戒告処分とは? 内容や位置付け、進め方も解説
戒告処分とは、企業が実施する懲戒処分の一つです。具体的には内容や実施方法はどのように決定されるのでしょうか。
本記事では、戒告処分について、具体的な内容や懲戒処分における位置付け、処分の進め方を解説します。企業の経営層や人事担当者はぜひ参考にしてください。
戒告とは?
戒告とは、企業が従業員に下す懲戒処分の種類の一つです。従業員の将来を戒めるために注意するという意味合いを持ちます。戒告は、法律で定義されているわけではないため、企業ごとに定義やルールを設け、就業規則に規定されます。
訓告や訓戒、譴責(けんせき)との違い
戒告と混同しやすい言葉に「訓告」と「訓戒」「譴責(けんせき)」があります。
それぞれの言葉の意味合いや戒告との違いをご紹介します。
言葉 | 意味 | 戒告との違い |
---|---|---|
訓告 | ・将来を戒めるための注意処分 ・法律で定められていない (公務員の場合、戒告は法律に規定) | 戒告より軽い処分 |
訓戒 | ・将来を戒めるための注意処分 ・物事の善悪を教え戒めるための注意(注意の程度は軽い) | 戒告より軽い処分 |
譴責(けんせき) | ・将来を戒めるための注意処分 ・従業員自らに謝罪や誓約させる | 始末書や顛末書の提出が必要 |
厳重注意 口頭注意 | ・将来を戒めるための注意処分 | 戒告より軽い処分 |
このように、戒告と意味合い自体に大きな差はありませんが、処分の重さや注意の程度が異なることが一般的です。これらの違いを正しく理解するためにも、就業規則などに明記するのがおすすめです。また、それぞれの処分における定義や扱いは、企業ごとに異なるという点も理解しておきましょう。
戒告における懲戒処分の中での位置づけ
戒告は、懲戒処分の一つです。懲戒処分における戒告の位置づけを解説します。
戒告は懲戒処分のなかでも軽い処分
戒告処分は、懲戒解雇や減給などの制裁を科すものではないため、懲戒処分のなかでは軽めの処分といえます。懲戒処分は、企業側が設定するルールに違反する従業員を罰するための処分です。懲戒処分には、以下のような種類とそれに応じて受けるべき罰則例があります。
懲戒処分の種類 | 罰則例 |
---|---|
懲戒解雇 | 解雇 |
諭旨解雇 | 自主退職を勧告 |
降格 | 役職の降格 |
出勤停止(公務員では停職) | 一定期間、欠勤扱い |
減給 | 給与の減額 |
譴責(けんせき) | 始末書の提出 |
戒告・訓告・訓戒 | 注意指導のみ |
このように、懲戒処分には複数種類があります。減給のような直接的な損害をともなわない戒告処分は、懲戒処分の中でも軽い処分といえます。ただし、企業の規定によっては戒告処分であっても始末書の提出を必要とする場合があります。
戒告は懲戒解雇の前段階としても活用される
戒告は、懲戒処分の中でも軽めの処分です。しかし、戒告は、より重い懲戒処分を下すための前段階として実施される処分という位置づけでもあります。
たとえば、企業が懲戒解雇をする場合、事前に注意勧告をしたり、従業員の是正を促したりしてきたかどうかが重要とされます。企業は対象従業員に対して、これまで注意してきたにもかかわらず、改善しなかった場合に、最終的な処分として懲戒解雇を実施しやすくなるのです。そのため、企業では、懲戒解雇などの重い処分を下す前段階として、戒告処分を活用することがあるのです。
戒告の根拠
戒告をするための根拠を、法律上と就業規則上のそれぞれに分けて解説します。
法律上の根拠
労働契約法では、直接的な戒告に関する規定はありませんが「懲戒」という言葉で表現されている条項があります。
(懲戒)
第十五条使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
(懲戒)
第十五条使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
