労務トラブルとは? よくある事例や発生したときの対応と相談先、防止策を紹介
労務トラブルは、従業員同士や従業員と企業の間で発生するさまざまな問題を指します。労務トラブルへの適切な対応は、健全な職場環境を維持し、企業の持続的な成長においても重要です。
本記事では、労務トラブルについて総合的に解説し、 よくある事例や発生したときの対応と相談先、防止策を紹介します。労務トラブルを回避するために、お役立てください。
労務の仕事内容
労務の仕事内容は、従業員の労働に関する事務処理や管理全般を指します。主要な労務業務は、以下の通りです。
- 給与計算
- 勤怠管理
- 社会保険の手続き
- 年末調整
- 福利厚生の管理
- 安全衛生管理
業務を通じて、労務担当者は労働環境の基盤を整備します。従業員が安心して働ける環境を作り、企業と従業員の双方にとって有益な関係を構築することが重要な役割です。
また、労務の仕事では労働法や社会保険関連法など、さまざまな法律の知識が求められます。法令を遵守しながら、適切な労務管理を行うことが必要不可欠といえるでしょう。
人事と労務の違い
労務と人事は、どちらも組織の人材にかかわる仕事です。
人事の仕事は、採用をはじめ、人材の教育や適切な配置、評価制度など、採用した人材をどのように活かしていくかに焦点をあてています。一方で労務は、従業員が安心して働けるように裏から支える仕事です。
人事が「対個人」なら労務は「対組織」といえるでしょう。ただし、人数が少ない企業では人事が労務を兼ねています。
よくある労務トラブルの例【種類別】
よくある労務トラブルの例を7つの種類別に取り上げて解説します。
- 採用・入社
- 労働時間・休暇
- 賃金
- ハラスメント
- 労働災害
- 休職
- 解雇
採用・入社に関する労務トラブル
採用・入社に関する労務トラブルの主な具体例は、以下の通りです。
- 採用通知後に内定を取り消す
- 試用期間中に解雇する
- 研修に必要な交通費を支給しない
採用通知後に内定を取り消す
内定取り消しの労務トラブルはあってはならないことですが、どうしても実施しなければならない場合、和解金の支払いで解決できることがあります。ただし、新卒者の内定取り消しについてハローワークや出身校に通知が必要です。
試用期間中に解雇する
基本的に試用期間中に、正当な理由もなく解雇はできないと理解しておきましょう。ただし、本採用前に試用期間を設定しておくと、入社日から14日は予告することなく解雇が可能です。就業規則に解雇の事項を記載し、合理的かつ社会通念上やむを得ない理由がある場合、解雇できるケースもあります。
研修に必要な交通費を支給しない
研修中であるかどうかを問わず、通勤費(通勤手当)の支給は任意です。企業側が支払う義務はありませんが、支給する場合は就業規則に記載しておくとよいでしょう。
また、業務に必要なスキルを身につけるために、研修へ参加する場合の交通費は、会社が負担しなければなりません。従業員に疑問を持たれず労務トラブルに発展しないためにも、あらかじめ通勤費や交通費の支給条件を明確にしておくことが重要です。
労働時間・休暇に関する労務トラブル
労働時間・休暇に関する労務トラブルの主な具体例は、以下の通りです。
- 休日出勤や長時間労働を強要する
- 有給休暇を取得させないように妨害する
以上の労務トラブルは労働基準法違反となる可能性が高く、企業にとって大きなリスクといえます。
従業員の健康と生活を守るため、労働基準法では1日8時間、週40時間を基本とする法定労働時間が定められています。規定に違反した場合、半年以下の懲役や最大30万円の罰金といった厳しい制裁が科される可能性があります。
労働時間・休暇に関する労務トラブルの解決策としては、労働時間を客観的に管理できる勤怠管理システムの導入も一案です。また、有給休暇の取得を促進するために、計画的付与制度も検討するとよいでしょう。
賃金に関する労務トラブル
賃金に関する労務トラブルの主な具体例は、以下の通りです。
- 給与や残業代を支払わない
- 給与を不当に減額する
- 退職金を支払わない
企業の経営状況悪化にともない、給与の未支給や法的根拠のない給与の削減、特に時間外労働に対する報酬の未払いは、法令違反となります。
退職金は必ずしも支給義務はないものの、元従業員から要求され、応じない場合に法的措置を示唆される労務トラブル事例も見受けられます。
労働条件や退職金に関する問題は、企業と従業員の間で見解の相違が生じやすい傾向にあります。円滑に解決するためには、労働法規を遵守し、透明性のある給与制度を確立することが重要です。
ハラスメントに関する労務トラブル
