定額残業代とは? 導入するメリット・デメリット、注意点を徹底解説
残業代の計算に時間がかかり、業務負担が大きいと感じていませんか。
定額残業代を導入することで、給与計算の効率化や人件費の予測管理ができます。しかし、定額残業代制度は運用を間違えると違法リスクがあるため注意が必要です。
本記事では、定額残業代制度の基本的な仕組みから、導入時におさえたいポイント、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。
残業時間の管理に課題がある方は、以下の記事もご確認ください。
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定額残業代とは?
定額残業代とは、あらかじめ設定した残業時間分に対して、実際に残業したか否かにかかわらず支払われる割増賃金です。
定額残業代は法的に定められた制度ではないものの、一定の要件を満たすことで適法とされています。導入するかは企業の判断にゆだねられており、大企業だけでなく中小企業でも採用されています。
「定額残業代」ではなく、以下の名称を使う企業も少なくありません。
- 定額残業代
- 固定残業代
- みなし残業代
- 営業手当
- 特殊勤務手当
以上の呼称はまた業種や職種によっても異なります。
労働基準法が定める時間外労働の上限(月45時間・年360時間)範囲内であれば、任意で定額残業時間を設定することが可能です。
定額残業代の種類
定額残業代には、大きく分けて次の2種類があります。
- 組込型
- 手当型
どちらを選ぶかによって、従業員からの印象や運用の課題が異なるため、それぞれの特徴を正しく理解することが重要です。
組込型
組込型とは、基本給の中に定額残業代を組み込んで支払う制度です。
給与明細や募集要項に記載する際の例 |
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基本給○円(○時間分の定額残業代として○円を含む) |
組込型は基本給に定額残業代が含まれているため、一見すると給与が高額に見えるのが懸念です。
定額残業代の仕組みを従業員が理解できていないと、労使間トラブルに発展するおそれもあります。誤解されないためにも、定額残業代込みの給与である旨をていねいに説明しましょう。
特に組込型の定額残業代は、採用前の求人募集でトラブルが発生しやすいです。厚生労働省やハローワークでは、基本給に定額残業代を含める場合は、募集要項や求人票などに適切な表示をするように求めています。
参照:『固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。』厚生労働省
手当型
手当型とは、基本給とは別に定額残業代を支払う制度です。
給与明細や募集要項に記載する際の例 |
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基本給○円・定額残業代○円 |
基本給とは別に残業代が明示されるため、残業の有無に関係なく、一定額の手当があると実感しやすいのが特徴です。モチベーションが高まる従業員もなかにはいるでしょう。
定額残業代を導入するメリット
定額残業代は、採用している企業も多い制度ですが、導入前に具体的なメリットを理解しておくことが重要です。制度の導入目的や期待できる効果を明確にすることで、企業ごとの課題に合った運用が見えてくるでしょう。
定額残業代を導入することで得られる主なメリットを3つの観点から解説します。
- 人件費の予測が立つ
- 時間外労働を抑制できる
- 給与計算業務の負担が軽減する
それぞれの効果を具体的に知り、自社の運用イメージを検討してみましょう。
人件費の予測が立つ
定額残業代を導入すると残業代全体の変動が少なくなり、人件費を予測しやすくなるのがメリットです。
通常、残業代は従業員の残業時間により月ごとに変動するため、予実管理が難しい傾向にあります。。予想以上に残業代が増えると、管理計画に影響を与えます。
定額残業代を採用することで、月々の残業代がおおむね一定になるため、人件費の見通しが立てやすくなり、予算管理がスムーズになるでしょう。
時間外労働を抑制できる
定額残業代を導入すると、残業代があらかじめ一定額で支給される仕組みになるため、従業員の無駄な時間外労働を抑制しやすくなります。
残業すればするほど残業代が支給される環境では、無理に残業時間を延ばして居残る従業員があらわれる可能性も否定できません。
しかし残業代が定額なら、効率よく業務を終わらせようと意識する人が増えるでしょう。
その結果、企業全体で無駄な残業時間が削減され、生産性向上が期待できます。
給与計算業務の負担が軽減する
