懲戒免職とは? 懲戒解雇とクビとの違い、退職金や再就職について徹底解説

懲戒免職とは? 懲戒解雇とクビとの違い、退職金や再就職について徹底解説

懲戒免職とは、公務員が規律違反を犯した際に適用されるもっとも厳しい処分です。採用活動において、履歴書に懲戒免職の事実が記載されている場合、人事担当者はどのようなことに注意すればよいのでしょうか。

本記事では、懲戒免職と懲戒解雇、クビとの違いをはじめ、懲戒免職に該当する行為や免職後の退職金、再就職についても徹底解説します。公務員の職務や処分の理解を深めるためにお役立てください。

退職手続きを効率化「One人事」の資料をダウンロード

目次アイコン 目次

    懲戒免職とは?

    懲戒免職とは、国家公務員法や地方公務員法に基づき、公務員が重大な規律違反や不正行為を行った場合に適用されるもっとも厳しい処分です。処分により、職員は公務員としての地位を完全に失い、以後、公務員として再び働くことができなくなります。

    懲戒免職は、公務員としての職務に対する信頼性と公正さを確保するための重要な措置として、法に基づき厳格な基準をもとに行われます。

    公務員に対する懲戒処分の種類【レベル順】

    公務員に対する懲戒処分の種類には、以下の4つがあります。

    戒告該当する行為に対して始末書を提出させ、再発を防ぐために厳しく注意する処分です。戒告は文書または口頭で行われます。
    減給職員の給与を一定期間減額する処分です。国家公務員の場合、減給期間は最長1年、減額は基本給の20%以下に制限されています。地方公務員の場合は自治体の規定により異なります。
    停職職務から一定期間離れさせ、その間の給与を支給しない処分です。国家公務員の停職期間は最短1日から最長1年までですが、地方公務員の場合は自治体ごとに異なります。
    懲戒免職職員の意思に関係なく、公務員の身分を剥奪(はくだつ)し、職務から退けるもっとも重い処分です。

    懲戒免職と懲戒解雇、クビの違い

    公務員に対するもっとも重い処分である「懲戒免職」とよく間違われる言葉に、会社員に対する処分を指す「懲戒解雇」があります。

    また、一般的に広く使用される「クビ」は、組織側から離職処分、普通解雇等使用者が一方的に雇用関係を終了することを指す俗語です。雇止めや退職勧奨も含めることもあります。

    懲戒免職と懲戒解雇との違い

    懲戒免職は、公務員に対するもっとも重い処分であり、職員の身分を停止する強制解雇です。

    一方、懲戒解雇は民間企業の社員に対する処分で、重大な違反行為を理由に即時解雇される措置です。

    名称概要制定機関
    懲戒免職公務員に対するもっとも重い処分国家公務員に対しては国家公務員法、地方公務員に対しては地方公務員法に基づいて制定
    懲戒解雇民間企業の社員に対するもっとも重い処分民間企業において労働基準法や就業規則などに基づいて制定

    懲戒免職とクビとの違い

    クビは法的な用語ではなく、職を剥奪(はくだつ)されるもっとも重い処分や普通解雇など、使用者が一方的に雇用関係を解消すること全般を指す表現です。

    民間企業で使われる「懲戒解雇」もクビに含まれるため「懲戒免職」も公務員がクビになることを指していると言い換えられるでしょう。

    懲戒免職に当たる行為の具体例

    懲戒免職は公務員としての地位を奪われるもっとも重い処分です。懲戒免職に値する、公務員がしてはならない具体的な4つの行為の例を紹介します。

    • 一般服務関係
    • 公金官物取り扱い関係
    • 公務外非行関係
    • 飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係

    参照:『懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)』人事院

    一般服務関係

    公務員が服務規定に反し、社会的信用を損なうような行為をした場合、懲戒免職の対象です。

    「一般服務関係」とは、公務員が日常的に守るべき基本的な職務遂行の義務や倫理に関する規範を指します。職務専念義務や法令遵守義務、信用失墜行為の禁止などが挙げられます。