職場で労務トラブルに発展するハラスメントの具体例は、以下の通りです。
- パワーハラスメント
- セクシュアルハラスメント
- マタニティハラスメント
ハラスメント行為は、安全配慮義務違反あるいは職場環境整備義務違反に該当し、禁止されています。企業にはハラスメント防止措置が義務付けられています。
企業ができる防止策としては、ハラスメント防止方針の策定・周知や、相談窓口の設置、適切な対応体制の整備があります。また、定期的なハラスメント研修の実施により、従業員の意識の向上をはかりましょう。
労働災害に関する労務トラブル
労働災害に関する労務トラブルの主な具体例は、以下の通りです。
- 業務中や通勤中の事故によるケガ
- 長時間労働による精神疾患
- 過労死
労働災害に関する労務トラブルは、従業員の安全・健康や企業の社会的責任に直結する重要な問題です。
労災が発生した場合、従業員が個人的に労働基準監督署に相談するケースも少なくありません。最悪の事態を避けるためにも、日頃から従業員との対話を大切にし、安全で健康的な職場環境の整備に努めることが重要です。
休職に関する労務トラブル
休職に関する労務トラブルの主な具体例は、以下の通りです。
- 休職の求めを却下する
- 従業員が断続的な休職と職場復帰を繰り返す
メンタルヘルスの問題や育児・介護など家庭の事情により、一時的な休職を必要とするビジネスパーソンは増えているといわれています。
休職制度のルールが定まっていない企業や、休職の基準が不明確で一貫性のある対応ができない企業では、労務トラブルが起こりやすいでしょう。休職の問題を放置すると、労使間の紛争に発展するおそれもあります。
休職に関する労務トラブルを未然に防ぐためには、就業規則において休職に関する規定を詳細に定めておくことが重要です。
解雇に関する労務トラブル
解雇に関する労務トラブルの主な具体例は、以下の通りです。
- 就業規則での周知なく懲戒解雇処分をした
- 業績悪化のためにパート社員を整理解雇した
- 無理な解雇を強要する
労働者は労働基準法によって保護されており、法的に有利な立場にあることが多いため、安易な解雇は避けなければなりません。
企業の独断は認められておらず、正当な理由や適切な手続きを踏まない解雇は、不当解雇として訴えられるおそれがあります。たとえ従業員側に問題があったとしても、企業には慎重な対応が求められます。
解雇を検討する際は、解雇の正当性の確保や就業規則に基づいた適切な手続きの遵守が必要です。可能な限り配置転換や降格など、ほかの選択肢も検討しましょう。
労務トラブルが発生したときの対応・流れ
労務トラブルが実際に怒ってしまった場合、担当者としてどのように対応すればよいでしょうか。労務トラブルが発生したときの基本的な実務対応や流れを紹介します。
- 関係者に事実確認をする
- 就業規則や過去事例を確認する
- 外部の第三者・専門家に意見を聞く
1.関係者に事実確認をする
労務トラブルが発覚したら、まずは関係者への事実確認から始めます。トラブルにかかわるすべての当事者から詳細な情報を収集しましょう。
感情的な判断を避け、客観的な事実を把握することに重点を置きます。誰が、いつ、どこで、何が起こったのかを明確にし、状況を正確に理解することが重要です。
2.就業規則や過去事例を確認する
次に、過去に発生した類似の労務トラブル事例と解決方法を調べ、今回の対応の指針とします。就業規則もあわせて確認し、公平で一貫性のある対応をとることが重要です。
3.外部の第三者・専門家に意見を聞く
最後に、発生した労務トラブルについて、外部の第三者や専門家の意見を求めます。社労士や弁護士などの専門家に相談することで、法的な観点からの助言を得られるでしょう。
第三者により客観的で公正な解決策を見出せれば、防止策にも役立てることができ、将来的なリスクの軽減にもつながるでしょう。
労務トラブルを防止するために企業にできる対策
労務トラブルを防止するために、どのような対策を実施すればよいのでしょうか。企業にできる対策を5つ取り上げて解説します。
- 雇用契約書や就業規則を整備する
- 法律や就業規則を社内周知する
- 労働災害の防止を徹底する
- 証拠の改ざんや隠蔽をしない
- 社内に相談窓口を設置する
雇用契約書や就業規則を整備する
社内ルールを適切に整備することで、労務トラブルを未然に防げるでしょう。雇用契約書と就業規則は、労使関係の基盤となる重要な文書といえます。
雇用契約書には労働条件を、就業規則には職場のルールや懲戒処分の基準などを明確に定めておきます。
