給与明細の間違いを指摘されたらどう対処する? 注意点やリスク、防止方法も解説
給与計算の間違いを指摘されたときは本人に謝罪して、新たな給与明細を発行しなければなりません。迅速に対応しないと会社への信用が低下します。一度失った信頼を回復するには多くの時間を要するため、未然に対処法を把握しておくとよいでしょう。
本記事では、給与明細を間違えたときの対処法や防止方法を中心に解説します。さまざまなリスクに備えておくことで、万が一のときも落ち着いて対応できるでしょう。給与明細を間違えたときの具体的な防ぎ方や、リスクについても紹介するのでぜひお役立てください。
給与明細の間違いを指摘されたときの対処法
給与明細の間違いを指摘されたときの対処法は、以下の通りです。
- まずは本人に連絡する
- すぐに給与明細を修正する
- 正しい給与明細を再発行し、今後の対応も伝える
順番に対応することが大切です。順番を間違えると、企業に対する信用が低下する恐れもあるため注意しましょう。
1.まずは本人に連絡する
給与明細の間違いに気づいた段階で本人に連絡します。間違えてしまったことに対して謝罪したうえで、どこが間違っていたのかを説明しましょう。
給与明細の間違いは、会社に対する不信感を抱くきっかけとなります。給与明細の内容を間違えたことや、従業員に不信感を与えたことに対して、すみやかに対処することをおすすめします。
2.すぐに給与明細を修正する
本人に連絡したら、すみやかに給与明細の修正を当月中に済ませましょう。
労働基準法により給与は全額払いが必要です。そのため、給与計算の間違いを来月の給与で修正することは、労働基準法に触れることになります。
また、修正期間が長引くほど従業員へ不信感を与えてしまいます。従業員との関係性を維持するためには、すみやかな対応が重要です。
3.正しい給与明細を再発行し、今後の対応も伝える
新しい給与明細に、間違いがないか再確認をしたうえで、従業員に渡します。
給与明細を渡す際は、どの点を修正したのか一緒に確認しましょう。ただ新たな給与明細を渡すだけでは、従業員の不満につながる可能性があります。お互いに修正点を確認することで、不信感を減らせるでしょう。
間違って支払った給与の過不足分はいつ対応する? 注意点
給与明細の間違いに関連し、給与支払いで過不足を指摘された場合の対応方法について、ケース別に解説します。
- 支給額より少なく支払っていた場合
- 支給額より多く支払っていた場合
支給額より少なく支払っていた場合
給与支給額を少なく支払っていた場合、当月内に調節しなければなりません。本来であれば支給されるはずだった給与であるため、早急に手続きを行い給与を支払いましょう。
労働基準法第24条では、賃金について以下のように定められています。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
引用:『労働基準法』e-Gov法令検索
賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。
給与支給額より少なく支払っていた場合、全額払いの原則に違反します。そのため、当月中の対応が必要です。
従業員の同意があれば、間違っていた分を、翌月の給与に上乗せして支給することもできます。しかし、原則として当月内の対応が必要であると覚えておきましょう。
支給額より多く払っていた場合
給与支給額より多く支払った場合も、原則として当月内に対応しましょう。
給与から控除できるのは、税金や社会保険料など法令で規定されているものや、労使協定で規定されているものに限られています。多く支払ったからといって、従業員の同意なく差し引くことはできません。
また、給与の過払いの場合も保険料などの控除項目が変更される可能性があります。まずは指摘があったら従業員に事情を説明し、謝罪します。
続いて給与と控除額を再計算し、再発行した給与明細と過払い額を明記した書面を渡したうえで、返金を依頼するとよいでしょう。
給与明細の間違いによる未払いの対応はいつまで?