この条項は、企業が懲戒処分を実施できると捉えられるような内容です。そのため、懲戒の種類である戒告も、法的根拠をもって実施できるといえます。
戒告の根拠となる最高裁の判決
また「国鉄札幌運転区事件」の裁判における最高裁の判決(最高裁昭和54年10月30日第三小法廷判決)も戒告の法的根拠といえます。この判決では「企業は就業規則の定めるところに従い、懲戒処分を行う権利を持つ」としています。
参照:『裁判例結果詳細』裁判所
就業規則上の根拠
戒告について、企業は就業規則に規定することで、それに従い、戒告処分を実施できます。企業側は、あらかじめ就業規則に「戒告」のルールなどを規定しておくことで、従業員があらかじめどのような行為をすると戒告処分を下されるかを予測できるようにする必要があります。
具体的な規定は以下のような例が挙げられます。
- 正当な理由なく、遅刻や欠勤、早退などを繰り返し、業務に支障を与える
- 必要な手続きや届出を怠った
- 書類等の改ざんをした
- 組織に虚偽の申告をした
- 素行不良が認められる
- 社会通念上、認められない行為をした
- 職場の風紀や秩序を乱した
- 業務上の指揮命令に従わない
- 企業の方針に背反するような行為をした
- 企業の許可なく帳簿や書類を外部の者に閲覧させるような行為をした
このように、就業規則において戒告に該当するような例を明記しておくことで、従業員が日頃から注意できるようになります。
戒告を行うケース
戒告を問題なく行うためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 就業規則に戒告処分が規定されている
- 就業規則において懲戒事由に該当する
- 懲戒権の濫用に該当しない
これらの条件を満たしていることを前提として、戒告を行う具体的なケースをご紹介します。
企業のルールに違反する
戒告をする例として、企業が就業規則などで設定したルールに違反する行為が挙げられます。
- 企業の機密情報の漏えい
- 企業が所有するデータやシステム書類などを無断で改ざん
- 企業の所有物を無断で私的に利用
特に企業や組織運営に支障をきたすような場合などは、戒告処分になることがあります。
勤怠や勤務態度に問題がある
戒告をする例には、勤怠に問題がある場合も挙げられます。
- 度重なる無断欠勤
- 遅刻や早退、欠勤などが複数回続く
- 勤怠について注意を受けても改善しない
勤怠の乱れも戒告を受ける可能性があります。勤怠に問題があると、業務上の支障が生じるだけでなく、職場の秩序が乱れる恐れもあるためです。
社内外における不適切な行為
社内外における問題行為は、戒告だけでなくさらに重い処分の対象になる可能性があります。
- 各種ハラスメント
- 業務時間中に仕事と関係のない行動
- SNS等で企業の悪口を書いたり情報を漏洩させたりする行為
不適切な行為には、社外にいるときや業務時間外に行った行為も該当することがあります。企業運営に支障が生じる可能性があるような不適切な行為は、社内外にかかわらず戒告の対象です。
戒告が違法となるケース
戒告などの懲戒処分は、労働契約法において「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上認められない場合は無効」とされています。しかし、懲戒処分はさまざまなケースによる判断が必要であるため、具体的に無効となる条件については言及されていません。
具体的には、以下のような点で有効か無効かを判断されることになるのが一般的です。
- 就業規則における規定の有無やその合理性が認められるかどうか
- 企業や組織において秩序違反行為に該当するかどうか
- 就業規則に規定した懲戒事由に該当する(懲戒処分の内容が相当)かどうか
- 社会通念上、懲戒権の行使が認められるかどうか
戒告をする際も、上記のような観点から判断されることになります。戒告は、相当する理由がある限り、違法とされたり争われたりすること自体は多くありません。これは、従業員が戒告処分を受けたとしても、対象従業員の地位が侵されたり、著しい不利益などを被られたりするようなことは起こりにくいためです。
