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積立有給休暇とは|導入メリットと制度設計のポイント、手順、退職時や買取の扱いは?

積立有給休暇とは|導入メリットと制度設計のポイント、手順、退職時や買取の扱いは?

積立有給休暇とは、従業員が使わずに失効してしまった有給休暇を積み立て、後日まとめて利用できる制度です。積立有給休暇の導入は企業の任意ですが、実施により従業員の働き方に柔軟性をもたらし、労働環境の向上につながるでしょう。しかし、導入には複数の検討事項があります。

本記事では、積立有給休暇制度を導入するメリットや制度設計のポイント・手順について詳しく解説します。

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    積立有給休暇とは? 義務? 何日?

    積立有給休暇とは、付与されたものの、従業員が使用せずに失効してしまった年次有給休暇を積み立てておき、後日まとめて利用できる制度です。制度のもとでは、通常2年で失効する法定の有給休暇を、失効後にも使用することができます。

    積立有給休暇は義務ではない

    積立有給休暇制度の導入は企業の任意であり、法律によって導入が義務づけられているものではありません。制度を採用する企業は、就業規則などによって、積み立てることができる上限日数や使用単位などのルールを独自に定められます。

    日数や上限は制度設計の際に決める

    積立有給休暇制度により、積み立てることができる有給休暇日数の上限は法律による定めがないため、企業が制度を設計する際に決めておく必要があります。

    積み立て日数の上限を設けなければ、休暇をまとめて取得する人が一定の期間内に集中した場合、業務が回らなくなったり、通常の有給休暇を取得できない人が出たりする可能性があるためです。

    年次有給休暇と積立有給休暇の違い

    積立有給休暇の付与は任意とされています。一方、通常の有給休暇は、労働基準法により一定の要件を満たした労働者に対して付与することが義務づけられています。

    積立有給休暇と年次有給休暇の違いについて、2つの着眼点でさらに詳しく解説します。

    年次有給休暇の付与は義務

    年次有給休暇は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持をはかり、ゆとりある生活の実現のために、法定休日のほかに毎年一定日数付与される休暇です。

    労働基準法第39条によって、企業は勤務期間や出勤日数の要件を満たした労働者に、一定の年次有給休暇を付与することが義務づけられています。

    参照:『年次有給休暇制度について』厚生労働省

    積立有給休暇の付与は任意

    年次有給休暇と異なり、積立有給休暇を付与するかどうかは法律による定めがなく、あくまでも企業の任意ですが、従業員のワークライフバランスの向上に有効な施策であるといえるでしょう。

    積立有給休暇の導入は、年次有給休暇の取得率が低い企業や、長期休暇を取りづらい企業など、従業員の労働環境に課題のある企業に適しています。

    厚生労働省は、従業員の労働環境の向上やワークライフバランス維持のために、長期休暇の取得を推奨しており、その一環として積立有給休暇制度を紹介しています。

    参照:『2週間程度の長期休暇制度の導入について』厚生労働省

    積立有給休暇の導入状況は?

    人事院は平成28年度のデータで、調査対象企業41,966社のうち、約30%の企業が正社員の積立有給休暇制度を導入していると公表しました。

    企業規模別に内訳を見ると、従業員数が500人以上の企業による導入率がもっとも高く、約55%です。もっとも低い従業員数50人以上100人未満の企業の約19%と比較すると、35%以上高いことがわかります。

    また、正社員に対して積立有給休暇を導入している企業全体のうち、約75%の企業が使用事由を制限しています。積立有給休暇の使用事由は、私傷病や看護、介護などが代表的です。

    参照:『表1  正社員の積立年休制度の有無別企業数割合(母集団:全企業)』人事院

    【企業側】積立有給休暇のメリット・デメリット

    積立有給休暇を導入する際には、制度によってもたらされる自社への影響を踏まえて検討する必要があります。導入による企業へのメリットやデメリットを解説します。

    メリット

    積立有給休暇の導入によって、従業員の労働環境が改善されることにつながるため、企業は以下のメリットが得られるでしょう。

    • 優秀な人材の確保
    • 生産性の向上
    • 従業員のモチベーションアップ
    • 離職率の低下

    積立有給休暇が取得可能であることを求職者に対してアピールすると、ワークライフバランスが維持できる職場環境であるというイメージになり、優秀な人材の獲得につながる可能性があります。

    また、積立有給休暇を活用すると長期で休暇を取得しやすくなるため、従業員のモチベーションアップや離職率の低下も期待できるでしょう。休暇を適切に取得させることで従業員はリフレッシュができるため、労働生産性の向上にもつながります。

