雇用保険被保険者資格取得届の賃金月額の書き方・計算方法を解説
一定条件を満たす従業員を新たに雇用する場合、企業は雇用保険の手続きを行う必要があります。その際に提出するのが、雇用保険被保険者資格取得届です。雇用保険被保険者資格取得届にはさまざまな項目がありますが、なかでも「賃金欄」の書き方がわからず、困ってしまう人も多いでしょう。
そこで本記事では、賃金欄の書き方や注意点を詳しく解説します。雇用保険料の計算方法についても触れているので、ぜひ参考にしてください。
雇用保険とは
賃金欄の書き方を解説する前に、まずは雇用保険の制度概要をご紹介します。
雇用保険とは、労働者の生活や雇用の安定のために給付金を支給する制度です。失業や休業による収入減などのさまざまなリスクに備えるとともに、働く意欲のある人の就労や労働者のスキルアップの促進を目的としています。
雇用保険の給付の種類
雇用保険の給付金は、主に求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4種類に分けられます。
給付の種類 | 給付内容 |
---|---|
求職者給付 | ・求職中の生活を支援し、再就職を促すもの ・いわゆる失業手当 |
就職促進給付 | ・離職後、再就職の際に給付・早期再就職を促すもの |
教育訓練給付 | ・従業員の能力開発を目的に、受講料や入学料の一部を支給 |
雇用継続給付 | ・育児・介護で休業する従業員や高年齢者を支援するもの |
雇用保険の加入条件
企業は、以下の条件を満たす従業員を雇用する際、雇用保険に加入させる義務があります。
- 31日間以上働く見込みがある
- 所定労働時間が1週間に20時間以上である
- 学生ではない(例外あり)
学生は原則的に適用範囲外ですが、休学中や夜間・定時制の学校に通う学生、卒業後も引き続き働く予定のある学生など、一定の条件を満たせば例外的に雇用保険に加入することが可能です。
なお、日雇い労働者や季節的労働者の場合は、それぞれ別途以下の条件を満たす必要があります。
季節的労働者の加入条件 |
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「当初から4か月を超える雇用契約を結んでいる」または「4か月の雇用期間を超えて引き続き雇用されている」 |
日雇い労働者の加入条件 |
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日雇労働によって生計を立てており、以下の条件に当てはまる ・日々雇用されている ・30日以内の期間を定められている |
雇用保険被保険者資格取得届とは
雇用保険被保険者資格取得届とは、雇用保険の加入条件を満たした従業員を雇い入れる際に作成・提出する書類です。
雇用保険は条件を満たすと自動的に適用されるわけではなく、企業が従業員一人ひとりについて手続きを行う必要があります。
提出期限は、資格取得日(従業員を雇用した日)が属する月の翌月10日までです。必要事項を記入し、事業所管轄のハローワークに提出しましょう。ハローワークの窓口に持参する方法や郵送のほか、オンライン申請にも対応しています。
雇用保険被保険者資格取得届の賃金欄の書き方
雇用保険被保険者資格取得届には、被保険者(従業員)の氏名やマイナンバー、事業所番号、雇用形態などさまざまな項目があります。
そこで、記入項目の一つである「賃金」の書き方について解説します。
支払いの態様
賃金支払いの態様とは、簡単にいうと給与形態を表すものです。たとえば、月々決まった額の賃金を支払っているなら「月給制」、時給×労働時間で賃金を計算しているなら「時間給」を選択します。
フォーマットでは「1.月給」「2.週給」「3.日給」「4.時間給」「5.その他」とそれぞれ番号が振り分けられているため、該当する番号を記入しましょう。
賃金月額
賃金欄には、賃金月額、つまり1か月あたりの賃金を記入する必要があります。月に一度のペースで賃金を支払っている場合はもちろん、週給制や日給制であっても、月額に換算した金額を記入しなければなりません。
なお、賃金月額は1,000円単位で記入するのがルールです。たとえば、賃金月額が25万8,000円の場合は、十万の位に2、万の位に5、千の位に8と記入します。
「−(ハイフン)」の左側には上記の支払いの態様を記入するため、間違えないように注意しましょう。
雇用保険被保険者資格取得届の賃金月額の計算例
賃金月額の具体的な計算例を賃金形態別にご紹介します。日給や時給を賃金月額に換算する考え方も参考にしてください。
