人事システムを複数使う課題とは? つなぐ方法や見直しの基準を解説

人事システムの種類は多岐にわたり、それぞれの領域で最適なツールを選んだ結果、気づけば社内に多くのシステムが併存しているという企業は少なくありません。
一見すると、機能ごとに最適なツールを使い分けられているように思えますが、実はその裏で複数の課題が積み重なっていることもあります。
本記事では、複数の人事システム利用が招く課題から、人事データを1つのデータベース(OneDB)に統合し一元管理するメリット、統合の方法まで解説していきます。
目次
人事システムを複数使う企業はめずらしくない
企業内に複数の人事システムが存在している状況は、決してめずらしくありません。
労務管理・勤怠管理・給与計算・人事評価など機能ごとに最適なシステムを導入してきた結果、いつの間にか5つ、10個とツールが乱立している企業は数多くあります。
人事システムが複数になる理由
人事システムが複数になるのは、前述のとおり、多岐にわたる人事業務に対して個別最適なツールを導入したからです。
ほかにも、次のような理由が考えられます。
- 担当部署ごとに必要機能が異なる
- 自社開発などの既存システムはどうしても変えられない
- グループ会社や拠点ごとに運用が異なる
切り替えにはコストやリスクが伴うため、慎重にならざるを得ない事情があるのでしょう。
複数利用そのものが問題ではない
複数の人事システムの利用は、決して悪いことではありません。複数のシステムを使いこなし、問題なく運用できている企業もあります。
重要なのは、複数の人事システムを利用していても、データが正しく整理され、滞りなく運用できているかという点です。
問題になるのは「人事情報の正解」が分からない状態
本当に問題なのは、人事システムが複数あることではなく、正しい人事情報がどこにあるのかわからなくなってしまう状態です。
具体的には、次のような状態に心当たりはないでしょうか。
- 最新の社員情報がどのシステムにあるか分からない
- 人事システムごとに部署名や役職名が違う
- 更新タイミングがずれている
- 人事担当者がExcelで補完している
こうした歪みを補完するために、結局は手作業が残り、新たに非効率な作業が発生しているケースがあります。
人事システムを複数使うメリット
人事システムを複数使うことには、企業ごとにそれぞれ目的があります。
業務領域ごとに適したシステムを選べるため、現場の使いやすさや既存業務との相性を重視しやすいのは利点です。
人事システムを複数使う主なメリットを解説します。
業務ごとに適したシステムを選べる
繰り返しになりますが、人事システムの複数利用は個別最適という点でメリットがあります。
業務ごとに重視するポイントが異なる場合、1つのシステムに任せるよりも、それぞれの領域に強い人事システムを選んだほうが、現場の業務に合いやすいためです。
たとえば、勤怠管理は自社の働き方への対応が重視され、給与計算は手当の反映、評価管理では評価シートの再現性が重要になるケースが多いようです。
既存システムを活かせる
人事システムを複数使う場合、すでに社内で使っているシステムを残したまま、新しいシステムを追加できます。
既存システムをすべて入れ替えるよりも、必要な領域から段階的に導入するほうが、社内の負担を抑えられ、結果として複数利用になるのです。
給与計算や勤怠管理のように、1つの変更が従業員の生活に直結する場合、変更によるリスクをとるよりも現状維持を選ぶ企業も少なくありません。
複数システムの併用は、既存運用を維持しながら、一部の業務から改善を進められる方法ともいえます。
部門ごとの運用に合わせやすい
部署や拠点、グループ会社ごとに運用が異なる場合、1つのシステムに合わせようとすると、かえって現場に合わなくなり、人事システムの複数利用はメリットとなります。
それぞれの業務や拠点の事情に合わせた運用を維持しやすくなるためです。
しかし、管理するシステムが増えるほど、人事情報の更新や確認に手間がかかります。メリットを活かすには、どのシステムで何の情報を管理するのかを整理しておくことが重要です。

人事システムを複数使うことで起こりやすい課題
複数の人事システムを併用することは、最初はよくても時間が経つと、見逃せない課題が次々と出てくる場合があります。
1.コストを見直す必要がある
複数システムを導入すると、運用コストは加算式に膨らんでいきます。個々のシステムは「安い」と思って選んでいても、全社で見たときに本当にコストが最適化されているかは検証できていないケースが少なくなく、見直しが必要な場合があります。