    デメリット

    • 人員管理・休暇管理のコストがかかる
    • 手間がかかる
    • 取得者の業務を保管しなければならない
    • 管理者の負担が大きくなる

    積立有給休暇の導入による企業側のデメリットは、人員管理・休暇管理のコストや手間がかかることです。

    積立有給休暇を従業員が適切かつ公平に利用できるようにするためには、企業側が従業員一人ひとりの休暇の残日数を適切に管理しなければなりません。

    また、積立有給休暇を取る従業員の業務を補完する必要もあります。必要に応じて、年単位で休暇計画や業務計画を立てる必要が生じるため、特に管理者の負担が増える点はデメリットであるといえるでしょう。

    【従業員側】積立有給休暇のメリット・デメリット

    積立有給休暇制度を導入する際は、会社側だけでなく従業員に対する影響も考慮する必要があります。導入することによってもたらされる、従業員にのメリット・デメリットを解説します。

    メリット

    積立有給休暇の導入による従業員側のメリットは、本来であれば失効しているはずの休暇が使えるようになる点です。

    • 失効しているはずの休暇を使える
    • リフレッシュできる

    年次有給休暇の期限が切れてしまったとしても、病気やケガ、子どもの看護などによって急に休暇が必要になったときに、積み立てた有給休暇を利用できます。

    また、残りの有休を上手に調整すると長期休暇も取得できるため、仕事から離れてリフレッシュできる点も大きなメリットです。

    デメリット

    積立有給休暇の導入による従業員側のデメリットは、人員が欠けることで業務に滞りが生じる可能性がある点です。

    • 業務が滞るリスクがある
    • ほかの従業員が代わりに業務を行わなければならない

    業務の調整が不十分なまま、積立有給休暇を利用して長期休暇などを取得してしまうと、残された従業員は業務の肩代わりを強いられてしまいます。

    積立有給休暇を利用して長期で休暇を取る従業員や対象チームの管理者は、あらかじめ業務計画を立てて、メンバー内で共有するなど、周囲に過度な負担が生じないように工夫しましょう。

    積立有給休暇制度の設計ポイント

    積立有給休暇制度を導入する際に、押さえておくべき制度設計のポイントを解説します。

    • 対象者
    • 取得単位
    • 有効期限
    • 積立日数の上限
    • 連続使用の上限
    • 使用事由の制限の有無
    • ほかの休暇との優先順位
    • 処遇への影響
    • 買取制限
    • 退職時の扱い

    対象者

    積立有給休暇制度を利用できる従業員の範囲を定めます。

    対象者の範囲の例としては、正社員のみや非正規雇用者を含めた従業員全員、一定の勤続年数を満たした従業員のみなどが挙げられます。

    制度導入の目的にあわせて適切に設定し、範囲を限定する場合は不公平感が生じないように、導入の際に従業員に説明をする機会を設けるなどの注意を払いましょう。

    取得単位

    積立有給休暇を取得可能とする単位を定めます。取得単位としては、全日や半日、1時間単位などが挙げられます。

    有効期限

    積立有給休暇の有効期限も定めておきましょう。もちろん無期限とすることも可能ですが、その場合は積立日数の上限を定め、過剰に有給休暇を積み立てないように日数をコントロールすることが一般的です。

    積立日数の上限

    積立有給休暇において、積み立てられる日数の上限についても検討が必要です。

    年間積立日数については、特に上限を定めないことも可能ですが、総積立日数の上限を定めると、休暇の有効期限を含めて休暇日数を適切に管理できます。

    総積立日数の上限を何日に設定するかは企業によってさまざまです。一般的に長期の入院や親族の介護などで必要な期間の休暇が取れるように、40日から60日程度を上限とする企業が多いようです。

    連続使用の上限

    積立有給休暇を導入する際に懸念されるのが、長期休暇を取得したときに想定される残された従業員への業務負担の偏りです。このような事態に備えるため、一度に連続して取得できる積立有給休暇の日数の上限を定めておくとよいでしょう。

    一方で、病気やケガ、家族の介護などでまとまった休暇が必要なこともあります。そのため、連続使用日数の上限を定めるときは、使用事由に応じて上限を設定することをおすすめします。

    使用事由の制限の有無

    積立有給休暇を使用する事由に、制限を設けるかどうかについても検討が必要です。

    積立有給休暇の使用事由に制限を設けている企業で、取得可能な事由としているのは、主に「病気やケガ」「子どもの看護」「介護」「ボランティア活動」などです。

    ほかにも、企業が取得を推奨する資格の受検や短期留学などを理由とした休暇の利用が認められている場合もあります。使用事由に制限を設ける際は、制度を導入する目的や従業員の意見を反映するようにしましょう。

    ほかの休暇との優先順位

    積立有給休暇を使用する際には、ほかの休暇と比較して、どちらを優先的に使用するのかを定めておく必要があります。

    たとえば、既存の休暇制度として介護休暇や看護休暇がある企業では、積立有給休暇とどちらを優先して消化するかをあらかじめ就業規則などに明記しておくようにしましょう。

    特に、年間で10日以上の年次有給休暇が付与される従業員に対しては、年に5日以上の取得が法律で義務づけられているため、積立有給休暇よりも優先的に消化するルールを定めておくとよいでしょう。

