労働基準法第37条における割増賃金とは|計算方法や2023年4月の引き上げも解説
労働基準法第37条では、残業や深夜労働、休日出勤といった条件下での労働に対して、追加の賃金(割増賃金)支払いを企業に義務づけています。
本記事では、割増賃金の具体的な計算方法や、労働基準法第37条で定められている割増賃金の適用条件について詳しく解説します。
また、2023年4月の改正によってどのような変更が生じたのか、実際にどのような影響があるのかについてもわかりやすく紹介します。
労働基準法第37条が定める割増賃金とは
労働基準法第37条は、法定労働時間を超える労働や法定休日、深夜帯における労働に対して、企業が通常の賃金に加え、割増賃金を支払う義務を定めた規定です。
労働基準法における割増賃金の制度は、労働者の健康と安全を守り、過重労働の防止や長時間労働の抑制を目的としています。
企業が割増賃金の支払い義務を怠ると、罰則が科される可能性があるため、適正な労働時間の管理と確実な賃金支払いの徹底が必要です。
労働基準法第37条が定める割増賃金の種類・発生条件
労働基準法第37条に基づく割増賃金は、主に以下の3つの労働に対して支払います。
- 時間外労働
- 休日労働
- 深夜労働
それぞれの労働に適用される割増率と発生条件が異なるため、詳細を解説します。
時間外労働の割増賃金
労働基準法の規定では時間外労働に対して、通常の賃金に加えて25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
労働基準法における割増賃金 | |
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時間外労働 | 25%以上 |
時間外労働とは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働です。
さらに2023年4月の法改正により、中小企業においても、月60時間を超える時間外労働は、割増率が25%から50%以上に引き上げられました。
労働基準法における割増賃金 | |
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時間外労働(月60時間以上) | 50%以上(2023年4月より適用) |
具体的には、以下のような場合に時間外労働の割増賃金が発生します。
- 1日の労働時間が8時間を超えた場合
- 1週間の労働時間が40時間を超えた場合
- 法定休日を除く休日に労働した場合で、その労働時間が週40時間を超えた場合
割増賃金は、労働者の負担を軽減し、過度な残業を抑制するために設けられた規定です。特に月60時間を超える残業には50%という高い割増率が適用され、企業にとっては残業を減らす強い動機づけとなるでしょう。
割増賃金が増えるほど、コストの負担も増えるため、企業には長時間労働を減らし、生産性の高い働き方の促進が期待されています。
休日労働の割増賃金
労働基準法の規定では、休日労働に対して、35%以上の割増賃金が適用されます。
労働基準法における割増賃金 | |
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休日労働 | 35%以上 |
休日労働とは、労働基準法第35条で定められた「法定休日」における労働です。法定休日とは、週に1日または4週を通じて4日以上の休日を指し、労働者の過労を防ぎ健康を守るために設けられています。
法定休日に労働を行った場合は、時間数にかかわらず、割増賃金の支払い対象です。法定休日労働の時間数が法定労働時間を超過しているか否かを問いません。
企業には、法定休日を守り、労働者に適切な休養を提供する義務があります。
労働基準法において法定休日の割増率が、通常の時間外労働に比べて高く35%以上なのは、休日労働が従業員にとって大きな負担となることを考慮し、適切な休息を確保するためです。
深夜労働の割増賃金
労働基準法の規定では、深夜労働に対して通常の賃金に加えて25%以上の割増賃金が適用されます。
労働基準法における割増賃金 | |
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深夜労働 | 25%以上 |
深夜労働とは、午後10時から翌朝5時までの間に行われる労働です。労働者の生活リズムをくずれやすく、健康リスクが高まりやすいため、高い割増率が設定されています。
労働基準法の規定では、深夜労働が時間外労働や休日労働と重なる場合、さらに高い割増率が適用されます。
たとえば、深夜時間に60時間を超える時間外労働を行った場合、50%の割増賃金にさらに25%の深夜割増賃金が加算され、合計で75%の割増賃金が適用されます。
労働基準法における割増賃金 | |
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時間外労働(月60時間を超える)+深夜労働 | 50%以上+25%以上=75%以上 |
労働基準法第37条が定める割増賃金の計算方法
