【2024年4月】運送業の36協定を徹底解説|ドライバーの残業時間の上限とは?
2024年4月1日より、36協定における時間外労働の上限規制が、運送業の自動車運転業務にも適用され、運送業界はさまざまな問題に直面しています。
上限規制に対応するためには、勤怠管理の仕組みを見直す必要もあるでしょう。勤怠管理の担当者は、36協定の上限規制について、詳細と必要な対応策を理解しなければなりません。本記事では、運送業界における時間外労働の上限規制の仕組み、業界への影響、勤怠管理の重要ポイントについて解説します。
運送業(ドライバー)にも36協定の上限が適用対象に
従業員の時間外労働には、上限規制が設けられています。法改正後も、建設業や医師、そして運送業を含む「自動車運転の業務」については適用を先送りにされていましたが、2024年3月31日に猶予期間が終了しています。
2024年4月1日以降は、猶予されていたドライバーにも、時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。
上限規制が適用されると、ドライバーの時間外労働は月45時間、年間360時間までとなります。ただし、「月45時間、年間360時間」は原則的な上限値であり、特別な事情がある場合は年間最大960時間までの時間外労働が認められています。
自動車運転の業務における時間外労働の上限規制についてまとめると、以下の通りです。
月間 | 年間 | |
---|---|---|
原則的な上限 | 45時間 | 360時間 |
特別な事情がある場合 | – | 960時間※休日労働を除く |
また、トラックやバスなどの運転者が行う休日労働の回数は、2週に1回までを上限としなければなりません。運送業に対する規制の詳細は、厚生労働省のリーフレットでご確認いただけます。
参照:『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』厚生労働省
36協定に違反した場合の罰則
時間外労働の上限規制を守ることは、労働基準法に定められた企業の義務です。2024年4月以降は運送業(自動車運転)にも上限規制が適用されるため、従業員に上限を超えた労働をさせることは法律違反にあたります。
悪質と判断されると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられることもあるため注意しましょう。
36(サブロク)協定とは?
36協定とは、時間外労働や休日労働について取り決める労使協定です。
労働基準法では、法定労働時間と法定休日が定められています。
法定労働時間 | 1日8時間・週40時間まで |
法定休日 | 1週間に1日、または4週を通じて4日 |
上限を超えた労働をさせる場合は、労働基準法第36条に基づく36協定を締結し、管轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
36協定は、会社と従業員が話し合い、時間外労働や休日労働に関するルールを決め、書面として残したものと理解するとよいでしょう。
たとえ上限規制を遵守していても、36協定を締結せずに時間外労働や休日労働を強いることは、労働基準法違反に該当します。運送業の上限規制への対応とあわせて、忘れずに届け出るようにしましょう。
他業界の36協定における時間外労働の上限規制
時間外労働の上限規制がはじまったのは、2019年4月からです。しかし、当初は大企業のみが対象であり、中小企業は適用を猶予されていました。
猶予期間の経過により、2020年4月からは、中小企業にも運送業をはじめとする一部業種以外で「月45時間、年360時間」の上限規制が課せられています。
しかし、業種や職種によっては、上限規制を守っていると、繁忙期や緊急時に対応できないこともあるでしょう。
そこで、特別な事情がある場合に限り、あらかじめ労使間で「特別条項つき36協定」を締結しておくと、例外措置として時間外労働時間の延長が認められています。
具体的には、以下の通り時間外労働の範囲が拡大されます。
- 年720時間以内
- 2〜6か月の時間外労働および休日労働の平均が80時間以下
- 単月の時間外労働および休日労働が100時間未満
- 月45時間の上限を超えられるのは年6回が限度
運送業は、特別条項付き36協定における上限規制が「年720時間以内」ではなく「年960時間以内」です。また、それ以外の項目、月ごとの上限時間や上限を超えられる回数については適用されません。
ほかの業種と比べると、運送業に対する時間外労働の上限規制は寛容であるといえるでしょう。
運送業における労働時間の上限【ドライバー別】
「自動車運転の業務」と一言でいっても、運送業の種類は多岐にわたります。時間外労働や休日労働、拘束時間や運転時間に関する規制も、職種ごとに異なります。それぞれに適用される規制の違いを正確に把握することが大切です。
バス、トラック、タクシードライバーの3種類を取り上げて、労働時間の上限に関する規制を表にして解説します。
拘束時間