戒告処分の流れ
企業が従業員に戒告処分をする際の流れを紹介します。
1.戒告処分を下す前に注意指導
従業員に問題行動が見受けられるときは、すぐに戒告処分をするのではなく、まずは注意指導をしましょう。注意指導には、いくつかの手段があります。まずは、口頭やメールなどの手段を使い、改善すべき点を伝えましょう。それでも改善されない場合は、文書を用いて注意指導を行います。文書などを用いて注意する場合は、就業規則による根拠も記載しておくことが大切です。
2.戒告処分をする準備
戒告処分をするための準備をします。具体的には、証拠の確保や面談の実施です。
証拠の確保
戒告処分に相当することを示す証拠を集めます。本人や周囲へのヒアリングを実施し、メールのやり取りなど物理的な証拠となるものを確保します。たとえば、度重なる遅刻や無断欠勤であれば、勤怠データなどが証拠として扱えます。
面談実施
戒告処分をする際は、事前に面談をし、改めて注意指導をします。これまでの注意指導によっても改善しない点をふまえて、従業員に改めて伝えます。面談の際は、処分に至った重みを従業員に感じてもらうためにも、戒告処分の通知書などを提示しましょう。また、従業員側に事情がある可能性もふまえ、弁明の機会も設けます。従業員に弁明がある場合、再度戒告処分の相当性を検討します。
3.戒告処分の決定と通知
戒告処分が正式に決定したら、従業員に通知します。戒告処分を通知する際は、処分に至った理由も明確にして伝えましょう。戒告処分によって始末書の提出を求めるかや社内公表を行うかどうかは、企業によって異なります。企業は、就業規則の根拠に従って、対応しましょう。
戒告をした場合に従業員が受ける影響
戒告処分を下された従業員が受ける影響について解説します。具体的に受ける影響は、状況によって異なりますが、一般的には賞与や昇給、退職金への影響が考えられます。
賞与への影響
戒告処分を受けると、賞与査定に悪い影響を及ぼします。企業側は「対象の従業員は企業や組織に迷惑をかけた=貢献度が低い」と判断するためです。そのため、従業員が戒告処分を受けた場合は、賞与額が少なくなる可能性があります。
昇格や昇給への影響
戒告処分を受けると、昇格や昇給が遅れやすくなります。企業や組織に悪影響を与えるような行為があった従業員を昇格や昇進させるのは不自然で、他従業員の不満にもつながります。戒告処分を受けた従業員は、昇格や昇進のスピードに遅れる可能性があると理解しましょう。
退職金への影響
戒告処分を受けると、退職金に悪影響が生じることもあります。戒告処分を受けたことで退職金が減額されるケースは多くありません。しかし、退職金は、従業員在籍中の給与や役職に基づいて支給額が決定されると規定する企業が多いためです。このように、戒告処分を受けたことによって直接的な影響はなくても、昇格や昇給が遅れることにより、間接的な影響を受けます。
公務員の戒告処分
戒告処分は、国家公務員や地方公務員の懲戒処分の一つとして法律で定められています。
たとえば国家公務員法では、法律違反や命令に背くような行為をしたり職務を怠ったりした場合、国家公務員としてふさわしくない非行があったときは、戒告処分を受けることがあります。また、人事院では、国家公務員における懲戒処分の内容についても基準を示しています。
参照:『国家公務員法第82条』e-Gov法令検索
参照:『懲戒処分の指針』人事院
参照:『地方公務員法』e-Gov法令検索
まとめ
戒告とは、企業における懲戒処分の種類の一つです。懲戒処分の中では軽い処分に位置付けられます。しかし、戒告は、懲戒処分の中でもっとも重い懲戒解雇をする前段階としても捉えられることがあります。
企業が戒告を含めた懲戒処分をする場合は、あらかじめ就業規則などに規定を設け、従業員とのトラブルに発展しないよう注意しましょう。