2.同じような情報を何度も入力している場合がある
複数の人事システムからデータを抽出し、別のシステムに入力し直すといった、二重管理が発生するのは大きなデメリットであり、課題です。一部、名寄せ作業も必要です。
異動があるたびに、情報の更新が必要になり、手間がかかっているという話も耳にします。
3.CSV連携や手作業が残る
複数の人事システム間の連携が完全でない場合、手作業による修正やCSVへの取り込みが発生します。その過程で入力ミスや古いデータが残される危険も否定できません。
4.人事データを正しく扱えない
部署名や役職名が人事システムごとに異なり、「正しい人員情報が出せない」というデメリットもあります。
会議や経営層向けに資料を準備する、人的資本の可視化に必要なデータ抽出・分析に時間がかかる、さらにレポートをまとめるのに数日かかる、といった状況が生まれます。
5.セキュリティ・権限管理が複雑になる
複数システムの利用により、システムごとにID・パスワード管理が分散すれば、次のような事態が発生します。
- 退職者のアカウントが残ったまま放置される
- 異動後の前の部署の情報が閲覧できてしまう
- 管理者権限を持つ人が多すぎて誰が何を変更したか追跡できない
万が一情報漏えいが起きると、どこまで漏れたのかを特定するのにも時間を要します。かかわるベンダーが増えるほど、セキュリティ脅威も増えるという点は認識しておく必要があります。
人事システムの複数利用の弊害は、単なる「不便さ」ではなく、企業の経営リスク、コンプライアンスリスク、そして戦略的な意思決定の遅れにつながる課題といえます。
人事システムの複数利用を考え直す一元化のメリット
人事データが1つのデータベース(OneDB)に統合され、本当の意味で「一元管理」が実現すると、企業経営にとってもメリットが生まれます。それは単なる事務作業の効率化にとどまりません。
経営判断のスピードと精度の向上
複数の人事システムに散在したデータを集計し、加工し、分析するのに数日かかっていた作業が短縮され、業務効率化が実現します。
人員配置の可視化や部門別パフォーマンス分析なども、リアルタイムかつ正確に把握可能です。経営会議に必要な情報が、いつでも手元にある状態になります。
結果として、市場の変化にもより迅速に、正確な情報に基づいた経営判断ができます。
リスクの早期発見
人事システムが複数に分かれていては見えなかった組織の課題も、データが一元化されると、いち早く察知できるようになります。
- 離職の予兆を示す従業員の勤務パターン変化
- 部門ごとの生産性の低下傾向
- スキルの偏在による組織の弱点
これらが数値で可視化され、経営層は問題が深刻化する前に先手を打つことが可能です。
部門横断で戦略的な人材活用
複数の人事システムに分散していると、他部署の優秀な人材が見えないことがあります。
データが一元化されると、全社から必要なスキルセットを持つ人材を検索し、戦略的な適材適所の配置が容易になります。
異動や採用の意思決定が、勘や経験ではなく、正確なデータに基づいて行われるようになります。
データドリブンな経営への転換
企業の最大の経営資源は「人」です。人にかかわるあらゆるデータが正確に蓄積・分析されることで、次のような指標を明確にできます。
- 研修投資のROI
- 採用コストの効率性、削減効果
- 組織構造の最適化
あいまいな経営判断が、定量的に実行されるようになるのはメリットです。人事データの一元化は、戦略的な人事経営を実現するために欠かせない対応といえます。
複数の人事システムをつなぐ2つの方法
複数のシステムを統合する方法として、「API連携型」と「同一データベース型(OneDB型)」の2つが存在します。
表では「一元管理」とうたいながら、両者には違いがあり、運用上の負担も異なります。
API連携の特徴
API連携型は、既存のシステムを残したまま、システム間でデータを受け渡す方法です。既存の運用を活かしながら連携できるため、すべてのシステムを入れ替えずに済む点はメリットです。
一方で、製品によって連携できる項目や反映のタイミングは異なります。連携エラーが発生した場合には、原因の確認や再処理が必要になることもあります。
API連携の課題
| APIの課題 |
|---|
| 連携エラー仕様変更への対応データの不整合運用負荷の増加 |
