役員も勤怠管理が必要・不要? 役員の立場や従業員との違い、勤怠管理の注意点を解説
会社法においては「役員」の定義は明確に示されており、それによって従業員と役員との間には大きな違いが存在します。原則として、役員については勤怠管理が必ずしも必要ではありませんが、特定の状況や契約条件によっては、役員の勤怠管理が必要とされることがあります。
本記事では、役員の勤怠管理についての注意点も解説するので、参考にしてください。
役員の勤怠管理は原則必要ない
会社法によれば「役員」と呼ばれる取締役・会計参与・監査役などは、会社に雇用される労働者と異なり、委任の関係に立つため、労働時間の管理を行う対象にはならないとされています。そのため、役員の勤怠管理は原則として不要です。
しかし、例外的に勤怠管理が必要とされることもあります。
役員でも出勤簿は必要
役員の勤怠管理は原則として不要ですが、会社側は役員を含めた全社員の労働の実態を把握しておかなければなりません。特に、社会保険の適用に関する重要な記録として、役員も出勤簿を記載し、賃金台帳を作成することが不可欠です。
会社役員の種類と役割
会社法第329条により定義されている役員は、取締役・会計参与・監査役の3役です。
取締役会は「会社の業務を執行する意思決定機関」であり、3人以上の取締役で構成されます。取締役会のない株式会社は、株主総会で重要事項を決定し、取締役が業務を執行します。
取締役
取締役とは、業務執行に関する意思決定を行う役職であり、会社法により1つの株式会社に1人以上置くことが義務付けられています。株式会社は、取締役が経営者、株主が会社の所有権を保有するため「所有と経営」は分離されています。
代表取締役
代表取締役とは、業務の執行や会社の代表として契約締結を行うなど事業全般における権限を持つ最高責任者を指します。
会社法362条では「取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない」と定められています。社長と兼任する場合もあれば、複数の代表取締役を設置する会社も存在します。
会計参与
会計参与とは、取締役会の役員であり、取締役と共同で財務諸表などの会計書類を作成する会計の専門家です。会計参与は、取締役会への出席や株主総会にて意見を述べる権限を持っています。
会計参与は、ほかの取締役とは異なり、税理士や公認会計士などの税務および会計系の国家資格の保有者でなければ就任できません。
監査役
監査役とは、取締役と会計参与の業務執行を監査する役割を持つ役員です。監査役が行う会計に関する確認を「会計監査」、それ以外の業務に関する確認を「業務監査」といいます。
取締役会を設置しない(設置していても会計参与を設置している)会社や株式を公開していない会社では、監査役を設置する義務はありません。
専務取締役
専務取締役とは、取締役会で代表取締役を補佐する役員です。業務の管理や監督を行い、会社の経営に関する重要な権限を持ちます。会社法では規定されていない役員のため、必ずしも設置する必要はありません。
常務取締役
常務取締役とは、現場や従業員の日常的な業務を重点的に監督・推進する役職であり、経営と現場の橋渡しとしての役割を担います。
会社法では規定されていない役員のため、必ずしも設置する必要はありませんが、業務の幅が広いため、複数人が任命されることもあります。
役員と従業員が違うポイント
会社法により役員と従業員には明確な違いがあると述べましたが、どのような違いがあるのでしょうか。役員と従業員の違いについて具体的に3つ解説します。
雇用形態の違い
役員と従業員には、雇用形態の違いが存在します。会社法第330条において、役員は「委任契約」、従業員は「雇用契約」を締結します。
委任契約とは、雇用契約とは異なり、役員が「使用者に従属していない」という特徴があります。そのため、役員が行う業務内容には裁量が認められており、会社から業務上の指揮命令は受けることはありません。
民法第643条で定められている委任契約を会社と役員間で締結することにより、役員は経営の専門家として業務を遂行します。
労働時間の違い
役員は委任契約のもとで業務を遂行するため、労働時間の管理(勤怠管理)は不要です。労働時間や残業時間の上限もなく、出勤日数や時間にかかわらず業務を遂行することで、報酬が発生します。
報酬の違い
役員が会社から受け取る報酬は「役員報酬」、従業員が会社から支給される報酬は「給与・賃金」と呼ばれます。従業員の賃金は就業規則や雇用契約で定められていますが、役員報酬は、企業の定款や株主総会で決定されます。
勤怠管理が必要な役員と注意点
「役員」と呼ばれる役職でも勤怠管理が必要な場合があります。
- 使用人兼務役員の場合
- 執行役員の場合
それぞれご紹介します。
使用人兼務役員の場合
使用人兼務役員(兼務役員)とは、役員と同時に従業員としての身分があり、従業員として常時その職務に従事している者を指します。具体的には「取締役総務部長」などが該当します。
「委任契約」と「雇用契約」の両方が適用されるため、勤怠管理が必要です。役員退任後に従業員になり「兼務役員」となった場合は注意しましょう。
執行役員の場合
執行役員とは、役員という名前がついているものの、経営の事柄を決定する権限を持たない役職です。会社法上で定められる役員ではなく、あくまでも「従業員」であるため、勤怠管理が必要です。
役員の保険適用について
役員に対する各種社会保険の適用について解説します。
- 労災保険・雇用保険は対象外
- 健康保険・介護保険・厚生年金保険は加入できる
労災保険・雇用保険は対象外
労災保険と雇用保険の対象者は、会社に雇用されている労働者、つまり従業員です。役員は会社と雇用契約を結んでいないため、役員は労災保険と雇用保険の対象外です。
ただし、使用人兼務役員は「兼務役員雇用実態証明書」を管轄のハローワークに提出することで雇用保険に加入できます。中小事業主や「一人親方」は「労災保険特別加入制度」によって労災保険へ加入できることを覚えておきましょう。
健康保険・介護保険・厚生年金保険は加入できる
労務の対価として報酬が1円でも支払われている場合、従業員・役員を問わず、原則として健康保険と厚生年金保険には加入する義務があります。
ただし、役員報酬が0円の場合、社会保険への加入の義務はありません。また、非常勤の役員についても、原則として加入義務は発生しません。
出向先で役員として働く場合の勤怠管理
自社の従業員が、出向先で役員として働く場合の勤怠管理の方法について解説します。
従業員が出向先で役員として働く場合
在籍出向の従業員の籍は、勤務場所は出向先ではあるものの、籍自体は出向元の企業に残っているため、勤怠管理についても今まで通りに行う必要があります。
勤怠管理の方法については、出向先の方法に従うといいでしょう。
給料の支払いに注意
出向している従業員への給料は、出向元が支払う場合と出向先が支払う場合のどちらも存在しますが、出向元が出向者に直接支払い、出向先が出向元に給与負担金を支払う場合が多いでしょう。
出向先が支払う給与負担金は、原則として「役員報酬」と取り扱われます。負担する金額の合計が年額で役員報酬相当額を超えないように注意する必要があります。
まとめ
役員は、従業員と異なり、原則として勤怠管理を行う必要はありませんが、労働契約によって勤怠管理が必要となるケースも存在します。従業員との違いをあらためて整理し、自社の状況に応じて適切な勤怠管理を実施するようにしましょう。
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