月給で賃金月額を計算するケース
賃金月額には、基本給だけでなく各種手当を含みます。
たとえば基本給を20万円、通勤手当を3,000円(1か月)、住宅手当を2万円とすると、賃金月額は単純に足し算をして賃金月額は22万3,000円です。
月給制の賃金月額の計算例 |
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基本給+各種手当 =200,000+3,000+20,000 =223,000(円) |
賃金支払いの態様は「1.月給」なので、左側に1、右側には千の位から上の金額を記入して「1-223」とします。
日給で賃金月額を計算するケース
日給制の賃金月額は「日給×所定労働日数+各種手当」の式で計算します。
たとえば日給が9,000円、所定労働日数が22日、通勤手当が1万円(1か月)、住宅手当が1万円の場合、賃金月額は以下の通りです。
日給制の賃金月額の計算例 |
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日給×所定労働日数+各種手当 =9,000×22+10,000+10,000 =218,000(円) |
支払い態様は「3.日給」なので「3−218」と記入します。
時給の賃金月額を計算するケース
時給制の賃金月額は「時給×1か月の労働時間+各種手当」の式で計算します。
たとえば時給が1,100円、1か月の労働時間が120時間、通勤手当5,000円(1か月)の場合、賃金月額は以下の通りです。
時給制の賃金月額の計算例 |
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時給×1か月の労働時間+各種手当 =1,100×120+5,000 =137,000(円) |
支払い態様は「4.時給」なので「4−137」と記入します。
雇用保険被保険者資格取得届の賃金月額を計算する際の注意点
賃金月額を計算する際は、以下の2つのポイントに注意しましょう。
- 賃金月額は採用時の固定給部分を対象に計算する
- まとめて支払われる手当は1か月分に計算し直す
それぞれのポイントについて詳しく解説していきます。
賃金月額は採用時の固定給部分を対象に計算する
賃金月額の対象は、採用時に固定給として指定されていた部分です。たとえば通勤手当や住宅手当、家族手当など、金額が固定されている手当は原則的に含まれます。
一方、残業手当や宿直手当、賞与など、金額が変動する可能性が高いものは賃金月額に含まれません。つまり、手当の金額を含むかどうかは「金額が変動せず、毎月一定額が支払われるかどうか」で判断できると考えてよいでしょう。
たとえば、基本給に毎月プラスされて支払われる資格手当は賃金月額に含まれますが、合格報奨金のように一時的に支払われるものは賃金月額に含まれません。
まとめて支払われる手当は1か月分に計算し直す
手当がまとめて支払われている場合などは、1か月分に計算し直す必要があります。
たとえば、通勤手当が半年分まとめて48,000円支給された場合は「48,000円÷6か月」で1か月分の8,000円を賃金月額に含めて計算しましょう。
雇用保険被保険者資格取得届の記入をスムーズにするためのポイント
雇用保険被保険者資格取得届には提出期限があり、大幅に遅れると遅延理由書を作成しなければならないなど手続きが複雑化してしまいます。
そこで、書類をスムーズに作成するために、以下のポイントをおさえておきましょう。
- 従業員の情報は事前に収集しておく
- 間違ったときに訂正できるよう最初は鉛筆で記入する
従業員の情報は事前に収集しておく
雇用保険被保険者資格取得届には、以下のようにさまざまな情報を記入する必要があります。
- 被保険者の情報(氏名・性別・生年月日・マイナンバー・被保険者番号)
- 取得区分
- 事業所番号
- 被保険者となったことの原因
- 賃金
- 資格取得年月日
- 雇用形態
- 就職経路
- 所定労働時間
- 契約期間の定め
従業員に提出を求めなければならない情報も多いため、期限直前に取り掛かろうとすると困ってしまうこともあるでしょう。提出期限を守るためにも、あらかじめ情報を収集しておくとスムーズです。
間違ったときに訂正できるよう最初は鉛筆で記入する
書類を手書きで作成する場合は、まず鉛筆で下書きをしてから清書するのがおすすめです。記入内容に誤りがあった場合、はじめからボールペンで記入すると訂正が難しい場合もあるでしょう。
