合を押しつけるのではなく、従業員側のメリットや負担軽減策もあわせて提示するなど、双方が納得できる、不利益が偏りすぎない解決策を模索する姿勢が不可欠です。

    労働契約法違反を防ぐための社内ルール整備

    労働契約法違反によるトラブルを防ぐには、法律に沿った社内ルールを整えることが不可欠です。「知らなかった」や「口約束だった」は通用しない場合が多いです。人事担当者は、次のポイントをおさえて明文化を進めましょう。

    1.労働契約書の「書面化」を徹底する 

    口頭での契約は「言った・言わない」のトラブルの元凶です。労働条件通知書や雇用契約書を必ず作成し、労使双方が内容を確認した証拠(署名・捺印)を残しましょう。

    2.就業規則を作成し、必ず「周知」する 

    就業規則はつくっただけでは効力を持ちません。いつでも従業員が見られる状態にして「周知」することで初めて、懲戒処分や労働条件の根拠となります。作成・変更後はすみやかに共有しましょう。

    3.法改正に合わせて定期的にアップデートする 

    法律は頻繁に変わります。古いひな形を使い続けて法令違反にならないよう、年に1回は規程や契約書の見直しを行う仕組みをつくりましょう。

    4.現場の管理職へ「コンプライアンス研修」を行う 

    人事だけでなく、部下を持つ管理職への教育も重要です。「安易な退職勧奨」や「勝手な労働条件の変更」が違法であることを理解してもらい、現場レベルでのリスクを防ぐ必要があります。

    労働契約法以外の「労働」に関する法律

    労働契約法は労働契約に関する基本的なルールを定めた法律ですが、労働関係を規律する法律はこれだけではありません。

    労働者と使用者の関係を規定する法律は総称して「労働法」と呼ばれ、さまざまな側面から労働者の権利を保護し、適正な労働環境を確保するための法体系を形成しています。

    労働契約法以外の主要な労働関連法規について解説します。

    労働基準法

    労働基準法は、すべての働く人に共通する「労働条件の最低基準」を定めた法律です。1947年(昭和22年)に制定され、労働者の基本的な権利を守るための根幹となっています。

    労働基準法は、企業と労働者の間に契約上の自由があっても、過酷な条件で働かされることを防ぐために設けられました。

    主な規定内容は以下のとおりです。

    • 賃金支払いの五原則
    • 法定労働時間「1週40時間」「1日8時間」の原則
    • 時間外労働を認める協定(36協定)
    • 割増賃金規定

    賃金支払いの五原則によって賃金トラブルの防止を、法定労働時間の規定によって、従業員の健康保護をはかっています。

    法定を超える労働には36協定の締結が必要です。深夜・休日労働を含む時間外労働に対する割増賃金の支払いも義務づけられており、働く人の健康と生活を守るための基盤となる法律といえます。

    参考:『労働基準法』e-Gov法令検索

    最低賃金法

    最低賃金法は、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善をはかることを目的とした法律です。1959年(昭和34年)に労働基準法から派生する形で制定されました。

    最低賃金には、都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業について定められる「特定最低賃金」の2種類があります。地域別最低賃金は産業や職種を問わずすべての労働者に適用され、改定は毎年10月頃です。

    最低賃金を下回る賃金での労働契約は無効となり、最低賃金と同額の契約をしたものとみなされます。企業は常に最新の最低賃金を確認し、適切な賃金設定を行うことが重要です。

    参考:『最低賃金法』e-Gov法令検索

    労働安全衛生法

    労働安全衛生法は、労働者が安心して働ける職場づくりを目的とした法律であり、安全と健康の確保が基本理念です。1972年(昭和47年)に労働基準法から独立する形で制定され、労働災害の防止と快適な職場環境の形成を推進しています。