また、法改正や社会情勢の変化にあわせて定期的に見直すことも大切です。特に残業規定や休暇制度、ハラスメント対策などは慎重に検討し、適切な規定を設ける必要があります。
法律や就業規則を社内周知する
雇用契約書や就業規則の内容を従業員に正しく理解してもらうことも労務トラブルの防止には重要です。
新入社員研修や全体の集まりで説明する機会を設けたり、社内イントラネットで常時閲覧できるようにしたりするなど、さまざまな方法で周知をはかりましょう。
重要な変更がある場合は別途説明会を開催するなど、丁寧な周知を心がけます。また、従業員からの質問や相談に対応できる窓口を設置し、理解を深める機会を提供する必要もあります。
労働災害の防止を徹底する
労働災害の防止を徹底することも労務トラブル対策の一つです。職場の安全点検を定期的に実施し、危険箇所や不安全な作業手順を改善します。
また、従業員への安全教育を徹底し、正しい作業方法や緊急時の対応について理解を深めてもらうとよいでしょう。長時間労働やメンタルヘルス不調の予防にも注力し、社員の心身の健康管理に努めることも重要です。
証拠の改ざんや隠ぺいをしない
労務トラブル発生時、証拠の改ざんや隠ぺいは絶対に避けなければいけません。隠ぺい行為には法的問題があり、発覚時に企業の信頼を大きく損ないます。
問題が発生したときは、関係者から公平に事情を聴取して事実関係を正確に記録し、客観的事実に基づいて対応する必要があります。また、日頃から労働時間など企業の安全管理にかかわる事項は、正確な記録をつけ、適切に保管しておきましょう。
社内に相談窓口を設置する
労務トラブルの早期発見と適切な対処のため、従業員が気軽に相談できる窓口を、社内に設置することも大切です。
労働条件や職場環境、ハラスメントなど、労務関連の相談に幅広く対応できるようにしておきます。同時に、労働法や社内規則に精通し、公平な立場で対応できる担当者を選ぶ必要もあります。相談者のプライバシーを厳守し、不利益防止にも配慮しなければなりません。
相談窓口の存在や利用方法は、定期的に周知し、企業として従業員が安心して相談できる雰囲気づくりに努めましょう。
労務トラブルは社労士と弁護士のどちらに相談する?
労務トラブルが実際に起こってしまった場合、社労士と弁護士のどちらに相談すればいいか迷ってしまう担当者もいるのではないでしょうか。
社労士と弁護士は、労務管理において異なる役割を果たし、専門領域に違いがあります。そのため、労務トラブル・問題の性質や段階によって、相談相手は変わってきます。
それぞれの主な業務内容は、以下の通りです。
社会保険労務士(社労士) | 弁護士 |
---|---|
・社会保険関連の書類作成・申請 ・人事・労務に関する相談 ・労務トラブルの予防策立案 ・給与計算の代行・相談 | ・法律相談 ・訴訟対応・裁判所での手続き ・契約書類の作成・チェック ・法的トラブルの予防対策 |
社労士は主に日常的な労務管理や社会保険に関する業務を担当し、企業の労務実務をサポートします。一方、弁護士は法的な観点から労働問題に対処し、紛争解決や訴訟対応を得意とします。
日常的な労務管理や社会保険の問題は社労士に、法的な紛争や訴訟の可能性がある場合は弁護士に相談することを検討するとよいでしょう。
実際に起きた労務トラブルの性質により、両者の専門性を組み合わせて対応する必要もあります。
労務トラブルを防止にも労務管理システムが活用できる
労務管理システムは、労働時間の正確な記録や休暇管理により、労務トラブルの防止に一定の役割を果たします。ハラスメントや過重労働などの問題の早期発見につながるでしょう。
問題に発展し得る事態を早く見つけられると、早期対処ができ、裁判など最悪の事態を免れる可能性があります。
また労務管理システムは、就業規則など社内ルールの周知に利用できる場合があります。
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まとめ
企業では、採用・入社や労働時間・休暇、賃金、ハラスメント、労働災害、休職、解雇など、さまざまな種類の労務トラブルが起こることが想定されます。
労務トラブルが発生したら、まず関係者にヒアリングをして事実を確認し、就業規則や過去事例を確認、専門家への相談と段階的な対応が重要です。問題の性質により、社労士と弁護士に相談するとよいでしょう。
労務トラブルを未然に防ぐためには、雇用契約書や就業規則の整備、法律や規則の社内周知、労働災害の防止、証拠の適切な取り扱い、社内相談窓口の設置などが必要です。
労務管理システム・勤怠管理システムによる労働時時間の可視化、給与計算システムによるミスの軽減なども実施し、多方面からの対策で労務トラブルの未然防止につなげましょう。