    無断欠勤

    職員が事前の許可や正当な理由なしに出勤せず、連絡もしない行為があると、停職または懲戒免職の対象となります。

    公務員には職務専念義務があり、無断欠勤は義務に対する重大な違反とみなされます。21日以上、正当な理由なく欠勤した場合、職務の放棄と判断されます。

    違法な職員団体活動

    職員が法律に違反する形で組合活動を行うことは、懲戒免職の対象となります。

    国家公務員法第98条第2項では「公務員は、政府の働きを妨げるようなストライキや妨害などの行為をしてはいけない」(争議行為等の禁止)と定められています。

    また、禁止行為を計画し、他人を誘って一緒に実行することも同様です。公務員は公共の利益を最優先にする義務があるため、違法な団体活動は義務を著しく逸脱する行為とみなされます。

    秘密漏えい

    職務上知り得た機密情報を無断で外部に漏らす行為は、懲戒免職の対象です。

    公務員は職務中に得た情報を適切に管理し、秘密を守る義務があります。国家機密や個人情報の漏えいは、組織や国全体の信頼を失うだけでなく、重大な法的問題を引き起こす可能性があります。

    秘密漏えいは、公務員の信用を大きく傷つける処分に値する行為といえます。

    入札談合などに関与する行為

    業者間で事前に協議し、公共の入札において不正な取引条件を設定するのは、懲戒免職の対象となり得る重大な不正行為といえます。

    公務員が入札談合に関与することは、公共資金の適正な使用を阻害し、公正な取引をゆがめてしまいます。公務員の職務に対する信頼を低下させ、厳しい処罰が科される可能性があります。

    公文書の不適正な取扱い

    不適正な公文書の取り扱いは、公務員の職務遂行能力や信頼性を著しく損ない、懲戒免職の対象となります。

    具体的には、業務において扱う公文書を、不正に作成、改ざん、隠匿(いんとく)、毀棄(きき)することです。

    公文書は行政活動の記録であり、法的に重要な証拠となるため、適正な管理が求められます。

    セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)

    職場において性的な言動や行為によって他者に不快感を与える行為は、懲戒免職に相当する処分が決定される可能性があります。

    特に暴力や脅迫を使ったわいせつな行為や、上下関係を悪用した性的な関係の強要、相手がストレスによる精神疾患を患った際に、該当すると考えられるでしょう。

    パワー・ハラスメント(パワハラ)

    職場において地位や権力を利用し、他者に対して行う精神的・身体的な嫌がらせは、懲戒免職となる可能性があります。

    たとえば、不当な叱責や業務からの排除、過剰な業務を強いる行為です。

    パワハラ行為は減給や停職の対象ですが、相手に強い精神的ストレスを与え、結果として精神疾患を引き起こしたようなケースでは重い処分が判断されるでしょう。

    公金官物取り扱い関係

    「公金官物」を不正に扱うのは、職務上の重大な違反となり懲戒免職の対象です。

    公金官物とは、国や自治体が所有する財産や金銭のことです。

    公務員は「公金官物」を適切に管理・使用する義務があり、横領・窃取・詐取などの不正は当然ながら認められません。

    種類概要懲戒免職となる理由
    横領公務員が職務上取り扱う公金や官物を、自分のものとして不正に使用・流用する行為信頼を裏切り、公的資産を私的に利用するため、懲戒免職の対象
    窃取公務員が公金や官物を盗み取る行為職務に反し、国や自治体の財産を直接損なうため、懲戒免職の対象
    詐取公務員が詐欺的手段で公金や官物を不正に取得する行為偽造や虚偽の報告を通じて資金や物品をだまし取るため、懲戒免職の対象