    主な規定内容は以下のとおりです。

    • 安全衛生管理体制の整備
    • 危険・有害作業に関する基準の設定
    • 安全衛生教育
    • 定期健康診断の実施義務

    常時50人以上の労働者を雇用する事業場では、労働者の安全と健康を守るための体制整備が法律で義務づけられています。

    具体的には、衛生委員会の設置に加え、安全管理者・衛生管理者・産業医の選任が必要です。

    また、安全委員会の設置については業種により基準が異なり、特定の業種では常時50人以上、それ以外の業種では常時100人以上で設置義務が生じます。

    これらの取り組みは、事故や疾病の発生を未然に防ぐために重要です。労働安全衛生法は、働く人の命と健康を守る基盤となる法律といえます。

    参考:『労働安全衛生法』e-Gov法令検索

    労働者災害補償保険法

    労働者災害補償保険法(労災保険法)は、労働者が業務上の事由または通勤によって負傷、疾病、障害、死亡した場合に、必要な保険給付を行うことを目的とした法律です。1947年(昭和22年)に制定されました。

    労災保険は、雇用形態を問わず賃金が支払われる従業員すべてに適用されます。正社員だけでなくアルバイトやパートタイマー、契約社員や派遣社員、日雇い労働者なども対象です。

    労災保険には、次の給付があります。

    • 療養補償給付
    • 休業補償給付
    • 障害補償給付
    • 遺族補償給付

    事業主は労災保険に加入する義務があり、保険料は全額事業主負担となります。

    参考:『労働者災害補償保険法』e-Gov法令検索

    労働者派遣法

    1986年に施行された労働者派遣法は、派遣労働者の雇用の安定と労働条件の保護、派遣事業の健全な運営を目的としています。

    正式名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」です。

    労働者派遣は、派遣元である人材派遣会社と派遣労働者が雇用契約を結び、その労働者が派遣先企業で業務に従事するという仕組みです。

    指揮命令は派遣先企業が行いますが、給与の支払い・社会保険・福利厚生は派遣元が責任を負います。

    労働者派遣法の主な規定内容は以下のとおりです。

    • 違法派遣の防止
    • 派遣期間の上限:原則3年
    • 派遣労働者のキャリア形成支援措置の義務

    多様な働き方が進むなか、派遣労働の適正な運用を維持するための重要な法律です。

    参考:『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律』e-Gov法令検索

    男女雇用機会均等法

    1986年に施行された男女雇用機会均等法は、性別に関係なくすべての人が公平に働ける環境を整えることを目的としています。

    正式名称は、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」です。

    男女雇用機会均等法の主な規定内容は以下のとおりです。

    • 募集・採用・配置・昇進などのあらゆる雇用機会における性別を理由とする差別の禁止
    • 見かけ上は公平でも結果的に特定の性別に不利益を与える「間接差別」の禁止
    • 婚姻・妊娠・出産・育児休業などを理由とする不利益な扱いの禁止

    職場でのセクシュアルハラスメント防止措置の義務化など、実務面での対応強化もはかられています。

    男女雇用機会均等法は、働くすべての人が性別にとらわれず能力を発揮できる社会を実現するための基盤といえるでしょう。

    参考:『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律』e-Gov法令検索

    育児・介護休業法

    育児・介護休業法は、正式名称を「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といい、育児や家族介護を行う労働者の仕事と家庭の両立を支援することを目的としています。

    育児・介護休業法の主な規定内容は以下のとおりです。

    • 育児休業や介護休業
    • 子の看護休暇、介護休暇
    • 所定外労働、時間外労働、深夜労働の制限
    • 所定労働時間の短縮などの措置

    介護休業は、要介護状態にある家族を介護するために、通算して93日間を限度として取得可能です。介護休暇は、年5日(対象家族が2人以上の場合は10日)まで取得できます。

    参考:『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』e-Gov法令検索

    まとめ

    労働契約法は、労働者と使用者の間の契約関係を規律する基本法です。5つの基本原則に基づき、労働契約の成立から終了までのルールを定めています。

    重要なのは、労働条件の明示義務や労働条件変更の手続き、解雇・雇止めのルールや有期契約の無期転換ルールです。近年の改正では非正規雇用者の保護が強化されており、適切な対応が求められています。

    労働契約法違反には直接的な罰則はありませんが、是正勧告や民事訴訟のリスクがあります。適切な社内ルールの整備と透明性のあるコミュニケーションが重要です。

    労働契約法は企業経営において避けて通れない法律です。理解と適切な運用により、労働紛争を防止し、働きやすい職場づくりを実現しましょう。