鉛筆で記入してから全体をチェックし、ボールペンで清書するという流れにすれば、記入ミスが見つかってもスムーズに訂正できます。
なお、書類の提出後に記入ミスが見つかった場合は、別途訂正手続きが必要です。あらためて書類を作成したり、証明書類を添付する必要があったりと手間がかかるため、記入ミスには十分注意しましょう。
雇用保険被保険者資格取得届で気をつけたいこと
雇用保険被保険者資格取得届を作成・提出する際は、以下の点にも気をつけましょう。
提出期限に遅れないようにする
雇用保険被保険者資格取得届には提出期限があり、資格取得日の属する月の翌月10日までに管轄のハローワークに提出する必要があります。期限を過ぎてもただちに罰則が科せられるわけではありませんが、スムーズに手続きを進められるよう備えておきましょう。
また、雇用保険被保険者資格取得届以外にも、新しい従業員を採用する際には作成すべき書類が数多くあります。それぞれの手続きに必要な書類や期限を把握し、余裕をもって準備を進めましょう。
従業員の個人情報を多く取り扱う
雇用保険被保険者資格取得届には、氏名やマイナンバーなど従業員の個人情報が多分に含まれます。
情報漏えいを防ぐためにも、個人情報の取り扱いには十分注意しましょう。たとえば、ハローワークに郵送で提出する場合は一般郵便ではなく、簡易書留や特定記録郵便が適しています。
雇用保険料の計算方法もあわせて把握しておく
最後に、雇用保険料の計算方法についても解説します。健康保険料や厚生年金保険料とは少し計算方法が異なるので、事前に把握しておきましょう。
雇用保険料率とは?
雇用保険料を計算する際は雇用、保険料率という割合を用います。健康保険料や厚生年金保険料の負担割合が「事業主:従業員=1:1」なのに対して、雇用保険料率は労使で均等な折半ではありません。
また、雇用保険料率は事業の種類によって異なり、毎年見直しが行われています。
たとえば、一般の事業に属する企業の場合、2024年4月1日から2025年3月31日までの雇用保険料率は企業負担が0.95%、従業員負担は0.6%です。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は「給与額または賞与額×雇用保険料率」の計算式で求められます。
給与だけではなく賞与にも保険料が課せられるため、別途計算が必要な点に注意しましょう。たとえば、一般事業企業に勤めるAさん(月給20万円)の場合、雇用保険料は以下のように計算します。
企業負担分 |
---|
200,000×0.95% =1,900(円) |
労働者負担分 |
200,000×0.6% =1,200(円) |
雇用保険料の計算対象である賃金
雇用保険料の計算対象とする賃金は、税金や社会保険料を控除する前の総賃金額です。ただし、事業主から労働者に支払われる報酬の中には、雇用保険料の計算に含まないものもあります。
以下を参照し、正確な賃金額を計算しましょう。
賃金に含むもの | 賃金に含まないもの |
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・基本給 ・賞与 ・通勤手当(定期券・回数券の現物支給を含む) ・超過勤務手当 ・深夜手当 ・扶養手当 ・子供手当 ・家族手当 ・技能手当 ・教育手当 ・在宅勤務手当 ・地域手当 ・休業手当 ・宿直 ・日直手当 など | ・役員報酬 ・結婚祝金 ・退職金 ・災害見舞金 ・出張旅費 ・赴任手当 ・工具手当 ・寝具手当 ・傷病手当金 ・休業補償費 など |
詳しくは厚生労働省のサイトから確認してください。
雇用保険料を徴収するタイミング
雇用保険料は、従業員に給与を支給するたびに徴収します。
月給制の場合は、月に一度の給与支払いの際に天引きします。たとえば、月末締め翌月25日払いで、3月1日に入社した従業員がいた場合は、4月25日払いの給与から天引きします。
賃金月額の計算方法を理解し、雇用保険被保険者資格取得届を正確に作成
雇用保険被保険者資格取得届には、従業員の賃金について記入する欄があります。月給・日給などの支払い態様とともに賃金月額を1,000円単位で記入する必要があるため、計算方法を把握しておくことが大切です。
また、雇用保険被保険者資格取得届には、ほかにもさまざまな項目があります。提出期限を遵守するためにも、早めに準備を進めておきましょう。
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