    公務外非行関係

    「公務外非行関係」とは、公務員が職務外で行った違法行為や倫理違反が、職務に影響を及ぼす場合の懲戒免職の理由です。

    たとえば、重大な犯罪や公私混同による社会的信用の喪失が該当します。公務外非行関係には、以下の内容が挙げられます。

    放火意図的に火を放ち、他人や公共の財産に損害を与える行為
    殺人他人の命を故意に奪う倫理を完全に逸脱した行為
    横領・窃盗・強盗他人の財産を不正に取得する行為。横領は他人の財産の流用、窃盗は盗み、強盗はおどして奪うことで、すべてが重い違法行為
    詐欺・恐喝虚偽の手段で他人から金銭や物品を不正に取得したり、おどして奪ったりする行為
    危険ドラッグの所持違法な薬物や危険ドラッグを所持する行為
    淫行未成年者に対して不適切な性的行為を行う行為

    飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係

    公務員が飲酒運転や重大な交通事故を引き起こしたり、交通法規に違反したりする行為は、懲戒免職の対象になります。

    公務員としての信頼性や職務に対する責任感を著しく損なうと判断されます。

    飲酒運転

    酒酔い運転や酒気帯び運転によって交通事故を起こし、相手に死傷を負わせた場合、懲戒免職となります。

    たとえ事故を起こしていなくても、酒酔い運転や酒気帯び運転をしただけで、減給や停職、場合によっては免職の対象となることがあります。

    さらに、飲酒運転をした職員に対して車両や酒類を提供したり、飲酒をすすめたり、飲酒運転と知りながら同乗したりした場合も、関与の程度によって懲戒免職となる可能性があります。

    飲酒運転以外での交通事故(人身事故をともなうもの)

    飲酒運転でなくても、交通事故によって人を死亡させたり重傷を負わせたりした場合には、懲戒免職の対象となります。

    さらに、事故後に被害者の救護を怠るといった措置義務違反があった場合も、停職や懲戒免職が科されることがあります。

    懲戒免職の判断基準

    懲戒免職は、人事院「懲戒処分の指針」の規定をもとに判断されますが、個別の事案によって、標準例の処分以外の選択肢も考えられます。

    • 非違行為の動機や状態、結果はどのようなものだったか
    • 故意や過失の度合いはどれくらいだったか
    • 非違行為を行った職員の職責はどのようなもので、その職責がどのように関係しているか
    • ほかの職員や社会にどのような影響を与えたか
    • 過去に似たような非違行為を行ったことがあるか

    以上に加えて、日頃の勤務態度や非違行為後の対応も含め、総合的に考慮して判断されるのが一般的です。標準例の処分よりも重い処分が下されるケースもあるでしょう。

    • 非違行為の動機や状態が特に悪質である、または結果が非常に重大である場合
    • 職員が管理や監督の立場にあり、その職責が特に高い場合
    • 非違行為が公務内外に与える影響が特に大きい場合
    • 過去に似た非違行為で懲戒処分を受けたことがある場合
    • 複数の異なる非違行為を行っていた場合