拘束時間とは、労働時間と休憩時間を合算した時間のことです。たとえば、「8時始業・17時終業(うち休憩1時間)」の場合、労働時間は8時間ですが、拘束時間は休憩時間を含めた9時間となります。
運送業であるバス、トラック、タクシードライバー別の、拘束時間の上限は以下の通りです。
職種 | 1日の上限 | 1か月の上限 |
---|---|---|
バス | 13時間(最大15時間) | 281時間(最大294時間) |
トラック | 13時間(最大15時間)※ | 284時間(最大310時間) |
タクシー | 13時間(最大15時間) | 日勤:288時間隔日勤262時間(最大270時間) |
※1週間における運行がすべて長距離貨物運送(450km以上)かつ、勤務先を出発して帰着するまでの休息期間が住所地以外の場所におけるものである場合、1週につき2回に限り最大拘束時間を16時間まで延長可能
労使協定の特例を利用すれば、1か月あたりの上限時間は上表の各項目における最大時間まで延長することが可能です。
トラックドライバーの拘束時間は原則として月284時間までです。特例を適用すると最大310時間まで延長できます。
ただし、延長した場合は、年間の拘束時間が3,400時間を超えない範囲で、年6回までに制限する必要があります。
参照:『自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト』厚生労働省
運転時間
運転時間については、バス・トラックの運転手に上限規制が設けられています。
職種 | 1日の上限 | 1週間の上限 |
---|---|---|
バス | 9時間 | 40時間※ |
トラック | 9時間 | 44時間 |
※貸切バスや高速バスの場合は、労使協定により別途定められた条件下において44時間まで延長可能
参照:『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』厚生労働省
参照:『バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント』厚生労働省
時間外労働・休日労働の時間
2024年4月以降に適用された時間外労働・休日労働の上限規制を、運送業の職種別に整理すると、以下の通りです。
職種 | 1日の上限(時間内労働+時間外労働の合算) | 2日間の上限 | 1か月の上限 | 1年間の上限 |
---|---|---|---|---|
バス | 15時間 | 45時間 | 360時間(最大960時間) | |
トラック | 15時間(条件を満たす場合は最大16時間) | 45時間 | 360時間(最大960時間) | |
タクシー(日勤) | 15時間 | 45時間 | 360時間(最大960時間) | |
タクシー(隔日勤) | – | 22時間※ | 45時間 | 360時間(最大960時間) |
※2回の隔日勤務(始業・終業それぞれの時刻が同一の日に属しない業務)を平均し、1回あたり21時間を超えないようにすること
ドライバーの1日あたりの時間外労働・休日労働時間は、1日の拘束時間の上限を超えない範囲で認められています。
参照:『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』厚生労働省
参照:『バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント』厚生労働省
参照:『タクシー・ハイヤー運転者の労働時間等の改善基準のポイント』厚生労働省
連続運転時間
バスやトラックのドライバーには、1日や1週間の運転時間の上限とは別に、連続運転時間の上限も設けられています。
職種 | 連続運転時間 |
---|---|
バス | 4時間 |
トラック | 4時間 |
どちらも1日あたりの運転時間の上限は9時間ですが、運転開始後4時間以内または4時間経過直後に30分以上の休憩を確保する必要があります。
1週間の運転時間が40時間以内でも、休憩を適切に付与しないと、改善基準告示違反となるため注意しましょう。
参照:『トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント』厚生労働省
参照:『バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント』厚生労働省
36協定の上限規制が運送業(ドライバー)にもたらす影響
運送業(ドライバー)への時間外労働の上限規制適用による深刻な影響が懸念されています。具体的には、以下のような課題に直面しています。
- 労働時間の減少によるドライバーの収入減少
- 物流業界全体の売り上げ・利益減少
- 輸送リソースの減少
- モノが運べなくなる・モノが作れなくなる
労働時間の減少によるドライバーの収入減少
運送業に時間外労働の上限規制が適用されると、ドライバーの労働時間が減ることにより、収入減につながるのではないかと考えられています。給与水準が下がればドライバーの志望者も少なくなり、人手不足が深刻化する恐れがあるでしょう。
物流業界全体の売り上げ・利益減少