給与計算や給与明細の間違いにより、未払い賃金が発生していた場合、請求できる期間は3年間です。未払い賃金の請求権については、労働基準法第115条で以下のように定められています。
この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によって消滅する。
引用:『労働基準法 第115条』e-Gov法令検索
労働基準法では賃金の請求権は5年間ですが、当面の間は3年間の経過措置がとられています。
また、労働基準法による請求権の時効を迎えても、民法による不当利得返還請求権が残っています。不当利得返還請求権は損失を被った人が、不当に利益を受けた人に返還を請求する権利です。
不当利得返還請求権の消滅時効は、権利を行使できると知ったときから5年、行使することができるときから10年です。
給与明細に間違いがあったときのリスク
給与明細に間違いがあり従業員に指摘されたとき、企業には以下のようなリスクが発生します。
- 企業への信用が低下する
- 遅延損害金が発生する
- 労働基準監督署から是正勧告や罰則を受ける
問題が発生したあとの対応は、企業イメージと従業員の信頼にかかわるため、細心の注意を払わなければなりません。リスクの内容を具体的に確認しましょう。
企業への信用が低下する
給与明細に間違いがあると企業の信用が低下します。さらに、対応に遅れが出ると従業員の不信感が強くなり、最悪の結果として離職につながる可能性も否定できません。指摘があったら従業員への対応は早めに行うことが重要です。
遅延損害金が発生する
給与明細の間違いにより未払い賃金があると、遅延損害金が発生します。
遅延損害金とは、給与支払いが発生した際に生じる利息です。法定利率は3%ですが、退職後の利率は14.6%と高額になる可能性があります。
例外として、以下のような事由が該当する場合は、遅延損害金の支払い対象外です。
- 天災地変が起こった
- 企業が破産手続開始の決定を受けた
- 法令の制約によって給与にあてる資金を確保できない
- 合理的な理由によって、裁判所または労働委員会で争っている
賃金の未払いで使用者に科せられる罰則は以下の通りです。
未払い賃金 | 罰則 | 根拠となる法律 |
---|---|---|
定期賃金や休業手当 | 30万円以下の罰金 | 労働基準法 第120条 |
届け出なく最低賃金を下回っていた | 50万円以下の罰金 | 最低賃金法 第40条 |
解雇予告手当や休業補償、割増賃金 | 6か月以下の懲役 または30万円以下の罰金 | 労働基準法 第119条 |
参照:『労働基準法 第119条、120条』e-Gov法令検索
参照:『最低賃金法 第40条』e-Gov法令検索
労働基準監督署から是正勧告や罰則を受ける
給与計算や給与明細で間違いが生じると、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。間違いが故意ではなくても、法律違反をしていることに変わりはありません。
万が一、労働基準監督署へ通報があれば、監督署からの指導が入るだけでなく、税務署の税務調査が入る恐れもあります。
従業員の指摘により訴えられる可能性もあるため、給与明細の発行業務において間違いを起こさないようにすることはもちろん、指摘を受けたら迅速に対応しましょう。
給与明細の間違いを防ぐ方法
給与明細の間違いを防ぐ方法として、企業ができることは以下の通りです。
- 給与計算のルールを見直す
- 給与計算を外部に委託する
- 給与計算システムを導入する
それぞれ順番に詳細を解説します。
給与計算のルールを見直す
現在の給与計算のやり方で給与明細に間違いが発生したのであれば、今後も同じ指摘がないようにルールを見直します。
給与計算には、残業代や保険料などの多くの情報が影響しており、数字の見間違いにより誤った金額が算出される可能性もあります。すぐに給与計算に取り掛かるのではなく、元データに誤りがないかを確認したうえで計算を進めることが大切です。
確認すべき項目をチェックリストにまとめておくと、間違いを最小限に抑えられるでしょう。
給与計算を外部に委託する
給与明細の間違いを指摘されないために、給与計算を専門の会社にアウトソーシングする方法もあります。
特に従業員の人数が多い大企業ほど、給与計算業務の負担が増えます。人為的ミスの削減や業務効率化の側面からも有効な間違いの防止方法です。
勤務情報を提出するだけで、給与計算から書類の作成までの業務を依頼できることが多く、知識を持つ従業員が少ない企業などは積極的に活用するとよいでしょう。
給与計算システム(ソフト)を導入する
給与明細の間違いを指摘される前に防ぐ方法として、給与計算システム(ソフト)の活用も検討しましょう。
給与計算システムは、入力した勤怠情報をもとに、給与計算を自動的に行います。課税や控除額の変動にも自動的に対応するため、給与担当者の負担を大幅に減らせます。
給与計算システムの導入にはコストが発生しますが、業務効率化やミスの防止を考慮すると、費用対効果の高い防止方法の一つといえます。
さまざまな給与計算ソフトがあるため、自社の働き方や運用方法に適したシステムを、比較検討したうえで導入しましょう。
給与明細の間違いを指摘されたときは真摯な対応を(まとめ)
給与明細の間違いを指摘された際は、早急に謝罪をして真摯に対応しましょう。給与計算の間違いを起こした事後の対応で、会社に対する信頼度が変わります。
また、給与支給額の過不足への対応にも注意が必要です。給与は全額払いの原則が定められているため、基本的に当月内での対応が求められます。
給与計算の間違いを起こさないためには、業務の外部委託や給与計算システム(ソフト)を導入して、属人化しないように対策するとよいでしょう。
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