    処遇への影響

    積立有給休暇を取得した場合、出勤率の算定にどのように影響するかを明確にする必要があります。

    年次有給休暇の付与日数や賞与査定の際に、出勤率が考慮される企業もあるため、積立有給休暇が出勤日数に含まれるのかをあらかじめ定めておきましょう。

    買取制限

    年次有給休暇の買取は、例外を除いて労働基準法で禁止されていますが、積立有給休暇においては、企業の判断によって買取の可否を決められます。買取を認める場合は、1日あたりの単価をどのように算定するか考慮しなければなりません。

    積立有給休暇の買取単価は、基本給をもとに算定する方法や、職位に応じて一定の額とするなどの方法があります。どのような方法で買取の単価を設定するかについて、あらかじめ就業規則などに明示しておくようにしましょう。

    退職時の扱い

    従業員の退職時に、積立有給休暇を消化可能とするか否かは、企業の判断で規定できます。

    年次有給休暇は従業員から取得の申し出があった場合、企業が無条件に拒否するなどは許されていません。そのため、退職時に年次有給休暇が残っている場合は、労使間の合意のもとで取得させるようにしましょう。

    一方、積立有給休暇の消化や買取については企業が決められます。退職前に休暇を消化してもらう場合、特別な条件を設けない企業もあれば、あまりにも積立日数が多く引き継ぎに支障が出る場合は買い取る企業もあるようです。

    また、退職時に積立有給休暇をどのような扱いにするかは、労働基準法に定められている通り、就業規則に必ず明記しておかなければなりません。

    積立有給休暇制度を導入する流れ・手順

    積立有給休暇を導入するまでの流れについて解説します。

    1. 運用ルールの設計
    2. ルールの明文化
    3. 従業員への周知

    1.運用ルールの設計

    従業員のニーズを理解したうえで、積立有給休暇制度の目的を明確にし、運用ルールの設計を行いましょう。

    導入後に適切に運用していくために、使用事由の制限や連続使用日数の上限、申請方法や承認期限などに関するルールは、従業員の意見を反映することが重要です。

    2.ルールの明文化

    積立有給休暇の運用ルールが決まったら、運用の開始前にルールを社内規定に明文化しましょう。就業規則に盛り込むか、休暇規定が別にある場合には「積立有給休暇」という章を新たに作成することをおすすめします。

    社内規定には、対象者や取得単位、使用事由などを漏れがないように記載する必要があります。規定が作成されたら、検討・記載漏れの事項がないか複数の従業員で再度確認を行うようにしましょう。

    3.従業員への周知

    積立有給休暇制度の導入や変更について、従業員に対して十分に周知することが重要です。社内掲示板だけでなく、メールや社内ポータルなどを通じて実施すると、リモートワークや外回りが中心の従業員にも周知できます。

    周知後には、従業員から制度に関する質問が来る可能性があるため、問い合わせ対応の窓口を明記しておくとよいでしょう。

    退職時に積立有給休暇は消化できる?

    退職時に積立有給休暇を消化可能とするか否かは、企業の判断によります。

    退職時に年次有給休暇とまとめて積立有給休暇を消化可能とする、あるいは、退職金に休暇の残日数の単価を上乗せして支給する方法があります。積立有給休暇の退職時の取り扱いについても、就業規則などの規定に明文化しておきましょう。

    積立有給休暇は買取できる?

    積立有給休暇については在職時と退職時の買取が可能です。

    基本的に年次有給休暇の買取は認められていません。しかし、退職時だけでなく在職時であっても、法定以上に付与した分であれば買い取ることが法律で認められています。

    積立有給休暇は、「すでに失効しているはずの休暇=法定以上に付与した休暇」となるため、買取ができます。

    買取の金額については、上限や下限の定めがないため、企業の判断に委ねられます。基本給を所定労働日数で割った金額を単価とする方法や、職位で一定の額を定めるなどの方法があります。 

    積立有給休暇は実情に見合った設計を(まとめ)

    積立有給休暇の導入の際には、従業員のニーズや有給休暇の取得率などを分析したうえで、実情に合った設計を行うことが重要です。

    積立有給休暇制度によって、従業員のモチベーションやワークライフバランスの向上が期待できる一方で、制度の運用方法によっては業務負担に偏りが生じたり、年次有給休暇が取得しづらくなったりといったトラブルが想定されます。

    積立有給休暇の制度の導入後も、定期的にヒアリングや消化率のモニタリングを行い、必要に応じて制度設計を見直すことも検討しましょう。

    有給休暇の取得を促進するには?

    有給休暇の取得を促進するには、専門サービスの導入も検討しましょう。

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