API連携の課題の1つは、データメンテナンスが複雑になりやすい点です。システムAの項目を変更した場合、連携設定や接続先のシステムBの項目も見直しが必要な場合があります。
また、連携の頻度によっては、システム間でデータが反映されるまでに時間差が生じます。必要な情報がすぐに更新されず、確認や対応が遅れる可能性もあります。
さらに、システムごとに部署名や役職名、雇用区分などの定義が異なる場合、APIで接続してもデータをそのまま利用できないことがあります。その結果、Excelなどを使った名寄せや修正作業が残るケースもあります。
同一データベース型(OneDB型)の特徴
同一データベース型(OneDB型)は、複数のシステムを1つの統合データベース上で運用する方式です。
同一データベース上の各機能が共通の人事マスタを参照するため、1か所を変更すれば、各製品にも反映されます。
たとえば、部署異動があった社員の所属情報を変更すると、勤怠の承認者も自動で切り替わる仕様です。複数のシステムを個別に修正する必要がないのは、OneDB型のメリットです。
選定時のポイント
人事システムの複数利用を見直す場合、5年、10年という中長期的な運用コスト、セキュリティリスク、経営判断のスピード、そしてシステム担当者の心理的負担を総合的に判断したいところです。
もちろん、OneDB型への移行には一定の準備期間とコストがかかります。既存システムを使い続ける場合と比べて、初期の負担が大きいのは事実です。
しかし、その負担は移行時の一時的なものである一方、API連携型のメンテナンスの煩雑さは、システムを使い続ける限り、年々積み重なっていく性質のものです。連携するシステムが増えるほど、仕様変更のたびに複数箇所を見直す工数がかかり、担当者の負担も比例して増えていきます。
短期的な移行コストと、中長期的に積み上がる運用コストを比較したとき、同一データベース型(OneDB型)も一度検討してみる価値があるはずです。
人事システムの複数利用と統合型の比較
| 複数システム利用 | 統合型人事システム(OneDB型) | |
|---|---|---|
| 向いている企業 | 業務ごとに最適なシステムを使いたい企業 | 人事データをまとめて管理したい企業 |
| 導入しやすさ | 既存システムを活かしやすい | 移行準備が必要 |
| 業務ごとの使いやすさ | 領域ごとに合うシステムを選びやすい | 1つのシステム内で業務をまとめやすい |
| 二重入力 | 手入力やCSV連携が残りやすい | 入力・更新の重複を減らしやすい |
| データの整合性 | 連携範囲や更新ルールによってずれが生じやすい | 1つのデータベースで管理しやすい |
| 権限管理 | システムごとに管理が必要 | 権限をまとめて管理しやすい |
| データ活用 | データ抽出や加工に手間がかかりやすい | 人事データを集計・分析しやすい |
| 注意点 | システム間の連携、更新漏れ、名寄せ、属人化に注意が必要 | 既存システムからの移行や運用変更の負担に注意が必要 |
人事システム選定に必要な比較ポイント
人事システムの選定は、企業の経営に直接的に影響する重要な決定となる場合があります。カタログスペックだけでは見えてこない、重要な比較ポイントを紹介します。
業務理解に基づく要件定義の深さ
ベンダーが単なるIT企業ではなく、人事労務の実務に精通しているかが重要です。勤怠管理や給与計算は、企業ごとの複雑なルールが存在します。要件定義の段階で、現場の課題を整理し、「このシステムでどう対応するか」を一緒に考えてくれるパートナーかどうかが、導入後のギャップを防ぐポイントとなります。
標準機能の柔軟性と設定変更のしやすさ
「自社の特殊なルールに対応できない」という理由でシステム導入をあきらめる企業も、なかには存在します。重要なのは、そうした特殊ルールを「開発」なしで、ユーザー側の設定変更で対応できるかどうかです。標準機能が豊富で、かつカスタマイズの余地がある製品だと、長期的に対応しやすい場合があります。
既存データの移行と構築の代行範囲
複数システムから新システムへの移行は、想像以上に骨の折れる作業です。古いデータの名寄せ、重複排除、形式変換といった工数を、どこまで自社が対応する必要があるかは要確認事項となります。
トラブル時の即応性と改善提案
人事システムが1つもトラブルなく、運用されることはまずないはずです。不具合時のレスポンス速度と、法改正や制度変更時に「どう運用を工夫すべきか」を一緒に考えてくれる姿勢も重要です。経営方針の変化にも理解を示してくれるかがポイントとなる場合もあります。
