普通解雇とは? 要件や手続き手順をわかりやすく解説
普通解雇とは、企業が問題のある従業員との雇用契約を解消するための解雇です。企業が普通解雇をするためには、要件を満たす必要があります。
本記事では、普通解雇について解説します。4つの要件や手続き手順、懲戒解雇や整理解雇との違いもご紹介しますので企業の経営層や人事担当者は参考にしてください。
普通解雇とは?
普通解雇とは、企業が従業員との雇用契約を解消することを意味します。従業員は企業と結ぶ雇用契約において、労務提供する義務が発生します。従業員の義務である労務提供をしないことは、解雇理由に該当し、普通解雇の対象です。普通解雇における解雇理由は、従業員の能力不足や心身の疾患、協調性の欠如などが挙げられます。
懲戒解雇や整理解雇との違い
普通解雇は、懲戒解雇と混同しやすい解雇ですが、懲戒解雇は従業員の問題行為に対する懲戒処分として制裁を与える性質があります。一方、普通解雇は、懲戒処分による解雇ではありません。
また、解雇の種類には整理解雇もあります。整理解雇は、経営悪化から人員削減のために行われる解雇です。整理解雇は、企業側の問題によって解雇せざるを得ない状況で行われるため、従業員の問題ではありません。
法的根拠
普通解雇の法的根拠は、民法や労働契約法にあります。民法では、期間の定めのない雇用契約において、雇用契約の解消ができるとしています。労働契約法では、正当な理由がない限り解雇できないという趣旨の定めがあり、逆をいえば、社会通念上相当と考えられる事情があれば解雇できると解釈できます。また、解雇する場合は、労働基準法によって30日以上前に解雇を対象従業員に予告しなければなりません。
参照:『民法 第627条』e-Gov法令検索
参照:『労働契約法 第16条』e-Gov法令検索
参照:『労働基準法 第20条』e-Gov法令検索
就業規則上の根拠
普通解雇は法律上の条件を満たせば認められますが、個別具体的な要件などは定められていません。そこで、企業は解雇に関する規定を就業規則に定める必要があります。企業が従業員を解雇する際は、就業規則の規定に照らし合わせて、相当性を判断することになるのです。
普通解雇の要件
普通解雇をするためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 正当な理由がある
- 解雇できない期間ではない
- 解雇予告をする(もしくは解雇予告手当を支払う)
- 従業員に通知する
それぞれの要件について、具体的な内容を解説します。
正当な理由がある
普通解雇をするためには、解雇に相当する正当な理由がなければなりません。正当な理由とは、以下のような点です。
- 著しい能力不足で、指導しても改善されない
- 業務命令違反があり、注意指導しても改善されない
- 繰り返す無断欠勤など勤怠の乱れがあり、注意しても改善しない
以上のように、単純な理由だけでなく、企業側が指導や対策を講じたにもかかわらず改善しないような状況であることが必要です。
解雇できない期間ではない
解雇は、いつでも認められているわけではありません。たとえば、業務上の疾病などによる療養期間や産前産後休業期間のその後30日間など、解雇できない期間があります。企業は、対象従業員が解雇できない期間にあるかどうかも確認しましょう。
解雇予告をする
普通解雇をする際は、従業員に30日以上前に解雇予告を行わなければなりません。そのため、原則として突然の解雇や解雇日から30日を切った状況で解雇を伝えることは認められないということです。しかし、解雇予告をしていない場合でも、解雇予告手当を支払えば、この限りではありません。
解雇予告手当とは
解雇予告手当とは、企業が30日以上前の予告(解雇予告)をせずに従業員を解雇する際に支払うべきお金を意味します。企業は、解雇を通知した日から解雇日までの長さに応じて、最大30日分の平均賃金を支払わなければなりません。
従業員に解雇を通知する
普通解雇は、対象従業員に確実に通知しなければなりません。そのためには、口頭で伝えるのはもちろん、解雇予告通知書や解雇通知書等の書面を交付しましょう。解雇は、従業員とのトラブルにもつながりかねません。万が一トラブルに発展した場合は、解雇理由だけでなく、企業側が適切な手順を踏んで解雇を行ったかどうかも重要です。書面で解雇を伝えることで、確実に解雇を伝えたという証拠にもなります。
普通解雇の具体的な手順
普通解雇をする際は、適切な手順に沿って行われたかどうかも重要です。そこで、一般的な解雇の手順をご紹介します。
1.普通解雇をする正当な理由があるか判断する
普通解雇を決定する前に、企業の就業規則に基づいて、解雇に正当な理由があるかどうかを検討します。就業規則に解雇事由として規定されていない理由をもとに解雇すると、不当解雇につながる可能性もあるため注意しなければなりません。また、従業員に対して十分な改善対策を講じたかどうかも確認しましょう。
解雇理由に正当性があると判断したら、書面などに整理しておきます。対象従業員から聞かれた際などにわかりやすく伝えましょう。
2.普通解雇をいつするか検討する
普通解雇をする際、あらかじめ30日以上前に予告するか、解雇予告手当を支払って即時解雇するのかを検討します。従業員の問題や状況によって判断は異なりますが、即時解雇はコストがかかります。
3.解雇予告通知書を作成する
解雇が決定したら、まずは解雇予告通知書もしくは解雇通知書の書類を作成します。書類には、主に以下の点を記載しましょう。
- 解雇予告日(書面を交付する日付)
- 解雇日
- 解雇事由
- 解雇の根拠
企業は、解雇について口頭で伝えるだけでなく、解雇予告通知書を交付することで、解雇予告に関する証拠にできます。また、解雇の判断根拠についても明記しておきます。
4.解雇を伝える
解雇の準備が整ったら、企業が対象従業員に伝えます。解雇は、口頭で伝えた上で解雇予告通知書などの書面を渡しましょう。書面を確実に渡すために、手渡しでするのがおすすめです。また、対象従業員が書類を受け取ったことを証明する受領印やサインも貰っておきましょう。
5.解雇後の退職手続きをする
解雇にともない、企業側は必要な退職手続きを行います。離職票や源泉徴収票の交付、社会保険の資格喪失手続きなどの労務手続きが必要です。また、解雇予告を行わずに即時解雇をした場合は、解雇予告手当の支払いも滞りなく済ませましょう。
普通解雇のリスク
普通解雇は、企業側にリスクも伴います。具体的にはどのようなリスクがあるのかをご紹介します。
不当解雇とされる場合もある
普通解雇は、簡単に認められるわけではありません。従業員の問題行動が企業に重大な影響を及ぼすかや改善するための措置を講じているかなどが重視されます。そのため、解雇理由があったとしても、不当解雇として扱われることもあるのです。
そのため、企業が普通解雇を検討する際は、不当解雇に該当しないかどうかも含めて慎重に判断しなければなりません。
裁判に発展することもある
普通解雇をめぐって、対象従業員とのトラブルから裁判に発展する可能性もあります。裁判に発展した場合、時間やお金のコストがかかるだけでなく、担当者の労力にも負担がかかります。そのため、企業が普通解雇を決定する前に、社内で解雇理由の正当性や企業の改善対策などをあらためて確認し、判断しましょう。
まとめ
普通解雇とは、企業が従業員との雇用契約を解消することを意味します。従業員の問題行動によって企業に重大な影響を与える恐れがある場合などに行います。しかし、企業の解雇が社会通念上相当すると認められるかどうかは、解雇理由とともに、改善するための措置を講じたかも重要です。企業は、問題行動を繰り返す従業員に対して、すぐに解雇を決定するのではなく、注意指導や対策を行ったうえで、慎重に検討しましょう。