    また以下のケースでは、標準例よりも軽い処分となることもあります。

    • 職員が自分の非違行為が発覚する前に、みずから進んで申し出た場合
    • 非違行為に至る経緯やそのほかの状況に特に考慮すべき点があると認められる場合

    標準例に掲げられていない非違行為も、懲戒処分の対象となる可能性は十分にありますが、いずれにしても標準例を参考に判断されると考えてよいでしょう。

    出典:『懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)』人事院

    懲戒免職をする際に注意すべきこと

    懲戒免職を判断する際は、以下7つの重要な原則を理解・遵守することが大切です。以下の原則は、公正で適切な処分を確保するために設けられています。

    原則内容
    罪刑法定主義の原則懲戒処分は、事前に定められた法律や規定に基づいて行わなければなりません。法律に明示された違反行為のみが対象となり、個人の主観や私的感情などで処分を下すことはできません。
    一事不再理の原則一度処分が決定された事案については、同じ事案で再び処分を行うことはできません。
    不遡及の原則処分は行為が発生した時点の規定に基づくべきであり、新たに定められた規定や基準を、過去の行為にさかのぼって適用することはできません。
    合理性および相当性の原則過剰な処分や軽すぎる処分は避けるべきであり、違反の程度や状況に応じて合理的かつ相当なものでなければなりません。
    平等取り扱いの原則同様の違反行為には、同じ基準で処分を行う必要があります。特定の職員だけが不公平に処分されることはありません。
    適正手続きの原則職員には弁明の機会が与えられるべきであり、処分に至るまでの手続きは、公正で透明でなければなりません。
    個人責任の原則処分は、各職員の個別の行為や責任に基づいて行わなければならず、ほかの人の行為や責任で処分を決定することはできません。

    懲戒免職は不服申し立てができる

    懲戒免職を受けた場合、処分が妥当ではないと考えた場合は異議申し立てができます。

    免職などの懲戒処分は「不利益処分」と呼ばれ、国家公務員や地方公務員は、人事院や人事委員会に審査を請求し、処分の取り消しを求められます。

    ただし、審査請求の要件を満たし、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内、または処分があった日の翌日から1年以内に申し立てをしなければなりません。

    審査請求の結果に不満がある場合は、裁判所に対して処分取り消し訴訟を提起することも可能です。

    懲戒免職された公務員の退職金と年金、失業保険

    懲戒免職された公務員の退職金や年金、失業保険はどのように扱われるのでしょうか。担当者向けに各種手続き、対応を解説します。

    退職金は支給されない可能性がある

    懲戒免職となった公務員には、退職金が一部または全額支給されない可能性があります。しかし、必ずしも退職金全額の不支給がすぐに適用されるわけではありません。

    個別の事情に応じて、退職後の生活を保障するために、一部支給されることもあるようです。

    自己都合での退職(依願退職)なら、通常は退職金が支給されますが、懲戒処分の内容によっては減額されるでしょう。

    ただし、刑事手続きが進行している場合は、依願退職が認められない可能性があります。

    年金に影響はない

    懲戒免職を決定した場合も、国民年金及び厚生年金から将来支給される年金には影響はありません。

    公務員の年金は、国民年金、厚生年金及び年金払い退職給付の3階建てになっています。

    懲戒処分が年金の額に直接関係することはなく、退職までに納めた保険料に基づいて支給されます。

    ただし、禁固以上の刑に処せられた場合や、停職以上の処分を受けた場合は、年金払い退職給付の全部、または一部が5年間支給されないことがあります。

    失業保険は受けられない

    公務員は雇用保険の対象ではないため、懲戒免職による離職であるか否かを問わず、失業保険は受けられません。ただし、公務員の失業者には退職手当制度が設けられています。

    退職手当制度とは、退職時に受け取った退職手当の額が、雇用保険の失業保険よりも低かった場合に差額分を限度として支給される制度です。

    懲戒免職の場合も退職手当制度の対象です。

    懲戒免職後は再就職できる?

    懲戒免職後の再就職は可能ですが、非常に困難と考えられます。

    公務員の場合、懲戒処分の内容が公表されることもあり、履歴書に事実を記載しなければ経歴詐称となります。

    国家公務員は懲戒免職後、2年間は再び公務員としての職に就けません。地方公務員も同様に、懲戒免職から2年間は同じ地方公共団体での再就職ができないとされています。再就職活動は非常に不利といえるでしょう。

    まとめ

    懲戒免職とは、公務員が重大な規律違反を犯した際に行われるもっとも重い処分で、民間企業の「懲戒解雇」に相当します。

    また「クビ」は法的な用語ではありませんが、懲戒免職は「公務員をクビになる」と同義です。

    懲戒免職になる理由は多岐にわたり、いずれも重大な違反行為に該当します。

    民間企業の人事担当者が元公務員を採用する際は、懲戒免職歴や公表された内容に注意し、正確な情報の把握と慎重な判断が必要です。