定額残業代を導入して、あらかじめ定めた一定時間内で残業時間が収まる場合、従業員一人ひとりの残業時間を計算・集計する手間を減らせます。
クラウド型の勤怠管理システムを導入している企業であれば、従業員の労働時間をリアルタイムで管理できるため、大きな負担はないかもしれません。しかし、タイムカードを使用している企業では、毎月の残業時間の集計に時間がかかり、事務負担が増えることがあります。
定額残業代を導入すると、残業代を事前に固定化できるため、給与計算や勤怠管理の効率化につながり、事務負担を軽減できるでしょう。
難しい給与計算をラクにするヒントを知りたい方は以下の記事もご覧ください。
勤怠管理に課題がある企業の担当者は以下の記事もご覧ください。
定額残業代を導入するデメリット
定額残業代は企業にとって多くのメリットがある一方で、適切に運用しなければトラブルや予想外のコスト増加につながるリスクがあります。
制度導入を検討するうえで理解しておきたい3つのデメリットを解説します。
- 未払い残業代が発生するリスクがある
- 運用を間違えると人件費が高くなる可能性がある
- 付加金の支払いを命じられるおそれがある
デメリットを事前に把握してリスクを回避し、従業員との信頼関係を維持するための対策立案が可能です。
順に確認し、定額残業代制度の導入が自社に適しているかを判断しましょう。
未払い残業代が発生するリスクがある
定額残業代制度を採用する場合でも、導入や運用が適切でなければ、法的に無効とみなされる可能性があります。
無効の例 |
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・定額残業代の範囲や時間数が明確に定められていない ・従業員への説明が不十分 |
無効になると、それまで定額残業代のつもりで支払ってきた金額が、本来の残業代と認められなくなるかもしれません。そして時効3年間の残業時間を再集計して計算、不足分を追加で支払う必要があります。
事態を回避するには、制度の適切な設計と従業員への透明性のある説明が不可欠です。
運用を間違えると人件費が高くなる可能性がある
定額残業代は、設定した月固定時間分の残業時間に到達していなくても、毎月同じ金額を支払う仕組みです。
実際の残業時間が定額残業代の設定時間を下回る月が続くと、かえって人件費がかかっている印象になります。特に閑散期や従業員の効率化が進んだ場合に、制度が負担になることも考えられます。
制度を導入する際は、実際の業務状況や平均的な残業時間を十分に分析したうえで適切な固定残業時間を設定することが重要です。
付加金の支払いを命じられるおそれがある
定額残業代に関するトラブルで訴訟を起こされた場合、裁判所が企業に対して「付加金」の支払いを命じるケースがあります。
付加金とは、未払い賃金に加えて制裁の意味で課される金額のことです。労働基準法では未払い賃金と同額の付加金支払いを命じています。つまり、未払い残業代の最大2倍の金額を支払う可能性があるのです。
負担を回避するには、定額残業代制度の透明性を保ち、法的な基準に基づく運用を徹底することが重要です。
定額残業代を導入する手順
定額残業代の導入には、適切な手順を踏むことが大切です。
手順を明確に理解することで、法的リスクを回避しつつ、従業員との信頼関係を維持しながらスムーズに運用を開始できます。
以下では、導入時におさえておきたい4つのステップを解説します。
- 自社で発生している残業時間数を分析する
- 定額残業代の対象となる部署・従業員、残業時間数を算出する
- 就業規則に記載し、従業員へ周知する
- 定額残業代を導入して実際に給与計算を行う
手順を参考にしながら、定額残業代の制度を正しく構築し、勤怠管理と給与計算を効率化しましょう。
1.自社で発生している残業時間数を分析する
定額残業代を導入する際は、まず自社の残業実態を正確に把握する必要があります。
具体的には、年間を通して毎月どの程度の残業時間が発生しているかを確認し、以下のポイントを分析します。
- 残業が一時的なものか、例年一定して発生するものか
- 従業員ごとの残業時間にばらつきがあるかどうか
さらに、導入前後で人件費がどの程度変動するかをシミュレーションし、制度を継続できるだけの財源を確保することも重要です。第一ステップが、制度の安定した運用につながります。
2.定額残業代の対象となる部署・従業員、残業時間数を算出する
次に、定額残業代を適用する範囲や設定時間数を決定します。以下のポイントを検討しましょう。
- 定額残業代をどの部署・従業員に適用するか。
- 従業員ごとに何時間分の残業を定額残業代として設定するか