運送・物流業界における利益は、ドライバーによる運転業務に支えられています。ドライバーの労働時間が減少すれば、事業者の業績に悪影響が及びかねません。
また、2023年4月以降は中小企業にも、月60時間を超える時間外労働に対して50%以上の割増賃金を支払う義務が課せられるようになりました。上限規制適用後に、残業代の支払いが重くのしかかり、利益が減少する可能性があるでしょう。
輸送リソースの減少
ドライバーの労働時間は、運送業界の輸送リソースに直結します。たとえば、ドライバーの労働時間が20%減少すると、輸送リソースも同じく20%減るでしょう。
輸送能力の低下は、物流インフラを必要とするすべての企業と消費者に深刻な影響を与えかねません。
モノが運べなくなる・モノがつくれなくなる
ドライバーの労働時間が減り輸送能力が低下すれば、製品の輸送が難しくなります。その結果、店頭に並ぶ商品が不足したり、通販で購入した商品の到着が遅れたりと、「モノが運べない」ことによる弊害が発生する可能性があります。
また、運送業界において製品の材料や部品を輸送するリソースが低下すれば、「モノをつくれない」事態にもなりかねません。
物流における2024年問題は、物流に携わるドライバーや製造業だけでなく、消費者にも大きな影響を及ぼすでしょう。
運送業にとって参考となる勤務形態
運送業のドライバーは、業務の特性上、一般的な9時から17時といった固定的な勤務時間では対応が難しい場合が多くあります。このような状況に対応するため、以下の3つの勤務時間制度が考えられます。
1ヶ月単位の変形労働時間制
一ヶ月以内の期間で法定労働時間の総枠を超えない範囲で、柔軟な時間配分が可能です。法定労働時間は以下の計算式で算出します。
40時間×変形期間の暦日数÷7
この制度の導入には就業規則で定めるか、または労使協定を締結して労働基準監督署長へ届け出ることが必要です。
1年単位の変形労働時間制
より長期的な期間で労働時間を調整できる制度で、1週間あたりの平均労働時間を40時間以内に収めることが条件となります。1年単位の場合は就業規則の変更では採用できず、労使協定の締結と届出が必要です。
フレックスタイム制
労働者が定められた総労働時間の範囲内で、始業・終業時刻を自身で決定できる制度です。導入には就業規則への記載と労使協定の締結が必須で、1ヶ月を超える場合は労使協定の届出も必要となります。
36協定の上限規制下での運送業における勤怠管理のポイント
時間外労働の上限規制の適用以降、運送業の企業には、これまで以上に適切な勤怠管理が求められています。
運送業の担当者が、特に気をつけたい勤怠管理のポイントは以下の通りです。
- 勤怠管理などの業務システムを最適化する
- 業務を見直して労働生産性を向上させる
- ドライバー不足の解消に向けて雇用拡大をはかる
勤怠管理などの業務システムを最適化する
時間外労働の上限規制下では、ドライバーの労働時間を、今まで以上に厳しく管理することが大切です。
時間外労働や休日労働だけでなく、拘束時間や休憩時間についても見直しが行われています。従来と同じ感覚で勤怠管理をしていると、いつの間にか指導・罰則の対象になる恐れも否定できません。
ドライバーは会社の外にいる時間が長く、働き方も人それぞれ異なります。従業員全員の勤怠情報を正確に管理するためにも、運送業の働き方に対応できる勤怠管理システムを活用してみてはいかがでしょうか。
社内に散らばった情報をシステムで集約し、情報管理を見直すことで、人件費や諸経費の削減につなげることも可能です。
業務を見直して労働生産性を向上させる
ドライバーの時間外労働が減少すると、輸送リソースの低下が予想されます。少ないリソースでも効率よく荷物を運ぶために、運送業界では労働生産性の向上に取り組むことも大切です。
具体的には、次のような取り組みが考えられます。
- オペレーションの改善による荷待ち時間の削減
- 中継輸送の導入
- ドライバーの勤怠管理のリモート化
ドライバー不足の解消に向けて雇用拡大をはかる
ドライバーの時間外労働が減少すると、給与水準の低下による人手不足が懸念されます。
運送業ではドライバー不足を解消するために、女性や高齢者なども積極的に採用する必要があるでしょう。
雇用拡大をはかる際は、多様な人材を受け入れる制度・体制を整えることも大切です。女性ドライバーを増やすなら、産休・育休制度の充実も一緒に検討するとよいでしょう。
運送業界の2024年問題を解決するために適切な勤怠管理を
2024年4月以降、運送業界にも時間外労働の上限規制が適用されました。
ドライバーの労働時間が、以前より厳しく制限されているため、給与の低下による人手不足や輸送リソースの減少など、さまざまな影響が懸念されています。
運送業の2024年問題に対応するためには、勤怠管理を含む業務システムの見直しが不可欠といえます。
まずは運送業の働き方に対応する勤怠管理システムを活用し、ドライバーの労働時間を正確に管理する体制を構築しましょう。
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