割増賃金の計算は、労働基準法第37条に基づいて実施します。正確な計算方法への理解は、法令を遵守し、労働者に適切な賃金を支払うために欠かせません。
労働基準法の規定に沿って割増賃金を正しく計算することで、企業は法令違反のリスクを避けられ、従業員からの信頼を確実に得られるでしょう。
割増賃金の基本計算式
割増賃金の計算は、以下の基本式に基づいて行います。
割増賃金の基本計算式 |
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時間外労働時間数 × 1時間あたりの賃金 × 割増率 |
以上の計算式により、労働者がどの時間帯に、どのような条件で働いたかに応じて割増賃金が計算されます。
1時間あたりの賃金の算出方法
1時間あたりの賃金は、通常の賃金を労働時間で割り算して求めます。
月給制の従業員の場合、以下のように計算します。
1時間あたりの賃金の計算式 |
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月給(家族手当や通勤手当等は除く) ÷ 1か月の平均所定労働時間 |
たとえば、月給30万円、年間休日120日、1日8時間労働の場合、1時間あたりの賃金は以下の通り算出します。
1時間あたりの賃金の計算(例) |
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1か月の平均所定労働時間=(365日−120日)× 8時間÷12か月=163時間 |
1時間あたりの賃金=300,000円÷163時間=1,841円 |
1時間あたりの賃金を基礎として、割増賃金を計算します。割増率に応じた賃金を、時間外労働と休日労働、深夜労働に対して支払います。
割増率の適用と複数の割増が重なる場合の計算
労働基準法における割増賃金において、時間外労働や休日労働、深夜労働が重なった場合は、それぞれの割増率を合算して適用します。
前述の例と同様に、月給30万円、年間休日120日、1日8時間労働の条件で、月の時間外労働が72時間であった場合の、割増賃金の計算は以下の通りです。
時間外労働時間 | 月の時間外労働の累計 | 割増率 | 深夜労働の有無 | 賃金の計算式 | 総支払い額 |
---|---|---|---|---|---|
56時間分 | 56時間 | 25% | なし | 56時間 ×1,841円×1.25 | 128,870円 |
4時間分 | 56+4=60時間 | 25% | あり | 4時間×1,841円×1.5 | 11,046円 |
10時間分 | 60+10=70時間 | 50% ※60時間を超えた時点で割増率が上がる | なし | 10時間×1,841円×1.5 | 27,615円 |
2時間分 | 70+2=72時間 | 75% | あり | 2時間×1,841円×1.75 | 6,444円 |
以上のように労働時間帯や条件に応じて、割増賃金を正確に適用して計算することが重要です。
労働基準法が定める割増賃金の適用除外
労働基準法41条では、特定の条件に該当する労働者に対して、割増賃金の適用除外が認められています。適用除外の対象者は、以下の3種類です。
- 管理監督者
- 農業等従事者
- 監視・断続的労働者
管理監督者
管理監督者は、経営者と一体的な立場にあるため、労働基準法の規制が適用されず、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の対象から除外されます。ただし、深夜労働に対する割増賃金の支払いは必要です。
管理監督者とは、企業の経営方針や事業運営に直接関わる役割を担う者を指し、一般的には部長や課長などの管理職が該当します。
しかし「名ばかり管理職」の問題があるため、適用除外については慎重に判断しましょう。部長や課長などの役職名ではなく、実際の職務内容や権限の有無に基づいて管理監督者として認められるか否かが見極められます。
農業等従事者
農業や水産業、養蚕、畜産業に従事する者も、労働基準法において、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の適用が除外されています。自然環境や季節に影響される職種は、労働時間の管理が難しいためです。
監視・断続的労働者
監視労働や断続的労働に従事する労働者は、身体的・精神的負担が比較的少ないことを理由に、労働基準法における割増賃金の適用除外が認められています。
監視・断続的労働者とは、具体的に守衛や団地の管理人などが該当します。ただし監視労働の内容により、適用除外とならない場合もあるため注意しましょう。
改正労働基準法により中小企業の賃金の割増率が引き上げに
2023年4月1日より、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率50%以上の適用が、中小企業にも義務化されています。
2010年に施行された改正労働基準法において、すでに大企業は適用されていましたが、中小企業への猶予期間が終了したため、適用拡大が実施されました。