定額残業代は、すべての従業員に一律で導入することも可能ですが、部署や職種によって残業時間が大きく異なる場合は、個別に設定する方法もあります。自社の業務特性や従業員の働き方を考慮して、最適な運用方法を模索しましょう。
3.就業規則に記載し、従業員へ周知する
制度の対象範囲や残業時間数が決まったら、従業員に定額残業代制度の概要とルールを説明し、十分に周知する必要があります。
また制度のルールは就業規則への記載が必要です。就業規則には以下の内容を明記しておきましょう。
- 定額残業代の金額と計算方法
- 定額残業代に対応する残業時間数
- 定額残業時間を超過した場合に超過分を支払う旨
- 定額残業代が休日残業や深夜残業を含む場合はその内容
周知と記載により、従業員が制度の内容を正しく理解し、誤解やトラブルを未然に防げます。
4.定額残業代を導入して実際に給与計算を行う
従業員への周知が完了したら、実際に定額残業代制度を運用し、給与計算を行います。
あらかじめ定めた定額残業時間を超過した場合は、超過分の残業代を必ず支払う必要があります。注意したいポイントは以下の通りです。
- 超過分は月ごとに精算する必要があり、不定期の精算は違法
- 雇用契約書や給与明細には、定額残業代の金額と対応する残業時間数を明記
以上を徹底することで、法的リスクを回避し、従業員の納得感を得たうえで制度を運用できるでしょう。
定額残業代を導入する際の注意点
定額残業代を適切に運用するためには、法的基準や運用ルールを正しく理解することが重要です。最後に、定額残業代を導入する際に注意したい3つのポイントを解説します。
- 定額残業代の支払い方法を定める
- 必ず定額残業時間分を残業させられない
- 何時間の残業でも残業代を定額にできるわけではない
ポイントを押さえることで、従業員との信頼関係を維持しつつ、法令遵守を確実にするための準備が整います。以下の内容を参考に、自社の運用が適正かどうか確認してみましょう。
定額残業代の支払い方法を定める
定額残業代が適法と認められるためには、給与の内訳を明確にし、内容を従業員に説明する必要があります。
具体的には、以下の情報を給与明細に記載します。
- 定額残業代を含まない基本給の額
- 定額残業代に対応する労働時間数とその金額
- 定額残業時間を超えた場合の割増賃金の計算方法
給与明細の透明性を高めることで、従業員が納得しやすくなり、誤解やトラブルを防げます。また、運用開始前に内容を就業規則や雇用契約書に明記しておくことも重要です。
必ず定額残業時間分を残業させられない
定額残業代を導入しても、設定した時間分の残業を従業員に強制できません。
業務量が少ない月であっても、「定額残業代を支払っているから」という理由だけで、無意味な残業を課すことはできないのです。
定額残業代制度は、あくまでも支払い金額を固定化する仕組みであり、残業を義務づけるものではないと理解しましょう。
また、設定した定額残業時間と実際の残業時間が大きく異なる場合は、制度の再検討が必要です。従業員の働き方や業務量の変化に応じて柔軟に対応する必要があります。
何時間の残業でも残業代を定額にできるわけではない
定定額残業代を導入しても、企業が支払う残業代が完全に固定化されるわけではありません。
規定した時間内の残業は定額残業代でカバーできますが、規定時間を超える残業に対しては別途、割増賃金を支払う義務があります。追加支払いの対応を怠ると、以下のリスクが生じます。
- 労働基準法違反による行政指導
- 「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の適用
- 従業員からの訴訟やトラブルの発生
また36協定から考えると、定額残業代の上限時間は「月45時間・年間360時間」です。特別条項付き36協定を締結した場合も、月45時間を上回る時間外労働が1年間に6か月を超えて発生すると、行政指導の対象となる可能性があります。
定額残業代制度においても、長時間労働を防止し、従業員の健康管理を徹底することが、企業としての責任です。
定額残業代制を適切に運用するために周知(まとめ)
定額残業代は、適切に導入・運用すれば、企業の勤怠管理と給与計算を効率化し、従業員にとって働きやすい環境を提供する制度です。一方で、誤った認識や運用が原因でトラブルに発展し、支払った賃金が無効とされるリスクもあります。
定額残業代制度を成功させるためには、導入前から従業員に制度の目的やルールを明確に説明し、導入後も継続的に周知を徹底することが欠かせません。また、従業員の残業時間を正確に管理することが、法令遵守と信頼関係の維持につながります。
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