以上のポイントは、製品の機能表以外の部分にあります。実際の導入事例や他社の活用状況を詳しく聞き、自社に最適なパートナーを見極めることが不可欠です。
複数の人事システムから統合へ移行する3ステップ
人事システムの複数利用を辞めて同一データベースへ移行するには、導入決定後の「移行プロセス」が定着を大きく左右します。現場の混乱や業務停止を防ぎ、スムーズに新環境へ移行するための3つのステップを紹介します。
現状の棚卸し
まず最初にやるのは、「今、会社内に何があるのか」を正確に把握することです。利用中のすべてのシステムをリストアップし、各システムが管理しているデータの内容、更新頻度、利用者数、依存関係を整理します。とくに各部署が独自に導入した小規模なツールやExcelベースの管理台帳も含めて、全体像を可視化することが重要です。この作業に時間をかけることで、あとの移行計画がスムーズになります。
優先順位の決定と段階的導入
すべての人事システムを一度に統合することは、リスクが高いです。課題が深刻な機能、あるいは依存度の低い機能から段階的に新システムへ移行することをおすすめします。導入スケジュールを明確すると同時に、新旧システムの並行運用期間を十分に確保することも大切です。
従業員への説明と運用ルール統一
従業員への説明も重要です。人事システムの複数利用を「なぜ変えるのか」「これによってあなたたちのどの業務が楽になるのか」という納得感を与えることが、現場の協力を引き出すには必要です。
あわせて、新システム導入に合わせた業務フローの再構築、申請ワークフローの統一、データ管理ルールの統一も進めます。
システム統合を「業務改革の機会」へと転換して捉える必要があります。
人事システムの複数利用を見直すときの判断基準
人事システムが複数あるからといって、すぐに統合すべきとは限りません。まずは現在の運用を整理し、どこまで既存システムのまま改善できるかを確認することが重要です。
見直しの際は、次の順番で整理するとよいでしょう。
- 現在使っている人事システムを一覧化する
- どのシステムに、どの人事情報があるか確認する
- 社員情報の基準となるシステムを決める
- 入社・異動・退職時の更新ルールを整理する
- CSV連携やAPI連携で解決できる範囲を確認する
- 統合型人事システムが必要か判断する
複数システムのままでも、社員マスタや更新ルールが整理されていれば、一定範囲の改善は可能です。一方で、二重入力や更新漏れ、データの不整合が続く場合は、統合型人事システムの検討がおすすめされる場合もあります。
自社に合う方法を判断する観点
複数システムのまま運用を続けるか、統合型人事システムへ見直すかは、自社の状況によって異なります。判断する際は、次の観点を確認しましょう。
- 従業員数が多く、社員情報の更新頻度が高いか
- 利用している人事システムの数が多いか
- 入社・異動・退職が頻繁に発生しているか
- 給与計算や勤怠締めの確認作業が複雑か
- 情シスの支援を受けられる体制があるか
- 将来的に人事データを分析・活用したいか
- グループ会社や複数拠点の管理が必要か
- 既存システムの契約更新時期が近いか
当てはまる項目が多い場合、複数システムの運用負荷が高くなっている可能性があります。今一度、データの一元管理やシステム統合も含めて見直すとよいでしょう。
複数利用のまま改善する方法
人事システムをすぐに統合できない場合でも、運用の見直しは可能です。まず、どのシステムを社員情報の基準とするのかを決め、入社・異動・退職時の更新ルールを整理します。あわせて、各システムで管理している項目や連携方法、更新担当者を棚卸しすることが必要です。
まとめ:人事システムが複数利用は、データ管理の見直しを
人事システムを複数使うこと自体は、めずらしくありません。問題となるのは、社員情報の正解が分からず、現場で負担が増えている状態です。
まずは、利用中のシステムや社員マスタ、更新ルール、連携方法を整理しましょう。既存システムの連携で改善できる場合もあれば、統合型の人事システム(OneDB型)への移行が必要な場合もあります。
人事データを本当の意味で一元管理できれば、人事部門は事務作業の負担を減らし、人材配置や採用計画、組織課題の分析といった戦略的な業務に時間を使いやすくなります。
情報セキュリティや人事データ活用、経営判断への影響も含めて、自社に合う方法を検討することが重要です。