中小企業も長時間労働の抑制がより一層求められることとなり、労働者の健康確保と労働環境の改善が期待されています。
法定割増率引き上げの変更点
2023年4月1日から適用の労働基準法における法定割増率の引き上げ内容は以下の通りです。
対象 | 2023年3月31日まで | 2023年4月1日以降 | |
---|---|---|---|
1か月60時間を超える法定時間外労働 | 大企業 | 50% | 50% |
中小企業 | 25% | 50% |
長時間労働に対する割増率の変更により、特に残業が常態化している中小企業においては、賃金コストの増加が予想されます。
企業は、時間外労働の削減や業務効率の向上を通じて、負担を軽減するための対策を講じなければなりません。
対象となる中小企業の範囲
労働基準法における割増賃金率の引き上げが、以前まで猶予されていた中小企業の範囲は以下の通りです。
業種 | 資本金 | 従業員数 |
---|---|---|
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
従業員数は常時雇用される労働者を基準としており、繁忙期の臨時雇用などは含まれません。
中小企業が取るべき対応策
労働基準法における割増賃金率変更の猶予期間終了にともない、長時間労働の是正をはじめ、さまざまな対応策を検討する中小企業もあるでしょう。
具体的に以下の4つの対策が考えられます。
- 代替休暇制度の採用
- 就業規則の見直し
- 業務効率の向上
- 労働時間の管理見直し
代替休暇制度の採用
1か月60時間を超える時間外労働に対して、50%の割増賃金を支払う代わりに、有給休暇を付与する制度を設けることができます。
ただし、代替休暇制度を取り入れるには、労使協定の締結が必要です。
代替休暇制度により、コストを軽減しつつ、従業員がより働きやすい環境を整えられるでしょう。
参照:『月60時間を超える法定時間外労働に対して、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません』厚生労働省
就業規則の見直し
労働基準法の法定割増率の引上げに対応するうえで、就業規則や給与規程を改訂する必要があります。法令に沿って制度を運用するだけでなく、将来のトラブル防止にもつながります。
業務効率の向上
割増率の引上げに対応するためには、業務プロセスの見直しやITツールの活用による業務効率化も必要です。生産性の向上をはかることで、労働時間の短縮につながります。
割増賃金の支払い負担を減らす目的だけでなく、労働者への健康リスクを抑える対応が企業には求められています。
労働時間の管理見直し
月60時間を超える時間外労働が発生しないような仕組みづくりも重要です。勤怠管理システムの活用などにより、労働時間を正確に把握することで、過度な残業を防ぎ、従業員が適切に働ける環境を目指しましょう。
労働基準法第37条違反で割増賃金の未払いがある場合
企業が労働基準法第37条に違反して割増賃金を支払わなかった場合、労働基準監督署からの是正勧告や罰則が科せられる可能性があります。
未払い賃金に関する訴訟リスクも高まるため、企業は適切に労働時間を管理し、賃金の支払いを徹底しましょう。
労働基準監督署による是正勧告
未払いの割増賃金が発生したら、企業はすみやかに対応し、法令違反の状態を解消しましょう。
労働基準監督署は、労働基準法に対する違反が発覚した場合、企業に対して是正勧告を実施します。
是正勧告とは、労働条件や割増賃金の未払いなどの問題を改善するよう促す行政指導です。強制力はありませんが、従わない場合には罰則の対象となる可能性があります。
罰則規定と刑事罰の可能性
労働基準法第119条に基づいて、割増賃金の未払いが発生した場合、企業には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
罰則は労働者の権利を保護し、労働基準法を厳格に守らせるための措置です。
企業は、労働基準法に基づいて適切な労働条件を提示し、割増賃金の支払いを得ることで、リスクを回避し、法令遵守を徹底する必要があります。
労働者による未払い賃金請求訴訟のリスク
企業は労働基準法を遵守し、適切な割増賃金を支払うことで、未然にトラブルを防ぐ必要があります。
割増賃金の未払いがあると、従業員は未払い賃金の請求訴訟を提起することが可能です。
企業にとって、訴訟は財務的な負担をもたらすだけでなく、評判や信頼を損なうリスクをともなうため、迅速に対処しましょう。
労働基準法上の割増賃金を正しく適用
労働基準法第37条に基づく割増賃金の制度は、労働者の健康と安全を守り、過重労働を抑制する役割を果たしています。
2023年4月に適用が開始された中小企業への割増率引き上げは、労働環境の改善と労働時間の適正化を促進する取り組みの一環といえます。
企業は労働基準法に沿って適切に割増賃金を支払ったうえで、法令遵守を徹底し、労務トラブルを未然に防ぐことが重要です。
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